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第127章 ~バドの力~


「おい、大丈夫かよ……!?」


 ルーノがニーナに駆け寄る、他の者達も彼に続いた。

 ニーナの怪我は致命傷に至る程では無かったものの、出血量は少なくない。


「見せて下さい……」


 アルニカがニーナの傷口を見る。

 右腕の抉るられたような傷からは、泉のように血液が流れ出ていた。

 この場で出来る処置は限られている、けれども放って置けば悪化するだろう。

 どうにか、手当てをしなければ――アルニカはそう思う。


「使うがよい、薬草を煎じた液だ」


 モロクが、アルニカへ小瓶を差し出す。

 透明な小瓶には、薄緑色の液体が入っていた。


「これで一先ず、止血と殺菌は済む」


 アルニカはモロクに礼を言うと、小瓶を受け取り栓を外す。

 中の液体を、ニーナの傷口へとゆっくり注いだ。


「ぐっ……!」


 液体が傷口に触れた瞬間、ニーナは痛みに表情を強張らせる。

 しかし、それも一瞬。

 少しの後には、ニーナの表情から苦しげな色は消え、出血も止まっていた。

 アルニカはモロクへ小瓶を返すと、包帯のような布を取り出す。

 血液が付いたニーナの腕を拭い、傷口に布を巻き付けた。


「済まないね、アルニカ……」


 ニーナは、アルニカに感謝を紡ぐ。

 彼女の手当てはとても手馴れていて、完璧だった。


「ニーナ、何があったの?」


 ロアが問う。

 すると猫型獣人族の少女は、僅かに表情をしかめつつ応じた。


「……恐らくは、君達全員の察している通りの事だよ」


 ニーナ以外の者達――ロア、ルーノ、アルニカ、モロク、そしてウォーロック。

 彼らは皆、ニーナの言葉へと耳を傾けている。


「反乱だ。ヴァロアスタ騎士団の一部が魔族と共謀し、この国を落とそうとしている」


「……やはりか、シャルトーン」


 ニーナはモロクと視線を合わせ、頷く。

 そして彼女は、ロア達に向き直った。


「……私の不甲斐なさが招いた結果だ、まさか陛下までもが……!!」


 その言葉に、モロクが反応する。


「どういう意味だ、国王に何かあったという事か?」


「陛下は捕らえられてしまった。私達と会っていたのは、陛下に化けた偽物だったのだよ」


「何……!?」


 モロクが驚愕を露わにする。

 ニーナはロア達に向き直ると、真に迫る声で紡ぐ。


「とにかく、今はゆっくり話している状況では無い。私にはこの国を、民を守る義務がある。そして、陛下を助け出さなければ……!!」


「国王様がどこに捕らえられているかは、分かるの?」


 応じたのは、ロアだ。

 ニーナは首を縦に振る。


「陛下の捕らえられている場所は、死に際のドゥネスに吐かせた」


 その時だ。

 ロアは、自らの胸元に下げられた水晶が――紫色に輝いている事に気付く。


「あっ……!?」


 旅立つ間際にユリスから贈られた、透明で綺麗な水晶。

 これが紫色に輝くのは、どのような状況の時か。

 魔族が側に居る時だ。


「……!! 魔族!!」


 アルニカが、叫ぶように発する。

 ヴァロアスタの街の中、暴れ狂うゴーレム達と共に居る者達。

 生気を感じさせない白い肌が特徴的な――忌むべき種族。

 ガジュロスが現れた事からも、ロア達は魔族が現れる事を予期していた。

 何処かからか、魔族達はヴァロアスタ国内へと侵入していたのだ。


「来る……!!」


 ロア達に向かい、数人の魔族が走り寄って来る。

 数は十数人程。

 ロア達はウォーロックを合わせ、六人。

 数では劣っている物の、迎え撃つのは不可能では無い。


「備えたまえ、戦闘準備だ!!」


 ニーナは負傷した右ではなく、左手でレイピアを握る。

 ロア達やモロクも、各々戦いへ備える。

 魔族の兵達が、ロア達へ追い迫っていく。

 先頭を切っている魔族が、手近に居たロア達に向けて剣を振りかぶらんとする。

 ロアは、受ける体制に入る――その時だった。


 一発の銃声が、辺りに鳴り響いたのだ。


「……!?」


 驚いたのは、ロア達のみに留まらなかった。

 招かれざる者達――魔族の者も同様。

 被弾したのは、先頭を切っていた魔族の兵。

 鎧の欠損した箇所を確実に撃ち抜かれ、声を発する間も無くその場へと倒れ伏した。


「何者だ!?」


 仲間の一人を眼前で殺害された魔族の兵。

 彼らは目の前に居るロア達を意にも返さずに、辺りを見回す。

 ヴァロアスタの民家の上に、居た。

 正確無比な銃の腕で、確実に魔族の兵を仕留めた男が。


「何の騒ぎかと思えば、珍しい連中がお目見えじゃねえか。んん?」


 口に火のついた煙草を銜えつつ、男は紡ぐ。

 その片手に握られた銃からは、一筋の煙が天に向けて伸びていた。

 彼の背中には一対の翼があり、風を受けて微かに揺れている。

 愛煙家で、銃を使う蝙蝠型獣人族の男――ロア達もよく知る、彼だ。

 

「バド!!」


 その名を呼んだのは、ルーノだ。

 声を受けたバドは、屋根の上から跳び――ロア達とは反対、魔族の兵達の後ろへと着地した。

 魔族の兵達は、一斉にバドへと威圧的な視線を向ける。

 しかしバドは動じる様子も無く、新しい煙草に火を点けた。


「……やれ!!」


 余裕気なバドの態度が癇に障ったのか、魔族の者達は標的をロア達からバドへと変更した。

 それを察したロアは、助けに入ろうとする。

 しかし、ニーナが彼の肩を掴み、制した。


「助けなら必要ないよ、バド一人で十分だ」


「え……」


 戸惑いつつも、ロアはバドへと視線を向ける。

 状況はどう見ようとも、バドが不利だった。

 何故なら、人数の差あるから。

 魔族の兵達の内、数人がバドに向かって走り寄る。

 バドは加えていた煙草を手に掴み、真上に放り投げた。


「ふー……」


 バドは、余裕を浮かべた表情と共に煙を吹く。

 直後、魔族の一人が彼に向けて剣を振り抜いた。

 しかし、剣はバドの身を裂く事無く、空を切り抜く。

 直後にバドの銃が火を吹き、まず一人目。

 その後も次々と魔族達はバドへ襲い掛かるが、誰もバドに攻撃を命中させる事すら出来ず、逆に倒されていく。

 銃を使わずとも、バドには独自の戦い方があった。

 翼を持つ蝙蝠型獣人族だからこその、戦い方が。


「あれは……体を浮かせてる?」


 数人の魔族を相手取って戦うバド、その様子を見ていたロアが、ニーナに問う。

 ニーナは負傷した右手を押さえつつ、応じた。


「ご名答。バドは蝙蝠型獣人族だ、翼で微かに身を浮かせつつ相手を倒す体術の使い手なのだよ」


 説明している間も、ロア達は周囲への警戒を怠らない。

 バドは自らの身を浮かせつつ、魔族の兵達へと回し蹴りや肘打ち、時に銃撃を繰り出し――昏倒させていく。

 

「強いな……アイツ」


 バドの戦いを見ていたルーノが漏らした。

 煙草に溺れて堕落していると感じていたが、戦いの場に居るバドは決してそのような事は無かった。

 蝙蝠型獣人族の特性を活かした彼の強さは、十分にロア達の尊敬に値する。


「っ……バドさん、危ない!!」


 叫んだのはアルニカ。バドの真後ろから、魔族の一人が剣を振りかざしていた。

 バドは気付く様子は無い、ロア達にはそう見えた。

 しかし、バドの背中の翼が畳まれる。

 直後、バドは僅かも振り返る事無く、自らの脇の下を通し、後方へと発砲した。

 銃声と火花――同時に、バドに襲い掛からんとしていた魔族の兵は、その背中を地に打ち付ける。


「あ……」


 先程叫んでしまったアルニカは、一文字漏らした。

 彼女が抱いた危機感は、バドには全く無用な物だったのである。

 バドに襲い掛かった魔族の兵は、その者が最後だった。

 直後――戦う前に天空へ放った煙草が、バドの下へと落ちて来る。

 僅かも視線を動かすことなく、バドは煙草を片手で受け止めた。

 昏倒した魔族の兵数人、その中心に毅然として立つバドは、その翼を風に揺らしつつ、煙草を再び口に銜える。

 片手に銃、そして煙草の煙を天に昇らせつつ――彼は、アルニカへと向く。


「『危ない』って何の事だ、んん?」


 バドの言葉には、余裕すらも垣間見えていた。






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