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第124章 ~陰謀の果て~


(くっ……右腕が……!!)


 ニーナは赤く染まる右腕を抑えつつ、宙を落ちていく。

 オスディンが放った弾丸は、彼女の心臓を的確に狙っていた。

 猫型獣人族の少女に防御魔法を使う猶予は与えられなかったものの、ニーナは直前で身を微かに避け、弾丸の延長線から逃れた。

 結果、心臓に向けて放たれた弾丸は、ニーナの右腕を抉ったのだ。

 致命傷は免れた。

 しかし、ニーナは利き腕を自由に扱えなくなる。


(だが……死ぬよりはマシか)


 右腕の痛みに顔をしかめつつも、ニーナは空中で身を翻す。

 一しきり空中を落ちて行き――彼女は、城の中庭に着地した。

 怪我を負いつつも、猫型獣人族の平衡感覚は失われていないようである。


「ぐっ……!!」


 右腕を襲う痛みに、ニーナは表情をしかめる。

 流れ出る血液が、彼女の紫色の毛並を赤く染めていた。

 直後、彼女のレイピアが地面に突き刺さる。

 ニーナは左手で、レイピアを引き抜いた。


「良い様だな、シャルトーン」


 背後からの嘲笑するような声、ニーナは振り返った。

 声の主は、ドゥネスである。

 ドゥネスは長剣を一振りしつつ、ニーナへと歩み寄って行く。


「騎士団団長と言えど、所詮は小娘。敵では無い」


「……そういう言葉は、実力で私を負かしてから言いたまえよ」


 挑戦的な言葉を紡ぎつつも、ニーナは右腕の痛みに表情をしかめている。

 痛みを押し留め、ニーナは再びレイピアに紫色の光を宿した。

 そして彼女は、構える。

 赤い雫を流す右腕は、力を失うように下げられていた。


「最も……右手を使えない私に、君が勝てればの話だがね」


 ニーナは付け加えるように、鼻で笑みを漏らす。

 あからさまに嘲笑するような彼女の仕草が、ドゥネスの怒りを煽った。


「嬲り……殺す!!」


 怪物の如き、怒りに歪んだ形相を浮かべ――ドゥネスは突っ込む。

 彼が持つ長剣が、陽の光に鈍く輝く。


(利き手が使えない以上、もう奴など、敵では無い……!!)


 互いの武器の射程に入った瞬間――ドゥネスは力の限りに、ニーナのレイピアを上向きに打ち払った。

 耳を劈く程の金属音、同時にニーナのレイピアが彼女の手から離れ、上方向へと舞う。


「終わりだ!!」


 ドゥネスが、ニーナに向けて横向きに剣を振り抜く。

 その瞬間、ニーナは前方へと飛び込んだ。

 ドゥネスの頭上を飛び越え、彼女は男の背後へ回り込む。

 

(無駄な事を……!!)


 攻撃を避けられても、ドゥネスに狼狽える様子は無かった

 今、ニーナの手にレイピアは無い。

 後ろを取られようとも、攻撃される筈は無いからだ。


 ――今度こそ、外さない。今度こそ仕留める。この忌々しい、猫の小娘を。

 糞生意気で、忌々しいニーナ。

 ドゥネスは今度こそ、彼女を一刀両断にすべく、振り返る。

 

 その瞬間、ドゥネスは微かに紫色の光を見た気がした。

 同時に――彼は、腹部に違和感を感じる。


「……ん?」


 ドゥネスは、視線を腹部に向ける。

 彼の腹部は鎧ごと、横に一閃されていた。


「な……!? ぐッ……!!」


 長剣が、ドゥネスの手から離れる。

 それと同時に、ドゥネスが仰向けに倒れ込んだ。


「勝負ありだ、ドゥネス」


 発せられた少女の声に、ドゥネスは視線を上に向ける。

 間違いなく、ニーナが発した声だった。

 その手には、弾き飛ばされた筈の彼女のレイピアが握られていた。


「ば、馬鹿な……何故……!?」


 確かに、先程ドゥネスはニーナのレイピアを弾き飛ばしたと思っていた。

 にも関わらず、何故レイピアは彼女の手の中にあるのか。


「君は態々、私の剣を真上に弾いてくれた。だから私もそれを追って真上に飛び、空中で掴んだという訳だ」


 答えは、ニーナが教えてくれた。

 ドゥネスはニーナのレイピアを弾きはしたものの、弾かれたレイピアが何処に飛んだのかは追わなかった。

 レイピアが弾き飛ばされた先は空中で、ニーナもそれを追って飛んだ。

 ニーナは空中で、刃を剥き出して回転するレイピアの柄を掴んだのである。

 下手をすれば、無事な左手をも切ってしまいかねない事だった。


「君が下から上に切り上げる攻撃を多用する剣術を用いることは、前々から知っていた」


「……!!」


 ニーナは続ける。

 ドゥネスは、自分の体から命が流れ出ていくのを感じ取っていた。

 ニーナに受けた攻撃が、致命傷となっていた。


「冷静さを欠いた君ならば、必ず得意な攻撃で私に仕掛けてくると思っていたからね。正しく読み通りだった訳だよ」


 ニーナは、レイピアの光を解いた。

 

「貴様、まさか……!!」


「君の何よりの欠点は、精神面での未熟さだった。そこが突破口となってくれたよ」


 ドゥネスは、腹部の痛みに襲われつつ――ニーナを睨みつけた。

 全て、ニーナの作戦だったのだ。

 ドゥネスの怒りを煽り、彼の冷静さを失わせ、不意を突く為の。


「綺麗な策とは言えないが、君ももう一人の仲間と共謀し私の右手を撃ち抜いた。これで御相子だろう」


 ニーナはドゥネスに歩み寄り、彼の側にしゃがみ込む。

 そしてレイピアを一旦地面に置き、左手でドゥネスの胸倉を掴み上げる。


「さあ、今度はこっちの質問に答えてもらおうか……!!」


 怒声の籠ったニーナの声には、ドゥネスが恐れを抱く程の威圧感があった。


「本物のオスディン国王陛下は、何処だ!?」


「!! ……何!?」


 唐突に発せられたニーナの言葉に、ドゥネスは応じる。


「私を撃った時の国王は、銃を右手で構えていた。オスディン国王は左利きだ!!」


 あのような最中でも、ニーナは見逃してはいなかった。

 オスディンが本来の利き手である左手では無く、右手で銃を構えていた事に。

 それに、ニーナはオスディンが銃を使う所など見たことが無かった。

 何よりの確証――オスディンはニーナと同じく、銃を「野蛮な武器」として嫌い思考の持ち主だったのだから。


「ふッ、……知ってどうする!? 何をしようが、もう手遅れだと言うのに……!!」


 嘲笑するように紡ぐドゥネスの顔面目がけ、ニーナは思い切り拳を直撃させた。

 鈍い音と共に、ドゥネスの顔がニーナの拳に押し出される形で横に振られる。

 胸倉を掴み、ニーナはもう一度ドゥネスの顔を自身の前へと引き戻した。


「答えたまえ!! 本物の陛下は何処に居る!?」


 その時、遠方の何処からか、巨大な爆発音が木霊した。


「!?」


 ニーナは思わず振り返る。

 直後、ドゥネスが突然高笑いを発した。


「何が可笑しい!?」


 ドゥネスは途切れ途切れに笑いを発しつつ、ニーナを振り返る。

 そして、息も絶え絶えになりつつ、発した。


「シャルトーン……もう、終わりなんだよ……オスディン国王も、この国も……!!」






 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






【キャラクター紹介 23】“ドゥネス”




【種族】人間

【性別】男

【年齢】27歳

【髪色】ダークネイビー






 ヴァロアスタ王国騎士団副団長。

 ニーナに次ぐ実力の持ち主だったが、自身を団長に選ばなかったオスディン国王に不信感を抱いていた。

 その点も追い風となり、魔族の力に魅入られ、国に反旗を翻す。

 ニーナとの一騎打ちの末、敗北した。






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