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第99章 ~ザフェーラ~


 カリスを含むエンダルティオの少年少女達が、イワン達三人に襲い掛かる。

 本来、味方である者達からの襲撃。

 

(どうなってんだ、何でこいつらが……!!)


 剣の攻撃を受けつつ、イワンは心中で呟く。

 彼に向けて攻撃を浴びせている少年少女達は、皆エンダルティオ団長のイワンと面識のある者ばかりだ。

 何故、彼らに襲われなければならないのか、イワンには全く分からない。


「あああああああっ!!」


 困惑するイワンに向け、少年少女達は叫び声と共に、剣や槍を振る。

 先輩への配慮の気持ちなど、欠片も感じられなかった。


(まさか、何かされたのか……!?)


 途端、イワンに向けて槍が振り下ろされ、金髪少年は思考を中断せざるを得なくなった。

 

「っ!!」


 戦闘経験が豊富な事が幸いした。

 反射的な動作でイワンは体を反応させ、槍を受ける。

 振り下ろされた槍とイワンの剣がぶつかる金属音が、夜闇の街に響いた。

 槍を振り下ろした少年と、イワンは間近で視線を合わせる。


「カリス……!!」


 銀淵の眼鏡が、月の光に煌めいた。

 イワンに向けて槍を振った少年は、カリスだったのだ。

 エンダルティオ団員の彼を、イワンは知っている。

 ロアやアルニカと同じく彼の大切な後輩であり、「仲間」なのだ。


「目を覚ませ!! どうしたってんだ!?」


 後輩を傷つける事などしたくはないし、後輩に傷つけられたくも無い。

 その為には、カリス達が攻撃を止めてくれる事――それが、イワンにとっての最善の突破口だった。


 しかし――。

 

「う、うああああああッ!!」


 イワンの呼びかけは、全く意味を成さなかった。

 寧ろ、逆効果であったとも言えた。

 エンダルティオ団長の呼びかけを受けたカリスは再び槍を握り直し、イワンへ追撃を浴びせる。

 

「!?」


 夜闇の所為で、イワンはこれまで気付かなかった。

 見開かれたカリスの瞳には、正気など感じられなかったのである。

 いつも冷静沈着だったカリスの様子は、最早影も形も無い。

 まるで間近に恐ろしい化け物が居るかのように、イワンには彼の目が恐怖に染まって見えた。

 言うなれば、恐ろしい幻影に「錯乱」しているかのようである。


 イワンと同じく、ロディアスとイルトもエンダルティオの少年少女達と交戦していた。

 

(こいつら……あの男と同じだ)


 恐怖に錯乱するかのようなエンダルティオの少年少女達――白い毛並の兎型獣人族の少年は、彼らの様子に既視感を覚えた。

 ユリスを銃で殺害しようとした、あの魔族の男。

 自爆する直前に、彼はまるで気が触れたかのような様子で火薬を振り撒いた。

 今、イルトが目の当たりにしているエンダルティオの少年少女達の様子は、あの男と同じだったのだ。


「催眠系統の魔法だな、くっ……誰だか知らないが、卑劣な手を!!」


 イルトの側で交戦するロディアスは、忌々しげに漏らした。

 騎士団団長の彼はエンダルティオの少年の攻撃を防ぎつつ、イワンとイルトを呼ぶ。


「イルト、イワン君!!」


 呼ばれた二人は、ほぼ同時にロディアスを振り返った。


「出来る限り怪我をさせないように、気絶させるんだ!!」


 ロディアスの見た限り、エンダルティオの少年少女達は強力な催眠魔法で意識を奪われていた。

 かけた本人にしか解除できないと思われる程の、強力な物が。

 催眠を解除する事が不可能ならば、少年少女達を救う方法は一つ。

 ロディアスが指示した通り、致命的な怪我を与えないよう配慮しつつ、行動不能な状態にさせる事。

 即ち、気絶させる事である。


「ちっ、それしかねーのか……!!」


 後輩が傷つく事、それはイワンにとって耐えがたい事だ。

 ましてや、自らの手でカリス達を傷つけるなど、彼にはとてもし難い。

 

(けど、迷ってる場合じゃねーよな……!!)


 眼前の後輩たちの様子を見たイワンは、苦渋の決断を下すことに決めた。

 後輩を傷つけるような事はしたくない。けれど同時に、催眠で意識を奪われている後輩達が放って置けなかった。

 エンダルティオ団長として、彼らの先輩として――自分は彼らを、救わなければならない。

 それが、イワンの出した答えだった。


「ああああああッ!!」


 催眠に意識を奪われたカリスが、狂乱するような叫び声と共にイワンに向けて槍を振る。

 イワンは、剣で受けようとはしなかった。

 彼は剣を利き手の左手から右手に持ち替えて、利き手の左手を素手にする。

 そして、自身に向けて振られた槍の柄を左手で掴み、受け止めた。


 自身に向けて振られた槍の柄を、素手で受け止める――。

 常人ならば到底成しえない業だが、イワンにはそれをやってのける実力があった。


「おおおっ!!」


 掴んだ槍を、イワンは思い切り引いた。

 途端、槍を握っていたカリスの態勢が崩され、前屈みになる。

 イワンはすかさず駆け寄り、カリスの腹部目がけ、右足で膝蹴りを入れた。

 

「ッ……!!」


 勿論、エンダルティオ団長の少年は手加減をしていた。

 利き足の左足でなく、右足で蹴りを入れた事が何よりの証拠である。

 催眠魔法で精神を支配されていたカリスは、その錯乱した瞳を閉じつつ、ゆっくりと地面に伏した。


(ごめんな、カリス……!!)


 カリスと立て続けに、一人のエンダルティオの少女が剣を振りかざし、イワンへと斬り掛かった。

 彼女もまた催眠魔法で精神を支配され、正常な状態では無いのだ。

 

「っと!!」


 その少女を、イワンは知っていた。

 確か、中等部三年生。ロア達の一つ上の学年に属する15歳の少女である。


「うああああああ!!」


 カリスと同じく、彼女も狂乱したような叫び声を上げ、イワンへと剣を振る。

 彼女の動きは素早く、かつ的確にイワンへと向かう。


(意識を奪われても、元の強さは変わんねーってのか……!!)


 イワンは身を反らす動作を取り、剣を避けた。

 長身少年の頭上を剣撃が通過し、その金髪が煽られるように靡く。

 彼はそのまま、少女の後方へと回り込んだ。


 そして、がら空きとなった少女の背中を、イワンは剣の柄を使い、打ち下ろす。


「あっ……!!」


 背中を打ち下ろされた少女の右手から、剣が滑り落ちた。

 地面に倒れ伏そうとした彼女の体を、イワンは受け止める。

 イワンの一撃を受けた少女は、気を失っていた。


「ごめんな……!!」


 状況がどうであろうとも後輩の少年少女を攻撃する事など、イワンにとっては耐え難かった。

 けれど、イワンは理解していた。自分は今、彼らを催眠から救わなければならない。

 後輩を傷つける事以上に、催眠で操られている少年少女達が不憫でならなかったのだ。


 その後も、イワン、イルト、そしてロディアスの三人はエンダルティオの少年少女達と交戦し続けた。

 戦闘訓練を受けている者達が相手と言えども、彼ら三人の実力なら、相対する事が出来た。

 勿論、ただの一人にも致命傷になるような傷は与えずに、気絶させている。


 金属のぶつかり合う音が響き始め、どれ程の時が経ったのか。

 それすらも分からなくなった頃、突然、エンダルティオの少年少女達の攻撃の手が、止んだ。


「……!?」


 イワン達三人は、背中を合わせる体制で立っていた。

 無言のまま、彼らは周囲の状況を確認する。

 エンダルティオの少年少女達は剣を降ろし、誰もイワン達へ襲い掛かろうとはしなかった。

 夜闇の中に、静寂が流れる。


「ククク……下等種族同士で潰し合う、最高の見世物だったな」


 突如、興奮したような女の声がイワン達の頭上から発せられる。

 三人は視線を上に上げ、声の主を確認した。


 夜空に滞空するように羽ばたくガジュロスの背中の上に、その女は居た。

 顔の半分を隠す程に伸ばされた白髪に、魔族特有の白い肌。

 そして浮かべる、醜悪な笑み。

 紛れもない魔族であると、イワン達は即座に理解した。


 そしてロディアスには、あの魔族の女に覚えがあった。

 驚愕する様子を交えつつ、彼は漏らす。


「『ザフェーラ=ゾニル』……!? 貴様が……!!」


「何者だ?」


 ロディアスに訊いたのは、イルトである。


「魔卿五人衆の一人で、『悦楽の奇術師』の異名を持つ魔族だ……!!」


 イワンとイルトは、ガジュロスの背中に立つ魔族の女――ザフェーラを、見上げる。

 ザフェーラは醜悪な笑みを浮かべつつ、彼らを見下ろした。


「催眠や洗脳系統の魔法を使い、相手の自我を奪う戦法を使う」


「フン、オマエ……アスヴァン大戦の時の餓鬼カ? 大きくなったモンだ」


 悦楽の奇術師の異名を持つ魔族、「ザフェーラ=ゾニル」は、ロディアスに向けて言葉を紡ぐ。

 嘲るかのような口調で、彼女はアルカドール王国騎士団団長に、


「メイリーア様は、元気カ?」


「!! 貴様……!!」


 ロディアスの顔が、怒りに染められていく。

 剣を握る右手に、力が込められていた。


「!!」


 と、その時。

 ロディアスとイワンの間の位置に立っていたイルトが、それに気付いた。

 否、高い聴力を持つ兎型獣人族の彼だからこそ、気付けたのだろう。


 もう一人、何者かが側に居る、と。

 イルトは振り返り、その足音が聞こえた方に視線を集中させる。


 すると、一人の少年が城門側に植えられた木の陰から、イルトに視線を向けていた。

 仮面を付けた、魔族の少年である。


(奴は……)


 彼を見るのは、イルトは初めてでは無い。

 そう。ベイルークの塔に居た、仮面の少年だった。


「フフッ……」


 仮面で顔上部を覆った魔族の少年、クラウンは、イルトと視線を合わせつつ口元に笑みを浮かべた。

 そして彼は木陰から離れ、イルトに背を向け、走り去って行く。


「……」


 イルトは、無言のまま両足に力を込める。

 そして、自らの身長の何倍もの高さまで飛び上がり、エンダルティオの少年少女達を飛び越え、彼らの輪の外へと飛び出す。


「!? イルト!?」


 後方から、ロディアスがイルトを呼ぶ。

 しかし彼は反応せず、魔族の少年を追い、夜闇の中へと走り去って行った。






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