表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/158

第8章 ~旅路~

 アルカドールの正門、両端には二人の衛兵が槍を片手に立っていた。

 ロア達が門へ近づいて行くと、右にいた衛兵が「君達、通行許可証を見せたまえ」とロアに一言。

 ロアはポケットから四つ折りにされた一枚の紙を取出し、衛兵に手渡す。


 衛兵はそれを広げる、「通行許可証」という見出し、その下に「右の者達のアルカドール正門通行をここに許可する」とある。その右に、「ロア」、「アルニカ」、「ルーノ」と名がある。アルカドールの朱印も押されていた。


「……よかろう。君たち、通りなさい」


 衛兵が三人へ告げた。

 門をくぐると、三人の前には道があり、その脇に草原が広がっていた。花の側には蝶が飛び、水の流れる音も聞こえる。近くに小川でもあるのだろう。


「そういえば私……アルカドールの街の外に出るのっていつ以来かな……」


 アルニカが言った。

 ふと考えてみると、アルニカは小さい頃以来、城の外へ出た記憶がなかった。


「まあ、アルニカは僕やルーノと違って仕事で城の外へ出ることもないからね」


 ロアが答えた。

 ロアは果物屋、ルーノは父親と共に家の鍛冶屋で仕事をしている。

 果物屋で働いているロアは果物の仕入れで、ルーノは鉱石や石炭の仕入れで街を出ることがあった。


「アルニカはレストランで仕事してるんだし、無理もねえだろうな」


 とルーノ。

 彼の言う通り、アルニカはとある小さなレストランで主に給仕の仕事をしていた。少なくとも、仕事で街の外へ出る機会はなかっただろう。


「さて、ここから暫く歩くことになりそうだよ」


 地図を広げて、ロアは大体の現在地を指で差した。アルニカとルーノはそれを覗き込む。


「どれくらい歩くことになるの?」


 アルニカがそう聞く。ロアは、


「今僕たちがいるのが、大体ここらへんだろ?」


 そして指を動かして、今度はベイルークの塔を差した。


「ベイルークの塔、ここが目的地だ。そして途中に……」


 ロアはまた指を動かす。指が止まったところには、ラータ村と書かれた小さな村があった。


「ラータ村……この村に、女王様の言っていた『イルト』って人がいるのね?」


「そう。まずはこの村へ行って、その人と合流する」


「はあ、獣人族の体力でもラータ村まで歩くのはさすがにこたえるな……」


 ルーノがそうぼやいた。

 草木を眺めたり、鳥の鳴く声を聴いたりしながら、三人はラータ村へと足を進めていた。

街からあまり出たことのないアルニカは、珍しげにあたりを見回している。

「わー、こんな花初めて見た……」道脇に咲いていた花を見たアルニカが小さくつぶやく。


 歩き始めて数時間程経っただろうか、夕焼けの太陽が辺りをオレンジ色に映し出していた。

 ロアとアルニカの表情には疲れが出始めていて、かすかに息切れしていた。


「どうした二人とも、もう疲れたのか?」


 それに気づいたルーノが二人に問いかける。ルーノには全く疲れた様子はない。


「うん、少し……」


 そう答えて、ロアは肩掛けカバンから水筒を取り出して、キャップをはずし、口をあてる。ロアの乾いた喉を、冷たい水が潤していく。


「ルーノ、私も……」


 ロアに続いて、アルニカが言った。ルーノは腕を組んで、


「おいおい、オレはあと三時間は歩けそうだぞ?」


「……あたりまえでしょ? だってルーノは私達と違って『獣人族』だもの……」


 額の汗をぬぐい、むっとした表情でアルニカが言った。

 そう、ルーノは獣人族だ。獣人族は様々な動物の姿とその特性を持つ種族。ルーノは、「人間」のロアやアルニカより、遥かにスタミナがあるのである。


「やっぱうらやましいな、獣人族って」


 ロアが言った。確かに獣人族の身体能力に憧れる人間は多い。


「だけど、いいことばっかりでもないんだぜ? ……身長とかな」


 ルーノが言う。低い身長は彼の悩みの種でもあった。兎型の獣人族は、成長しても必要以上に身長が伸びないのである。

 同じ14歳のロアとアルニカの身長が155センチ前後あるのに対し、ルーノは120センチ程しかない。


「正直、熊とか狼の獣人族に生まれてきたかったな……」


 はあ、とルーノはため息をついた。






 そんな会話を交わしたり、時に休みながら歩いて、また数時間程経った。

 先ほどまでオレンジ色に輝いていた太陽は沈み、辺りは暗くなっている。

 暗闇を歩き続けるのは危険だったので、三人は茂みの中で野宿をすることに決めた。

 三人は落ちていた木の枝をかき集めて、火を燃やす。ルーノは寝袋を敷いて、横になった。


「……お腹すいてきたな」


 そういえば、晩ごはんがまだだった。ロアは、持参したパンを取り出そうとカバンの中を探る。


「ロア、ちょっと待って」


 と、それをアルニカが制した。


「何? アルニカ」とロアがアルニカに聞く。


 側で横になっていたルーノも、アルニカへ視線を向ける。


 アルニカはカバンの中からフライパンを取り出す。

 そして彼女は、まかせて、と言わんばかりの表情を浮かべながら、


「晩ごはんなら私が作るから、ロアとルーノは休んでて」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ