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いきなりの実戦

 シンノスケはレーダーを確認した。


 確かに南方の海上に友軍の輸送機キャメル01と02の2機が飛んでいる。

 その2機を追跡しているというルドマン空軍機はレーダーレンジの外側にいるようで、その位置が捕捉できない。


「WHQ、こちらデビル03。キャメルは補足できたが、ルドマン機の位置が分からない」

『ルドマン機はキャメル編隊のさらに南方から接近している。数は4機。あと7分程でキャメルを射程に捉える。クーロン隊が救援に向かったが9分以上掛かる』


 戦闘機4機に狙われたら足の遅い輸送機では5分も保たない。

 因みにシンノスケ達の位置からなら全速で飛べば6分弱でキャメル編隊に合流できる。


「伍長・・・」

「行きましょう!私は大丈夫です」


 シンノスケの声を遮るように後席のセイラが声を上げた。

 気丈に振る舞っているが、その声は震えている。

 研修初日にして実戦だというのだから当然だ。


 シンノスケは機首を南に向けるとスロットルレバーを押し込んで速度を上げた。


「伍長、一度だけ確認する。このまま行けば間違いなく戦闘になる。実弾を積んでいるとはいえ、我々は訓練飛行中だ。本来ならば危険な空域から離脱するべき状況だ」

「研修生とはいえ私もカイル空軍の軍人です。覚悟はできているつもりですし、友軍の危機を見過ごすわけにもいきません!私は後ろに乗っているだけで何の役にも立ちませんが、後席に48キロの荷物を積んでいると思って中尉の好きなようにしてください!」

「了解!。だったらキャメルの救出に向かう」

「了解です!」


 無意識に重要な個人情報を口にするセイラ。

 現実を知らないとはいえ、心構えだけはありそうだ。

 シンノスケは機体の速度をさらに上げて南に向かう。


 シンノスケとセイラの決断が早かったことが功を奏し、ルドマン機が追いつく前にキャメル編隊に合流することができた。

 しかし、このままではルドマン機から逃れることはできない。


「デビル03からキャメル編隊。本機はこのままルドマン機を迎え撃つ。貴編隊は全速で領空内に逃げ込め」

『こちらキャメル01。救援に感謝します。申し訳ありませんが、我々はこのまま離脱しますので後を頼みます』

「デビル03了解」


 シンノスケはキャメル編隊から離れると、接近するルドマン空軍機に向かう。

 すでにレーダーで捉えているが、2機ずつ2個編隊のルドマン空軍機は進路を変えることなく接近してくる。

 国際空域とはいえ、戦闘機が他国の航空機を執拗に追跡することは国際法に違反する。


 シンノスケは無線を国際周波に合わせた。


「接近中のルドマン空軍機に通告する。貴機は不当にカイル空軍の輸送機を追跡している。加えて貴機はカイル民主共和国の領空に接近している。直ちに進路を変更しろ」


 手順に従って通告を行うが、ルドマン機が従う様子はない。

 それどころかシンノスケ達のRF-98Tに向けて火器管制レーダーを照射してきた。

 明らかな敵対行為だ。


「ルドマン空軍機に警告する。貴機の行動は国際法に違反している。直ちに火器管制レーダーの照射を止めろ。当方の従わず、当機や他のカイル空軍機を攻撃する意思を示すのなら、当機は正当防衛のための必要な措置を・・・」

「中尉っ!」


 シンノスケの警告が終わる前にルドマン機が動いた。

 先行する2機が通告無しにミサイルを発射したのである。


 シンノスケは機体を反転降下させてミサイルを躱す。


「クッ!」


 急激な機動に後席のセイラが息を詰まらせる声が聞こえた。


「これより戦闘に入る。気をしっかり持っておけよ!」

「りょ、了解!」


 ミサイルを回避するために一旦は高度を下げたものの、敵機とまだ距離があるうちに高度を上げて敵機の上位を取る。

 国際空域で先制攻撃をしてきたのはルドマン側なので、もう警告も何も必要ない。


 空戦に備えて散開しようとする敵機めがけて反転急降下しながら突っ込み、反応が遅れた敵機目掛けて対空ミサイルを発射した。


 先ずは1機。

 ミサイルが命中して炎に包まれる敵機を脇目に急旋回して他の機の背後を狙う。


 ルドマンの機体はGF-F5制空戦闘機。

 新型のGF-F9の配備が進んでいるが、まだまだ一線級の戦闘機だ。


「よしっ、空戦に持ち込んだ。これでキャメル編隊の追跡は不可能だ」


 キャメル編隊の救出という目的は果たされたが、まだ1対3の不利な状況にあることに違いはない。

 普段のZF-A1なら十分に対応可能だが、訓練機のRF-98Tで対等に渡り合うのは困難だ。


 数と機体性能の差は実戦経験と腕で埋めるしかない。

 シンノスケはスロットルレバーを目一杯押し込むと一気に高度を取る。


「伍長、これからかなり無理な機動をする。伍長は高度を読み上げてくれ」

「了解しまし・・・ひゃっ!」 


 セイラの返答を待つことなくシンノスケは機体を急降下させた。


「くっ・・・高度23000・・・23500・・・22000・・」


 実際には高度を読み上げさせる必要はないが、シンノスケには考えがある。


「12000・・・12・・200・・・11800」


 セイラの読み上げが続く中、後を追って上昇してきた3機と相互に機銃を撃ちながらすれ違う。

 幸い敵の銃弾は命中せず、こちらからの攻撃は先頭の敵機に何発かは命中したようだが、撃墜するには至らない。


 すれ違い、敵機が上空、シンノスケが低空の位置になったが、これがシンノスケの狙いだ。

 

 操縦桿を一杯に引いて敵の下方から突き上げる。

 上空から襲いかかった後に下からの突き上げ。

 シンノスケの得意戦法の1つだ。


「8500・・・グッ・・・880・・・」


 不意にセイラの声が途絶えた。


「落ちたか。目を回してもマスクの中で吐いてくれるなよ」


 気を失ったセイラ同様に、敵機もシンノスケの鋭い機動への反応が遅れる。

 シンノスケはその隙を逃さない。

 攻撃を避けようと回避しようとする1機をロックオンして即座にミサイルを発射した。


 避ける暇もなく炎に包まれる敵機。

 残りは2機だが、この2機はすでに散開して距離を取っている。

 どちらか一方を追えばもう一方に背後を取られる可能性があり危険だ。

 この隙に逃げ出すのも手だが、2機に追跡されるリスクも無視できない。


 ミサイルも機銃もまだ余裕がある。

 シンノスケが片方の敵機に目をつけたその時、レーダーに新たな反応が現れた。

 その数は2。


『クーロン01からデビル03、援護に来たわよ!』


 防空隊のヤン・メイファ大尉だ。

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