接触
南方海上の訓練空域を低空で飛ぶRF-98T。
前席で操縦桿を握るのはセイラだ。
「高度80を維持、目標まで35K」
今回の想定は敵施設への強行偵察任務。
本来なら地形の起伏がある山岳地帯や森林地帯で行った方がより実戦的だが、今回は海上で行っている。
セイラの技量を考慮してのことだが、海上での低空飛行は対艦攻撃にも応用できるので、訓練としては効率的だ。
とはいえ、シンノスケも低空飛行だけで終わらせるつもりはない。
「アンノウン接近。5時の方向、高度2000、距離8.5K。急速接近中」
後席のシンノスケが新たな想定を付与する。
「高度2000、距離8.5K、了解!速度を上げ、2時の方向に変針しつつ目標に向かいます」
今回の訓練は対抗機となる仮想敵機がいないので、敵機の情報についてはシンノスケが口頭で告げる架空のものだ。
セイラはシンノスケが伝える架空の敵機に対して実戦を想定しながら自ら判断して行動することになる。
「アンノウンが背後についた。レーダー照射を確認。まもなくロックオンされる」
「了解!」
セイラは操縦桿を倒して高G旋回に入った
「任務の継続は困難と判断。生還を最優先とします!」
後席のシンノスケは頷く。
「敵機のレーダー照射から外れた。敵機は本機を追って旋回を開始。追撃に入る模様」
180度旋回を終えたセイラはスロットルレバーを一杯にまで押し込んで、レバーにあるスイッチを入れた。
「ABを使用して急速離脱します!」
「了解。一時的に敵機と距離が離れたが、敵機も増速。敵機の方が足が速い。ミサイルの射程まで15秒」
「現在の速度と進路を維持。HQに対して救援を要請。敵機のレーダー照射の範囲に入ったら回避機動に入ります」
「こちらからの反撃は?」
シンノスケの問いかけをセイラは否定する。
「空戦は避けます。兎に角逃げ回って逃げ切るか、友軍機の到着を期待します」
「・・・よし、想定終了!」
ここでシンノスケは訓練終了を宣言した。
「了解しました。・・・ふぅ」
セイラは機速を落としつつ高度を上げる。
「訓練終了だ。基地に帰ろう」
「了解しました」
セイラは機首をエアベース23に向けた。
訓練自体は順調だったが、思いのほか沖合にまで出てしまい、帰還には少しばかり時間が掛かりそうだ。
「さて、セイレーン。今回の訓練はどうだった?どのように自己評価する?」
「はい。あのっ、今回は強行偵察任務の想定でしたが、敵機に発見された時点で任務は失敗だと判断しました。任務を強行すれば目標まではたどり着けたかもしれませんが、追跡してきた敵機か、スクランブルの要撃機に撃墜された可能性が高く、情報を持ち帰ることは出来なかったと思います。よって任務を中止し、生還を期して脱出することを選択しました」
「上出来だ。離脱の際に色目を出して空戦に入らなかったのもいい判断だ」
「あ、ありがとうございます」
機上でデブリーフィングを始めたシンノスケとセイラ。
今回の訓練でシンノスケは強行偵察任務は端から失敗する想定を組んでいた。
与えられた任務に対してイレギュラーな事態が発生した際の対処訓練が目的だったのである。
イレギュラーに対して冷静に判断し、生き残ることが目的の訓練だったのだが、その意味では生還を最優先としたセイラの選択は十分なものだ。
兎に角、今回の訓練は満足のいく結果だった。
「それでは、帰還したら・・・」
ピッ、ピーッ!
突然コックピットに警報が鳴り響く。
何かが急速に接近してくる。
「アンノウン、超低空?セイレーン、アイ・ハブ!」
「あっ、ユー・ハブ・コントロール」
後席のシンノスケが操縦桿を握り、代わりにセイラが操縦桿から手を離す。
レーダーの探知高度ギリギリの低空から現れた未確認機は真っ直ぐにこちらに向かってくる。
このままだと衝突するコースだ。
「クッ!」
咄嗟に操縦桿を倒して機体を反転させると一気に高度を落とす。
次の瞬間、シンノスケ達の鼻先を未確認機がバレルロールしながら駆け抜けていった。
「なんだ今のは!」
当該機はルドマン空軍の最新鋭制空戦闘機であるG-28K。
シンノスケが避けなければ衝突していたことは間違いなく、とてもではないが、正気の沙汰とは思えない。
赤い尾翼が特徴のG-28Kは攻撃態勢に入るでもなく、シンノスケ達を嘲笑うかのように翼を振りながら離脱していった。
「ちゅ、中尉。今のって・・・」
ルドマン空軍機のG-28Kは攻撃が目的ではなく、本当にシンノスケ達を揶揄っただけだ。
もしも、相手に攻撃の意思があれば撃墜されていたかもしれない。
「チッ!・・・ああ、完全に揶揄われたな」
舌打ちしたシンノスケは改めて帰還の途についた。
一方でシンノスケ達に突っかかってきたG-28Kのコックピット内。
「・・・鈍臭い訓練機だと思ったけど、なかなかいい腕だったわね。次に会うのが楽しみだわ」
シンノスケを揶揄ったパイロットが笑みを浮かべていた。




