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訓練終わって

 訓練で完膚なきまでに自信を圧し折られたセイラは基地に帰還してシンノスケとデブリーフィングを行っていた。


「俺からの評価の前に、伍長は今日の訓練の結果についてどう考えている?」


 シンノスケの問いにセイラは肩を落とす。


「全然ダメだったと思います。もちろん、中尉に勝てるなんて思ってはいませんでしたが、もう少しは渡り合えるかも、と過信していました」


 セイラの返答にシンノスケは頷く。


「まあ、伍長の場合は過信とまではいかないと思うが、自分の実力を知る機会にはなったと思う。自分の実力を理解しつつ、これから経験を重ねて自分の実力を底上げしていこう」

「分かりました。頑張ります!」


 どちらかというと内気な性格のセイラ(学校の人物評価にも記されていた)だが、前向きな性格の持ち主でもある。

 一方で、基本的な性格や訓練に対する姿勢は積極的なのだが、訓練飛行時における判断は慎重で、時に消極的な判断をすることも多いらしい。

 今回の訓練の端々にもそのような性格が垣間見えた。


 セイラのそんな性格を踏まえて今後の訓練を進めていく必要がありそうだ。


「今日は伍長の実力を見極めるために実戦想定の訓練をしたが、明日からは基本のおさらいに、応用力を加えることを目的とした訓練をしていこう」

「分かりました。よろしくお願いします」


 しかし、本日の訓練でセイラは駄目なところばかりではなかった。


「ところで、最後の想定でよく俺の攻撃を回避できたな」

「あっ、あれは急に嫌な予感というか、中尉の上昇が思っていたより速かったので、このままでは危ないと思って、咄嗟に・・・」

「その後に相手の撃墜よりも生き残ることを優先して離脱を選択した判断もよかった」

「でも、直ぐに追いつかれちゃいましたけど・・・」


 肩を落とすセイラにシンノスケはニヤリと笑いかける。


「当然だ。今日は伍長の自信を圧し折るために俺は俺で必死だったからな」

「えっ?」

「実力差を見せつけようとしているのに伍長に善戦されたら元も子もないからな、こっちも真剣だよ。・・・以上、デブリーフィング終了!」


 そう言い残してシンノスケはその場を後にした。


「えっ?・・・あっ、プッ、クスクスクスッ」


 思わず吹き出すセイラ。

 シンノスケの言葉はセイラの落ち込んだ心を解すためのものだと理解できたからだ。



 シンノスケが夜間の哨戒飛行のシフトで日が落ちる前に出動していったのを見送ったセイラ。

 ハンガーで1人で夕食を食べても味気ないし、1人だとまた落ち込んでしまいそうだったので、基地の食堂に行ってみることにした。


 シンノスケの自転車を借りて食堂に到着してみると、基地の食堂施設はセイラの想像以上に設備が整っていた。

 通常の糧食を提供する大食堂の他に、好きなものを注文して喫食できるカフェテラスや酒類も提供するレストランまである。

 大食堂は基地が直轄し、補給糧食部門の隊員が調理を担当しているが、カフェテラスやレストランは外部業者が運営しているようだ。


 セイラは少し迷った挙句、カフェテラスに入ってみることにしのだが、そこでメイファとばったりと出くわした。


「あれ?セイラ、今日は1人でご飯なの?」

「あっ、あの・・・ヤン大尉、お疲れ様です」


 背筋を伸ばして敬礼するセイラに軽く答礼するメイファ。


「任務中や公式の場ではともかく、オフの時はメイファでいいわよ。堅苦しいのは好きじゃないので、そう呼ばれた方が気が楽でいいのよ」


 そんなことを言われても伍長が大尉相手に馴れ馴れしくできる筈もない。


「・・・分かりました・・・メイファさ・・大尉」

「まだ堅苦しいけど、まあいいわ。で、セイラは今からご飯なの?」

「はい、今日はカシムラ中尉が夜間哨戒に出ているので、ハンガーで1人分を作って食べるのもなんだし、訓練で疲れてしまったので、こっちで食べようかと・・・」


 セイラの言葉を聞いたメイファは頷く。


「なら一緒に食べましょう。私も普段はあまり利用しないんだけど、たまにここのシーフードパスタが食べたくなるのよね。ここのパスタは絶品よ」

「あっ、あのっ、はい。ご一緒させていただきます」


 思わぬ形で意外な2人での食事となったが、メイファの気さくな人柄故か、内気なセイラも気後れすることなく食事を楽しむことになった。


 卓に着いてメイファおすすめのパスタを食べてみれば確かに抜群に美味い。

 美味い料理を口にすれば気持ちも解れ、自然と会話も弾む。


「・・・えっ?セイラ、貴女シンノスケの突き上げを躱したの?」


 今日の訓練の話を聞いたメイファが驚きの表情を浮かべる。


「あのっ、はい、咄嗟のことで躱すのが精一杯で、逃げようとしたけれど直ぐに撃墜されてしまいました」

「いや、シンノスケの突き上げを初見で躱すなんて、ちょっと凄いわよ」

「そうなんですか?」

「あの突き上げを初見で躱せたのって、私の知る限りだと、私と、攻撃戦闘隊のカレード大尉、外国人部隊のブルーム大尉くらいのものよ。あっ、エアベース21のボッシュ大尉と、海軍航空隊のゲイツ中尉も、あとは・・・」


 指折り数えるメイファ。


「結構いますね」

「バカ言っちゃダメよ。彼等は私も含めてエースパイロット揃いよ。シンノスケとは実力が違うわ」

「あの、中尉はエースパイロットじゃないんですか?」

「確かに彼は上手いけど、まだまだね。セイラはシンノスケのことをエースだと思っているかもしれないけど、私に言わせれば他のエースパイロットと五分五分の勝負ができないと、エースとは言えないわね」

「因みに、中尉の勝率って、どの位なんですか?」

「それぞれ、10戦したとして・・・カレード大尉とは7対3、ブルーム大尉とは8対2といったところかしら?」

「メイファ大尉とは?」

「私とは6、よ・・・アハハッ、そんなことはどうでもいいけど、それよりも、シンノスケの突き上げはそれ程鋭いのよ。私だって未だに5回に2回は躱しきれないのよ」


 笑いながら誤魔化すように話題をもとに戻すメイファ。


「でも、今日、中尉が乗っていたのは旧式の機体だったし・・・」

「そこがシンノスケの上手いところよ」

「?」

「普段、高性能機に乗っているから誤解されがちだけど、彼はどんな機体に乗っても、その機体の性能を最大限に引き出して乗りこなすことができるのよ。現に旧式機に乗ってブルーム大尉やカレード大尉から撃墜判定をもぎ取ったこともあるのよ。彼は始めて乗る機体でも、マニュアルを眺めて、2回も慣熟飛行をすれば機体の特性を把握して、手足のように扱うのよ。外国人でなければ空軍のテストパイロットに引き抜かれるレベルね。尤も、今もテストパイロットみたいなことをしているけど」

「そうなんですか、やっぱり中尉は凄い人なんですね」

「まあ、そうね。空戦もそれなりに強いけど、状況の見極めから最善の選択をする。シンノスケはこれが抜群に上手いから、しっかりと学びなさい。そうすればきっといいパイロットになれるわ」

「はい、頑張ります!」


 そんな話をしている間に気がつけばセイラはパスタをお替りしていた。

 一方のメイファは最初から3皿頼んでおり、それをペロリと平らげた上でデザートも別腹とばかりに楽しんでいる。


 小柄なセイラもそうだが、長身ではあるもの、細身のメイファの身体の何処に大量の食事が消えたのか不思議なものだ。

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