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空対空訓練

「・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・クッ!振り切れないっ!」


 セイラは操縦桿とスロットルレバーを操りながら背後からの迫る追跡を振り切ろうとしていた。


・・・ピュイッ!ピーッ!


 ヘルメットのスピーカーから流れる警告音。

 機銃でロックされた。


『ジョーカーからセイレーン、撃墜だ』

 

 シンノスケからの撃墜通告。

 訓練開始からこれで6回目、シンノスケを相手に何れも3分と保たずに撃墜判定をもらっている。


 今日から本格的にセイラの訓練が始まった。

 早速の訓練はシンノスケを相手にしての空対空訓練だが、始まってみると、まるで勝負にならない。


 正面対向からの想定ではすれ違う前に機銃でロックオンされるし、上手く(シンノスケが敢えてそうさせて)すれ違えたとしても直ぐに背後を取られて撃墜される。

 セイラがシンノスケの背後を追う状態から始まっても瞬く間ににシンノスケの機を見失い、気がつけば背後を取られてしまう。

 逆にシンノスケが追尾する側になれば目も当てられない。

 想定開始後30秒と経たずにあっさり撃墜されてしまう。


 無論、シンノスケと学校を出たばかりのセイラとでは技量も経験も差がありすぎて勝負にならないことは分かっている。

 しかし、今日の訓練でシンノスケが搭乗しているRF-92FはセイラのRF-98Tよりも旧式の戦闘機。

 カイル空軍の第一線部隊からとっくに退き、現在では基地間の連絡や実弾訓練の空中標的を牽引する役割等に使用している機体をシンノスケが借りてきたものだ。

 加えて、シンノスケが使用するのは機銃のみというハンデをつけてもらってもこの体たらくである。


 午前中の訓練開始からまだ1時間も経過していないのに、6回の被撃墜だ。


(私、今日1日で何回撃墜されるのかしら・・・) 


 セイラは気が滅入ってきた。



 一見すると研修生相手にほとんど手加減なしで、少しばかり大人げないようにも見えるが、シンノスケにはシンノスケの考えがある。

 本格訓練初日の今日はセイラの自信をへし折って、自分の技量を再認識させることが目的だ。


 まるでシンノスケがセイラを弄んでいるようだが、そうではない。

 実戦に出てみればシンノスケ以上の技量を持つパイロットはいくらでもいる。

 いかに学校の成績が良くても、実戦に出て死んでしまっては元も子もない。

 無論、学校で教え込まれるマニュアルどおりの基本的な空戦のセオリーも重要だ。

 しかし、基本であるが故にその対処法も様々で、熟練のパイロット相手には通用しない。

 先ずは、自分の実力を思い知り、その上で基本の上に自分に合った実戦的な応用を積み重ねていかなければならないのだ。


『次、想定は単独哨戒任務中の不期遭遇戦だ』

「りょ、了解しました!」


 並走していたシンノスケの機体が反転してセイラの視界から姿を消す。

 短距離レーダーからも反応が消えて訓練開始だ。


 奇襲を受ける想定とはいえシンノスケが仕掛けてくるのを待つ必要はないし、むざむざと先手を取られては勝ち目はない。


 互いに中距離以上のレーダー使用を制限しているので現時点で互いの位置が不明なのは同じ条件だ。

 むしろ旧式であるが故にシンノスケのRF-92Fの方がレーダーの索敵範囲は狭く、セイラの方が有利なはずだ。 

 

 不期遭遇戦というからにはセイラが先にシンノスケを見つけても問題ないし、そうでなければ優位に立てない。

 セイラは高度を上げつつ機体を右旋回させた。


(先に中尉を見つけて私の方から先制しないと!)


 右に左に旋回を繰り返しながら肉眼とレーダーで周辺空域を警戒する。


(何処?・・・何処にいるの?)


 シンノスケを見つけることが出来ずに次第に焦りが出てくる。


(早く、中尉より先に・・・あっ、いけない)


 セイラはふと息をつくと自分でヘルメットを軽く小突いた。


(焦れば焦るほど視界が狭くなる。こんなの当たり前のことじゃない!)


 冷静さを取り戻し、気持ちを入れ替えて改めてシンノスケを探す。


 やがてレーダーの端に光点が現れた。


(3時の方向、低高度、高速!)


 機体を傾けて反応の方向に目を凝らす。


「・・・いたっ!あんな低くに」


 訓練設定高度ギリギリを高速で飛行するRF-92Fを捉えた。

 

「でも、有利な位置を取れたっ!」


 近接格闘戦で相手の頭上を取れれば圧倒的に優位だ。

 セイラは機体を捻り込ませてシンノスケの機体を正面に捉えながら降下に入る。

 少し遅れてRF-92Fも旋回し始めた。

 互いの機体が正面に向かい合う。


「中尉も気付いたっ!」


 しかし、RF-92Fは未だに上昇に入っていない。

 セイラの優位性は変わらない筈だ。


「このまま中尉の頭を押さえ・・・えっ?」


 その時、セイラの背筋がゾクリと冷えた。

 咄嗟に操縦桿を倒して回避行動に入る。


「うそっ、早いっ!」


 その時、シンノスケのRF-92Fがセイラの予想を遥かに上回る速度で上昇しながら接近してきた。

 辛うじて回避できたが、あのまま降下していたら間違いなく正面攻撃で撃墜されていた筈だ。



 ギリギリでシンノスケの突き上げを回避したセイラを見たシンノスケは感心する。


「へぇ、躱したか。判断がはやいのか、勘がいいのか、・・・やるなぁ」


 ただ、初撃を躱せたからといって状況が打開できる程ではない。

 セイラもそれを理解しているのか、急降下して速度を稼ぎながらシンノスケから離れようとしている。

 機体性能の速度差を利用して逃げに入ったようだ。


「やっぱりいい判断だ」


 シンノスケは頷くが、そのまま逃がす程甘くはない。

 セイラの上空を抑えたシンノスケは今度は高度差の優位性の下でセイラの追跡に入る。


 

 速度を上げて逃走を図るセイラだが、訓練の下限高度ギリギリのため、RF-98Tの最高速度まで上げることができない。

 逆に高空を取ったシンノスケは速度を上げながら後を追ってきている。


 振り向いて上空を見れば、RF-92Fが降下を開始して急接近してきた。


「来たっ!回避・・・」

ピュイッ!ピーッ!


 回避することも叶わず撃墜されるセイラ。

 これで7回目の撃墜だ。


『訓練終了。お疲れさん、基地に帰ろう』


 シンノスケからの訓練終了の無線にホッとする一方でため息をつく。

 

「了解です、ありがとうございました。・・・はぁっ!ダメ、全然刃が立たない」 


 シンノスケのRF-92Fの後にに続くセイラは疲労でクタクタになり、加えて少しばかり自己嫌悪に陥りながら帰還した。

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