シンノスケの天敵ブルーム大尉
アザリアに居場所を失ってカイル空軍の外国人部隊に入ったシンノスケだが、その後の人生については悲観するようなものではなく、特に大きな不満もなく過ごしてきた。
無論、外国人部隊の兵士として最前線で戦うことで『金目当ての傭兵』等と偏見を持たれることもあるし、大きな不満はなくとも、小さな不満は多々ある。
それでもシンノスケは一人の飛行機乗りとして誇りを持ち、厳しい任務をこなしてきたのだ。
「・・・という経緯で俺は訓練中の事故で視力が悪くなってしまってアザリア空軍の正規軍パイロットになれなかったんだ。その後、カイルの外人部隊に入ったというわけだ」
セイラの疑問に答えて外国人部隊に入った経緯を説明するシンノスケ。
無論、エリスとの関係や、事故の濡れ衣を着せられてアザリア空軍を追われたことまでは話していない。
「中尉でも学生の頃はミスをしたんですね・・・」
セイラがしみじみと呟くが、エアベース23に着任してほんの数日でありながら、セイラの目にはシンノスケが完璧なエースパイロットにでも写っているのだろうか。
「いや、今でもミスをすることはあるぞ。まあ、致命的なミスはしていないから今まで生きながらえているけどな」
肩を竦めながら話すシンノスケ。
そんなシンノスケとセイラの会話を聞いていたメイファは堪えきれずに吹き出した。
「フフフフッ。セイラ、シンノスケは結構間抜けなミスをするわよ。ただね、シンノスケはミスに対するリカバリーが早かったり、ミスを逆手に取って状況を有利に転化させることも上手いのよ」
貶しているのか、褒めているのか分からないメイファの評価にシンノスケは釈然としないような、複雑な表情を浮かべる。
その後はスクランブルが発令されることもなく翌朝を迎え、シンノスケ達のスクランブル勤務は無事に終了した。
24時間体制のスクランブル勤務明けなので、シンノスケの仕事も、セイラの訓練も休みとなったのだが、休みと言われてもセイラはやることが思いつかない。
シンノスケの格納庫の中では整備員達がシンノスケの機体の整備を行っているが、シンノスケのZF-A1は機体提供の契約で予め指定された整備員しか作業に携わることができないことになっているので、手伝うこともできない。
手持ち無沙汰なセイラは自分のRF-98Tのコックピット周りの清掃をしていた。
「君がシンノスケのところに来た研修生か?」
声をかけられてコックピットから顔を出してみれば、年の頃30代半ばの口髭を生やした男性と、同じ年頃の長身の女性がRF-98Tのコックピットを見上げている。
2人共にシンノスケと同じ外国人部隊用の飛行服を着ている。
「あのっ、あっ、はい。すみません、ちょっと待ってください」
慌ててコックピットから降りて2人に正対して敬礼するセイラ。
「先日からカシムラ中尉のところでお世話になっています。飛行研修生のセイラ・スタア伍長です」
そんなセイラに答礼する2人のうち男性の方は大尉、女性の方は中尉の階級章をつけている。
「おう、よろしくな。俺はデビル中隊の中隊長、ダグ・ブルーム。こっちは俺のナビゲーターで女房でもあるアニスだ」
「よろしくね伍長」
セイラは改めて2人に敬礼する。
「よろしくお願いします」
ダグはセイラのことを軽薄そうな笑みを浮かべながら見る。
「君は学校での成績はなかなか優秀だったようだね。そんな君があのシンノスケの下で研修だなんて気の毒でしかたない。どうだね、何か困ったことはないかね?」
「いえっ、とんでもありません。そんなことは・・・」
反論しようとするセイラだが、背後からの声がそれを遮った。
「ブルーム大尉!いったい何をしに来た!」
シンノスケだ。
ダグのことを睨みつけている。
「何をしに来たとはご挨拶だな。お前のようなむさ苦しい奴の下で研修を受ける羽目になった伍長が不憫でな、様子を見に来たというわけだよ」
白々しく語るダグ。
「不憫も何も、いつもいつも俺に面倒事を押し付けるのは大尉じゃないか!」
「押し付けるだなんて人聞きの悪いことを言うなよ。中尉のタックネームはすすんでジョーカーを引くということなのだろう?」
「ふざけるなっ!ババ札ばかり押し付けられるという意味だ!」
(そういう意味なんだ・・・)
2人のやり取りを聞いてセイラは妙に納得する。
「ん?ということは、伍長の研修も中尉にはババ札というわけか?それでは伍長がかわいそうじゃないか」
「そういうわけじゃない!」
シンノスケとダグのやり取りだが、ムキになるシンノスケをダグがからかっているようで、どうにもダグの方が何枚も上手のようだ。
そんな2人を呆れたように見ていたアニスがようやく口を挟む。
「ほら、ダグもシンノスケも、いつまでも戯れていないの。伍長が困っているでしょう」
シンノスケが我に返る。
「本当に何をしに来たんだよ。俺をからかいに来たわけじゃないだろう?」
シンノスケの言葉にダグがわざとらしく肩を竦める。
「当然だ。お前のことを構っている時間があるほど俺は暇じゃない。俺が用があるのはお前じゃなくて伍長だよ」
「貴様っ!」
「ほらっ!2人ともいい加減にしなさいよ。話が進まないでしょう」
「・・・・」
口を噤むシンノスケ。
そんなシンノスケを他所にブルームは満足そうに笑うと懐から2枚のワッペンを取り出してセイラに渡す。
受け取って見てみるとそれは悪魔のイラストと共に『KiIe Air Force Unit Of Foreigner 』の表記。
デビル中隊の部隊章だ。
「実はシンノスケに頼まれていてな、これを渡しにきた。制服と飛行服用の部隊章だ。伍長は正規軍だが研修期間中は外国人部隊の所属になるからってな。期間限定とはいえ、配属扱いになるから、研修期間中と、その後の学校教養の間は付けていられるぞ」
セイラがシンノスケを振り返ると、シンノスケはそっぽを向いている。
セイラは飛び上がって喜び、勢いあまってシンノスケに抱きついた。




