スクランブル3
アザリア空軍機が誘導に従う意思を示したので、後は後続の3機の対処だ。
編隊を離れたシンノスケは単機で南に向かう。
アンノウンの3機は既に防空識別圏に進入しており、時間的猶予はない。
(アザリア機を追っていたとなれば、ルドマン連邦か)
シンノスケはレーダーで捕捉している3機の位置を確認しつつその背後に回り込み、目標を肉眼で捉えた。
「目標視認!クーロン03からWHQ及びクーロン01に報告、対象はルドマン空軍機と判明。G-28Kが1機とG-24Aが2機。これより通告を開始する」
『『了解』』
目標はルドマン空軍の最新鋭制空戦闘機であるG-28Kと主力戦闘機のG-24A。
どちらも高性能の戦闘機だ。
シンノスケは国際周波で呼び掛けを開始する。
「ルドマン連邦機に通告する!こちらはカイル空軍である。貴機はカイル民主共和国の領空に接近している。直ちに針路を変更されたし。貴機が追っていたアザリア機は既に我々の監視下に入った。貴機とアザリア空軍機に何があったのかは知らないが、それは我々には関係ない。これ以上の追撃は無駄だ。直ちに針路を変更しろ。間もなくカイルの領空だ、こちらの指示に従わず、その理由も告げずに領空を侵犯するならば、アザリア軍機に対してのみならず、我々に対する敵対行為とみなす!交戦を望むか?」
シンノスケはルドマン機に対して火器管制レーダーを照射を開始した。
3対1と数の上では圧倒的不利な状況であるが、背後を取っている以上はこちらの方が有利だ。
未だ領空外とはいえ、通告を無視して戦闘機動に入れば即座に撃墜できる。
「繰り返し通告する・・・」
その時、先頭を飛ぶG-28Kがゆっくりと翼を振り始め、後に続く2機もそれに倣って翼を振り始めた。
通告に従う意思表示だ。
大きく旋回しながら防空識別圏から離れてゆく3機。
ゼルモ山脈を挟んだ大森林地帯等の国際空域では頻繁に衝突が繰り返されているが、防空識別圏や領空内での戦闘は直ちに全面戦争への引き金となりかねない。
ルドマンの編隊指揮官もそこまでのリスクを冒すことは避けたようだ。
国際空域での小競り合いは日常茶飯事でも、戦争状態ではない。
カイル民主共和国とルドマン連邦は何年もその微妙な緊張関係を維持しているのだ。
退去するルドマン機を見送ったシンノスケは速度を上げてメイファ達に合流する。
アザリア機を領空外にエスコートしなければならない。
編隊に追いついたシンノスケはメイファ達が誘導するアザリア空軍機の背後につく。
アザリア空軍の強行偵察機FS8-Dのパイロットはエリス・ステット中尉と名乗っていた。
(嫌な過去だな・・・)
そう思いながらもシンノスケは淡々と任務を遂行する。
3機のカイル空軍機に囲まれたエリス達。
抵抗せず、指示に従う旨を伝えているため、直ちに撃墜されるようなことはないだろう。
エリスは振り返って背後についているカイル空軍機を見た。
「やっぱりZF-A1。なんでストーラで開発中の実験機をカイル空軍が運用しているの?」
エリスは後席のシンシアに合図を送る。
シンシアは頷いて機体背部の偵察用カメラを操作してZF-A1に向けようとするが、レンズがその姿を捉える前にZF-A1はエリスの機体の後方下部に潜り込んだ。
『クーロン01からアザリア機へ、余計な悪戯はしないで大人しくついてきて頂戴!』
カイル空軍の編隊長に釘を差されてしまう。
「やっぱり無理ね。やめておきましょうシンシア」
これ以上刺激するわけにはいかない。
エリスは情報収集を諦めた。
その後、カイル空軍機にエスコートされてカイルの領空外に出たエリス達。
カイル西部の大森林地帯だが、このまま北上すればアザリア民国だ。
広範囲レーダーを見ても不審な反応は認められないから問題なく帰還できるだろう。
「アザリア空軍サーチャー1からカイル空軍クーロン編隊へ。エスコートに感謝すると共に領空侵犯を含めたご無礼について謝罪します」
通信と共に翼を振ってみせる。
『クーロン01からサーチャー1へ。何も問題はありません。気を付けてお帰りください』
そう言い残したカイル空軍機はゆっくりと離れてゆく。
その際、エリスはZF-A1の尾翼に記された機体ナンバーを見逃さない。
(機体ナンバーが00-0002。確かカイル空軍での00ナンバーは外人部隊だった筈)
エリスはZF-A1の姿が見えなくなるまで見届ける。
(なんだろう・・・)
この時、エリスは妙な違和感を感じていた。
スクランブルを終えてエアベース23に帰還したシンノスケ。
戦闘が行われなかったとはいえ、スクランブルは緊張を強いられる上、今回は余計に疲労感が強い。
一刻も早く休みたいところだが、シンノスケには重要な仕事が残っている。
「中尉!あのっ、お疲れ様でした!」
シンノスケ達の帰還を待っていた研修生のセイラに色々と説明してあげなければならないのだ。




