スクランブル2
『カイルWHQからクーロン隊へ、アンノウンは2機編成と3機編成の2個編隊。高速で防空識別圏に接近中』
『クーロン01了解。クーロン01から各機。聞いてのとおりよ、2つの編隊は交戦中かそれに類する状況と推定。南方海上の防空識別圏は薄いから進入されると数分で領空まで抜かれるわ。防空識別圏に入る前に補足するわよ!』
『「了解!」』
3機は速度を上げて南方に向かう。
ルドマン機からの追撃を受けているエリスの強行偵察機と護衛機のライズ。
あと数分でカイル民主共和国の防空識別圏に到達する。
防空識別圏に進入すれば、その先はカイルの領空であり、当然ながら領空を侵犯すれば国際問題だし、撃墜されても文句は言えない。
『ガーディアン03からサーチャー1。カイル空軍の要撃機3機が接近中です』
無断で領空に接近しているのだから要撃機が出動してくるのは当然だ。
「サーチャー1よりガーディアン03、通告を受けても返答してはダメよ。大丈夫、防空識別圏内では攻撃を受けることはない筈よ」
『でも、カイルの領空に入ったら大変なこと、国際問題になりますよ』
エリスの言葉に異を唱えるのは後席のシンシアだ。
『ガーディアン03からサーチャー1。針路を変更してください。FS8-Dの足ならばカイルの領空に逃げ込まなくても敵機から逃げ切れます。私のことは構わずに離脱してください』
確かにエリスの駆るFS8-Dならば追撃してくるルドマン機を振り切るのは容易だ。
しかしそれでは手負いのライズを見捨てることになる。
『いいから私についてきなさい!』
(絶対に見捨てない。私はもう二度と僚機を見捨てたりはしない!)
エリス達はカイルの領空目掛けて一直線に飛んだ。
メイファ達は防空識別圏に入る直前で目標を捕捉した。
反転しつつ目標を視認するメイファ。
「アンノウン、インサイト!先行する2機はアザリア民国空軍機。当機とクーロン02はアザリア機の監視に当たる。クーロン03には後続の3機の対応を任せるわ」
『クーロン03了解』
シンノスケのZF-A1が編隊を離れて南に向かうのを見届けたメイファはアザリア空軍機の側方に位置を取る。
ハンスの機は目標の背後に回り込む。
その間に2機のアザリア機はカイルの防空識別圏へと進入した。
メイファは無線を国際周波数に合わせる。
「アザリア空軍機に通告する!こちらはカイル空軍である。貴機はカイル民主共和国の領空に接近している。直ちに針路を変更されたし。繰り返す、この先はカイルの領空だ。直ちに針路を変更せよ!」
メイファの通告にアザリア機は反応しない。
「アザリア空軍機に繰り返し通告する!貴機はカイルの領空に接近している。こちらの呼び掛けに応じて貴機の目的を返答すると共に、誘導に従い直ちに針路を変更しなさい!」
2回目の通告にもアザリア空軍機の反応は無い。
(返事もしないなんてどういうつもり?)
対領空侵犯阻止行動の手順に従って、目標の背後にいるハンスがレーダー照射を開始した。
カイル空軍機からのレーダー照射を受けながらもエリスは沈黙を貫き、針路を維持し続ける。
ここで返答してしまうと針路を変更させられて国際空域へと追いやられてしまうだろう。
そうなればルドマン機に追いつかれて撃墜される可能性が高い。
カイルの領空に逃げ込んだとしてもカイル空軍機に撃墜されるかもしれないが、エリスの狙いではこちらの方が助かる可能性が高い。
エリス達は通告を無視してカイルの領空へと侵入した。
『アザリア機に警告する!貴機はカイル民主共和国の領空を侵犯している。こちらの誘導に従い、直ちに針路を変更せよ!誘導に従わないならば攻撃、撃墜も辞さない!』
側方から監視するカイル機が機関砲を発射して警告すると同時に背後の機がエリス達の機体をロックオンしてくる。
国際法に定められた最終警告だ。
背後の機のパイロットがトリガーを引けばエリス達は確実に撃墜されてしまうだろう。
エリスは無線の発信ボタンを押した。
「こちらはアザリア空軍第2偵察飛行隊所属のエリス・ステット中尉です。こちらに交戦の意思はありません。そちらの誘導に従います」
翼を振りながら指示に従う意思を見せる。
ここまでくればルドマン機も好き勝手はできないだろう。
万が一にもエリス達を追ってカイルの領空に侵入し、そこで機銃の1発でも発射すれば今度はカイル空軍機が黙っていない。
そうなれば三つ巴の戦いになるだろうが、ルドマン機もそこまでの無茶はしないだろう。
結局のところ、エリスの狙いはルドマン機からの追撃から逃れる為にカイル空軍機を巻き込むことだったのだが、少なくとも、この時のエリスにはそれ以外に助かる術が思いつかなった。




