スクランブル1
スクランブルで上がるのは編隊長のメイファとその僚機のハンス・ブルーム中尉、そしてシンノスケだ。
3人はそれぞれの機体のラダーを駆け登り、コックピットに乗り込むや否やエンジンのスタータースイッチを入れる。
・・・ヒュィィィイイ・コォォォオオ・・・
甲高いコンプレッサーの音に続いてエンジンが目を覚ます。
計器を確認しながらベルトで身体を固定してヘルメットを被り、マスクを装着する。
その間に整備員が機体のチェックを済ませ、機体の前に立つ誘導員が異常なしのサインを示す。
エンジンの回転数も安定した。
警報が鳴ってからここまでほんの数分。
準備が整った。
「出るぞっ!」
シンノスケは機体の周囲から整備員が退避したのを確認すると、キャノピーを閉めながらタキシングを開始する。
ヘルメットのバイザーを下ろしながらふと見ると、格納庫の隅でセイラがスクランブルの様子を見ているが、動き出したシンノスケの機体を見るその表情は不安そうだ。
シンノスケは一度は下ろしたバイザーを上げるとセイラに向かって親指を立てて頷いてみせる。
セイラの表情がパッと明るくなった。
シンノスケは再びバイザーを下げてセイラに敬礼すると機体を格納庫から出し、メイファ達に続いて滑走路へと向かう。
スクランブルが発令されているので離着陸予定の他の機は待機を命じられており、滑走路はクリアな状態で、スクランブル機の発進が最優先だ。
『管制塔からクーロン隊、滑走路への進入及び離陸を許可。離陸後はWHQの誘導に従って南方に向かってください』
管制塔の誘導に従って3機は滑走路に進入して直ちに離陸する。
『クーロン01からクーロン02、03。不明機は南方の海上から防空識別圏に接近中。機数は5』
『クーロン02了解!』
「クーロン03了解」
離陸した3機は高度を上げながら南に向かう。
アザリア民国空軍、偵察飛行隊に所属するエリス・ステット中尉は窮地に陥っていた。
「中尉、このままでは敵機の追撃を振り切れません!」
『ガーディアン03からサーチャー1。私のことは構わずに離脱してください!』
後席のシンシア・レイン少尉と護衛機のライズ・レイドナー少尉の声を聞きながら決断を迫られている。
なんの変哲もない普段通りの訓練の予定だった筈だ。
エリス達は国際空域の海上を低空飛行しながら偵察訓練を行っていたのだが、そこで偶然にもルドマン海軍の情報収集艦を発見した。
発見した際の双方の位置はそれぞれ自由航行が認められた国際海域と空域であり、それだけなら互いに国際法を違反していなかったのだが、ルドマン連邦側に何か不都合があったのか、エリス達は情報収集艦が呼び寄せたルドマン空軍の戦闘機3機からの攻撃を受けたのである。
エリスとシンシアが搭乗するFS8-Dは強行偵察機だ。
機体各所に偵察用カメラを装備しているが、武装は自衛用の最低限であり、機銃とミサイルが2発だけで、戦闘機と真正面から渡り合うことはできない。
ライズが操縦するアザリア空軍の主力戦闘機FF21-Aが護衛についていたのだが、ルドマン機からの通告無しの攻撃を受けた際にエンジンを損傷してしまい、戦闘不能に陥ってしまった。
正当防衛による反撃もままならなくなったエリス達は直ちに離脱を図ったのだが、速度を上げることが出来ないライズを連れては逃げ切ることが難しい。
エリスが即座に判断してハンスを連れて離脱したため、一旦はルドマン機から距離を取ることことが出来たが、ルドマン機もエリス達を見逃がすつもりはないようだ。
カイル共和国の北方に位置する自国領に戻るためには大森林地帯の国際空域を抜けていくしかないが、現在の速度では1時間以上を要する。
このままではその前に追いつかれてしまう。
「中尉、カイルの防空識別圏に接近しています。進路を西に変更してください。このままではスクランブルがかかって・・・レーダーに反応、カイル領空内から接近する航空機が3。スクランブルの要撃機と思われます!」
アザリアとカイルは同盟関係にあるが、だからといって勝手に領空侵犯をするわけにはいかない。
領空を侵犯すれば同盟国とはいえ撃墜されても文句は言えないし、国際問題に発展する可能性すらある。
「ルドマン機は?」
「追跡してきます。このままでは2分以内に射程に捉えられます」
『自分が足止めします。中尉達はその間に離脱してください』
「馬鹿な考えを起こしては駄目よ!命令です、しっかりとついてきなさい」
このままでは逃げ切れない。
エリスは決断した。
「このままの進路を維持。カイルの領空に逃げ込みます!」




