第一章 復讐鬼は彷徨う
絶対に許さない。
生まれ育った王国を永久に追放され、僅かな宝石だけを頼りに地上を彷徨う男。
男の心にはただ、その一念のみがあった。
王国の神話に連なる高貴な血筋の自分が、こんな辱めを受けることになったのは。
何もかも、あの盲の姫のせいだ。 かつて蛇姫と呼ばれていた、嫌われ者の盲の姫。
かつて実の父親からも忌まれていた蛇姫は今や龍女王と呼ばれ、王国は目覚ましい発展を遂げていると聞く。
あんな盲の女を、女王として持て囃す国民の気が知れない。
その女を「我が君」と呼び、永遠の忠誠すら誓った長男は、キアエル家の恥晒しだ。
(全てを、壊してやる……)
あの盲の女の愛するものも、人生も、何もかも。
あの盲の女の伴侶となった恥晒しの大公の前で、全てを壊し尽くす。
それだけが、かつてキアエル公爵と呼ばれていた男の生きる理由だった。
地位を剥奪され、王国を追放されても、血筋だけは揺るがない。
水の天使の祝福を受けた魔力を、喉から手が出るほど欲する国。
そこに、ひとつだけ心当たりがあった。
かつてのキアエル公爵クロードが目指すは、砂漠の国ローナ。
――― 熱砂と共にある国を、暗雲が覆おうとしていた。