明日(あす)を約束されなかった、この身
鼻腔を焼く濃厚な硝煙。むせる硫黄と焼け爛れた肉が混ざり合い、息を吸うたびに熱い砂礫を飲み込んだように、喉から気管、肺の奥深くまでを掻きむしる。鉄錆のような生臭い甘み。その重苦しい匂いは胸郭を押し潰し、かろうじての喘ぎさえも阻む。死の静寂が支配する。響くのは、己自身の荒く、ヒューヒューと笛鳴るような息遣いだけだ。積み重なる怪物の屍。暗い体液が焦土に染み込み、腐敗した内臓のような甘ったるい生臭さを放つ。硝煙に混じり、吐き気を催させる。生きている実感は、心臓を押し潰す石のように重く沈む。
右肩…そこには虚無が口を開けている。巨大な欠損部から、灼熱の波が激しく押し寄せる。鼓動ごとに、鈍い鋸が裂けた筋肉と剥き出しの神経を引きずり回す。切断された腕骨のギザギザした断端が、周囲の熱く爛れた肉を冷たく削るのが、痛みとともに手に取るようにわかる。温かい血と粘稠な組織液が、脇腹、背中を伝い絶え間なく流れ落ちる。ぬるりと冷たく、体内に残された僅かな熱さえも奪い去る。微かな震えすら―抑えきれぬ身震いすらも―断口に眼前を暗転させる鋭い激痛を走らせる。
頭は…鉛を詰め込まれたように重い。後頭部に鈍く、持続的な脹れと疼きが波打つ。頭蓋骨の内側で何かが膨張し、脳髄を押し潰すようだ。以前、何かで強く打たれた場所だ。めまいは次第に強まり、世界が揺れ、傾く。視界は揺らぐ水膜の向こうのようにぼやける。耳の奥に、遠くの音を掻き消す、鋭く執拗な耳鳴りが穿つ。鼓膜の奥深くに鋼針が突き立ったかのよう。吐き気が胃を攣らせ、口の中には濃厚な血の味に混じり、苦い胆汁が広がる。額から温かい液体が流れ落ち、左目に入り込み、焼けつくような痛みを走らせる。視界が猩々色に染まる―額の裂けた傷から流れ出た血だ。汗と泥と混ざり合い、顔の半分をべっとりと覆う。
うつむけば、左腰の傷はさらに凄まじい。軍服の布切れは砕け、爛れた血肉の奥深くに食い込み、縁は焦げて黒く捲れあがっている。傷は深く、暗赤色の筋組織、その奥に覗く不気味な灰白色の…それ以上は見る勇気がない。息をするたび、その一帯は引き裂かれるような鋭い痛みに襲われ、内臓が引っ張られ、掻き回されるような鈍い疼きが腹腔の奥底から重く響く。脚を動かし、体を支えようとした刹那、腰腹の傷が激しく痙攣した。痛みに思わず息を詰め、冷や汗が瞬時に、すでに冷たく湿った背中を伝う。眼前に火花が散り、意識がふっと遠のきかけた。
深く泥地に突き刺さった折れた刀に、かろうじて体を支える。冷たい刀の柄が、唯一掴める現実だ。鉛のように重い頭を必死に持ち上げ、むせ返る煙塵を透かし、山岳のように聳え立つ影―竜王を見据える。巨大な胸郭がゆっくりと上下し、吐く息ごとに硫黄と、焼け熔けた金属のような獣の匂いを帯びた灼熱の気流を噴き出し、顔を焼く。巨大な、金色の竪の瞳は、一切の情動を排し、死と残骸に覆われた大地を冷徹に見下ろしている。
口元がひきつる。何かを表そうとしたが、歯の間に砕けた土砂と濃厚な血の味が広がるだけだ。生き残った。その思いがもたらすのは、麻痺と重い倦怠だけだ。断たれた腕の引き裂かれる激痛、腰腹を焼く灼熱と重い鈍痛、頭蓋を脹らせる重圧と耳を穿つ耳鳴り、そして骨髄まで浸透する冷気と脱力感…あらゆる感覚が、かろうじて保たれた意識を執拗に引き裂いていく。汗と血と泥が混ざり合い、顔に冷たく汚れた仮面を固める。視界はますます滲み、めまいは増す。体は震えを止められず、命の温もりが、断臂と腰腹の傷口から絶え間なく流れ出て、足元の冷たい土に染み込んでいくのが、はっきりと感知された。
はっきりと感知した。死神がこちらを凝視しているのだと。一介の人間である我に、その意志を拒む力も手段もなかった。かつて聞いた言葉が蘇る。「すべてのものは過ぎ去る。ただ死神のみが永劫に生きる」と。我が死神の無能を嘲笑う資格など、微塵も持ち合わせてはいなかった。
意識はさらに散りゆく。朦朧とした思考の底で、幼き日、テレビに映った主人公の死の場面がかすかに浮かぶ。人々に囲まれ、陽光に包まれるように。その時、いわゆる「走馬灯」が巡り、主人公は生涯を振り返り、記憶の美しき断片を思い返し、やがて目を閉じて世を去るものだ。
遠くを見る。遠くで竜王と戦う英雄たちの群れを見る。この叙事詩が終幕を迎えようとしている。命の最期に、英雄たちの物語をもう一度眺められるとは。
遠くで竜王が悲鳴を上げた。苦痛に満ちた咆哮が天を裂く。正義の英雄たちは力を結集し、竜王に最後の一撃を加えんとしていた。その刹那、竜王の胸郭の中心核が、突如、内側へと陥没した! 時が止まった。耳にこびりついていたあの鋭い耳鳴りさえも消え失せた。静止した光景。体を貫くはずの剣も、滴り落ちる暗赤の血も、そしてあの驚愕に歪む無数の表情も、すべてが固定された。
そして、無音の閃光が炸裂した。光は滲んだ視界を貫通し、視野は純粋な、眼球を焼き尽くす白一色に染まった。焼けた鏝を直に眼窩に押し込まれたかのような激痛が、完全な闇と共に襲った。
直後、熱波が襲いかかった。
それは風ではない。形を持った炎だ。破壊的な質量と熱量を伴い、我が傷ついた躯めがけて容赦なく薙ぎ倒した! 極限まで熱された空気が口と鼻を猛然と焼き爛し、瞬時に喉と気管を焦がした。本能的な息を吸うたび、肺葉が燃え上がる痛みに貫かれる。ぼろぼろの衣服は一瞬にして灰となって**舞い散り**、皮膚が恐るべき高温に晒された。まず針で刺すような灼熱。続いて、皮肉が瞬時に焦げ、炭化する忌まわしい「ジュウッ」という音と、肉が焼ける強烈な悪臭が鼻腔を直撃した。断臂のあの身を裂く痛みは、このより巨大で、より徹底的な焼却感に瞬時に飲み込まれ、覆い尽くされた。全身が沸騰する溶鉱炉に投げ込まれたかのようだ。
巨大な衝撃波が、傷だらけの身体をいとも容易く地面から剥がし、枯れ葉のように薙ぎ飛ばした。押し寄せる激痛、窒息、焼け爛れる感覚の中で、意識は急速に瓦解し、消散していく。炎に呑み込まれるこの最後の瞬間、限りなく広がる、虚無に近い静寂が、すべての究極の苦痛を圧倒した。終わった。あらゆるもがき、恐怖、骨の髄まで染み渡る痛み…すべては、万物を薙ぎ払うこの熱波によって、跡形もなく焼き尽くされる。
我は万物を焼き尽くす奔流の中で翻弄され、墜ちていく。想像を絶する高熱の中で身体は急速に感覚を失い、炭化し、崩壊していく。あらゆるものを貫いていた強烈な光はついに褪せ、冷たく、永遠の闇へと沈んでいく。最後に残った感覚は、身体が灰となる直前、極限まで熱された気流が、焦げた骨の断片をかすかに撫でるように通り過ぎる、微かな振動だった。
そして、完全な虚無が訪れた。