エピソード4:みんなとカラオケ
今日は日曜日だ。つまり、週末だ。遊びの日だ。
高校に進学して初めて誰かと一緒に遊びに行くから楽しみだ。
「遥斗、遊びに行く用意はしたの?」
母さんだ。いつまで経っても口うるさく言ってくる。もう高校生何だからいい加減子離れしてほしいところだ。
「してるよ。それにもういちいちそんなに言わなくてもいいよ。」
「はいはい。で、ちゃんと財布は入れたの」
…人の話を聞いて無かったのだろうか。一度言っても過保護ムーブをやめない。
俺は諦めて予定より少し早めに家を出ることにした。
高校生になって近所以外からも登校する人が出てきて、その人達に合わせて俺の活動範囲も広がだろう。
今日もその延長線上で、電車で10分のところにあるアミューズメント施設に行くことになった。
「何気に一人で電車に乗るの初めてだな。」
そんなことを思いつつ足早にホームに向かった。
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10分くらいしたら目的の駅についた。大きいけれど、落ち葉や落ち枝が多いホームだった。
電車を降りたのも俺だけだった。広いホームで、自分の足音だけ響いた。
その後少し歩いたらすぐに待ち合わせの公園についた。子供達がブランコで遊んでいる。
しばらく待っていたら翠が来た。
「やぁ遥斗。早いね。」
翠が少し驚いた表情で言った。
「よっす。いうてもお前も十分早いぞ。」
「いやそうなんだけね、僕今まで誰かと待ち合わせる時はいつも1番に待ち合わせ場所に来てたから。」
なるほど、だから少し驚いた表情をしていたのか。
「今日はたまたまだよ。親の小言がうるさいから逃げるために早く来ただけ。」
「ははは、遥斗も大変だね。」
そんなこんなで話をしていると次は陽香がやって来た。
「おー二人ともおはよう。早いね〜。」
「やぁ、おはよう。」
「おはよう、親の小言から逃げるために早く来た。」
「遥斗君や、親の小言とは一体?」
「財布持ったかーとか。」
「小学生か、」
ビシっていう効果音が聞こえてきそうなツッコミを受けていたら葵が来た。時間ピッタリだ。
「おーあぶねあぶね、ギリ時間に間に合った。」
「葵ちゃん、おはよう〜」
「陽香か、おっはよ〜う。」
「じゃあみんな揃ったし、行こうか。」
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「ふぅ、ついた。」
「ねぇ、翠。ほんとにここであってるの?」
翠に案内されてついたところはまるで廃墟のような、壁が剥がれ落ちた建物だった。
「うん。あってるよ。」
翠は元気よく答えた
「ここは昔はすごい栄えていたらしいんだけど、バブルの崩壊ですごい廃れちゃったんだって。駅も人はほとんどいないくせに大きかったでしょ。あれもバブル期の真っ最中に建てられたからなんだって。
で、ここもその影響で廃れちゃったお店の一つなんだけど唯一カラオケボックスとゲームセンターだけは今もやっていて、それなりに人が入っているんだ。」
「まるでバブルの遺産だね。」
「そうだな…。」
「なんか変な空気になちゃったけど、とりあえずカラオケで受付に行かない?」
翠が仕切り直してくれた。
「そうだね、行こうか。」
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「いりゃっしゃい。」
俺らが店に入ると腰の曲がった店主が奥から出てきた。
「4人でフリータイム行けますか?」
「あぁ、いけるよ。4人なら1760円ね。」
「やすっ!」
陽香が驚いた声で言った。
「確かに安いね。一人440円か。」
「はは、趣味でやってるからね。
」
俺と陽香が値段に驚いいると店主が教えてくれた。
「はい、店長。これお金。」
「あぁ、確かに。じゃあ32番の部屋を使っておくれ。」
「はーい。」
部屋に行くまでの廊下を歩いているといろんな曲が聴こえてくる。
どうやら翠の言っていたそれなりに人がいるというのは本当らしい。
「翠もよくこんなお店知っていたよな。」
ふと気になったので聞いてみることにした。
「中学に入るまでここら辺に住んでいたんだ。だからここら辺にいろんなお店を知ってるんだ。」
「そうなんだ。」
「32番、この部屋だ!みんな入ろ。」
陽香に声をかけられてもう部屋についていることに気がついた。
「誰から歌う?」
「私最初に歌っていい?」
初めはどうやら葵が歌うようだ。
彼女は今流行りのj-popを歌った。
まるで今を生きる女子高生のようで、万人受けするいいチョイスだ。
そして、めっちゃうまい。
「しゃあ、どうじゃ!」
結果は、、、98,869。やっぱめっちゃうまい。
「葵すごいじゃん!」
「ほんと、うまいな。」
「葵ちゃんすごーい」
みんなして称賛を口にしていた。そりゃそうだ。あんなの見せられたら褒める以外できない。
「次誰行く?」
「じゃあ、私歌っていい?」
次は陽香歌うようだ。
陽香もj-popを選曲した。ただ、葵とはジャンルが違う。
葵は元気系の曲だったが陽香はしんみりとした恋愛ソングだ。
彼女の綺麗な声も合わさって妙に色っぽく感じられる。
「陽香もうまいね。」
「原曲とは印象違うけど、これはこれでありだな。」
原曲は失恋しても諦めずに前に進むもうという感じなのだが彼女が歌うと最後の悲しい別れみたいなこと感じになる。同じ歌詞でも歌い方や声が違うだけでこんなにも違うふうになるとは。
「いいぞー陽香ー。」
結果は葵ほどではないけどなかなかにいい点数を叩きだしていた。
「次俺歌っていい?」
次は俺が歌うことになった。
俺は昔からの名曲を選曲することにした。それも誰もが知っているような有名なやつ。
結果は可もなく不可もなく。二人ほど上手くはないけど別に下手でもない。いっちゃん普通だ。
「へー。いいじゃん」
陽香は素直に褒めてくれた。なんかむず痒いな。
「遥斗も普通にうまいな」
翠も褒めてくれた。
「確かに遥斗もうまいね。私ほどではないけど」
葵は、うん。すっかり天狗になっている。
「じゃあ、最後は僕だね。」
最後は翠の番だ。彼の選曲は意外や意外。洋楽の、しかもラップだった。しかもめっちゃうまい。
「……。」みんな驚いて声が出ないようだ。
結果は…100点だ!
「すごっ。」
俺はこんな感想しか出てこなかった。
「すご〜い、翠かっこいいじゃん!」
陽香も驚いてはいたが、素直な感想を伝えていた。
「あああああっ。」
天狗になっていた葵はすっかり意気消沈している。ドンマイ。
「みんなありがとう。」
翠の爽やかスマイルが眩しく光っている。
それから4時間くらい歌通した。
「ねぇ、そろそろ帰らない?私疲れた。」
葵はどうやら疲れきたようだ。
「うん、僕も疲れた。そろそろ帰りたいかな。」
「私も、喉が痛くなってきた。」
翠も陽香も声が掠れている。
「明日も学校だし、そろそろ解散しようか。」
かくゆう俺も疲れてきたのでそろそろ帰ることにした。
カラオケからの帰り道、駅までみんなと歩いていると雨が降ってきた。