札女と言われ異世界で馬車馬のように働かされているが拾った子供がやつらに復讐しろと諭してくるのは勘弁して
ぐすぐずと泣きながらひたすらお札を作る私。
どうしてこんなことになったのか、今でも分からない。
現代社会、詳しく言えば20××年から異世界に飛ばされてしまったことから始まる。
異世界というだけでも無理なのにまさかの若返りまでオプションとばかりにつけられていた。
そんなサービスいらないので帰してくれと常に思っている。
2×歳が若返ったら10代になっていた。
お肌は艶々だし調子もいいが心細さに比べれば比べものにもならない。
どうして普通のどこにでもいる女がこの歳になってトリップしないといけないんだろう。
貧乏くじを引くよりも悲惨なように感じる。
別の人がこれば世の中上手く行くのではないかな。
それに、ここは村なのだが村の人間達がブラックなのだ。
コキ使われている。
上手く言えないのだが己には聖魔法があってそれをお札にすることによって発動すると試行錯誤で分かったが、札の効能が知れると安く買い叩かれるようになった。
村に住まわしてもらっているから強くは言えず。
かといって、ここから出るための資金を貯めてどうにか出たい。
そうしてもんもんとしながらオーダーを貰うのでしくしく泣きながら札を作る。
兎に角お金を稼がねば先に進まない。
とくとくと作っていると村がその日はざわついていて、ボロボロの子供が倒れていると騒動になった。
ピオミルもちらりと見たが札効果で身綺麗になっている村人達はその汚れている子供に近付かない。
(この子も利用されるのはイヤ)
様子も見ないような態度に日頃の鬱憤が少し出る。
誰も引き取りたくないというので己が引き取ることにした。
手をあげたら作業が遅くなると意味の分からないことを言われたが、自分達がイヤなんだろうと反抗心が動く。
どうしてここまで見知らぬ子供に反応するのか自分でも訳がわからない。
(きっと同じ境遇ってだけ)
子供を引き取って目が覚めている状態で置いておくと、ずっとさっきから睨み付けていることに震えていた。
冒頭に戻る。
異世界に来てから涙など滅多に流さなかったのに、涙もろくなった。
怯えも強くなり微かなことで驚くようになった。
「あ、あの、なんで睨み付けるの?」
「お前がおれをころすか見極めてる」
「こ、ころ」
物騒だし子供の口から出るものではない。
やはり異世界は治安が悪い。
子供がこんな風なら大人は荒みに荒み、手がつけられないほど無慈悲なのかも。
異世界怖い。
小さい巨人、否、小さい猛獣を前にブルブル震えるのは仕方なかった。
「怖がりすぎだろ」
独り言に呟くが怖がらせている本人に言われたくない。
こんな子と暮らしていかないといけないなんて誤算。
今から返還出来ないかな。
怖いなんて思ってもみなくて泣く。
それでもお腹は空くし札は作らねばお金が貯めれずなので作業をしていく。
ご飯も作って子供に食べさせる。
一応村に倒れていたので引きとったのだと告げ、男の子は「へぇ」と気にしていない風な態度。
ここがどこなのか気にならないのか。
男の子はなんと呼べばいいのかと聞くと、無視される。
警戒しているのだろうと気長に待つことにした。
時間はあるし、その時間はほぼ内職になるから暇でもない。
せかせか、せかせか、と札を作っていれば興味深そうにこちらを見つめる男の子。
気になるけど作業に没頭していくと気にならなくなった。
「ふう、終わったぁ」
一段落して肩を回す。
手を動かし魔法を込めて、魔力もなくなりつつある。
息を吐いてふと上を向くと男の子がじっくり見ていたので驚きに顔を揺らす。
そうだ、居たんだった。
慣れない。
同じ空間にもう一人いるというのは見られているということ。
やっぱり引き取るのは早計だった、かなぁ。
もじもじとしながら立ち上がる。
ふらふらしていて足が覚束ない。
が、前に動けなくなった。
魔力不足、それが脳裏を過ぎた。
なんだか誰かに呼ばれている声が聞こえるものの、答えられそうにない。
──チャプン
水音が耳を滑り瞼を開かせる。
「う……ん」
自身の声で更に脳がくるくると動き出す。
ボヤける視界からクリアになる。
水の音が聞こえた気がするのだが、気のせいなのだろうか。
ようやくハッキリ見えるようになって男の子が横に居ると知る。
悲鳴をあげかけたが、額に乗るなにかに気付いて止まる。
意識を失ったのだったと少しずつ思い出していく。
多分ここは己のベットで、ラギアンが本来寝ていた場所。
そこを譲られているということは、介抱してくれたのは恐らくラギアンなのかも。
でないと近くに居ないし、村人はやるとは思えない。
そんな良心があるんならもっと違う生活をしている筈。
期待など昔に消え失せている。
嫌悪感で顔を歪めて不快に気分を悪くすると、彼はジッとこちらを見つめた。
「復讐しろよ」
「……えっ」
「憎いだろ」
なにも知らない筈なのにいきなり核心をついてくる子供に、あまりの愚直さを感じた。
そんなにうまく出来るのなら、もうしている。
出来ぬから耐えているのだ。
「指くわえて買い叩かれ続けるってのか」
本当に、見てきたのかのように言う。
しかし、現実を知っているからこそ現実をズバリと言ってしまうのだ。
「わた、私だってダメなことくらい分かってる」
でも、村八分になっていることは自分ではどうにもできない。
ぐずぐすという女に、かなり酷なことを要求していることは男児にも理解出来ていた。
しかし、その歯痒さで苛つきも増える。
村人は憎い。
マジュウのエサにしても罪悪感なんて抱かないだろうくらい。
女一人がどう抗ったって精々一人か二人、昏睡させられるかどうか。
そんな危ない橋を渡るのはリスキー。
男の子は少し思案して、名前を漸く教えてくれた。
「好きに呼べ。やっぱりお前を見ているとムカついてくるからあいつらをボコボコにおれがする」
「無茶なことを」
複数いる大人をなんとか出来まい。
しかも、子供が。
首を振るも、男児は余裕な表情をしてニヤリと笑う。
「バカにするな。こんな見た目でも腕はある」
──ドンドン
「おーい!札女ッ」
乱暴な叩き方と嘲りの混ざる声、不名誉な呼び方。
自身の扱いを全て詰め込んだ態度を取る客。
「とんだノーミソのない奴が住んでるな」
ラギアンは呟くとスタスタと歩き出し、代わりに出てくれる。
「聞いてんか!出てこ──あ?」
扉が開けられて男は拾われた子と認識してお前か、と汚い目で見てくる。
薄汚れた顔だったからと言って、汚いと思われているのが最高に愉快だ。
その顔面、汚くしてやろう。
「女は熱を出している。出直せ」
「はぁ?なんでそっちの都合でまた出向かないといけないんだ?」
「こっちの台詞だ、バカが」
男の顔に青筋が浮かぶ前にラギアンはいつものように右手を動作させて男を吹き飛ばした。
「ぶほぁ!?……ま、魔法!?」
魔法はこの村からしたら奇跡の力だ。
適正でもないと浮かぶことも使うことも出来ない。
札も魔法の部類に入るが、女は知識が無いのでありふれたものだと思ってない。
「ハッ、今時魔法に目を白黒させる人間なんて居るとはな」
ラギアンがそもそもこうなっているのは討伐に向かって最後の力を使った魔物に返り討ちにされたから。
「もし少しでも騒いだらころす」
すごくすごくバイブレーションみたく震えた。
男は吹き飛ばされた恐怖に脱兎の如く逃げていく。
「というのは冗談だ」
「え!?」
その顔で飛ばすの!?
こちらに戻った男はやれやれと首を負けた。
「おれの使いっぱしりも冗談に良く笑うんだがな」
それは可哀想な光景があることだ。
無理に笑うのが精一杯。
「流石に命を助けられて仇では返さねぇよ」
くすくすと笑う子になんなんだと泣きたくなる。
この子のこと助けたの私だよ?
なのに、悪質にも怯えさせるなんてやることじゃないよ。
涙を堪えて俯くと「下を向くな」と強く命令される。
驚いて反射的に彼の方へ顎を上げると、彼はキツイ眼差しで許さないというオーラを出していた。
「アイツらの前でそういう風にしているから舐められるんだよ」
「あ、貴方には!あの人たちを知らないからそうやって言えるんだよ」
「地域の差別ってのはどこにでもある」
「あるから、なんだって言うの」
まさか、なので我慢しろなんて言われるのではないかと構えた。
「徹底的に懲らしめるしかない」
「……懲らしめる?」
おおよそ年下から出てきたとは思えぬ発言に聞き間違いかなと首を左右に振る。
「なんの冗談?」
「冗談を言う空気でもねぇだろ」
ラギアンは面白そうに笑って、大人をからかってるんだと内心ガッカリ。
「勝手に終わらせるな。いずれ分かる」
男の子はそう言って立ち上がる。
どこへと聞くと体が鈍るから散歩すると出ていく。
それを見送りため息をついて、とんでもない人材を家に入れてしまったと憂鬱に過ごした。
彼が来てから2ヶ月。
相手のいつの間にか留守にしている突発的な行動にも慣れてきた頃、トントンと扉を叩く音にヒクッとなる。
村人ならば出たくない。
居留守を使おうとしているとラギアンが直接立ち上がり扉へ向う。
「だ、だめ」
「今回は大丈夫だ」
ラギアンの言葉の意味を探る前に扉は開かれ、彼はやっとかと、言葉を落とす。
「無茶言わないで下さい。その姿の貴方を探すのは特徴もなくて大変だったんですから」
落ち着いた声音で、聞こえてくるのは敬うような言葉遣い。
ソッと扉に近付いて見てみると、特徴的な服に身を包んだ男性が二人立っていた。
「一応手紙は出しただろ」
「出したのは見ましたよ。けど、生きていることと探し当ててみろなんてリクエスト付きでね!」
「ってか、ボス。その姿見られたくないからここに隠れてましたよね!」
「んなわけねぇだろ。単純にお前らに試練を与えてやっただけだ」
「不便なのに良く入られましたねー」
「体よく女も家もあったからな」
「女、とはその方ですね」
「ああ。ピオミル、こっちだ」
くるりと振り返るので顔が驚きに染まるまま固まる。
「ちゃっかり手に入れてる」
男の子は男の人と親しげに話す。
色々ついていけてない。
「もしかしてボス、なーんにも話してないの?」
「言っても信じなさそうだったからな。それよりも薬は用意出来たのか」
「もちろんっす!」
彼が手渡されたのは小さなポーション瓶。
「あ、あの、なにが」
見ているピオミルに構わずそれを一気飲みする男。
誰も教えてくれず途方に暮れる。
「効果は直ぐに出ねぇか」
男の子はそう窮屈そうに呟きくるりとこちらへ向く。
「今、おれには呪いが掛かっている。それを解毒させる薬を飲んだからもうすぐ本当の姿に戻れる」
「あ、は、はあ」
そんな風に説明されてもいきなり飲み込めない。
困惑に揺らいでいるとラギアンは手を差し出す。
「おれと来い。この村の奴らに目にものをみせる。あとは考えずにいろ」
ピオミルは息を飲む。
直ぐに帰ってしまうとばかり思っていた。
いきなり来いと言われて来れるわけがないのに。
「この村で馬車馬みたいに使われて死にたいのか」
嫌だ、嫌に決まっている。
「死にたくない……こんなところにいたくないっ」
「それでいい。マイル、連れてこい」
女が気付くと男に抱きあげられていて、もう一人に道具を全部持ってくるように伝える。
一つ残らず持っていき、村人達に隙を見せないように一切を許さない。
実は万能な札により観光地を造ろうと画策した村が、札を作る人間を失い、借金にて奴隷に落ちるのだがラギアンは知るかと村を後にした。
「うまああああ」
ラギアンはそれみたことかと、彼女を普通の生活というものに染まらせていく。
のちに、彼女はお腹いっぱいご飯を食べさせられて、十時間たっぷり睡眠を取らされるという幸せ地獄により彼らに懐きまくることとなる。
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