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シャリンの秘めたるもの

ギルド


俺達は今、受付嬢に任務達成の証の鉱石を渡して、報酬を受け取ろうとしている所だ。


「やっぱり、無事に任務達成出来たみたいね。けど、シャリンちゃんも一緒ってどういう状況?」


「僕、この人達に助けられたんだ。それで、このパーティーに入れさせてもらえる事になって…」


「本当!? 良かったじゃない!」


受付嬢は驚いたような声を出した。シャリンがソロだった時の頃をずっと見ていたのだろうか。


「ただ、一つ気になった事があるんだ、クラン。質問していいか?」


「ええ、何があったの?ヨシマサさん。」


「星三任務なのに、かなり強い敵が居たんだ。シャリンも喰われかけたし、香がいなかったら全滅してたかもしれない。」


「星四の任務ぐらいの強さだったんだよ、クラン姉さん。食べられそうになったときはもう…怖くて…」


「…それはおかしいわね。上に報告しておくわ。」


「あ、そういえば…

クランさん、実戦訓練が出来る場所ってあるかな?天棋さんの能力の事とか、色々確かめたくて。」


「そういうのは無いのよね...代わりにだけど、星二任務の、『食用魔物ビーファーの狩猟』が丁度いいわよ。危険性もほぼ無いし、技の試し打ちにはもってこいの任務よ。」


「じゃあそれにするか。...クラン、もう一つ質問いいか?」


「ええ、良いわよ。知ってる範囲なら。」


「海斗と未来以外の召喚された奴らはどうなったんだ?難易度の高い任務を受けてるようだが。」


「...まだ帰ってきてないわ。」


「...それは、ーーー嫌な予感がするな。まぁ、教えてくれてありがとう、クラン。」


「どういたしまして、シャリンちゃんも頑張ってね!」


「もちろん!」


俺達は次の任務の場所へと向かうのであった。


ーーー


草原


辺りには緑色の空間が広がっていて、野生動物...というか魔物が点在している。リスのようなものから熊みたいな奴までいる。多分、この魔物達全てが任務の対象に成り得るのだろう。今回狙うのは牛っぽい魔物の、【ビーファー】だ。


「さて、早速試していくか。【香車(レールガン)】!」


拳サイズの香車の駒がぱっと現れ、ものすごい速度で熊のような魔物に突っ込んでいき、激突する。一体の頭部を粉々にしただけでは勢いは止まらず、その直線状にいた魔物全ての体に大きな風穴を開けた。


「これ...乱発は禁止にしましょう、天棋さん。」


「下手したら僕達にも当たっちゃいそう。威力は良いんだけどね。」


「まあ、気を付けないとな。さて次は...【銀将(シルバーロード)】!」


今度はサッカーボール程度の大きさの銀将の駒が現れ、ギザギザとした挙動で魔物に向かっていく。

そして一定の距離まで近づくと、電撃のような物を放った。魔物はそれによって焦がされる。

さっきのと違って、これは使い勝手が良さそうだ。


「自動追尾の電撃魔法攻撃ってとこかな。デコイにも使えそうで便利な技だね。」


「実際の将棋でも、銀には色んな使い方がありましたもんね、天棋さん。」


『義将、銀には色んな使い方があるんだぞ。だからもっと...』

脳内で元の世界での記憶がフラッシュバックする。そこに映っていたのは、俺が将棋を始めるきっかけにもなった先輩だった。当時の彼女は俺よりもずっと強く、俺の目標だったな...


「―――さん。天棋さん?」


「あっ、すまないな香。少しぼうっとしてしまった。」


「意外にボーっとするところもあるんですね、天棋さんのような人でも。」


「流石に人間だからな。」


「へぇー、僕から見たら人間離れしてるけどね。」


「そういえばシャリンさんってどんなステータスなんですか?」


「ああ、見る?そんなに強くないけど。」


シャリンはそう言って黒いパネルを出現させる。

『シャリン=ヴェイアー 職業:シーフ MP:1350 保有スキル:【暗器Lv3】、【観察眼(ジーニアス・アイ)

上級スキル:【観察眼】 消費MP1。』


「【観察眼】? 何だそれは。」


「簡単に言うと相手の弱点が分かったり、初めて見る物がどんなのか分かったりするよ。」


「だからあの時、化け物の弱点が分かったんですね!」


「というかシャリン、お前能力もソロ向けじゃないだろ。なのに何でソロで活動していた?」


「あー...まぁ僕にスカウトが来なかったって感じ...ですかね。」


「能力も優秀なのにか?」


「戦闘にはあまり向いてないし...それに...」


シャリンはそう言いかけたが、

「いや、やめとくよ。今はこうして仲間に恵まれているしね。」


彼女はそうは言っているが、目が完全に笑ってはいない。何かまだ抱えているものがあるのだろうか。


「天棋さん、次私行きますね。」


その声に気づき、ふと香の方を見ると、彼女は武器を構えていた。


「提案ですけど、武器を振るうと同時に魔法が撃てたら強いと思いませんか?」


「そんな器用な事出来るのか?多面指しをするような物だろう?」


「まぁ、物は試し!【拡散火炎弾(スプレッド・フレイム)中級剣技・両断(ソード・バスター)】!」


香が右手で剣を振るい、魔物を一刀両断する。同時に左手から無数の火の粉が発生して当たりの魔物をウェルダンに焼いた。


「おお、一発目で成功した!凄いよカオル!」


「”何でも出来るようになる”、が私の家訓だったからね。初めての事も身に付きやすいの。」


そう言った瞬間、香のステータスのパネルが勝手に表示される。

『新技能:【二刀流(マルチアタック)】を習得しました。』


「ん?レベルアップでもないのに、技能が見に付くんだな。」


俺は少し疑問に感じた。

でも確か俺がレベルアップした時に身に付いたのは新しい駒だけで、MPは一切上がってない。

香の場合は既にあった技を応用したものが新技能になっただけ...

つまり、レベルアップじゃなくても自分で何かを開発することができるのか。

まぁ今は駒が少ないから、揃ってから考えるとするかな。


「ちょっと僕も、ヨシマサ達に見て貰おうかなー」


「シャリンさんの技はまだ見てませんでしたね。」


「いくよ...」


シャリンの雰囲気がガラッと変わる。先ほどまでの”おどおどしている少女”という印象が一瞬で捨て去られるほどの殺気を醸し出しながらゆっくりと魔物に向かって歩き出す。

魔物は自分に向く敵意を察知したからか、シャリンに突進攻撃を仕掛ける。


「【辻斬り(ヒット)】。」


その瞬間、シャリンは魔物の後ろをいつの間にか歩いていた。少し遅れて、魔物の首が落ちた。

落ちた魔物の頭部には、クナイが深々と刺さっていた。


「ふぅぅぅぅ...」


シャリンは呼吸を整えてから話し始める。


「とまぁ、こんな感じ。前は仕掛ける前に捕まっちゃったから出来なかったけどね。」


「まるで暗殺だな。そういうの習ってたのか?」


「うん、幼いころに従姉が教えてくれて。」


「それじゃ、ここぐらいで狩りは終わっときましょうか。これ以上やったら生態系に支障が出てしまいそうですし。ギルドに報告しに行きましょう。」


ーーー


その後、報告を済ませ報酬を貰い、宿屋にそのまま入る。今回の宿屋はシャワーが付いているので、順番で入る事になった。

今はシャワーを出て服を着ている所だ。



「俺は上がったぞ、香。シャリン。」


「はーい。あ、シャリンさんも一緒に入りません?女同士ですし仲良くしましょうよ。」


「い、いや...僕は...」


「遠慮はしないでいいですよ。行きましょっか。」


「ひぇ...」


シャリンの顔が青ざめている。まるで何かの嘘が時のような顔だ。

まぁ、どうせくだらない事だから大丈夫だろう。


「もしかして胸の大きさを気にしてるんですか?別に私もそんなにですし気にしないでいいですよ~」


「わ、わかった。行くよ...」


二人は俺と入れ替わるように脱衣所に入る。


ーーー


私、錦織香はシャリンちゃんとお風呂に入る所だ。

実は昔から女友達と一緒にお風呂に入ったりすることがしたかったのだ。

周りには”何でもできるエリート”というレッテルを貼られて友達が出来なかったからね...

だから少し強引にシャリンちゃんには女同士、裸の付き合いになってもらおう。

私が上の服を脱いで下着のみになった時、シャリンちゃんは私の胸から目を逸らした。


「気にしなくていいんですよ~ だって女同士だからさ~」


「いや、あのっ!そうじゃなくて!僕はっ!」


シャリンちゃんは目を逸らしながらスカートをまくしあげる。そこには...


「シャリン...ちゃん?」


「クラン姉さん以外には誰にも知られたく無かったのに...

僕が男だってこと。でも僕はスカートとか可愛い服が着たくて、それに好きになる人も...」


彼女、いや彼はそのまま静かに泣き出した。その時抱いた私の感情は驚きよりも罪悪感の方が大きかった。


「今まで何度かパーティーに入れてもらった事があるけど、僕が男だって知られたら気持ち悪がられて、毎回それが理由で追い出されちゃって...!そのまま噂が広まって、皆僕をパーティーに入れてくれなくなって...」


「そうだったんですね。ごめんなさい...でも私は、シャリンちゃんを追い出したりはしません。

天棋さんも気にしないと思いますし、だから心配しなくていいですよ。」


「ありがとっ...だけど、ヨシマサにはまだ言わないで。僕が準備出来てから自分で言うから。」


「そもそもアウティングなんて最低ですからしませんよ。これは私達の秘密にしましょ?

だから、よろしくね。シャリンちゃん。」


「うん、よろしくっ!」

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