イレギュラーな出会い
ダンジョン内
「やっぱり暗いな。香、何か灯りになる魔法はあるか?」
「一応ありますけど、これ攻撃魔法なんですよね。初めてだし制御を間違えないか心配で...」
「だけど、暗いとこ苦手なんだろ?さっきからずっとしがみついてくるし。」
さっきから香は俺の左腕を掴み、少し物音がするたびに突進(?)してくる。余程怖がりなんだろう。
「俺の能力でそういう物が創れればいいんだけどな。でも【歩兵】と【桂馬】と【角】でどうしろと...」
そう言ってる間に、ごおお っとダンジョン内に何かの音が鳴り響く。嫌な予感がした。
「香!今は制御がどうとか言ってる場合じゃない!今すぐ灯りになる魔法を撃て!」
「わっ、わかりました!」
そう言って香は受付嬢のクランから貰った本を開いて左手で持ち、右手を前に突き出す。
「拡散火炎弾!」
香がそう唱えた瞬間、無数の火の粉が辺りに拡散し周囲を照らした。ダンジョンは石で出来ていたので燃え移る事は無かったが、近くに生えているツタや木の根っこには少しだけ引火している。
だがそれよりも目を引くのは、数メートル奥からこっちに飛んできている蝙蝠の大群だ。
「って、コウモリ⁉ ど、どうしましょう⁉」
「慌てるな、悪手を指すぞ。ここは落ち着いて対処だ。」
試しに使ってみるか、【歩兵】を。【歩兵】の使い方はある程度予想は出来ている。後はこれを形に出来るかだ。
「香、俺の後ろに下がれ!【歩兵・壁】!」
周りには九枚の歩兵の駒が現れる。それぞれバスケットボール一つ分ぐらいの大きさだ。
そしてそれが、蝙蝠達の進行を遮った。しかし、まだ隙間がある。
「今なら攻められそうです!天棋さん! 私も合わせますね。」
香は剣を取り出し、反撃の構えを取る。俺も次の技をイメージする。
【桂馬】。上手く使えば両取りが出来て、相手を詰ませるにはもってこいの駒。駒の中で一番自由に飛び回る事ができる。
成程、大体イメージが湧いたぞ。
「【桂馬乱舞】!!」 「【中級剣技・三連突き】!!」
ぱっ、と桂馬の駒が現れて、そこら中を飛び回り、蝙蝠を次々となぎ倒す。抜け道はほとんど無い。
で、運よく躱し切れたやつは香がグサッ、だ。ハズレ枠でもそこそこ戦えるものだな。
その時、ガシャっと香の所から聞こえてくる。そちらに目をやると、彼女の武器は弓に成っていた。
「わっ、剣が弓になっちゃいました! 一体どういう造りしたらこうなるんですかね。」
「弓も使えそうか?」
「はい、元居た世界でも弓道はしていましたので。それに今はスキルもありますしね。」
「なら大丈夫だな。暗いのが苦手ってのを克服すればだが。」
「そっ、それは天棋さんが居ればべっ、別に?? 怖くなんてないですからっ!!」
「じゃあ、さっきまでしがみついてたのは何でなのかは説明できるな?」
「ううう...」
「まぁいい、とりあえず任務だ。鉱石はもう少し奥に入った所にあるから進むぞ。」
俺達は再び歩み出した。所々で香が灯りを付けてくれるのでさっきみたいなハプニングには簡単に対処出来た。そうして十数分進み続けた頃、俺達はとある異変を感じ始めた。
「聞こえるか?香。何か聞こえるよな。」
「はい、多分下からですよね。」
俺は地面に耳を当てて音の正体を探ろうとする。最初の数秒は何も聞こえなかったが、少し待っているとほんの一瞬だけ耳に音が入ってきた。
「下に助けを求めてる人がいる! 早く行かないと手遅れになるかもしれない!」
「行くにしてもどうすれば...道が分からなかったら行けませんよ。」
「もう、床を突き破るしかない。香、そういう魔法はあるか?」
「ありはしますけど、今の私のスキルじゃ無理です!」
「じゃあもう、俺の【角】に賭けるしかないな。 一か八か、やってやる!
【角■■】!!」
その瞬間、俺達は物凄い速度で移動している感覚を感じた。きっとさっき使った【角】の効果だろう。ふと下を見ると、そこには言葉に表す事もできないような化け物と、それに喰われそうな女性がいた。
化け物の見た目を軽く説明するとしたら、空中に浮いている触手持ちの巨大ヒトデだ。
女性はそれの触手に捕まっており、化け物の口に運ばれそうになっている。
【角】の能力についてはまだ不明点は多いが、それよりも目の前の人を助けなければ。
「中級射撃・一閃!」
香がすかさず矢を放ち、触手を千切った。女性は地面に着地する。
「あ、ありがとう!君達は?」
「礼はいい。それよりもまず、こいつをどうにかするのが先だ。」
「あいつは多分星四並みの任務に現れるのが妥当の怪物だよ。ソロの僕でもこの任務ならいけると思ったんだけど、とんだイレギュラーだよ。」
怪物はその間にも高速で触手をぶつけてくる。しかし、その前に香が壁になるように割り込んだ。
「中級守護・堅牢!!」
「盾で防いでくれたのか、ありがとな。」
「でも天棋さん、このままじゃジリ貧ですよ!」
「ちょっといいかな。さっきまで捕まってたくせして言うのは何なんだけども、僕に一つだけ策があるんだ。会ったばかりですぐには信頼できないかもだけど、協力してくれるかな?」
「わかった。聞くだけ聞こう。今はそうするしかないからな。」
「とは言っても、作戦と言えるほどのものじゃ無いんだけどね。ざっくり言うと、奴の弱点は口だからそこを攻撃しようってこと。でも僕は剣の近接戦闘しかできないからさっきは捕まっちゃってさ。」
「つまり、私が魔法を使えばいいという事ですか?天棋さん。」
「...危険だが、香しか適任がいないからな。でも、危ない時は俺が護るから心配はいらない。」
「心強いですね。そう言ってくれて嬉しいです。」
「あ、それと、そこの...金髪の女。お前は下がってろ。怪我してるとしたら悪化するからな。」
「あの、僕の名前はシャリン=ヴェイアーって名前で...それに...」
「自己紹介なら後にしろ。」
俺がそう言い放つとシャリンは子供みたいに口をツンととがらせた。まぁ見た目からして15歳といった所だろうか、まあ元の世界と年齢に対しての成長速度は違うかもだし、置いとくか。
「香!俺が化け物の気を引く! その間に最大火力でぶつけろ!」
俺は化け物の所に駆け出し、右こぶしを握り締める。
「無茶だ!殴った所で効かない!」
シャリンはそう言ってるが、俺は動きを止めなかった。策があったからだ。
「【叩きの歩】!!」
右こぶしに歩が装着される。それが繰り出した一撃は化け物の肉を抉り取った。
化け物は空間を激しく揺らす程の声で咆哮する。
「【歩兵】は最弱の駒だ。だが、将棋には一つ絶対的なルールがある。それが何か分かるか?」
「しょー...ぎ?」、とシャリンは首を傾げる。
「それは、”取れない駒は無い”という事だ。最弱だろうと、攻撃範囲内なら必ず倒せる。」
「流石です天棋さん!今なら狙える...!」
しかし化け物はすぐに動き出し、触手で香を捕らえた。そして、すぐにそれを口に運ぼうとする。
「このままじゃあの子が喰われる!どうやって止めるつもりなの⁉」
「いや、俺が止めるまでもない。黙ってみてろ、シャリン。」
香は化け物の口のすぐそばまで運ばれている。喰われるまで秒読みだ。だが...
「こうなるのを待ってました!【凍結】!!」
化け物の口の中に入る直前は、一番攻撃を当てやすいタイミングだ。香はわざと捕まったのだろうな。
その予想通り香は奇襲に成功した。化け物の口が氷で封鎖される。そして、次第に氷は全身へと広がっていき、最終的に触手の辺りまで凍った後、化け物は氷と共に粉々に砕けてしまった。
『レベルアップしました! 通常技【香車】、【銀将】が追加されました。』
駒の種類が増えたか...また試さないとな。今回の【角】の技が上手く行ったのもたまたまだろうし。
「天棋さん、さっきの化け物の死骸の中のコレ、もしかして...」
香が指差す所には大量の黒く光っている鉱石があった。おそらく任務の対象の物だろう。その時、ツンツンと俺は後ろからつつかれる感覚がした。後ろに振り向くと、そこには目を逸らしているシャリンがいた。
「あの、助けてくれてありがとね。そういえば名前聞いてなかったけど、君たちはなんていうの?」
「俺は天棋義将、こっちは錦織香だ。礼はいい、人間も駒も、お互い助け合う物だからな。」
「あなたもこの任務受けてたんですよね? じゃあ、一緒に持ち帰りましょう?」
「僕、何も出来てないのに?ソロの僕に渡してもメリットなんて...」
「ああ、シャリンお前ソロだったなら丁度いい。俺のパーティに入れよ。あの化け物と一局交えただけで弱点を見抜く目の良さは素晴らしいしな。自信持てよ。」
「僕が...?」
シャリンはどこか心で凍っていたものが解けたのだろうか、彼女は緊張が解けたように笑った。
「...なら、断る理由は無いね。よろしく、ヨシマサ。それにカオル。」
このパーティに新しいメンバーが加わった瞬間だった。
俺達は鉱石を回収し、ギルドに戻る帰路につき始めた。
ーーー
ダンジョン・最深部
邪悪なオーラを纏った空間で、何者かの影同士が言葉を交わしている。
「まさか【Code.0007】がやられるとはな。星四の任務の敵程の実力はあったんだが...」
「厄介なやつが現れたわね。けど、私達の敵じゃないわ。」
「だが、俺たちの計画が邪魔されるかもしれないな。早めに消しておくか。」
「そうね。ま、とりあえず次は◯◯に行くわよ。」
暗闇の中の内の一人の影が頷いた。
シャリン=ヴェイアー
金髪のショートボブです。胸ゼロです()
身長は約150センチでかなり小さい。
クトゥルフで言う所のAPPが16、つまるところとても可愛い。
パーティー仲間が居なくてソロなのには事情があって、仲間が欲しいと常々思っていた。