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第七話

  俺が会議室に入った瞬間、その場にいた全員が椅子から立ち上がり跪いた。その一糸乱れぬ姿はいつの日かテレビで見た儀仗隊による集団行動を彷彿とさせる。そんな彼らの動きに呆けている場合ではないので、そのまま歩みを進めて円卓を囲う席の中で一際豪華な席に座る。円卓は凡そ半径5mほど、材料は黒い御影石のようなものだろうか。ミリオンネーションズにおいて会議室とは名ばかりのもので、実際には何の機能もない部屋だったため入ったことはなかった。中央の円卓に合わせてか全体的に落ち着いた雰囲気で、円卓の周囲に背もたれが高いアンティーク調の白い椅子が配置されている。照明はシャンデリアだが、玉座の間のものより控えめな感じだ。


  「皆、ご苦労。座ってくれ」


  「「はっ」」


  俺が声をかけると皆が一斉に立ち上がり、着席する。当然のことだが集まった面々を見ると見覚えのある顔ばかりが並んでいるな。今回集まったのは各軍の大将と筆頭錬金術師、筆頭鍛冶師、筆頭職人、大長老、そして筆頭皇帝補佐官であるエリーシャと皇帝である俺を加えた計17名か。

  社内の会議に上司とともに出席することがあったが、毎回毎回社長の話が長くてうんざりしたものだ。会議といえど大体話すのは毎度決まったメンツだ。そんな形式上の会議にはしたくない。建設的な話し合いをするにはどうすれば良いか悩みながら俺は口を開いた。


  「皆、まずは急な召集にも関わらずこうして集まってくれたことに感謝する。今回皆に集まってもらったのは至急話し合いたい事案があったからだ。既に知っているとは思うが現在我々は前代未聞の事態に見舞われている。今は一刻も早く我々が置かれている状況を知り、今後の方針を決めなければならない。エリーシャ、私に報告した内容は全員に共有済みか?」


  「問題ございません」


  「ならば話が早い。まず私が疑問に思っているのがモンスターの生態系についてだ。脅威度40程度のモンスターが確認されたが、その殆どが集団ではなく単体で行動している。そうだったな、ワーグナー?」


  「間違いないぜ。どいつもこいつも一匹で行動してやがった。見た感じそれぞれが縄張りを持っていそうな雰囲気だったな。脅威度90超えの奴らならまだしもザコ共が単独行動しているのは意味が分からねぇ……おい、何ジロジロ見てんだベネディクト」


  「御前会議ですよ。態度に気を付けた方がよろしいのでは?」


  「あ?陛下に創って貰ったオレ(人格)にケチつけようってのか?」


  「そうではなくTPOというものを弁えて…」


  この砕けた…というか粗暴なしゃべり方をするのが第十軍大将、ワーグナー。茶髪で、額には黒いヘアバンドを巻いている25歳の青年だ。軍の大将とは思えないほど見た目は軽装だが彼の軍の役目を考えれば妥当な格好と言える。

  帝軍において第一軍から第八軍までは所謂「正規軍」であり、戦争やモンスター討伐など戦闘任務を幅広く担う。「正規軍」として当てはまらないのが第九軍と第十軍だ。第九軍は暗殺者で構成されており、第十軍は斥候によって構成されている。二つの軍は他の軍に比べて動かした回数が少ないが、ストーリーの進行に応じて必要な場面が度々あったため都度活用していた。暗殺者は兎も角、斥候は拠点周囲にいるモンスターの位置を特定したり、マップで確認できる範囲を増やすために未開放の地に向かわせたりするのが主な使い道だ。

  戦闘機会は正規軍と比較して少ないが、全く戦闘を行わないわけではないため第九軍も第十軍も育成は完璧に終わらせてある。戦闘メインのビルドではないため単純な戦闘力では劣ってしまうけれど。


  一方ワーグナーの態度を諫めたのが第六軍大将であるベネディクト。黒髪茶眼で、髪型はマッシュショートの青年。片眼鏡(モノクル)を着用しているため非常に真面目な印象を受ける。彼の主武器は双剣で、俊敏性に特化して育成したため高速戦闘が得意だ。確かワーグナーと同い年で双方速さが売りであるためお互いをライバル視している…的な設定にしたはず。俺も実はミリオンネーションズの運営に負けず劣らず設定厨だから、備考欄には各キャラびっしりと設定を書いた覚えがある。ワーグナーの砕けた話し方も、ベネディクトの真面目な性格もすべて俺の設定によるもの…なんだと思う。この世界では備考欄に記入した内容までしっかり反映されているんだなあ。


  故に二人の言い合いはある意味俺のせいで起こったとも言えるんだが…この状況をどう収集しようか。俺が一声かければ二人とも静かになってくれるんだろうけどその後気を使われたりしても困るしなぁ。なんて声をかけようか悩んでいると、俺の二個右隣に座る人物が唐突に口を開いた。



  「二人ともそこまでじゃ。陛下の御前であることを忘れたか?」


  「「し、失礼しました!」」


  静かではあるが思わず口を噤んでしまう程の迫力がある声。それを発したのは執政官を束ねる大長老という役職に就いているギルベルト。灰色のローブを身にまとっており、長い白髪はオールバックにして後ろで束ねられている。帝国の権力的に一番強いのは俺で、軍事と政治の両方を管理しているため二番目はエリーシャ。軍事、政治を分けて考えたときに政治における事実上のトップであるのは大長老であるギルベルトだろう。老人とは思えない精悍な体つきと鋭い双眸をしているから俺より貫禄がある気がする…というか絶対に俺より貫禄あるな。

  折角ギルベルトが場を整えてくれたことだし、話を進めるか。


  「よい、気にするな。二人の性格は俺がそうあってほしいと願った結果形成されたものだ。これは二人に限った話ではなく、俺の配下達全員に言えることだ。どうか変に畏まったりせず、普段通りの態度で接してくれ」


  「「はっ」」


  「ギルベルト、手間をかけたな」


  「ほっほっほ、お気になさらず陛下。この老いぼれに出来ることは少ないじゃろうが、陛下のためならば何だって致しますぞ」


  「フッ、まだ老いぼれと言うには早いぞギルベルト。今後数十年俺の傍で力を貸してもらわねばならないからな」


  「これはこれは、陛下は手厳しいですなぁ」


  「頼りにしているぞ。さて、話を戻そう。モンスターの生態系について何か考えのある者はいるか?」


  「私に一つ考えがあるのだけれどいいかしら?」


  そう言って手を挙げたのは第三軍大将、エデルミラ。銀髪金眼の女性で、腰あたりまで伸びている髪は艶やかで手入れが行き届いていることが分かる。彼女の主武器は長弓だ。その腕前は他の追随を許すことなく、一対一戦闘(タイマン)においては帝国内で五本の指に入る実力者だ。無論、大将に据えているだけあって用兵にも非常に長けている。


  「聞こう」


  「実は何かしらが原因でモンスター達が強力になっているんじゃない?群れて生活していた頃とは比べ物にならないほど脅威度が上がっている可能性が考えられるわ」


  「一理あるな」


  「ま、仮説に過ぎないけれど…。一旦何匹か討伐して強さや原因を調べる必要があるわ。その結果次第で今後の動き方が変わってくるでしょうね」


  「ならば会議が終わり次第数名に討伐を任せよう」


  そう言った瞬間に配下達の目がぎらついたような気がするけど、気のせいか?配下達がみんな戦闘狂…なんて事はないよな、流石に。というか全員平和主義であってほしい。


  「一旦モンスターの件はこれで良いとして…次に南西方向で発見した村落についてだな」


  「ああ。城からだと大体15キロくらい離れた場所だぜ。オレもサッと見ただけだから人がいるかどうかはわからなかったが…」


  「陛下。少し話題は逸れるかもしれませんがお聞きしたいことがございます」


  「何だ、テオドール。言ってみろ」


  丁寧な口調で俺に質問を投げかけてきたのがテオドール。深紅の髪を首の後ろあたりで結っており、黒い羽織袴を着用している。服装も相まって穏やかな雰囲気を醸し出す30歳前後の男性だが、彼もまた軍の大将だ。実は帝国には第一軍から第十軍の他にもう一つ軍がある。

  ミリオンネーションズにおいてプレイヤーが戦争をする際は好きな軍を動かすことができるが、戦争の規模によって使用可能な軍の数は変わる。プレイヤーの戦争で使用されない軍はコマンドを与えて他の地で小規模な戦争を繰り広げることができるのだが、唯一それが出来ない軍が存在する。その軍はプレイヤーが戦争をするときのみ使用可能で、普段は帝城の守護とプレイヤーの護衛を担う。名を禁闕守護軍と言い、テオドールはその大将だ。

  帝国において間違いなく最強の軍であり、大将であるテオドールの戦闘能力は帝国内トップ。次点は第一軍大将であるオリヴァーだが両者の実力には大きな開きがある。それはミリオンネーションズで各キャラに振り分けられる育成上限値の差によるものだが…まあ皇帝の護衛が他のものより弱くてどうする、という運営の考えによるものだ。


  「そもそもここは何処なのでしょうか?既に陛下は全大陸を手中に収められております。このような未確認の地が存在するとは考えにくいのですが…」


  「では逆に聞こう。此処は何処だと思う?」


  「全く常軌を逸した話にはなりますが、全く別の惑星か或いは並行世界のようなものに転移したかと愚考いたします」


  「私も凡そ同じ意見だ。今私たちがいるのは以前と違う世界だと考えた方が良いだろう。我々に目立った変化はなく、帝城内の各部も異常はないようだが周囲の環境は大きく変化したとみるべきだろうな」


  全員が頷いたことを確認して俺は話を続ける。


  「一刻も早くこの変化に適応すること…それが重要だ。故に発見した村落に接触し調査するべきだと私は思う」


  「モンスターの調査と村落の調査、二手に分かれて行うということですかの?」


  「ギルベルトの言う通りだ」


  すると横に座るエリーシャがすかさず質問を飛ばしてきた。


  「どの様に割り振るおつもりですか?」


  「ふむ…」


  問題はそれなんだよなぁ。とりあえず村には俺が行きたいから、護衛に禁闕守護軍をつけるか。交渉の補佐としてギルベルトも一緒に来てもらおう。そういえば道案内に第十軍も欠かせないな。とりあえず村落に関してはそんな感じで、モンスターの方は…


  「モンスター討伐に関してはエリーシャに一任する。第三軍、第六軍を率いてモンスターを討伐せよ。尚、兵卒の召喚は禁ずる。将軍達のみで対処に当たれ。討伐したモンスターの解体、調査はインゴルフたち鍛冶師とエレオノーラたち錬金術師も協力するように」



  「「はっ」」


  「村落の調査には私とギルベルトが向かう。禁闕守護軍と第十軍は共に来い」


  「「はっ」」


  「ちょっと待ってくださいよ陛下。なぜ御自ら向かわれるんです?ギルベルトに任せて陛下は帝城にいる方が安全でしょう?」


  俺に待ったをかけたこの男こそが第一軍大将オリヴァー。筋骨隆々の大男で短めに刈り揃えられた黒髪と燃え上がるような紅い瞳が特徴的だ。


  「確かにその通りだが、配下達を危険な場所に送り込んで自分だけのうのうと安全な場所で過ごす気にはなれん。それに何事も初めての時は私が直接動いたではないか。大切な第一歩だからこそ、一番上のものが行動すべきだと私は思うがな」


  「そういわれればそうですが…」


  「オリヴァーよ、お主図体はでかいくせに相変わらず心配性じゃのう」 


  「それは言うなよギルベルト翁。まあ、くれぐれも気を付けてくださいよ」


  「それは約束しよう。他に何かある者はいるか?」


  全員の顔を見渡すが特に何もなさそうだな。


  「ならばこれにて今回の会議を終了とする。二つの件が片付いたらまた会議を開くとしよう」


  「「はっ」」


  俺が会議の終了を告げると全員が立ち上がり、抱拳礼の形をとって頭を下げる。 誰も動かないってことは俺が一番先に出て行かなきゃなのか。我ながらよく会議を乗り切ったとは思うが、皇帝プレイってめちゃくちゃ疲れるな… 




    

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