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第四話 スキル

暫し世界観紹介が続きますが、少々お付き合いください。

  さて、メニューはどうやって開けばいいのか?というかそもそも以前と同じように使うことができるのだろうか?スキル、装備、指揮(コマンド)、インベントリ、設定などは全てメニューから選択して使用していた。メニューに限らず、ミリオンネーションズと同じ要領で行動できないとなると、国家運営は非常に困難だ。

  どうしたものか。自分の奥に意識を巡らせたって何も感じないのは先ほど検証済みだ。ならば次は…


  「…メニュー」


  呟いてみたが、何の変化も起こらない。……よかった、一人で。こんなところを他の誰かに見られようものなら悶絶してしまう。

  しかし困ったな。どうやったらメニュー開けるのか皆目見当もつかない。これがゲームだったら、右上の横三本線をクリックするだけでサクッとメニューを開けるんだが…

  

  そう思った矢先、俺の目の前に半透明の黒い長方形――メニューが出現した。


  今俺がしたことは、ミリオンネーションズ内の操作を脳内で思い描いただけ。つまり操作を脳内で()()()()()()()()すればスキルなんかも使えたりするのだろうか?

  目の前に現れたメニューは()()()()を除いてミリオンネーションズと全く変わらない。


  「設定の項目が無くなっている…?」


  そう、メニューに設定項目が見当たらないのだ。それ以外――インベントリやスキルなんかは表示されているのに、設定だけがないのだ。

 設定項目がないとゲームのセーブや終了ができないんだが…まあ、現実だからそんなことをしても意味はないか。

 

  ならば次に確認するべきは、スキルの発動だろう。そう思ってメニューに表示されている「スキル」ボタンに触れようと手を伸ばすも、そのまま半透明のメニューを通り抜けてしまった。一体どういうことだ?目の前に表示されたメニューに触れられないのでは、メニューを開いた意味がないではないか。

  まさかとは思うが…さっきメニューを呼び出したのと同じように脳内でメニュー内にある「スキル」ボタンをクリックしてみる。すると、目の前に表示されているメニューが切り替わり、スキルの一覧が映し出された。

  要するに俺が今見ているメニューは、脳内での操作に呼応して視覚化されているのだろう。ただ視えるだけ…というのも理解に苦しむが目に見えるのと見えないのとでは作業効率は大きく変わる。すべてが脳内でのシュミレーションだと他の事を同時並行で考えるのが難しいし、今自分が何を開いているのかなどが分からなくなってしまう。メニューを開いたりスキルを使ったりするのはミリオンネーションズで何万回も繰り返した作業であるため、どこに何が表示され、なんのスキルが使えるかはすべて暗記しているが、インベントリの中身や装備、衣装までは把握しきれていない。こうやって視覚化されるのは正直ありがたいな。

  

  使用可能なスキルに関してはミリオンネーションズ内で獲得したスキルがすべて反映されている。試しに俺も『俯瞰把握』を発動してみることにしよう。


  「おぉ…これは凄いな!」


  すると視界が一気に変わり、上空から帝城を見下ろすような視点になる。しかしこのままではあたりが暗くて周りが見えづらい。そう感じた俺は別のスキル『暗視』を発動した。すると今まで暗かった視界が昼間のような明るさで照らされる。このスキルはミリオンネーションズで「夜」の時間帯に使用可能で、夜間に一定確率で発動する野盗襲撃イベントに対処するために用いる基本スキルの一つだ。

  ちなみにミリオンネーションズにおいては異なる種類のスキルを最大3つまで同時に発動することできるが、その仕様は変わっていないようだ。

  

  2つのスキルを用いて周囲を確認することができたのだが、やはりエリーシャの報告通り『俯瞰把握』範囲内は全て森林だな。他にも確認したいスキルはあるが、今はスキルが問題なく使用することができることを確認できただけで十分だろう。

  この世界に来てから数時間しか経っていないがあまりにも現実離れした出来事が多く起きたために疲れたな。今日はいったん休むことにしよう。そう思って脳内でスキルの使用を終了すると俯瞰していた視野が霧散し、元の玉座の間に戻ってきた。 


  そのまま立ち上がってレッドカーペットの上を通り玉座の間の扉へ歩みを進める。どうでもいい話だが、当然レッドカーペットの上を歩くなど初めての経験だ。ブーツの上からでもふかふかで綺麗な絨毯の上を歩くのは何というか慣れないし、微妙に背徳感を感じる。まあその時点で自分の小物さというか、器の小ささを実感する。仕方のないことだろう、31年間平凡な人生を送ってきたのだ。元はといえばしがないサラリーマンに過ぎない俺がいきなり皇帝と同じ生活を送れるわけがない。


  玉座の間を出て自室へと向かうわけだが、ここで新たな問題が発生する。城内の構造は全ては把握済みだからルートはわかるのだが、いかんせん距離が遠すぎる。玉座の間は帝城5階。しかしルーカスの自室は30階。25階分も離れているのだ、遠いと言わざるを得ない。さらに帝城内にはエレベーターが存在しないため、すべて階段での移動となる。

  今の身体ならば登り切れるかもしれないが31歳()()()()()体型の元の俺が精神的に拒否している。ああ、ミリオンネーションズみたいにワンクリックで自室の中まで移動することができれば…。

  ダメ元でそんな想像をしてみると、一瞬視界がぐにゃりと曲がった後、俺の目の前には先ほどとは全く違う景色が広がっていた。


  「これは…ルーカスの自室、だよな?」


  ミリオンネーションズにおいては拠点間や城内の移動はマップ表示される施設名称をクリックするだけで移動可能だったわけだが、その仕様も引き継いでいるとは…異世界バンザイ。

  所謂転移、というものだろうか。ミリオンネーションズでは普通の事だったから特に名称などはなかったが、現実に体験すると何とも不思議な感覚だ。もと居た場所から一瞬で違う場所に移動するのはもちろん経験したことがないので強い違和感を覚える。便利なことは間違いないが転移する前に視界が歪曲するのはいただけないな。


  自室の扉(これも豪華な装飾が施されている)を開け、中に入るとそこには一人用の部屋とは思えないほどの空間が広がっていた。天蓋付きの特大ベッド、クローゼット、テーブルや茶器、骨とう品や絵画や彫刻等々様々なものが配置されており、それが部屋に神秘的な調和を齎している。

  一旦風呂に入りたいので服を脱ごうとしたのだが、脱ぐことができない。意味不明なことだとは思うが、この世界に多少慣れ始めた俺は「あぁこれもか」と思う程度で、脳内でメニューを開き、装備欄を選択。衣装を外すと白金の厳めしい鎧が現れた。

  ミリオンネーションズ内での「衣装」とはプレイヤーの見た目を変化させるもので、衣装を外すと装備が丸出しになる。無論着用している装備の見た目が気に入っているプレイヤーは衣装を用いることは少なかったが、俺は衣装システムを気に入っていたためガチャでコンプするほどに衣装を収集していた。鎧そのままもかっこいいのだが、常時鎧を着ているというのもね。


  装備を非表示にすると丸裸になったため風呂場に足を踏み入れる。部屋から想像できたことだが、風呂も異常に豪華だ。城内にも大浴場の設備があるのだが、この風呂こそが大浴場なのではないかと思ってしまうほどの広さ。ジャグジーや打たせ湯、サウナなんかもあるな。まずは体を洗おうと洗い場に向かったのだが、シャワーから出た湯は体にあたる直前、()()()()()に弾かれたかの如く消えてしまう。

  装備を非表示にしただけでは裸判定にならないのか。そこで俺はもう一度装備欄を開き、装備をすべて解除する。するとしっかりとシャワーを浴びることができた。鎧を着ていても重さを一切感じないため区別がつかないな。

  身体を洗い終わって早速風呂に浸かると、とても心地が良い。たまった疲労が回復するのを感じるな。

  ミリオンネーションズでの風呂は回復効果があり、戦闘後に疲弊した将たちを風呂に配置することによってHP(体力)SP(スキルポイント)を回復させることができる。消耗度合いに応じて全回復までに必要な時間は異なるのだが…今は関係ない話か。


  一通り風呂を堪能した俺は装備を戻し、クローゼットへと向かう。当然このクローゼットも手で開けようとしてもびくともしないため、脳内でクローゼットを選択すると戸が勝手に開いた。中には何も入っていないが、俺の目の前に例の半透明の黒い長方形が出現し、着用可能な衣装を表示してくれる。

  先ほどまで着ていた「皇帝普段着(黒・金)」を戻し、「灰色のバスローブ」を取り出す。装備欄から着用すれば、サクッとお着換え完了だ。

  すぐそばにある特大ベッドにスリッパを脱いでダイブ。靴だけは手動で着脱する方式なのは謎だが。

  

  「はぁ~…」


  今日は本当に疲れたし、ゆっくり眠れそうだ。ふかふかのベットに横になって目を閉じた。

  


  そういえば衣装を着用すると下着は自動で装備されるみたいだけど、これ同じやつじゃない…よね?

自分で脱げない以上検証しようがないから毎回新しいものだと信じるしかないんだが。

  ていうか、トイレとか一々衣装も装備も外さなきゃいけないのか?衣装って全身セットで一部位判定だから衣装を外すと全身鎧になっちゃうんだよなぁ……今は装備を非表示にしているから素っ裸になってしまうわけだけど。さすがに全裸でトイレするのは誰にも見られていないにしても物凄く恥ずかしいんですが……。


  そんなどうでもいいことを考えながら俺は眠りに落ちた。

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