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第二話

  さて、どうするべきか。ここでいう陛下とは十中八九、俺の事だろう。しかし俺は相手が何者であるかがわからない。万が一、相手が俺に害をなそうとするものである場合俺は抵抗するだけの力を持ち合わせているのだろうか?……いや、それはないか。これだけ丁寧な言葉遣いだ、(陛下)の臣下のうちの誰かなのであろう。

  そうなるとまた別の問題が発生する。ルーカス=バルトムントに人格があったかどうかは定かではないが、今のルーカスの中にいるのは唯のサラリーマンだ。それが露見した場合、皇帝を騙ったとして不敬罪になってしまうのではないか。いや、大逆罪だったか?それか反逆が起こる可能性もあるか?…まぁどうでもいい。要するに処刑に繋がりかねないということだ。明晰夢であるならば死によって目が覚めるのだろうが、わずかに存在する「転生」という可能性を見過ごすわけにはいかない。その場合俺の人生は首チョンパでジ・エンドだ。それは何とか避けたいところなんだが………


  「陛下、いらっしゃいませんか?」


 不味い。また考え込んでしまった。いずれにせよ今取れる行動は無視か許可を出すかだが、二つに一つだな。無視して仮に追い払えたとして、ずっと一人でここに籠っているわけにもいくまい。いつかは対面する時が来るのだ、であるならば行動は早いほうが良いだろう。しかし皇帝としての言葉遣いとかできないんだが…ええい、もうどうにでもなれ!


  「…入室を許可する」


  「失礼いたします」



  そう言って入ってきたのは、スレンダーラインの白いドレスを身にまとった金髪の美少女。所々に金の刺繍があしらわれており、丈は普通のドレスと比べて短めだ。歳は20歳前後であろうか。初対面の美少女を前に挙動不審になってしまう…ことはなかった。なぜなら、俺は彼女の名前を知っているから。 彼女の名前は…


  「筆頭皇帝補佐官エリーシャ、至急お伝えしたいことがあり、御身の前に参上仕りました」


  

  皇帝筆頭補佐官エリーシャ。彼女は俺がミリオンネーションズにおいて最初に作成した配下NPCで、内政も、戦争も、すべて彼女による手ほどき(チュートリアル)を受けて進めてきた。終盤は特に説明の必要な箇所がないので、指揮(コマンド)を下して俺だけでは手が届かない都市の内政や、場合によっては戦争代行を任せていた。補佐官という役職は一見秘書かメイドか、サポート要員でしかないのだがミリオンネーションズにおいては実質的な国のナンバー2である。



  「ご苦労、エリーシャ。茶でも入れて労いたい所だが、生憎と今はそれどころではないようだな。早速で申し訳ないが、緊急事態とやらの内容を教えてくれ」


  「…っ!?……はい、ご報告させていただきます」


  今の間は何だ?まさかもう俺が以前のルーカスとは別人であることがバレてしまったか?俺が思う皇帝っぽい口調にしたつもりだったんだが、ボロが出てしまったのだろうか…。背中を一筋の冷たい汗が流れるのを感じながらも、動揺していることを気取られないように注意しながら報告の続きを聞いた。



 「龍王国との最終決戦に勝利後、眩い閃光に周囲が包まれ私たち家臣団は意識を失っておりました。気づけば帝城内の会議室にて座しておりまして、ほぼ同時に全員の意識が戻ったようです。帝国内の各都市を統治しておりました執政官たちも同じく帝城内に送還されておりまして、執政官詰所にて待機しております。また帝軍は練兵場に送還されたようで、外征したものも含めすべての将が揃っております。陛下に直接ご創造いただいた者達は全員の無事を確認いたしましたので、人的被害は少ないと言えますが…代官や兵卒はすべて失ってしまいました」


  「ふむ…。エリーシャたちが無事であるならばそれでよい。代官や兵卒はいくらでも替えが効く。それより、報告はそれで終わりか?」


  「いえ、もう一つございます。現在帝城は所在不明の森林の中にあります。『俯瞰把握』によって城周辺を観察しましたが、スキル範囲内である半径2キロは一帯森林が広がっております。そのため、第十軍に周辺5キロの範囲で地理を確認させております。各都市との連絡が取れない状況でして、帝都も帝城以外の建造物が忽然として姿を消しました。かつての帝国は瓦解しているともいえる状況です……」


  「……成る程」


  「これらは全て我等配下の不徳の致すところであります。何卒、我等の命を差し出しますのでお許しいただけないでしょうか……!!」



  そう言ってエリーシャはどこからか取り出した短刀の切っ先を腹に向け切腹の構えをとる。いやいや、勘弁してくれ。今は確実に配下の力が欲しい状況だ。そんな中で集団切腹されてしまっては俺はどうやって生きていけばいいのか。というかまず、ドレスを着た金髪美少女が戦国武将も吃驚の忠誠心によって短刀で切腹しようとしている意味不明な状況が俺の脳に負荷をかけている。さっさとやめてもらわなければ…


  「エリーシャ、折角の命を無駄にするな。私にとって配下達の命が失われることは何よりも耐え難い苦痛だ。確かに今の状況では帝国は瓦解しているし、更に言えば帝城以外の全領土を失ったともいえるだろう。私たちが築き上げてきたものが失われたことは残念だが、お前たちを失うことに比べたら大したことではない。その忠誠心は買うが、今からは私のために生きてくれ」


  「へ、陛下………」


  こんなもので大丈夫だろうか?他人の自殺現場に立ち会ったことはないのでどうやって切腹を止めるかなんてわからないんだが、一応腹に向けていた短刀は仕舞っているし即席スピーチにしては上出来だろう。

  

  さて、エリーシャの報告の内容を整理するか。まずは俺が悩んでいた「明晰夢or転生」問題に関してだが、これは後者の線が濃厚になってきたな。俺以外の配下達が体験したことは俺が現在進行形で体験していることとほぼ同じで、強いて言うなら閃光によって意識を失ったか寝落ちたかの違いがある程度だ。自分でも頭のおかしなことを言っている自覚はあるが、一旦は転生したしたという体で考えをまとめていこう。転生というよりは憑依といったほうが正しいかもしれないがそれは些細な問題だ。


  次に現在バルトムント帝国が置かれている状況だ。ゲーム内では龍王国との決戦に勝利したことによって大陸の覇者となった帝国だが、大陸には直径4キロの森林は()()()()()。なぜなら最低一キロ間隔で人里があるからだ。規模はまちまちだが、森林の中に隠れて発見できないほど小さな集落は存在しない。もしも集落が確認できたならばエリーシャが報告する筈。ならば今帝城が位置するのは全く別の大陸、または異世界といったところか。今はその程度の認識でいいだろう。


  エリーシャの報告に『俯瞰把握』が出てきたということは、この世界でスキルが使えるということ。『俯瞰把握』は最も基本的なスキルの一つで、現在自分がいる位置の周囲半径二キロを上空から俯瞰で見渡すことができる。このスキルはプレイヤーを含め、プレイヤーが直接創造した配下NPCは全員が使うことができる。要するに俺も使える筈なのだが、やり方が分からない。これが物語ならば自分の奥に意識を向けて発動したり、スキル名をつぶやいて発動するのだろうが…。自分の奥に意識を向けようが何も感じないし、スキル名を呟くなんてエリーシャがいる手前恥ずかしい。まぁ一人になったタイミングで確認するか。

  

  一番良いのはエリーシャにスキルの使い方を聞くことなんだろうが、大陸の覇者ともあろうものがそんな基礎的なことすらできないと知られたら……。あれほど厚い忠誠心の持ち主だ、失望された後先ほどの短剣で俺の腹を切り裂いてもおかしくない。そんなこと、考えただけでゾッとする。震えなかっただけ俺のメンタルは強いといえよう。


  スキル以外にも確認すべきことは山積みだ。倉庫や宝物殿は中身が失われていないだろうか?探索に出ている第十軍は全員無事か?城内の設備はそのまま受け継がれているのか?ご飯は?風呂は?着替える服は?言語は?…というかそもそも、今何時だ?メニューが開ければ時間も確認できるのに…。

  仕方ない、エリーシャに諸々確認するか。そう思ってエリーシャを見た俺の目に入ってきたのは……咽び泣いているエリーシャの姿だった。




  ……なんで泣いてるの、この子?

ご覧いただきありがとうございます。感想や評価、誤字脱字報告等お待ちしております。

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