第十二話 冒険者
いつもありがとうございます!
戦闘描写が少なくて申し訳ないです…。次回以降からだんだん増えていく(予定)なのでもう少しだけお付き合いくださいませ。
赤い屋根の大きな建物、もとい冒険者ギルドには多くの人々が出入りしている。その多くを占めるのは勿論武装した者達だが、全く武装していない(戦闘能力があるとは思えない)者達もちらほら見受けられる。
はてさて、冒険者ギルドに入る前に一つ確認しておかないと…。
「ワーグナー、建物の中に我々の脅威になり得る者はいるか?」
「いーや、いねェな。一番強そうなやつでレベル30ってところだ。レベル20代後半が何人かいるが、それ以外はレベル10程度のザコばっかだぜ」
「そうか。ならば特に問題はない。このまま冒険者ギルドで正式な身分証を発行するとしよう。」
ここでレベル90を超えてくる奴らがゴロゴロいるようなら一旦立て直すところだが、そんなことはなかったようだ。それにしても一番強くてレベル30か…ミリオンネーションズなら序盤によく出てくる拠点って感じだな。今の俺達からすれば楽勝な相手だが、序盤のプレイヤーにとってレベル30になるのは一つ目の大きな壁だ。この世界の戦闘水準を今の時点で判断するつもりはないが、それでもレベル30ならなかなかの使い手だろうな。
木製の大扉を押して中に入るとそこには…
「こいつぁ俺達のだ!」
「てめぇ、その依頼よこせ!」
「新規討伐依頼です!条件は四級冒険者以上!」
「回収した素材は奥の解体場までお願いしまーす!」
これぞ冒険者ギルド。カウンターには多くの受付嬢が。そして依頼板には大量の以来とそれに群がる冒険者たち、新しい依頼を貼っていくギルド職員。冒険者のイメージ通り、熱気で満ち溢れているな。
二階もあるようだがあっちはあまり賑わっていないようだ。とりあえず冒険者登録は…カウンターか?受付嬢に聞いてみるとしよう。カウンターを見ると丁度1人空いている受付嬢がいた。
「こんにちは。本日受ける依頼はどちらになりますか?」
黒い長髪を首元あたりで一つ結びにした、眼鏡をかけている真面目そうな受付嬢が対応してくれるようだ。
「すまない、依頼ではなくてね。冒険者登録をしてギルドカードを発行してもらいたいのだが、ここでできるかな?」
「ということは冒険者ギルドにいらっしゃるのは初めてですか?」
「あぁ。遠くから旅をしてきていてな、街に入るときに正式な身分証は冒険者ギルドで発行できると聞いたんだが?」
「なるほど…。冒険者登録は皆様ご一緒でお間違いないですか?」
「全員分頼む。」
「畏まりました。それでは皆様、仮入国証をいただいてもよろしいですか?」
「わかった。皆、入国証を出してくれ」
受付嬢の言うとおりに全員が先程受け取った仮入国証を手渡す。
「――――はい、ありがとうございます。それでは皆様、こちらに血を一滴たらしていただけますか?」
そう言って受付嬢がカウンターの上に置いたのはこぶし大の水晶玉。受付嬢から短剣を受け取り、それで指先を切る…前に。俺はこの場にいる配下達に指揮を飛ばす。
『お前たち、指を切る前にパッシブスキルの《特級物理無効》を切っておけ。そうしないと血を垂らすことができないからな。』
『『ハッ』』
パッシブスキル《特級物理無効》はレベル60以下の物理攻撃の一切を無効化する。と言ってもわかりづらいのだが、要するに《特級物理無効》を突破するためには【レベル61以上の個体がレベル61以上の武器によって攻撃すること】が必要になる。つまりは受付嬢に渡された短剣を俺たちが扱ったとしても、武器そのもののレベルが足りていないため俺たちにダメージを与えることができない。
準備を整えたところで水晶玉に血を垂らす。すると、白い光が俺たちを包み…いや、眩しすぎない?こんなに光るもんなの?真っ白で何も見えな――――
光が収まった頃にはあれほどにぎやかだったギルドは静まり返っていて。ギルド内にいる全員が俺たちに注目していた。そんな中、水晶の土台(石板)から出てきたカードを手に取って受付嬢が口を開き…
「ええ…と、こちらがギルドカードになります。ルーカス=バルトムントさん、職業は…不明?魔力量は―――0…?レベルも不明…。なに、これ…こんなの見たことが―――ゴホン、失礼しました。こちらのギルドカードは正式な身分証になりますので、失くさないように気を付けてくださいね。」
「あぁ、ありがとう。それじゃあ残りの奴らの分も頼む。」
そういうわけで残った配下達もギルドカードを発行したのだが皆名前以外は俺と同じ。みるみる受付嬢の顔が青ざめていったのは気のせいじゃないだろう。皆がギルドカードの発行を完了したところで受付嬢が疲れ果てた様子で冒険者ギルドの説明をしてくれた。
「皆様はこれから先、冒険者として活動していただくことになります。とはいっても特にノルマなどはないのですが。冒険者は実力に応じて五級、四級、三級、二級、一級、特級と、等級が分かれており、あちらにあるクエストボードからご自身の等級に応じた依頼を受けていただきます。当然等級が上がるほど報酬と難易度は高くなりますし、更にギルドから様々な恩恵を受けることができます」
「恩恵とは?」
「浴場や食堂など、ギルドに属する施設での割引や、鍛冶工房への紹介、拠点の斡旋等ですね。」
「なるほどな。それで、俺たちは何級になるんだ?」
「一番最初ですので、五級からのスタートになります。」
「ふむ。どうやって等級を上げるんだ?」
「こなした依頼の数や内容をギルドが総合的に判断します。それと、これはあまりおすすめしない方法ですが…」
「うん?」
「場外でのフリーハントで持ち込んだモンスターの強さに応じて戦闘力を判断することもあります。しかし功を焦ったビギナーが実力以上のモンスターに挑み、返り討ちにされるケースが相次いでいますので…。完全に自己責任、という形にはなります」
「ビギナーあるあるだな。等級を上げる方法はそのくらいか?」
「最後にもう一つ、地下迷宮への挑戦です。踏破した階層に応じて順次等級を上げていきます。地下迷宮についてはご存じですか?」
「詳しくは知らないから教えてくれると助かる。」
地下迷宮。ミリオンネーションズにもあった要素だ。モンスターが跳梁跋扈する階層を一つづつ、地道に攻略していく。そこで手に入るモンスター素材や階層ごとのボス討伐報酬は種類豊かで、強くなりたいプレイヤーからは人気なコンテンツだった。素材・装備品集めで使うプレイヤーもいれば、レベリングや金策のために 地下迷宮に潜るプレイヤーもいた。そのダンジョンと同じならば…。
「畏まりました。地下迷宮というのは…」
受付嬢の説明を聞く限り、おそらく俺の知っている地下迷宮と同じだろうな。世界各地に点在しており、誰が造ったものなのかは全くわからない。アリリオ辺境伯領の近くにもダンジョンはあるようで、多くの冒険者が挑戦しているみたいだ。この世界で地下迷宮に赴く際は、冒険者ギルドに前もって申請する必要があるらしい。なんでも、行方不明者や死者を管理するためだとか。
「―――以上が地下迷宮に関する基本的な説明になります。」
「一つ聞いていいか?」
「はい、私が知る範囲内でしたらお答えいたします。」
「今、地下迷宮は何階層まで攻略されている?」
「辺境伯領に最も近いものですと39階層です。王国内でしたら迷宮都市ラベリントにあるもので71階層までの攻略が記録されています。」
「なるほど。地下迷宮というのは何階層まであるんだ?」
「それは…わかりません。近隣諸国で地下迷宮を完全に踏破したものはいないと聞きます。伝承では100階層までだと言われていますが――眉唾ですね。」
「伝承?」
「御伽噺のようなものですよ。その昔、勇者一行が100階層にて待ち構えていた魔王を倒したことによって地下迷宮を攻略したと伝えられています。ですがその話は今から500年以上昔の話で、本当かどうかを知る者は今この世に残っていません。」
「ほう、それは興味深い伝承だな。」
俺はその伝承が真実であることを知っている。ミリオンネーションズにおいても地下迷宮は100階層まで存在した。100階層にいるのは魔王、龍種、悪魔、天使、聖霊など様々であったが。だがしかし、今の世界で100階層まで攻略できていないことには納得できる。なぜなら地下迷宮に出現するモンスターのレベルは、そのまま階層を指し示すからだ。つまりは階層とほぼ同じレベル帯のモンスターが出現する。先に進めば進むほど当然敵は手強くなっていく。この世界の地下迷宮とミリオンネーションズの地下迷宮を同じものだとするならば、受付嬢の話を聞く限りこの世界にはほぼ間違いなくレベル71以上の者が存在することになる。周囲のレベルが低いからと言って侮っていてはいけないようだな。
「他に質問はありますか?」
「いや、大丈夫だ。長々と悪かったな。」
「いえいえ。ところで本日はこの後どうなさいますか?」
「そうだな…。話を聞いて地下迷宮に興味が湧いたのでな、せっかくなら行ってみたいのだが。」
「い、いきなりですか!?…地下迷宮は危険な場所です。きちんとしたパーティー編成で行かないと、初心者の方々は特に怪我を負うリスクが高まります。先ほどギルドカードを発行した際に確認しましたが、皆様の中にはその…魔力をお持ちの方がいないようですので…。」
「治癒職や支援職、魔術師が足りていない、と。」
「そうです。クエストボードには依頼書の他にもパーティー募集が貼り出されていたりするので、そちらを活用されるのはいかがでしょうか?」
「心配には及ばない。実はその辺は間に合ってい―――」
「おい、聞いただろヒヨッコ。戦いてえんなら小鬼退治でもしてるんだな!」
俺と受付嬢の会話に割って入ってきたのは短髪の大柄なオッサン。
あぁ、見事にお約束通り絡まれてしまうとは…。
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