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第4話 魔法

「大人連中が無視で話をとどめていた理由は想像がつく。

 恐らく連中は、アルトマイヤーの命令に背けないものの、良心の咎めがあったからだろう。

 対して、直接的に手を出してきたのは、アルトマイヤーに唆された悪童たちだ。

 奴らは俺をターゲットに据え、無視すれば石を投げ、歯向かえば袋叩きと、やりたい放題だったのさ。」


「それは……許せないね……。」


 ミナトの顔がさぁっと青褪め、目が座ってきた。

 彼女の怒りが臨界を超えてしまったのだろう。


 レオンハルトはそんな彼女を横目で確認したが、全く顔色を変えず話を続けた。


「そうだな。

 いくら子供の喧嘩でも守るべき限界というものがある。

 だが連中ときたら、そんなことを望める知能すら持ち合わせていなかった程だからな。

 だからこっちもルールを破って連中を黙らせた。」


「ルール破りって?」


 ミナトが眉を顰めたままレオンハルトに尋ねる。

 レオンハルトは、静かに、そして短く答えた。


「魔法さ。」


「いや、待ってくれ。

 魔法を使ったと言うが、一体それは何歳ごろの話なんだ?」


 ギルベルトが驚愕したような声をレオンハルトに向ける。

 レオンハルトはその問いに、冷静なまま答えた。


「忘れもしない。六歳の時だ。

 未完成の『衝撃』の魔法で、殴り掛かってきた連中を吹き飛ばしたのさ。」


「六歳だと!?

 エネルギー汲み出し先である超高次元空間についての数理的な理解は、最低でも八歳から十歳にならなければ困難だったはずだ。

 それに脳内の魔法を使うために必要な神経回路の発達も、同じぐらいの年齢からだったはず……。」


 驚愕の声音のまま、誰に言うでもなくギルベルトがつぶやいた。

 レオンハルトはさらに言葉を続ける。


「ところがそれができたんだよ。

 恐らく血統の問題だ。」


「どういうことかね?」


「魔導士としての高い適性を持った貴方の血がある。

 あと、これは推測なのだが、母さんも同様に魔法への適性が高かったんだろう。

 母さんの家系であるフォーゲルの家は知識人が多い。

 この話を聞けば、決して無視できない要因だと思うがね。」


 ギルベルトの瞳の光がまた消えた。

 入れ替わりでミナトが口を挟む。


「でも……ケンカに魔法を使うなんて……。」


「そうだな。母さんにも同じように怒られた。

 だが、この件については俺も頑として譲るつもりはなかった。

 連中と同じ所まで落ちる必要はない、と母さんは言っていたが、あの連中はこちらが高い所から見下していたとしても、見下されていると気付けない程の間抜けばかりだ。

 だから、こっちが上に立っているんだとはっきり理解させるためにも、力を奮うことは必要なんだ、とそう考えていたからね。

 それにさっき君も言ってただろう?

 ルールやタブーを無視していたのは向こうが先だ。

 その点もあるから、こっちが魔法を使ってもいいはずだと考えたんだ。」


 ミナトは押し黙って瞳を逸らした。

 幼いゆえに歯止めが効かない暴力。

 それを跳ね除け、更に先への予防を考えた、より強い暴力。

 果たしてレオンハルトの考えは正しかったのか?

 それともやはり母親が正しかったのか?

 ミナトは目を閉じて、さらに考え続ける。


 そこにギルベルトが口を挟んできた。


「しかし、未完成とはいえ、その年齢でどうやって魔法を習得したんだ?

 どんな魔導書を使って魔法を学んだんだ?」


 レオンハルトは苦笑し、ギルベルトに答える。


「いや? 魔法使いならだれもが読む『魔導入門』だよ。

 これを町の古書店で格安に売られていたのを母さんが見つけてくれたんだ。

 落書きばかりで、古書としての価値はないと捨て値で譲ってくれたらしい。」


 ギルベルトが書棚の前で横滑りにすすっ……と動いていく。

 魔導理論の棚の前で目的の本が見つかったようだ。


「懐かしいな。私もこの本は徹底的に読み返したものだ。

 いつの間にか失くしてしまったが、どこへ行ったのやら……。」


 ギルベルトが静かに、そして心底懐かしそうに言葉を発した。

 その背中へとレオンハルトが微笑みながら話しかける。


「ただ、古書店の主人はこの落書きの価値が解っていなかったようでね。

 学び始めの俺にとっては、その落書きの全てが値千金のアドバイスになってくれた。

 元の持ち主は今となっては解らないが、裏表紙の内側にその人間のイニシャルが書かれている。見てみるといい。」


 レオンハルトの含みがある微笑みがギルベルトに向けられている。

 機械の彼は作業用の細いアームで書棚から本を取り出した。

 そのまま言われた通りに裏表紙をめくる。


 そこには、彼が決して忘れえるはずのない筆跡で、『G.K.』のイニシャルが書かれていた。


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