第1話 昼食
「思ったより時間がかかったな……。」
鍋を温めなおしているミナトの後ろでレオンハルトがつぶやいた。
辺りには昨夜食べたスパイスシチューの香りが漂っている。
「もうお昼回っちゃってるもんね。
でもこれでようやく学術院でしょ?
ここで折り返しってとこなのかな?」
レオンハルトは食卓の籠に並べられているサンドイッチに手を伸ばし、一切れを摘まみ上げた。
「まあ、そんなところだな。
しかし、この料理……名前がないと不便だな。」
「あたしは『ディッシュパン』って呼んでるよ。
古い言葉で『ご馳走』って意味だっておじいちゃんに聞いた記憶があるんだ。」
「『ご馳走パン』か……いや、悪くないな。
挟む食べ物で何もかもが変わるというのは、確かにご馳走かもしれん。」
しばらくして、先のスパイスの香りが一気に強くなった。
鍋が十分温まったとみたミナトが、蓋を開けて味見をしたからだ。
「うん。バッチリ! 昨日より美味しくなってるよ。
さ、どうぞ。」
シチューが皿に盛りつけられ、レオンハルトの前に差し出された。
レオンハルトは笑顔を見せて、木製のスプーンを手に取った。
満足げに食べるレオンハルトを見たミナトも、同じくシチューとサンドイッチで食事を始める。
レオンハルトが皿を空にした辺りでミナトに話しかけてきた。
「ミーナ……午後から自分が学術院で経験したことを話すんだが、どうしても避けて通れない事件がある。」
ミナトは哀しげな視線をレオンハルトに送りつつ、ボソリとつぶやいた。
「ツェッペンドルン……。」
「そうだ。
これを外して俺の人生を語るのは不可能だからな。
少し辛い部分になるだろうが、堪えて欲しい……。」
レオンハルトはそれだけ言うと口を閉じ、瞑想するかのように瞳を閉じた。
ツェッペンドルンの惨劇を思い出し、その犠牲者たちを悼むために。