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第4話 魔獣退治

 暫しの間、気まずい沈黙が場に流れた。

 誰もが言葉を発するタイミングを見計らっている。


 そんな沈黙を破ったのはギルベルトの声だった。


「で、ユリウスはどんな修行を君に課したのかね?

 友人が我が息子に対し、どのような目に合わせたかを聞いておきたい。」


 ギルベルトの取り繕ったかのような言葉に、どこか呆れたような表情を見せつつ、レオンハルトは再びゆっくりと語り始めた。


「先にも言った通り、先生の修業は厳しいものだった。

 だが、その修行の成果が目に見えて出てくれば、厳しさも苦ではなくなる。

 このケースが正にそうだった。

 先生が俺を評して曰く、『砂地が水を吸い込むが如く』に知識を吸収し、そのまま実践に織り込んできたのは驚異的だとしか言い様がなかったそうだ。」


 ギルベルトの首がレオンハルトに向いている。

 彼の横顔を見ているのだろう。

 かつてのレオンハルトの肉体。

 これを本格的に修復し、もう一度彼に返せばどのような奇跡が起きるのか。

 そんな埒もないことを、ふと、ギルベルトは考えた。


「厳しいというと……そうだな。

 この事は話さなければならん……。」


 レオンハルトが天井を見上げて昔を思い出す。


「あれは……そう、十歳になるかならないかの頃だったな。

 先生の元に、魔獣討伐の依頼がきたんだ。

 魔獣は『紅獅子』。

 炎を吐き、結晶化した魔力の鬣を持つ、危険度としてはかなりの怪物だった。」


 レオンハルトがカップに紅茶を注ごうとポットへ手を伸ばすと、ミナトが慌てて手を出してきた。

 そのまま静かに紅茶をカップへと注ぐ。

 一瞬、レオンハルトとミナトの視線が交わった。

 レオンハルトはミナトの瞳の中に言葉にできないような哀しみと謝意を感じ取り、そっと手を重ねてミナトへと微笑んだ。

 その微笑みを見たミナトは、安堵したようにひと息をつくと、少し寂しげな微笑みを返してきた。


 レオンハルトは紅茶を啜って、また語り始める。


「『紅獅子』の対処自体は決して難しくはない。

 炎を防ぎ、強力な攻撃で全身に大きなダメージを与える。

 ただし、ここで注意するべきは『全身に』と言う点だ。

 こいつの回復力は魔獣たちの中でもかなり高い。

 回復が間に合わない程の飽和攻撃を浴びせなければ、傷口が次々と塞がっていき、千日手に陥りかねない。

 だとすれば、魔法の出番だ。

 全身へ一斉に攻撃が襲い掛かるような魔法はごまんと存在するわけだからな。」


 レオンハルトはもう一度紅茶を啜り、唇を湿らせる。

 その後、少し間をおいて、改めて口を開いた。


「そんな相手を目の当たりにした俺に向け、先生は『では、やってみろ。』と一言いって、全てこちらに任せてきた。

 俺は恐怖した。

 当然だろ? なにせ、軍の一部隊が一斉にかかっても無傷じゃ終わらない魔獣を、一人で何とかしろと先生は言っている。

 震えたよ。怯えたよ。

 今まで俺が魔法を奮う相手として想定していたのは人間ぐらいなものだ。

 目の前にいるような魔獣なんてものは、話に聞く程度、いわば御伽噺の中の存在にすぎなかったからな。」


 レオンハルトは瞳を閉じ、その時の恐怖を思い出しているかのようだった。

 ギルベルトもミナトも、そのまま押し黙ってレオンハルトの言葉を待っている。


「先生は俺の後ろからこう言ってきた。

『この怪物を放っておけば、お前以上に悲惨な思いをする人間が増えるだろう。

 目の前で親を引き裂かれる子、子を食い殺される親、そんな人間が次々と生み出されるのは間違いない。

 お前の力は何のためにある?

 ただ人を踏みにじり、優越に浸るだけのつもりならここから逃げるがいい。

 その程度には力もついているはずだ。』と。

 厳しい口調だった。

 先生の言う通り、逃げようかとも思った。

 だがここで逃げたら、きっと俺は何もかもが駄目になる。そんな直感もあった。

 それに先生の言った『悲惨な人々』たちの言葉も、俺の心に襲い掛かってきた。

『放ってはおけない!!』

 その使命感が俺の恐怖を吹き飛ばし、足を一歩前へ踏み出させた。

 それを見た魔獣は咆哮を上げて、俺を睨みつけた。

 急いで、だが慌てずに『防壁』の魔法をかけ、直後に噴き出された炎を防いだ。

 この成功で俺の魔法が通じると実感し、一気に心が軽くなったな。

 集中の度合いを一段上げて、その時に放つ事の出来た最大級の魔法『轟雷』を練り上げ、俺は無言で目の前の紅い怪物へと叩き落した……。」


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