はりぼて
「あ、あった」
と彼女はいった
彼女の名前はミキ
30だ
バツイチでシングルマザーだった時に僕と出会い
結婚した
その彼女が今
前の夫との結婚指輪をテレビ台の下から見つけた
彼女は続けた
「これ高かったんだよね〜!あなたとの時より高かったよ!」
と
僕は満たされた
なんだか幸福を感じた
僕を縛りつけていたのは
彼女の幸福感への心配であり
もちろん僕の幸福感と後悔への懸念だった
でもそれはむしろ
はりぼてだった
その時けたたましい音が鳴った
子供がいたずらをしたらしい
どうやらおもちゃ箱にしている箱をひっくり返したようだった
僕の妻は母になった
また再会を信じたい
あのさわやかな幸福感と安心との