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23世紀VHS  作者: 其ノ日暮し
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記憶

 このご時世に紙ですか。


 ため息混じりの発言に先輩は軽く返した。

当たり前よ。大事な情報は紙以外で扱ってはいけない規則だもの。たとえそれがどんなに小さい事でもね。光量の不足した部屋には質の悪い紙が散乱している。私たちは23世紀に生まれ、20世紀と変わらない日々を過ごしている。


 目を見張るほどの驚異的な速度で発展を遂げた学習型AIは、人類の想像を超え新たなる時代の幕開けであった。しかし今人類は200年ほど前と何一つ変わらない生活を強いられている。


 ほんの数十年前までは家から欲しいものが手に入ったらしい。私が生まれた時にはすでに世界は荒廃していたけれど。なんでも機械に頼りすぎていたらしい。機械の暴動と共に人類の文明は崩壊、大打撃を受け今に至る。かつて栄えた街はコンクリートの山となり、私たちは名前も知らない山に囲まれたこの街で生まれ育った。


 「電波を用いるものは彼らにバレてしまうからね。こうやって大事なものは紙に書いて保存しなくてはいけないんだ。」


 先生はそう言いながら束になった書類に目を通していた。


 「そうだ。スカラ君、サバナに進路希望書を出すように伝えておいてくれないかい?あいつ、まだ一度も出していないんだ。彼にはスカラ君を見習って貰いたいね。スカラならきっと教室に居るはずだよ。よろしくね。」


 そう笑いながら先生は一度も私を見ることはなかった。


 机が2つしかない教室で一人、サバナは名前も知らない植物に水をあげていた。


 おう。先生はなんだって?

 分かりきった事を嬉しそうに彼は聞く。


 進路希望書を出せってさ。なんで出さないのよ。適当にでも書いとけばいいじゃない。


 なりたいものなんて嘘でも思いつかなかっただけだよ。12歳の俺に聞かれてもって感じでさ。スカラこそ、なんて書いたんだよ。


 私は...私はもっと勉強したいって書いたよ。考古学とか工学とか、教えてもらえない事も知りたいから。


 工学って、ほとんど犯罪者じゃん。まぁいいんじゃね?決まってない俺よりさ。


 そう私を見ながら笑う彼はこの時から変わっていなかったのだろう。


 そうだ。卒業式の後、俺と二人でこの街をでよう。そうすればスカラのやりたい事も出来るだろ?俺も知りたい。文明を崩壊させ、人類史を白紙にした歴史を。

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