柔らかくなった柿
ある種の食わず嫌いでした。
八百屋さんやスーパーに今時期に並ぶ柿。
実はこれまで、進んで食べていなかった。
決してキライというわけでは無く、子供の頃は父が好きでよく食べていたが、自分が買って食べるとなると皮が厚くてリンゴや梨に比べると包丁の滑りが悪く感じられてちょっと敬遠していた。
ようは面倒くさいとおもっていたのだ。
それに果物としては硬く食べ辛さも感じていた部分と、もう一つ言うと父はしばらく置いて柔らかくなった柿を好んでいたが、どうも自分はそれが腐っているように思えていた。
そのような、ちょっとちょっとの不満というかネガティブな考えからあまり食べていなかったのだが、今年は親戚から幾つかの柿を頂いた。
正直、右手が麻痺しているので皮を剥くのが面倒だなぁと思いはしたが、何とかピラーでも剥けるだろうと思い受け取ったのだが、結局はほとんど皮ごとかぶり付く事になった。
多少口に触る感じはするが食べれないことは無いし、皮に栄養素が多く含まれているとの事らしいので美味しく頂いていた。
その中でふと、父が好きだった柔らかく熟した柿も試そうと思い、一個だけ残しておいていたのだがそれを先ほど食べてみた。
形はそれほど崩れていない、表面に多少の小さな皺があり色はくすんでいる。
ところどころ白いカビみたいなものも見受けられるが、なんか前に食っても大丈夫と言うのを見聞きした事があるので軽く洗って皿の上に置きスプーンを用意する。
正直、特別美味しそうだなとは思えなかった。
スプーンで柿の柔らかくなった皮を切り中身をすくう。
まるでゼリーのようになった果肉は、やっぱちょっと腐ってないか? と思ってしまうところもあったが、気にしない事にしてそのまま口に含む。
……非常に上品な甘み。
某陶芸家のオヤジと食にうるさい新聞記者のやり取りを思い出してしまう。
スルリというかチュルリというか、柿は瞬く間になくなってしまった。
私は少し味覚障害があるのだが、この柿の甘みは障害を起こす前に堪能しておけばよかったと、ちと後悔してしまう。
後で知ったのだけど、白いカビみたいなものは糖質が結晶化したものらしいですね。
軽く払うだけにしときゃよかった。
けど、甘味でおいしいと思える事が久しぶりだったので嬉しさの方が大きい、自然に手を立ててしまう。
ご馳走様、美味しかったです。
手を合わせることは出来ないことは無いけどねー。
だいたい右手はブランとしている。
だから左手だけでご馳走様。
今度、渋柿に挑戦しようかな?