宇宙意識ゾーン
仁は宇宙で遭遇したもの、それを宇宙意識ゾーンと名付けた。
そして自分自身に起こった変化を色々試していた。
アストラルボディになる為に。
仁は遥か虚空、宇宙空間で途方もないものと遭遇した。
そしてそれは仁に問いかけた。『お前は何だ』と。
しかしその声は余りにも大きく激しく仁の精神を粉砕してしまいそうだった。
『悪かったな。お前のレベルに落とすのに苦労したぞ。これで聞こえるか』
『はい、聞こえます。俺は仁、神谷仁と言います。地球の人間です』
『地球?ああ、向こうに見える青く光る惑星の事か』
『はい、あそこに住む人類です』
『そう言えば無数の生命活動が感じられるな。その中の一体と言う事か』
『はい、あそこには人類も動物も昆虫も草木も多くの生命体が生きてます』
『なら、お前は何だ。物理的な生命体ではない様だが』
『今の俺はアストラルボディです。肉体から離れた精神体なんです』
『ほう、あんな下等な生命体にそんな事が出来るとは面白いな』
『あ、貴方は一体誰なんですか、いえ、何者なんですか』
『我か、我に名はない。存在があるだけだ』
『では神様なんですか』
『神様?何だそれは。聞いた事のない存在だが』
『我々の天地創造主と言われている方です』
『あの惑星のか』
『はい』
『そんな意識はあそこからは感じられぬがな』
『そ、そうなんですか』
『しかしお前のその存在では直ぐに拡散してしまうぞ。力が弱過ぎる』
『ええっ、では俺は消滅してしまうと言うのですか』
『そう言う事だ。我はもう直ぐこの惑星群を離れる。その前にお前に生命力をやろう。好きなだけ受け取るがいい。だが吸い取り過ぎると逆に生命が暴発するぞ。気を付けて吸い取る事だ』
そう言ってその存在は遠のいて行った。しかしそこに拡散された膨大なエネルギーは仁の周りに散りばめられていた。
仁はそれを吸収しようとした。
仁は精神体だ。無機物の生命エネルギーなら吸収出来るだろうと吸い取り始めた。
そのエネルギーはやがて仁を満たした。しかしこれだけではまだ足りない。
仁はそう思ったがもう一杯だ。これ以上吸収すると本当に自分が爆発して消滅してしまいそうだった。
これ以上は本当に無理なんだろうかと仁は思った。
この入れ物でだめなら別の入れ物ではどうだ。
自分の精神の中にもう一つの精神空間を作ったら。つまり一種の亜空間の様な物だ。
それを仁はファンタジー小説などで読んで知っていた。実際そんな事が出来るとは思ていなかったがやってみる価値はある。
それは精神と気の融合体の世界だ。今まで培った気のエネルギーと精神のエネルギーを撚り合わせて一つの空間を意識した。
そしてその中に周囲の生命エネルギーを注ぎ込んだのだ。すると吸収出来た。
仁自身にもどれだけ入るのか、どれだけ詰め込めるのか全く分からなかったが出来る限りやってみた。
そしてこれ以上やると自分の意識が飛んでしまうと言う所で止めた。
どれだけ吸収出来たのかはわからないが少なくとも表面上で吸収した分よりは多いだろう。
それでもあの存在からしたら仁などアメーバや微生物の様な物だ。
どれだけ生命エネルギーを吸おうが、向こうには微々たる影響もない事だけは確信出来た。
あれは一体何だったんだろう。仁はあの存在を『宇宙意識ゾーン』と名付けた。
そして自分が拡散しない前に自分の部屋に戻った。
さて自分の肉体に戻ろうとしたが入れない。どうしてだ。何度やっても入れなかった。
しかしこのままではどうなる。精神のない肉体など死体と変わらない。
つまり仁は本当の死人として処分されてしまうと言う事になる。
仁は焦った。早く朝になる前に、ワイフが目を覚ます前に自分の体に戻らないと飛んでもない事になる。
何故戻れないのか。それは多分今の自分の生命エネルギーが高過ぎるからではないかと思った。
肉体と同レベルに持って行かないといけないのだきっと。仁は意識レベルを落として行った。
そして最低限まで下げてやっと自分の肉体に戻る事が出来た。
そうか、これがあのゾーンがしていた事なのかと理解した。勿論レベルは違うが。
ともかく自分の肉体に戻れて安心した仁はもうひと眠りした。
翌日から新たな実験が始まった。今度は今の肉体がどう変化したのか調べる事だ。
表面上は特に変わった事はなかった。いつもの老人の肉体だ。少し表面に張りが出て来たかなと言う程度の変化でしかなかった。
どうすれば自分が吸収した生命エネルギーを具象化出来るのかそれを考えていた。
このアストラルボディはあくまで精神の入れ物でしかない。力の根源はまた別の所にある。
しかしあのゾーンはそれは教えてはくれなかった。自分で見つけろと言う事か。
入れ物でない稼働エネルギー。それって気に似てないか。気は体の中を巡るもの。それに生命エネルギーを乗せて使ったらどうなる。
普通なら枯渇して死んでしまうだろう。しかし今の仁になら十分なエネルギーがあるはずだ。やってみるか。
仁は七つのチャクラを総動員して、そこに生命エネルギーを乗せて体内を巡らせた。
するとどうだ、体が熱くなって来た。そして筋肉に表皮に張りと活力が湧いてくるようだった。
自分の顔を鏡で見て驚いた。10歳ほど若く見える。いや、顔だけではない。弛んでいた筋肉さえ張りが出て来ている。
その状態で仁が習得した武術の型をやってみた。物凄い切れだ。動きの機敏さが尋常ではなった。
二十歳の時でさえこれだけの動きは出来なかったと思った。
そうか気を発動すると肉体が活性化するのか。それがどれ程活性化するのかは試してみなければわからない。
しかしこれは肉体での話だ。俺はこんな肉体の活性化を目指した訳ではない。肉体はいくら鍛えた所でいずれ死ぬ。
俺の目的はあくまでアストラルボディだ。アストラルボディの日常化、それが俺の最終目標だ。
そして仁は再びアストラルボディを求めて夜な夜な肉体を抜け出した。
今ではスムーズに精神の出し入れが出来るようになっていた。
今度はそのアストラルボディ自体のトレーニングだ。今のエネルギー量からすると長時間体外にいても拡散してしまうと言う事はなかった。
ただアストラルボディはアストラルボディだ。これを認識出来るのは自分だけだ。
他人にはこの精神体は見えないし触る事も出来ない。霊魂の様な物と言えばいいか。
そこで仁は肉体時にやったのと同じようにアストラルボディに気を巡らせてみた。
すると微かな煌めきと共にアストラルボディが具象化した。いや、具象化とまではいかないが視認出来た。
鏡に自分の姿を見る事が出来たのだ。ただし物理的実体がないのでまだ触る事は出来ない。
仁はこの実験を更に何度も何度も繰り返した。
そしてようやく気の強度、生命エネルギーの強度と言う物をコントロールする技術を身に付けて行った。
どうやらそれは3段階に分けられる様だ。
レベル1では精神体だけの世界だ。
レベル2で視認体になる。
レベル3で物理的具象化する事がわかった。
つまりレベル3に持っていけば普通の人間として生活しても誰も気が付かないと言う事だ。勿論人と触れ合う事も出来る。
そしてレベル4、これはアストラルボディ自体の強化だ。このレベルで気を使う事が出来る。
物理的強度も人間の3倍と言う所だろう。
本来の自分の肉体を使っても、これ位までは持っていけると思ったがそれは本来の目的ではない。
それに所詮肉体は肉体だ。いずれは滅びる。つまり死ぬと言う事だ。
仁が求めたのは永遠の生命、不死の生命体だ。それにはこのアストラルボディが最適だと考えていた。
そして今その夢が叶おうとしている。なら肉体など惜しくはないと考えていた。
『そろそろ死ぬか』
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