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アストラルボディ  作者: 薔薇クーダ
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アストラルボディ

神谷仁は毎晩の様に精神を自分の肉体から切り離す実験を繰り返していた。

そしてある日、とうとう空中に浮かぶ自分の意識を自覚した。

 見渡す限り広大な海だった。いや海と言う表現は適切ではないがジンにはそう見えた。そこは果てしない宇宙空間だった。


 そして真下に見える青く光る惑星が地球なんだろう。果たして宇宙に上下と言う感覚があればだが。


 いつか何処かの宇宙飛行士が地球は青かったと言ったが確かにその通りだと思った。


 そんな宇宙空間で俺は一体何をしているんだ。そうか、俺は死んだのか。いや、違う。死んではいないはずだ。


 俺は確か・・・そうだ、体を抜け出したんだ。肉体を置いて精神だけが肉体を離れた。


 これって死んだと言うんじゃないのか。俺は幽霊になったのか。しかし可笑しいな、三途の川は渡らなかったはずだが。


 そもそも三途の川なんて本当にあるのか。それは人の作った御伽噺だろう。


 じゃーここは何だ、地獄か天国か。それにしては綺麗過ぎるだろう。それにこの広大さはなんだ。果てなんてないぞ。


 しかも何で地球がここにあるんだ。あれは地獄の惑星なのか、それとも天国の惑星か。いや、どう見てもあれは俺の知ってる地球だろう。


 じゃーここは現実の宇宙空間なのか?


 そんなとこで俺は一体何をしてる。


 仁は今まで自分がしていた事を思い出していた。


 それは幽体離脱の実験だった。別名アストラルボディとも言う。


 肉体から離れた精神がそれ自体で生存出来るのかどかと言う実験だ。


 いや、実験などと言う大げさなものではなかった。ただ本で読んだアストラルボディと言う物が本当に出来ないだろうかと興味本位で始めた実験だった。


 寝ている時に精神を肉体から切り離す。それのみに精神を集中して毎晩の様にやっていた。


 心の中ではこんな夢物語の様な事出来るはずがないと思いつつも、やれるところまでやってやろうと言う気持ちがあった。


 意識を頭に持って行って自分の中で魂の様な物を意識する。そう火の玉でもいい。


 それを体から上に向かって飛ばすのだ。


 そして毎晩やっていた。すると時々意識がふーと遠のく時があった。


 集中し過ぎて精神が疲れてしまったのかと思っていた。


 そう言う事が何度かあって、今度はふわっとした感じになった。


 何だこれは可笑しな感じだなと思っていた。


 そしてある日、自分を見ている自分がいた。夢か。


 とうとうやり過ぎて夢でまで見るようになってしまったか。そろそろ止め時かな。


 しかしこの夢よく出来てる。俺の目覚まし時計の時間まではっきりと見える。


 午前4時15分、えーっと、9月29日。それって今日だよな。


 夢ってそこまで細かく見えるものなのか。初めてだな。まぁいい、疲れてしまう前にもうひと眠りするか。


 そう言って仁はまた眠りについた。


 そう言う事が何度か続いた。ちょっと待てよ、この夢っていつも同じだよな。


 同じ所を見ている。でも時間と日付だけが少し違う様だ。これって一体どんな夢なんだ。


 仁は自分のほっぺたをつねってみた。夢のほっぺたなどつねれる訳がない。


 それならばと寝ている自分のほっぺたをつねってみた。これも素通りして触る事すら出来なかった。当たり前だ。夢なんだから。


 夢だから逆にそれ位出来るんじゃないのかと思ってやってみたがやはり無理だった。


 夢かこれは。いや、本当に夢なのかこれは。そして仁はまた意識を失った。


 朝になるとそこには自分がいる。ちゃんと肉体を持った自分だ。


 この頃になるとあれは何だったんだろうと思い始めた。本当に夢だったんだろうかと。


 まさか。いや、それはないよな。


 あれを確認する方はあるんだろうかと思った。そして仁は一枚のノートをバスルームの洗面台の上に置いておいた。


 その夜、いや、もう明け方だがそれはまた起こった。


 そして仁は意識をバスルームに向けた。すると周りの景色が変わった。


 いや、変わったんではない。自分が移動したんだ。


 そして洗面台の上にある一枚のノートを見た。そこにはこう書かれてあった。「お前はバカか」と。


 おいおい、嘘だろう。これって本当にそうなのか。俺は肉体を抜け出しているのか?


 ようやく仁は自分が幽体離脱、アストラルボディになっていると認識し始めた。


 それから仁は毎回更なる実験を始めた。何処まで動けるのか。どれ位この状態でいられるのかと言う実験だ。


 そしてわかった事は体が疲れている時は、その移動距離も維持時間も落ちると言う事だった。


 つまりそれは肉体の強度に比例すると言う事だった。肉体の強度とはただ単に筋肉の強さだけではない。


 そこで作り上げられる生体エネルギーが増えると言う事だ。


 その生体エネルギーが精神に影響を及ぼすんだろうと考えた仁はジムに行って肉体を鍛え始めた。


 とは言え仁はもう既に70歳の古稀を通り越している。いくら鍛えたとしても高が知れているだろう。


 そこで仁は瞬発力ではなく、長く続く持続力の方を鍛える事にした。


 こうして肉体と精神の両方を鍛えた結果、かなりの距離と維持が出来るようになった。


 ただ仁はそれだけではまだ足りないと考えていた。肉体と精神の他に何がいるのか。


 そして仁が始めた事は気功だ。気のトレーニングを始めたのだ。


 これもまた夢物語の様な物だ。あってない様な物。それをどう鍛えようと言うのか。


 しかし仁は若い時に武術をやっていて、いや、今でも、実に50年に渡って武術をやっている。そしてこう言う事にも挑戦した事があった。


 仁はそれを呼吸法に求めた。七つのチャクラを巡らす気の呼吸法だ。体の前面の経絡の任脈から背面の督脈へと気を巡らせる。


 そうする事で気を高めようと言うのだ。果たしてそんな事が本当に可能なのかどうか。


 しかしアストラルボディを得た自分ならそれが可能ではないかと考えた。


 それは正に心・気・体の癒合だった。


 そして仁は遂に自分の部屋を抜けて大空に飛び出した。


 夜明けの空はまだ薄暗い。しかし東に微かな陽の光が見える。


 更に仁は上昇を続けた。ここはもう成層圏だ。普通なら人間が宇宙服なしで生存出来る空間ではない。


 しかしアストラルボディの仁にはそんなものは関係なかった。


 意識だけがそこにあった。ただ気を緩めると意識が分散してしまいそうだ。


 もしそうなれば果たして元にもどれるのかどうかわらない。だから仁は必至で自己の意識を集中させていた。


 そんな時だ。あれに出会たのは。


 あれとは一体何だったのか。あまりにも大きくて偉大な存在だった。


 あれが神と呼ばれる存在なんだろうかと思ったが、違うと仁の意識が感じていた。


 そんな抽象的なものではない。もっとはっきりとした現実的なものだ。しかしあまりにも途方もないものだった。


 仁の心が精神が震えていた。これは恐怖か、喜びか、いや、畏怖と言うものだろう。


 それは到底人の身では辿り着けないものだった。正に神に等しい。もし神などと言うものがあればだが。


 そして一つの意思が仁の心に響いた。『お前はなんだ』と。

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