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密かなやすらぎ

 学園生活が始まり、気付けば早一ヶ月経っていた。

 この学園は魔法授業以外は前世と同じような授業を受け、寮生活の食事は食堂が24時間開いているので何時でも食べに行ける環境だ。

 一人部屋だから、一人暮らしをしながら外食に行くようなまぁ、前世と似たような生活を送っていた。

 週休二日の内の一日はメイド長のメアリーが寮を訪れ、溜まっている洗濯物やちょっとしたスイーツを作ったり、料理を教えてくれたりと充実した休みを過ごしている。

 

 魔法実技初日の授業、あの日シャルロッテが得意とする()の大玉に飲み込まれそうになって、咄嗟にロキが風の魔法で吹き消し、誰も怪我をせず事なきを得た。

 



 その後、大変だった…。



─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


「どういう事かしら?自分で操れない魔力だと分かっていたなら、一言先生に伝えるべきではなくて?!」


 ラズリはロキとシャルロッテの元まで駆け寄り、ロキをシャルロッテから離すとすかさず厳しい言葉を浴びせる。


「ご、ごめんなさい…」

 

 シャルロッテは大きな瞳から大粒の涙を零しながら、頭を下げる。


「謝るのは(わたくし)ではなく、シアラの方よ!!シアラ目掛けて()の大玉が飛んできたのよ!!もし当たっていたら今頃……。(わたくし)は大事な親友を失うところだったっ!!!!」


 ガッとシャルロッテの両肩を掴み、強く揺さぶる。ラズリの目には涙が浮かんでいた。



 腰を抜かしていた私は咄嗟にラズリとシャルロッテの側に駆け寄る。

 このままではいけない、ラズリの印象が悪くなってしまう。


「ま、待ってラズリっ!!私は大丈夫よ!!!!ほら、怪我一つしていない」


 腕や脚を見せて、シャルロッテの肩を掴んでいたラズリの手を取り、握り締めた。


「だって……」


「大丈夫だから。貴女がここまでしなくていいの」


「なにあの子怖~い」

「物騒ですわ」


 クラスメイト達が騒ぎ出す。これ以上騒ぎを広げてはいけない。私のためにラズリを悪く言われたくないの。

 握っていた腕を引き寄せ、抱き締める。すると落ち着いたのかラズリはその場に座り込んだ。

 

 正面を見ると、立ち呆けているシャルロッテの元に駆け寄る。

 彼女は自分の掌を見て、震えていた……。その手を包むように、ぎゅっと手を重ねた。


「リリーさん、私は大丈夫だから…これから一緒に魔法のコントロールを学んでいきましょう」


 俯いていた彼女は顔を上げ、真紅の瞳からはぼろぼろと大粒の涙を零しながら──


「はいっ…」


 と、微笑んだ。







─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


(あの件からシャルロッテは魔力のコントロールが出来てきたし、ここまで何も問題は起こっていない)


「これが青春ってやつさ♪あ、いけないお嬢様言葉に直さないと…」


 一応、私は今仮にもしがない男爵モブお嬢様で、言葉遣いは淑女の嗜み授業でさんざんしごかれたのだった。転生してから日が浅いからさんざんなものだった……。でも、気を抜くとつい口を付くて出てくる。方言と同じで。

 


 さていきなりですが、私は今何をしているのかというと……

 

 空を──飛んでいます♪



「まだコントロールが甘くて入園前は飛べなかったけど、やっと飛べるようになったわ~」


 そう、私の得意魔法は風。この風の魔法を足に集め、空を飛べるよう操る。入園前も飛ぶ練習を行っていたけれど、高くは飛べないしすぐに落ちる。魔力をコントロールするのは簡単そうに見えて実は骨がいる。そこでこの学園には大きな図書館があり魔力を高める方法やコントロールの書籍を読み漁り、何とか今の形になった。今では、学園中を空から見渡せる高さにまで飛べる。


「さてと、到着~」


 目的地に着くと、パチンっと指を鳴らし、魔法を解除。地に足を付ける。


 ここはこの学園の隅にある隠れたお気に入りの場所。そこには小さな噴水に小さな丸テーブルと傍にあるベンチ。辺り一面にはクレマチスの花が咲き誇る庭園になっている。


 学園の地図にも目を凝らして見なければ気付かれない、私が見つけた秘密の場所。

 

 ここは静かで、とても落ち着く。この学園の冠を担う花クレマチスの香りが広がり、癒しをもたらす。

 

 私は元々人間関係が苦手でいつも一人で過ごしたい性格だった。前世でもこうやって人気のない場所を求めていた。


「…転生しても行動はなんら前世と変わらないのよね」


 寮から持参したお菓子とティーセットを丸テーブルに広げていく。お湯は熱々をポットに入れて持って来た。

ティーカップにお湯を注ぎ、カップが温まったら湯を捨てる。小さいティーポットには茶葉を入れお湯を注ぎ、蒸らす。手間はかかるけど、これが美味しい紅茶の淹れ方。

蒸らし終えたら、ゆっくりティーカップに注いでいく。ふわっとダージリンの香りが鼻腔を擽る。


 「さぁ、頂きますか」


 この時間が私にとって転生先での一番のやすらぎになっている。ほんとは休日には足を運びたいけれど…明日はメアリーが家事の手伝いに来るから来られない。メアリーに出掛けると言ったら彼女ももれなく一緒にと着いて来てしまう。この場所は一人で過ごす場所。一人の時間を設ける大切な場所だから──



 いつもの様に、ぷちお茶会を開催していると、突然ふわっと心地よい風が吹く。その風に乗って、歌声が聴こえたような気がした。


「…ん?歌?」


 ティーカップをソーサーに載せ、耳を澄ませる。


~~~♪~~~~~♪♪


「あっちかな?」


 立ち上がり、歌声が聴こえてくる方角に歩いていくと、周りに見えるのはクレマチスの花々。この奥から歌声が聴こえる。もっと奥に進んで行くと───



 



 そこには、花々に囲まれているベンチに座り、透き通る銀髪を靡かせ、スカイブルーの瞳を細めた見目麗しい少年が、楽しそうに歌っていた。




(……きれい)


 彼は歌声と同じくとても綺麗な顔をしており、クレマチスの花々に囲まれているからか、御伽噺から出てきた王子様のよう。思わず息が漏れてしまう。

 歌の邪魔をしないよう花に隠れて、彼の歌声を聴いていると────


「…誰?」


 歌うのをやめ、喋り出した。


(邪魔しちゃったかな…?どうしよう……)


 無意識に後ずさり、もっと花に隠れるように移動する。その時、枯葉を踏んでしまい、小さな音が響いた。


 カサッ


 花に隠れて彼の様子を覗き見ると、音を聞いてビクッと反応をし、口を開く。


「―出てきなよ、何もしないから」


 優しい声色に乗せて、私の方に視線を送る。一瞬、目が合ってしまった。このまま隠れてもいても、仕方ない。恐る恐る彼の方は歩き出す。


「ご、ごめんなさい…。歌の邪魔をしてしまって……」


 先程の穏やかな声音に害はないと思いながらも、恐怖が拭えずおずおずと彼の元に近寄り、頭を下げ謝罪をする。


「もし良かったら、綺麗な歌声を聴かせてくれないかしr……」


 俯いていた顔を上げると、目の前にはこの乙女ゲーの攻略キャラクターの一人……


“フラン・ハイジア”がいた。 

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