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学園生活開始

  4月。心地良い春風が吹き、桜の木は見事な満開の花を咲き誇る。

 そして、とうとう来てしまった……。ここから学園生活の始まりと同時にゲームのシナリオが始まる。まぁ、私は所詮モブだから全力でこの乙女ゲーを満喫しようと入学式の本日、うきうきしながら制服に袖を通した。

 この学園の制服は丸襟に控えめなパフスリーブの長袖タックワンピース。スカートはタックスカートになっており、上部には細かなピンタックが施され、上品な雰囲気を纏う。色はスモーキーピンクで統一され、袖や襟にはフリルがあり、腰の位置で切り替えられたタックスカートにはレースで出来たウエストリボンが付いている。丸襟の中央を飾っているのはリボンタイ。このリボンタイは学年ごとに色が異なり、今年の一年生は制服と同色スモーキーピンクとなっていた。


「うん。やっぱり可愛い♪着たかったんだよね~この制服」


 前世ではこの制服がきたくてコスプレ衣装の購入をギリギリまで迷っていた。結局、受注生産だったから予約を逃して買えなかった……。全身鏡の前で嬉しくてつい、何回もワンピースを翻してしまう。少しレトロでアンティーク風の色味が可愛い。早速お気に入りになり、登校が楽しみになった。


コンコンッ

部屋の扉をノックする音がした。


「はーい、どうぞ」


返事をすると控えめにノックが鳴り、扉が開く。


ガチャ


「失礼致します。シアラお嬢様、ご支度の方は終わりましたか?お済ではないならお手伝い致しますわ」


メイド長のメアリーが心配な面持ちで訊ねる。


「大丈夫よ、メアリー。今終わったとこよ。もしかして御者を待たせているの?急いでむかうわ」


「いえ、御者にはお嬢様の支度が出来次第連絡すると伝えております」


ふるふると首を横に振り、その後しゅんと首を垂れる。ん?何だかメアリーの様子がおかしい…。


「──メアリー、何かあったの?」


心配になり、メアリーの方へ駆け寄る。


「いえ……。いや、私はシアラお嬢様のお傍に居れないことが寂しいのです」


私を見るなり、ぎゅっと抱き締める。


「…メアリー」


 メアリーの背中に腕を回す。転生してからモブ女Aの記憶を探り、赤ちゃんの時から面倒を見ていたメアリー。そして、転生してから一緒に過ごしていく中、彼女の厳しくもあり優しくもあるとても素敵な方だと記憶の中だけじゃなく、接していく中で私自身も思うようになった。

 そう。このクレマチス学園は全寮制になっている。全寮制といっても執事やメイドといった使用人と同伴で入寮が可能だ。でも私は、週一回メアリーに家事を手伝ってくれるよう頼んだ。だから寂しくなるが今までのようにずっと傍に居ることはない。

 前世では一人暮らしをしていたし、ある程度は一人で出来る。それにメアリーはメイド長も務めていることから毎日忙しい日々を送っている。頑張り屋のメアリーの負担を少しでも減らしたい。本人にこのことを伝えると拒否られてしまうから口が裂けても言えないが…。


 もう一つ理由がある。使用人付きの入寮は学園への寄付金が別途かかる。どうやらローズナイト家の爵位は“準男爵”。決して高位な爵位ではない。


(だから尚更私がロキ王子の婚約者候補に選ばれたのか分からない)


 メアリーの震える背中摩りながら、強く抱きしめた。


「ありがとうメアリー。私もメアリーが傍に居なくてすごく寂しい…。でもね、この機会に自立出来るようになりたい。お嬢様だから必要ないとは私は思えなくて……。いつ何があってもいい様にスキルとして身に付けたいわ」


「…シアラお嬢様」


「私以外にも家事炊事出来るのよ!!でも、初めての学園生活で慣れない生活の中、疲れてしまうと思うから、その時はメアリーにお願いしたいわ…。わがまま、かしら?」


「わがままなんてそんな…。畏まりました。このメアリーお嬢様の新生活を応援致します!!」


 ぐっと腕を折り曲げガッツポーズを披露する。メアリーがやる気に満ち溢れているのは見ててよくわかる。そんなに張り切らなくても、もう少し気楽にしててほしいわ。


「さぁ、クレマチス学園へ行きましょう」











――――――――


【私立クレマチス学園】


 この学園は高貴な位の御子息、御息女が通う学校でもあり、妖精族も通う魔法学校。

種族の垣根を超えた大変珍しい学び舎だ。

学ぶ学科は、通常の学校教育そして魔法の基礎知識やコントロールと魔法の扱い方を学ぶ。

学園の名前にちなんで、クレマチスの花がところかしこに咲いており、ピンク、白、紫と色鮮やかな風景が広がる。


 入学式は立食パーティー形式になっている。

始めに学園長の挨拶があり、次に生徒代表挨拶にロキ王子こと"ロキュリアス・ナイトニア”がステージに立ち、演説をする。

生徒代表は入学前試験の成績優秀者が代々選ばれるしきたりだ。

流石はロキ王子、見目麗しいのに頭もいいなんてやっぱり推しはサイコーだな!!

ゲームのシナリオでは入学式はテキストだけで説明のみ。実際はこんな豪華で立派な立食パーティーだったなんてスチル欲しかったなー。

私は近くにあるテーブルのマカロンをつまみながらロキ王子の演説を聞いていた。

ふと、当たりを見渡す。


(……居たっ!!)


 端のすみっこのテーブルにこの乙女ゲーのヒロインがいた。ロキ王子と似た金髪に真紅の瞳。少し不安げな顔をしているけど、緊張してる?いや~めっちゃ可愛いな~。やっぱ乙女ゲーのヒロインは可愛くなくちゃね!!!!誰もが羨む美貌に攻略対象もいちころよ!!見た目からチートよ!!でもって性格もいい、完璧で無敵のヒロイン。

 すると、あまりにもまじまじと見てしまっていたのか、彼女が視線に気付き、真紅の瞳と目が合い、すぐさま逸らしてしまった。


(やばっ!!!!じっと見てたから目があっちゃった…。絶対気味悪がられた…)


 ズーンとガン見してしまった事を反省し、俯く。

すると、どこかしこから耳覚えがある鈴の様な声が聞こえる。


「シ~ア~ラ――――!!!!」


 駆け足と共に叫ぶ声が近づくと、いきなりドスッと背中に衝撃が走る。次第に重みも加わる。

この声は――


「ラズリっ!?」


 声の主の名を呼ぶと、何故か背中に全体重かけてくる女の子はロキ王子の婚約者ラズリ。

いや、正確には婚約者"候補”の一人。私と同じ婚約者候補。

彼女は自分が婚約者候補になっていることを知らない。候補の存在自体も知らない状態だ。ラズリの中ではロキ王子の正式な婚約者と認識している。本当の事を教えてあげるべきと思ってはいるが悪役令嬢だけど実際は繊細な乙女で悲しませたくない気持ちが勝ってしまった。

彼女の周りが時を得て伝える可能性があるから私は下手に本当の事を伝えるのはやめた。

そんなことも露知らず、なんだかご機嫌斜めにぷくっと頬を膨らましている。


「も~シアラ近くに居たなら声かけてほしいわ。一緒にスイーツ食べましょう」


 どうやら一緒に行動したかった様子だ。プリプリしながらカップケーキを頬張る姿は相も変わらず可愛い。


「ごめんなさい。ぼーっとしてラズリを見かけたら私も声かけようとしてたわ」


 よしよしとラズリの頭を撫でる。お気に召した様子で暫くすると機嫌が直ったのか膨らんでいた頬が元に戻った。


「ほんとかしら?もうシアラは私が傍に居ない時はどうしている?何度もぼーっとしているなら心配だわ」


 よしよししていた手をどかされ、姿勢を正すと、ある一点を見つめる。


「あ、もしかしてロキの新入生代表演説に魅入っていた?やっぱり私の王子様はいつ見てもカッコいいわ♡」


ステージで新入生代表として堂々と演説を話すロキには沢山の注目を浴びる。その姿を瞬きもしないで見守る、恋する乙女の顔になっていた。















――――――――

 入学式が終わると、各教室に移動する。クラス分けや席は事前に屋敷に届いていた。内容を見てみるとやはり私はラズリとロキ王子、それに主人公と同じクラスだった。

 私はラズリと共に教室に向かう。私の席は一番後ろの窓際。過ごしやすい席だ。

ふと、クラス全体を見渡す。


(主要キャラは席が固まっているなー。なるほどこれはイベントが起きやすい。へ~こうなっていたからか~乙女ゲーの裏側知っちゃった!!!!てことは、あの(・・)イベントもあの(・・)スチルも身近に見れる可能性が?!うわ~これから楽しみだなぁ~♪)



──と、この時の私は純粋に楽しんでいた。自分がモブという立場を利用して。これがいけなかったのか…転生者の運命(さだめ)なのか…いや、自ら足を突っ込んだからかもしれない──




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