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赤い糸の姫君



  “クレマチス夜会”


この学園きっての一大イベントの一つ。クレマチス夜会は一日を通して開催され、日中はクレマチスが咲き誇る学園内の中で有名なシェフやパティシエが腕によりをかけ、料理やスイーツを出店する。中には、試作品を作りお試し販売を行い、人気を博した料理は実店舗に並ぶなど、所謂試食会の役割も果たしている。又、ゲストにオペラ歌手やオーケストラを招き、華やかにこのイベントを彩る。

かといって、日本の文化祭の様にクラスごとに催しをすることも可能だ。だが、大多数のこの学園のご子息ご令嬢は上級階級ばかりで、当人が何かを行うよりもプロのお店に依頼をし、キッチンカーを手配してフードスタンドを展開する事がの方が多い。中庭が軒並みキッチンカーで溢れる光景もこのイベントならでは。

そして、日が暮れた頃、クレマチス学園のホール会場にてダンスパーティーが開催される。所謂前世の後夜祭だ。普段中々接点がない上級生と交流をし、見聞を深めるのも良し。ビジネスの話をするのも良し。……メアリーが目論む婚約者を探すのも、良し。パーティーは軽食が準備され、立食パーティーとなっている。昼に演奏されたオーケストラの楽団も参加し、音を奏でる。オーケストラの楽曲に合わせてダンスが開始される。参加は自由だが自分をアピールするならとっておきの場だ。終盤に差し掛かると、花火が上がり盛大に幕を閉じる。


 クレマチス夜会が一大イベントと言われる所以は、この学園創立当初からノブレス・オブリージュの精神に則り、ここでクレマチス夜会(ここ)の売上の半分以上を孤児院や怪我や病気で働けない人達に寄付を行っている。

ダンスパーティーは学園関係者のみ参加。だが、このダンスパーティーは身分関係なく誰でも気概なく過ごせるよう取り計らうことがマナーの一つとなっている。

昼時は、普段見たことも食べたこともないスイーツが並び、長者の列となり、この地区全体がお祭りムードが漂う。





――――――――――――――――――――


 「と、いう訳でこの学園のノブレス・オブリージュの精神に則り、国民全員が日頃から目にしたことがない驚くような物を出店したいと思う」


教壇に立つロキはプロジェクションマッピングのような電子板に魔法ペンでスラスラと書き、熱弁する。


 「そこで僕は、このクラスにしか成しえない否、このクラスだからこそ取り組むことが出来る!それは―――――――」


ゴクリッ、と教室内にいる全員が息を飲む。ロキは教壇から背中を向け、答えを魔法で書いていく。書き終えるとくるりと向き直り――――


 「妖精族が食しているお菓子を販売しよう!!!」


おおっ!!と、クラス中がどよめく。


 「そこで妖精族の王子、フランに話を伺いたい。無論、この議題は夏休み中に話し合い双方の納得の上で了承を得ている。フラン・ハイジア前へ」


 「はい、ロキ様」


フランはロキに呼ばれ、立ち上がり教壇に向かう。歩く度に、銀糸の綺麗は髪を靡かせながら背筋がピシッと張って優雅に歩くその姿は――――――――


 (王子様だわ。相変わらず謎の光の粉がフランの周りを舞っているけど、私の目だけフィルターがかかってんのか?それか、皆気付かないように言わないだけ?)


 

 「先程のロキ様が仰っていた〝妖精族が食しているお菓子″の提供。事の顛末はロキ様から妖精国について皆、認知度が低いことをお話しされ、どうしたら知るきっかけになるのかとご相談に賜りました。その際いい案を思いつき、こちらからお声掛けし、僕がお菓子作りが趣味な事もあって今回、妖精国のお菓子を多くの方達に知ってもらいたいと思い、提案させていただきました」


フランは教壇の前に立ち、左手を胸元に当てながら熱弁していく。くるりと向きを変えるとロキと同じように電子板に魔法ペンでスラスラと話しながら書いていく。


 「しかし、妖精族の味覚は皆さんの味覚は少し異なる為、人間の味覚に合うよう改良したお菓子を販売する結論に至りました」


 書き終わると、くるりと向きを変え、教壇の前の方に視線を戻す。


 「よって、妖精国のお菓子を改良していく開発部を設け、クレマチス夜会までに完成させたい。だが、フランが一人で開発するには人間の味覚が分からない以上非常に難しい。その為――」


 (ロキの言っていることその通りだわ。フランは余りにも人間が食べるお菓子を知らなすぎ。味覚も一度だけフラン作のお菓子をいただいたら甘すぎた。甘い物に慣れている人だったら食べられると思うけど、一般的な甘さを超えている。誰かと一緒にお菓子を作るのは得策ね)


ぼっ~と、ロキの言葉を反芻しながら目の前の電子板を見ていたら…視線を感じる。恐る恐るロキやフランが立っている教壇に目を向けると、ロキと目が合った。彼は、ニコッと毎度お馴染みの微笑みを振りまくと――――


 「開発部の協力者として、シアラ・ローズナイトを推薦したい」


 「え、えええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」


 突然の(しかも名指し)驚き、反射的に机をバンッと叩きながら立ってしまった…。




――――――――――――――――――――


 「ここのキッチンは自由に使って構わない。学園の許可も取ってあるから。鍵はフランに渡しておく」


 「ああ。それにしても学園にこんな広いキッチンがあるなんて知らなかったよ。ねぇ、シアラは知ってた?」


 「え?えぇ、そうね…。私も知らなかったわ」


 ロキから鍵を預かるとフランは辺りを見渡しながら()いてきた。私もフラン同様、初めて入った場所で二人して辺りを見渡す。

そこには、広々としたL字型のキッチン。海外ドラマで観たことがあるキッチンには大きなオーブンが備われており、付近には常務用の大きな冷蔵庫があった。

前世でもお見えしたことがない初めて目にするキッチンについ、目移りしてしまい、フランの返事にワンテンポ遅れてしまった。

ふと、業務用冷蔵庫が置いてある奥の方に小部屋があった。その小部屋に入ってみると、調味料や食材が棚いっぱいに積んであり、綺麗にジャンル毎に小分けに収納してある。どうやらここはパントリーのようだ。材料を見るとお菓子作りに必要な小麦粉やお砂糖等が何人前作るのだろうと思わざる負えない程の量が詰め込まれていた。


 (お菓子の開発に学園内のキッチンを貸してもらえるのは非常に有難い。だけど、立派過ぎない?ロキ、どうやってここ借りたの?!)


 ほへぇ~と未だ慣れない豪華なパントリーに呆けていると――――――


 「材料は足りるかな?先に手配しておいたよ」


 「充分だよ。寧ろ、量が多いと思うわ…」


 「ああ、それはクレマチス夜会当日の分も含まれているから。この量で心配要らないよ」


 「そ、そうなのね。じゃあ、不足したらその都度伝えるわ」


 「ん、了解。足りない物があったらすぐ手配するからフランや僕に頼むんだよ。それとキッチンの説明を一通り。火は魔法で――」


 ロキはこの部屋の使い方、キッチンにある調理器具、調味料など様々なことを説明していく。


 「――――と、あらかた全ての事は伝えたよ。また困った事があればその都度訊いて()。あぁ、キッチンの説明をしていたら遅い時間になってしまったね。開発は明日からお願いするよ」


 「えぇ、そうね。明日から始めましょう。帰りましょフラn…!?」


 フランのいる方を見ると、彼は今まさに業務用冷蔵庫に入ろうとしていた。


 「ち、ちょっと!何やってんのよフラン!!」


 急いで業務用冷蔵庫に向かって駆け出し、フランの制服のブレザーを引っ張る。そのまま引きずり出そうと足を踏ん張る。


 「いや、だって中々こんな大きな冷蔵庫があるなんて珍しいから…つい」


 「だからって、もうーえいっ!!!!」


 ブレザーの引き千切る音が聴こえる勢いで引っ張り上げるとフランは冷蔵庫の端に掴まっていた手を離し尻もちを着く。

フランが言うようにこの業務用の冷蔵庫はとても大きい。190cmはある。背の高いフラン(身長182cm)がすっぽり入る大きさだから入りたくなる気持ちも分からなくもないが…。


 「あははっ!君たち面白いね、ははっ!!」


 先程の光景を一部始終見ていたロキは、腹を抱えながら笑っていた。中々見ないロキの笑い声が響く。


 「―――――ロキも腹抱えて笑うんだ…」


 私の呟きにハッ!としたのか、みるみる内に顔が赤くなり、急いで呼吸を整える。


 「コホン!僕だって腹抱えて笑う時はある。人を笑わない人間みたいに言わないでくれるかい?」


 腕を組み、頬は膨らみ、やや目を逸らしながら顔はそっぽに向ける。


 「ツンデレキタ――(゜∀゜)――!!」


 「ん?何かな?」


 ロキがくるりと踵を返し、こっちに振り返る。


 「な、なんでもないわっ!」


 私はロキの視線から見えないよう密かにガッツポーズをした。





――――――――――――――――――――


  キッチンを後に校門に着く。


 「僕はこれで失礼する。また明日、ロキ、シアラ」


 「うん。また明日。バイバイ、フラン」


 「明日から開発始動だ。期待しているよ。また明日」


 フランは手を振り、瞬間移動の魔法でシュッと消えていった。残されたのは私とロキ。私も早く帰ろう、ヴィンセントが心配するかもしれない。


 「私も帰るわ」


 「送るよ、シアラ」


 「えっ!いいよ、一人で帰れるわ」


 魔法で飛んで帰るから徒歩より早く帰れるし…。


 「ほら、日が陰ってきたから遠慮しないで何かあってはいけない」


 心配そうに、子犬の様な表情(かお)で見つめるロキ。うぅぅ―――母性本能が疼く。こいつ策士だな。私が、いや、全女がこの表情(かお)になると断れないって知っているな。第二王子に送ってもらうなんて生徒の誰かに見られたら噂が立って嫌だなって思うし、ロキにも迷惑掛けたくない――――だけど……


 (クソッ言いだしっぺはそっちだからっ!折角の誘いを無下にするのは後味悪いし…。ビジュ良過ぎてオタ心が…うぅ、断れない)


 「そうね、お願いするわ」







――――――――――――――――――――


 「シアラとこうして二人きりになるなんて久し振りだ」


 寮までの道のりを歩く。空を見上げるとオレンジと紺色のコントラストが綺麗と眺めながらこの状況から目を逸らしていた(主に前世での推し活の記憶を)。


 「そうね、ほんと久し振り。ロキがミュージカルに誘ってくれた時以来かしら」


 「―――ミュージカル」


 ふと、ロキが足を止める。


 「……どうしたの、ロキ?」


 振り返り、ロキの傍に駆け寄る。


 「…体調悪いの?」


熱でもあるのかと思い、彼の額に手を伸ばすとその手をパシッと掴まれる。そして、指を絡め取られぎゅっと握られる。


 「ねぇ、シアラに訊きたいことがあるんだ…」


 「何かしら?」


 絡め取られた手に力が込められる。


 「……俺は、シアラをミュージカルに誘う前に、一度貴女の屋敷(いえ)を訪れた?」


 ドクンッ


 「…っ、ミュージカルに誘う前の日って、ことかしら……?」


 「そう、執事が言うにはシアラの屋敷に行くと出掛けて行ったが貴女の執事が俺を連れて帰って来た、と」


 ドクンッ


 あの日の事を言っているんだわ。ロキが正気を失って、私を襲おうとしてヴィンセントに助けられた。この時の出来事を記憶を改竄してロキを帰したあの日――


 「俺は、あの日何をしにシアラの屋敷に向かったのか、どうして眠って帰って来たのか、記憶がすっぽり抜け落ちている。思い出そうとすると頭痛が生じ頭の中にモヤがかかる。まるで思い出すのを遮るかのように――――」


 ロキの感情を現しているのか握る手にまた力が入る。


 「っ、ロキ、手、痛い…」


 「あぁ、ごめん。強く握り締めてしまったね…。シアラ、話して欲しいんだ。俺は、何が目的でシアラに会いに行ったのか」



 (あぁ、自分から墓穴を掘ってしまった。まさかこのことを訊ねられるとは…。あの日の事は正直に話してもいいのだろうか?真実を伝えたところでロキ自身が傷付く恐れがある。それに―――私もまだ、恐怖心が残っている。でも、ロキの記憶を改竄したのは私のエゴだ。)


 だから――――


 「あの日、「あの日は大層お疲れだったご様子でリラックス効果のあるハーブティーをお出ししたところ召し上がった途端、眠りにつかれておりましたよ、ロキ様」


 頭の上から声が降ってくると同時に固く握られていた手に触れ、絡まる指を解き、掌にそっと載せられる。


 「ヴィンセント!!」


 声と掌の相手はヴィンセントだった。ヴィンセントは私の手をそっと持ち上げながらその場に傅く。


 「お帰りなさいませ、シアラお嬢様。お帰りがいつもより遅い為、迎えに上がろうと参りました。入り違いにならなくてようございました」


 手を離し、すっと立ち上がるとヴィンセントは片手を肩の位置に置き、ロキの目の前に進んで行く。


 「あの日は私の気遣いが返って逆手に出てしまい、申し訳ございません」


 ロキに向かって深々と頭を下げた。


 「…いや……そうだったのか、心遣い感謝する。頭を上げよ」


 「ハッ!ありがとうございます。ロキ様」


 ヴィンセントは頭を上げ、私の元に駆け寄ると持っていたケープを肩に掛けた。


 「さぁ、冷えますからそろそろ帰りましょう。ロキ様は馬車の手配をいたしますので少々お待ちください」


 「実は近くに馬車を待たせてあるんだ。それに乗って帰るよ」


 「左様ですか。お嬢様をお送りいただき、ありがとうございました」


 「ああ」


 「ロキ、送ってくれてありがとう。また明日」


 「シアラ、また明日」






――――――――――――――――――――


  寮までの道のりをヴィンセントと共に歩く。


 「ヴィンセント、さっきは助けてくれてありがとう。頭も下げて…」


 「いえ、当然の事をしただけです。シアラお嬢様の執事ですから」


 「そう。でも、業務の一つだとしても私は―――」


 足を止めると、ヴィンセントも併せて止まる。お互い向きい、私はヴィンセントの両手をそっと掴む。


 「…嬉しかったわ、ありがとう」


 「―――ありがとうございます。勿体ないお言葉。至極ありがたき幸せ」


 そう言って、ヴィンセントは傅いた。






――――――――――――――――――――


 寮までの距離は意外と長い。いつも飛行しているからか異常に長く感じる。

寮の正面が見えると、人影が側の門に寄りかかっていた。また、逢引きかと思い私とは関係がないとその人影をよく見もせずに前をトコトコを歩くと――――――


 「シアラッ!」


 と、横切った人影から名前を呼ばれる。振り返ると……


 「ジーク!?」


 人影の正体は、ジーク・シェルラインだった。


 「これはこれは、ジーク様。お初にお目にかかります。(わたくし)シアラお嬢様に仕える執事、ヴィンセント・クレイスと申します」


ヴィンセントがジークを見るなり、すかさず私の前に出て燕尾服のジャケットを翻し、片手を肩に添えると、そのまま一礼とスマートに挨拶を行う。


 「ああ、あの爺さんの後任だとシアラから耳にしている。シアラの幼馴染のジーク・シェルラインだ。よろしく、ヴィンセント」


 「よろしくお願い致します、ジーク様」


 一通りの挨拶が済むと、ヴィンセントは私の後ろに移動する。


 「少し、話せないか?」


 「今から?」


 「ああ」


 「ジーク様、お話しの最中割り入って申し訳ございません。シアラお嬢様はこれからダンスレッスンがあり、早急に準備しなくてはなりません。お話ならまた明日にでも…」


 重苦しい雰囲気を感じ取ったのかヴィンセントが口を挟む。ジークからの要件は一つしかない。そう、私がしっかりしないと…ね。

スッ…と手を挙げ、私の後ろに待機しているヴィンセントに静止を促す。


 「ヴィンセント、すぐ戻るから先に戻っていて頂戴」


 「……かしこまりました。では、ご夕飯の準備をしてお待ちしております」


 「えぇ、楽しみにしているわ」


 ヴィンセントは私達に向かって一礼すると、その場を後にした。








―――――――――――――――――――― 


 寮の近くに大きな大木がある。そこが程よい木陰になっており、付近にはちょっとした休憩場所にベンチが備えられている。ジークと共に木陰に移動し、ベンチに腰を下ろした。隣に座るようベンチをポンポンと叩き、タイミングを見計って訊ねる。


 「話って、何かしら」


 「…解っているだろ」


 「まぁ、大体は…」


 ハァァァァァと盛大な溜息を吐き、ジークは答える。


 「……屋上での事、悪かった。痛かったろ、フェンスに当たって」


 「ううん。大丈夫よ。すぐ痛みは引いたわ。案外丈夫にできているのよこの身体。それに手加減していたでしょう」


 「……そうか」


 「他には?このことだけじゃないでしょう?」


 ジークは小さく「あぁ…」と呟く。


 「最近、ロキには会ったか?」


 「ロキ?偶然ね、さっきまで一緒だったのよ。クレマチス夜会の出し物の件で。クラスが同じだから学園に居る時は顔は合わせているけど…ロキがどうしたの?」


 「そうか…そうだよな。最近ロキの調子がおかしくてさ、何かあったのかなと思って」


 「そう、かしら?クラスでは普段通りに見えたけど、ジークはロキと仲が良いから何か察したのかも…」


 「あぁ……そう、だな」


 応えたっきり、ジークは無言になってしまう。雰囲気で大体察しがつく。ジークが訊きたいことが――――私も、逃げないで覚悟を決めないと―――――



 沈黙に耐え切れず、話題を振る。


 「――ジークのクラスはクレマチス夜会、何か行うの?」


 「うちのクラスは委託でフルーツパーラーを出店する」


 「へ~そうなんだ。フルーツ好きだから食べに行かなきゃ」


 「ああ、定番の人気フルーツや変わり種のフルーツも用意するから期待しててくれ」


 「えぇ、首をなが~~くして楽しみにしているわ」


 「ははっ!楽しみにしててくれ。シアラの方は何かするのか?」


 「私のクラスはフランがいることもあって妖精国のお菓子を人間の味覚に合うように改良を施して販売するわ」


 「へぇー妖精国のお菓子か…。今まで見たことも食べたこともないから楽しみだな」


 「私達の味覚に合うように改良するから本場のお菓子とは違いがあると思うけど、味にはこだわりを持って美味しい物を開発するから買いに来て」


 「期待してる。行列が出来る前に買いに行くよ」


  世間話はここまでにしておこう。本題の方に舵を切る為、ジークの方に身体事向ける。


 「ジーク、あのね……」


 「ん?なんだ?」


 「私、実は妖精国のお菓子の開発協力者に推薦されて…これから忙しくなると思う」


 「あぁ、俺も忙しくなるからお互いクレマチス夜会頑張ろうぜ」


 「だから―――――クレマチス夜会が終わったら、告白の返事、してもいいかな…」


 ジークはハッとした表情(かお)で見つめる。さっきまで俯きながら話していたのに、真っ直ぐにこっちを見ている。


 「……ちゃんと考えたい。遅い、かしら?ジークは早く応えて欲しいと思う。でも、ごめんなさい。真剣に考えたいの。だから……もう少しだけ、待って…くれる…?」


 ジークの痛い程突き刺さるような強い眼光を負けじと見つめる。綺麗なシェル色の瞳に私が写る。


 「ハァァァァァ」


 ジークはまた長い溜息を吐く。ぎゅっと膝に置いた手に力が入る。


 「わかった。待つ」


 「えっ」と消え入りそうな素っ頓狂な声が漏れ、俯いていた顔を上げると、ジークは複雑な表情のまま、微笑んでいた。





――――――――――――――――――――


 「さぁ、フランまず何から作ろうかしら?」


 学園内に備えられたキッチンの真向かいにあるテーブルに二人横並びで材料を手に取りながら取り掛かりに悩んでいた。


 「妖精国の今のお菓子のトレンドにあるのはフェアリーウィングかな?」

 「それってシフォンケーキに似ているお菓子?一度、ぷちお茶会でフランが作って持って来てくれた」

 「そう、それ。軽くてふわふわで、羽みたいだからウィングって名前が付いたんだ」


 ぷちお茶会に自作のお菓子を持って来てはフランはお菓子の名称の由来を言っていた。それを聞いて分かったことは、なんでも妖精国は〝モノ″に例える事が多いらしい。それも自然なモノに。木、花、空や星様々な自然を連想する名称だった。だからなのか同じような名称が多く、咄嗟に出てこない…。それ、知っていたのにな~っと思いながらこれからの作業工程を考える。


 「フラン、フェアリーウィングを基準に甘さとか調整して、シフォンケーキに似ているなら妖精国のフルーツをドライフルーツに加工して、練り込ませたらより妖精国を感じられるかも!?」


 「それだっ!」


 フランは目をキラキラさせながら、私の両手を包むように重ねて握る。よっぽどこのアイデアが良かった(?)のかな…?


 気付いたら時計の針は朝礼の10分前を指示していた。一旦、朝礼の為教室に戻って、放課後からクレマチス夜会に向けて妖精国のお菓子〝フェアリーウィング″を人間の味覚に合うよう改良するお菓子開発を始めることとなる―――――





――――――――――――――――――――


キーンコーンカーンコーン



 終礼の鐘が鳴ると、私とフランはフランの転送魔法で開発にあてがわれた学園内のキッチンに転送した。


 「シアラ、これテーブルに置くね」


 そういうやいなや、フランは転送魔法の魔法陣から見たことがないけど、形と匂いからフルーツと思わしき物を次々とテーブルに並べていく。


 「うわぁ~!フラン、これが妖精国のフルーツ!?」


 「うん。これでも旬の物と通年実っているフルーツを選んだんだ。旬のフルーツを合わせたらもっと沢山あるんだけど今はこのくらいしかないや」


 と、ざっと20種類ぐらいあるフルーツを眺めながら教えてくれた。


 「十分だよ、ありがとうフラン」


 耳が垂れ下がった大型犬のようにしょげているフランに近付き、背伸びをしてその頭を撫でる。


 「よしよし」


 わしゃわしゃ


 「…………………///」


 


――――――――――――――――――――



 「さて、ここにあるフルーツをドライフルーツにしていきましょう」


 私とフランはエプロンと髪を纏め、手を清め身なりの準備を整えるとまずは、味見をする為に妖精国のフルーツを切り、一口食べてみる。そして酸味が強いもの、香りがいいもの、甘さが強いものとそれぞれジャンル別に分けていく。その中で前世にあったドライフルーツと特徴が似ているものを厳選し、選んだフルーツ達をドライフルーツに加工していく。

私がドライフルーツを作っている間にフランにはフェアリーウィングの生地を作ってもらう。


 「よしっ!フラン、ドライフルーツ出来上がったわ。そっちはどうかしら?」


 「うん。混ぜ終わったよ。ドライフルーツ入れて軽く混ぜよう」


 生地の入ったボウルにドライフルーツを入れる。後は、フランが最後の工程まで仕上げ、焼けたら完成だ。鉄板の上に型を置き、生地を流し込む。そのまま軽く浮かせまた置き、生地の空気を抜いていく。そして、鉄板ごと予熱をしたオーブンに入れていく。


 チンッ


 「焼きあがったよ~。シアラ、はい」


 熱々のフェアリーウィングを切り分けて、お皿にちょこんと載っているシフォンケーキに似ているものをフォークで掬い口に運ぶ。


 「う~~んおいしいぃ~」


 「それは良かった」


 この作り立てほやほやのフェアリーウィングを元に色々思考を凝らしこの日形になったフェアリーウィングが完成した。


 「ねぇ、フラン。今日の完成品を持って久しぶりにぷちお茶会開催しない?」


 学園の端っこにあるクレマチスの咲き誇る二人しか知らない場所。


 「うん、久し振りにお呼ばれに伺おうか」


 「ふふっ。もしや呼ばれることを楽しみに待っていたの?こんな気まぐれなお茶会なのに」


 「実は夏休みの間にたまに来ていたんだ。ぷちお茶会やってるかなって」


 「あら?そんなに楽しみにしていたの?偶然ね、私も夏休みの間に何度か来ていたわ。二人とも同じ場所に訪れていたのに一度も会わないなんて…クスッ」


 「ハハッ!!初めて会った時は偶然だったのに出会いたい時には会えないなんて。そもそもあの場所は僕が見つけた場所だよ」


 「私が学園で探索していた時に見つけたわ」


 私達はたわいのない若干痴話喧嘩になりながらもポットやティーカップを持って学園を後にした。






――――――――――――――――――――


 「紅茶出来上がったわ」


 丸テーブルに広がるテーブルクロスの上に並べられているソーサーを引き寄せ、ティーカップに熱々の紅茶を注いでいく。テーブルの真ん中には先程のフェアリーウィングを切り分け盛りつけたお皿がある。フェアリーウィングを載せたお皿をフランの前に置き、斜め横にソーサーに載ったティーカップを置いていく。


 「準備が整いました。それではぷちお茶会を開催します。席にお座りになって」


 「久し振りのぷちお茶会にお呼ばれいただき光栄です。それではお先き席に座らせていただくよ」


 「えぇ、どうぞ」


  私もチェストを後ろに引いて、席に着く。


 「さて、召し上がりましょうか」


 目の前に、先程作ったドライフルーツ入りのフェアリーウィングを食べる。


 「ふわぁ~、ふわふわで美味しい」


 「うん、ふわふわに焼きあがって良かったよ。それにドライフルーツが入っていると食感があっていいね」


 「この酸味があるフルーツ美味しい!!ピンクグレープフルーツとレモンの良さを合わした味。グレープフルーツの苦みがなくてレモンのすっぱさも抑えられている」


 「このフェアリーウィングは人間界のシフォンケーキに似ているんだよね?シフォンケーキではフルーツの他に何を組み合わせているのかな?」


 「そうね。私が好きなのはシフォンケーキの生地に紅茶の茶葉を混ぜた物ね。紅茶の香りが広がってとても美味しいの」


 前世で好物だった紅茶のシフォンケーキを思い出しながら答える。


 「紅茶は香りがいいから僕も好きになりそうだよ。妖精国にある茶葉を探してみるよ」


 フランは何処から出してきたのかおもむろに〝妖精国の紅茶″とメモを取っている。


 「後は、生クリームを添えている場合が多いわね。お店でシフォンケーキを頼むと大抵横に添えているわ」


 「生クリームか~。人間界で初めて食べた時は驚いたよ。一見味がないクリームと思ったら濃厚で甘くて。絞ると薔薇やリボンと色んな形を作ることが出来るから作るのも見るもの楽しいね」


 スイーツの話題はこのお茶会始まってからいつも盛り上がる。スイーツ好きのならでは。フランはスイーツの話をする時、花が綻んだ様な笑顔で楽しそうに喋る。その楽しいというフランの気持ちが呼応するかの様に例の、キラキラした粉がフランの辺りを舞う。


 「ふふっ。ねぇ、フラン。貴方の周りに舞うキラキラ光る粉は何かしら?ずっと気になっていたの。すごく綺麗だから」


 「えっ?!」


 急に、食べかけていたフェアリーウィングをフォークから落としそうになるのを寸でのところで拾い上げるフラン。


(あれ?私、おかしな事言った?やらかしました??)


 あまりの慌て振りを見て、必死にフォローを考える。


 「も、もしかして妖精国の間ではこの話題はNGだったかしら…?」


 (地雷かもしれない)


 息をすぅぅーーっと整えているフランを横目にちらりと見る。


 「ううん。突然訊かれたからびっくりしただけ。何でもないんだ。僕の周りを舞っている粉は僕の感情とリンクして反応する。僕が楽しい時や嬉しい時はいつもよりキラキラと光るんだ」


 フランは手の平を上に向け、キラキラ輝く粉をその手の上に載せ、私の目の前に持って来ると、近くで見せる。そのキラキラの粒子は私が今まで目にした中で、一番輝いて見えた。






――――――――――――――――――――


 久方振りのぷちお茶会は、フェアリーウィングの次回の案を交えながら時折、他愛のないお喋りで盛り上がり切りがいいところでお開きとし、学園に戻る。

学園に帰って来ると、荒れ果てたキッチンの後片付けを行う。フランは魔法で皿洗いと乾燥を。私は魔法のコントロールが不安定な為(見るからにどれも高そうな食器類を目にし、割ってしまう恐れがある為)自ら調理器具やお皿を食器棚に片付ける。


 「ねぇ、シアラから見てシャルロッテのこと、どう思う?」


 皿洗いを終え、風の魔法で乾かす最中にふとフランに訊ねられた。


 「リリーさん?そうねぇ。彼女の印象はとても頑張り屋さん。魔法も勉強も努力しているのが授業中から伺えるわ。テストの点もいつも上位にいて、元々強力な魔力をお持ちだから魔法を上手く扱えている今は戦闘訓練で大活躍よ♪何より市民出のこともあって時には周りからの厳しい目があるそんな中、リリーさんは健気に真っ直ぐとひたすら前に進む姿は私も見習うべきだわ」


 そう。私が好む乙女ゲームは主人公に守られているだけじゃない。自分から立ち向かう姿勢があるヒロインが多かった。きっと私自身が彼女達のその姿を画面上で見て、何度も勇気を貰って何度も頑張ろうと思えた。


 「うん、そうだね。シアラが言った通り僕もシャルロッテが頑張っている姿は日頃から目にしている。この半年、彼女のいや、人間の成長は目を疑う程にどんどん成長していく。僕も見習なきゃって思っているよ。でも、それは―――――――〝好き″より〝憧れ″に近いのかもしれない」


 「……憧れ?だってフランはリリーさんのこと――――――」


 だってフランはシャルロッテに一目惚れだった――――――原作のシナリオでは。憧れ、ではなくて……。まさか、この流れは――――――――――――――


 今から身に起こることを察知し、勢いよくフランを凝視する。すると、フランはゆっくりとこっちに近付いて来る。


 「思えば、シアラはいつも僕のこと気にかけて僕の相談相手で、初めて出来た人間界の女の子の友達……。ねぇ、シアラ。シアラは赤い糸伝説を知ってるかな…?」


 気付けば目の前には長い影が現れる。顔を上げればフランが目の前にいた。フランは私の手を自分の両の掌に載せる。


 (【赤い糸伝説】フラン√のメインになるイベントの一つ)


 フランの手から手を離すと、パシッと手を絡め取られる。指が絡まると簡単には外せない。隙ができるように相手に合わせる。


 「ええ、知っているわ。妖精国に伝わる運命の人とは赤いで繋がっている。ロマンティックだわ。しかもその赤い糸を目にすることが出来るのは妖精族だけ。…はっ!もしかして、見えているの?」


 咄嗟に口から出た問い掛けに自分自身も驚く。……勿論、繋がっている相手はシャルロッテだ。シナリオ通りだと。でもこの乙女ゲーム(世界)は、私が知っている前世のシナリオとは異なる。一体、誰と運命の糸が繋がっているの?

 私は恐る恐る目の前にいるフランを見上げる。長身のフランを見上げるだけでもいと知れぬ恐怖が込み上げてくる。だが、訊かなければっ!!私がこの乙女ゲーム(世界)で穏やかに過ごすには!!!

震える身体を抑えながら、ゆっくりと訊ねる。


 「フラン、赤い糸…見えるの………?相手は、リリーさん?」


 「見えているよ。でもシャルロッテじゃない。だから困っているんだ」


 フランは自分の左手の薬指なぞる。薬指(その指)に赤い糸が結ばれている。スチルで確認済み。


 「え……?」


 シャルロッテではないとハッキリ言い切ったフラン。ど、どういうことっ!嫌な汗が背中を伝う。


 「シアラはさっき、僕の周りに現れるキラキラ光る粉のこと訊いてきた。実はあれシアラ以外見えないんだ」


 「えぇっ!?」


 驚き過ぎて後ろに後退ってしまう私を気にも留めずフランは後退った分、どんどん近付いて来る。顔を見上げるとスカイブルーの双眸が真っ直ぐに見つめられ、そのままフランは突然、私の目の前で傅く。


 「これが見える人は……僕の運命の人、赤い糸の姫君」


 ちゅっと小さくフランが私の手の甲にキスを落とす。


「気付いたんだ。本当の気持ちに。僕は憧れと恋を履き違えていた。シャルロッテの生い立ちやこれまでの環境を知って僕は僕でさえ知らない内に彼女のことを可哀想と守らないといけないと思ってしまった。このことを認識してから僕はシャルロッテのことが気になり、そして恋と錯覚していた。許婚でもあったことから余計にそう思い込んでしまったんだと思う」


 目を伏せた睫毛が震えている。首を横に振り、自分の行いを悔いているような複雑な表情(かお)のままフランは続ける。


 「…けれどそれは恋ではなく、大変な状況下で過ごしたシャルロッテが健気に慣れない学園生活を送り、必死に努力を続けている。彼女の近くにいて次第に憧れていた」


 伏せがちの目がゆっくりと開き上を向く。綺麗なスカイブルーの瞳と見つめ合う。長い睫毛が小さく揺れている。


 「シャルロッテに対して憧れからの好意に気付いたら、もう一つある感情に気付いたんだ。クスッ、可笑しいよね。自分の気持ちが今になって理解(わか)るなんて」


クスクス笑うフランの周りには、彼を囲む様にいつもより一層キラキラと光の粉が舞う。


 「シアラは―――思えば僕の恋の相談相手で、助言者で、恋の応援をしてくれた。…僕の為に、僕の事を考えて、背中を押したり世話を焼いていたね。シアラとのお茶会は楽しくて、人間界のお菓子を知るきっかけになった。シアラといると穏やかに時が流れて、いつの間にか笑っている。ねぇ、これが答えだよ」


 フランは私の手を引き寄せると、手に甲に口付けを落とす。


  チュッ


 「好きだよ、シアラ」


 すると、辺り一面光の粉がぶわっと舞い、シアラの全身を覆うとキスをした手の甲にリボンの紋様が刻まれる。



 あぁ、油断した―――――――。


 「これが、赤い糸の姫君に送る刻印(しるし)。僕とシアラしか見ることが出来ない絆だよ」


 再び、手の甲に刻まれたリボンにキスをすると、淡いピンクのリボンになる。


 (ここはゲーム自体存在しない場所。なのになんでスチル有りの告白イベになっているんだろう。非公式にも程がある)


 そう、この刻印を授かる一連の流れはフランの告白イベントだ。彼の告白イベは終わっていなかった…。油断した―――。折角の学園イベントで文化祭だから少々一緒に過ごしても私達の関係に変化は起こらないものだと思っていた。フランはずっとシャルロッテのこと好き好きオーラがあったから。いや、やけに一緒にお菓子の開発楽しそうにやっているな、なんでこんなに楽しそうなんだ?っと思う節もあった。だからフランの違和感(好意)に気付けず……。また私は―――


 換気の為に開けられた窓から心地いいそよ風が吹く。その風にのって金木犀の香りが鼻を掠めた。





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