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状況整理 対処法を導き出す


 「ん…っ!はぁ…っ」


 部屋中が血生臭い。この匂いが自分の体内から生成されているなんて、きっと大怪我をしない限り知ることはなかっただろう。ボーっとする意識の中無意識に思考している。ふと、左斜めに視線を落とすと、ジュルルと音を立てながら首筋に吸い付く彼に視線を向ける。

 

 「はぁっ。んっ…!っは、はぁ。っん」


 背中に腕を回し、身体をぴったりと密着させる状態のまま数十分。同じ姿勢はきついから身じろいするも腕の力が強く、しっかりとホールドされてしまっている。正直姿勢が辛いのは彼の方だ。私の全体重を彼の腕に預けてしまっている。時折、手が首の後ろや頭を持って調節しているみたいだが、ベッドの縁に座っているのだから寝転んだらいいのに───


彼の吸血スタイルはいつもこうだ。離さないとでも言っているみたいで勘違いしそうになる。彼にとっては人助けの一環に過ぎないのに…。シアラ(この娘)はどんな気持ちでこの行為(吸血)を行っていたんだろう……?


 「はぁ…、はぁ……っ」


 吸われる度に酸素が失われていくのか、この吸血自体の作用なのか、ふわふわとした心地いい快感が身体中を駆け巡る。


 「ちゅっ。…シアラ…。…はぁ、んっ!!」


 首筋から唇を離し、耳元で吐息混じりに私の名を囁く。下から見上げ顔を覗くと、普段とは違う色気を漂わせ、尖りがある犬歯を見せながら妖艶に微笑む。グレーの瞳からマゼンタ色に変色し、キラキラと輝く宝石のよう。その瞳と見つめ合えば最後───


 「……っ」


彼の頭を引き寄せ、自ら首筋へと誘う。次第にチュッ、チュッと濡れたリップ音が聴こえ、チクリと首筋に痛みが走る。


 「あぁっ!!」


反動で首筋に埋まっている彼の頭を腕で強く抱きしめ、再びふわふわとした心地いい快感が身体中を襲う。頭を優しく撫でられ、綺麗なマゼンタの瞳に見つめられながらお互い言葉もなく引き付けられるように、自然と頬擦りをする。


 (あぁ…。ほんっと罪な男…)


心の中で悪態を()くがいっそのこと勘違いしてしまおうと、この心地よさに身を任せる。抗う事が出来ない。いつだって、思いとは裏腹にまるで操り人形の様に、求めてしまうから。










―――――――――――――


 パンッ!!


 「シアラお嬢様ワンテンポズレていますよっ!それと背中は伸ばす!!」


 トンッと背中を叩かれ、猫背を矯正させる。


 「はぁっ、はぁ。ちょっとヴィンセント、休憩挟まない?」


 「何を仰っているのですか?先程お茶を召し上がったばかりではありませんか!」


 「さっきは休憩に入りません!水分補給をしただけだわっ!!」


 「シアラお嬢様、では水分補給だと言うわりにはお茶を召し上がった後、ソファーに横になっていたのを(わたくし)は見逃していませんが?」


 「う゛ぅ゛」


 「さぁ、もう一度ステップのおさらいを致しましょう。ワン ツー ワン ツー」


 手を叩きながらステップのリズムを奏でるヴィンセント。ヴィンセントとの同居生活が始まり早三週間。身の回り世話、家事、炊事全てをこなすこの執事との生活も漸く慣れてきた。学園から帰ると美味しいご飯が用意されているのはとっても嬉しい。…けど、この執事─────ダンスレッスンがスパルタ過ぎるっ!!!!


同居生活初日のダンスレッスンの日は終わった後、全身筋肉痛で暫くは歩くのもしんどい程筋肉痛が痛い。学園内では少しでも痛みを感じないようにゆっくりそろーりと歩いていると久しぶりにラズリに声を掛けられ……


 「シアラ怪我したの?老婆みたいな歩き方になってるわ。怪我の痛みがあってもちゃんと歩かないと品が無いわよ」


と、注意された。久しぶりの会話がこれって…。ラズリのことだからよっぽど私の歩き方が変で、声を掛けずにはいられなかったんだと思う。思い返せばすれ違う生徒達が若干遠巻きに離れて歩いていたし…。見兼ねて声を掛けたのなら、やっぱりラズリは優しいな~。

 そういえば、ラズリが中庭でヒロインイベを発生させ、ジークに怒られて以降もちょくちょく細かい意地悪をリリーに行っていたと。でもその内容が余りにも可愛くて…。とある日の料理教室でリリーさんが───


 「ラズリ様は本当にお優しい方です。先日、課題を教室で終わらせてしまおうと残っていたら“早く帰りなさい。これから土砂降りの雨が降ってびしょ濡れになるわよ。まぁ、その方が貴女にはお似合いかもね”って。そのまますぐに帰り支度をし、寮に帰った途端天気が悪くなり、土砂降りになったんです。部屋に入った瞬間だったから間一髪でした~」


 リリーさんが言うには、一言多いけどいつも気にかけて、時には注意もする。見て見ぬふりをしない優しい方だったと…。きっと取り巻きのお嬢達がいる手前、私と身分が違うから嫌味に聞こえる様にわざと言っているんじゃないかって。


 ラズリ…貴女って奴は…ホロリ。全然、悪役令嬢じゃないじゃないっ!誰よりも優しくて、立派な育ちがいいお嬢様だわ。流石私の親友!!…最近はお昼一緒に過ごさなくなってから話もしないし、遊びにも行ってもいないけど、ね…。


 乙女ゲームをプレイした日々を思い出す。公式では正直、小言では済まないことをやっていたけど(変な噂を吹聴、物を隠す捨てる破くetc…)、転生先(この世界)では私が知る限りで変な噂を耳にした事はないし、リリーさんも物を紛失して探す行動も見たことがない。だとすると、ラズリの中で何か気持ちの変化があった?だとしたら、私が転生(いる)意味も悪くはない。


 色々と転生してきた意味を考察していると、ハッと思い出す。呑気にダンスパーティーに参加している場合じゃないことを。今の状況を一旦整理しよう。

そう、私はこの乙女ゲームの悪役令嬢【ラズリ・アーサー】のクラスメイト取り巻きモブ女(プレイ時にモブ女Aと勝手に名付けていたことから以後モブ女Aとする)。この世界(乙女ゲーム)に転生するまでモブ女A(この娘)の名前と容姿も知らなかった。ラズリがシャルロッテ(ヒロイン)をいじめるスチルに少しだけ登場していたが目元が描かれていなかった。顔さえも描かれないモブ中のモブなのだ。ねぇ、ハ〇太郎?そうなのだ!へけっ!!と子供の頃に観たアニメのハムスターが脳内で返事をした。


モブ女A()自身のことは大体理解した。だが、問題はここからで、何故だか分からない、本当になんでこんな展開になっているのか…。勘違いであってほしいと願う程に……。


 どうやら私は攻略キャラクターから好意を寄せられている。その所為か、なんと私がシャルロッテ(ヒロイン)が攻略キャラと発生させるイベントをシャルロッテ(ヒロイン)の代わりに発生させ、スチル展開を行ってしまう…。決してわざとでは無く、自然に展開させてしまったから対処の仕様がなかったのだ。


そして不思議な現象、この乙女ゲームで非公式な事が起こってしまう。この乙女ゲームは攻略キャラクターと交流を深める為ストーリーを進めるごとに選択肢が表示され、この選択肢を駆使しながら攻略キャラクターの√を確定していく。初めから攻略キャラクターを選んでからプレイする仕組みではなく、まずはお目当てのキャラクターの√に入らないといけない。だから選択肢次第ではお目当てのキャラクターに辿り着けず、ハッピーエンドを迎えない時もある。しかし、その選択肢の中には√確定の選択肢が存在する。その選択肢を選ぶと確実にお目当ての攻略キャラクターの√に入れるようになっている。(当事者比率)

これを踏まえた上で、今置かれている状況は摩訶不思議。だって全ての攻略キャラクターの√確定になった世界。そして√確定後のイベントをヒロインではなく、モブ女A()がスチル展開させ、確定に導いてしまったのだった。


???????はぁ???????


 何故、こうなった…。こんな世界線望んでないのだが?!

考えられる原因としては、“私”という転生者が入り込んだから歪みが生じてしまった…?通常ならば一人ずつしか攻略不可能な世界線が同時に何人もの世界線が交ざり、√確定が引き起こされた……?


 そもそも、一番の原因は────


 「攻略キャラから求愛を受けていること」


 パンッ!!といきなり乾いた音が聴こえる。その音を辿るとヴィンセントが手を叩き、ダンスをしていた足が止まる。


 「シアラお嬢様、集中力が欠けていますよ。少し、休憩に致しましょう」


 ヴィンセントはテーブルに置いてあるタオルを渡し、キッチンへ向かう。


 「はぁ~」


 汗を拭きながらロングソファーに寝転がる。


 (今日もまた筋肉痛になりそう。お風呂でしっかり足をマッサージして…。あ、そうだっ!!これからはこの方法で切り抜けられる!!この世界(乙女ゲーム)で穏やかに過ごすには、これしか無い)


 そう、ある方法が頭に浮かび、実践してみようと思う。これできっとリリーさんはロキと───

ふと、ソファーの向かいにあるローテーブルの引き出しから香水を取り出す。綺麗なオーロラ色で見ているだけで癒し効果がある。


 「疲れたから、落ち着く香り降り撒いておこう」


 この香水は前世で好きな金木犀の香りがする。野生の金木犀の様な、金木犀の木に近づくと自然と香るあの香り。シュッと手首と耳裏に吹きかける。付けた瞬間辺りが金木犀の香りに包まれる。


 「ん~いい香り~♪」


 金木犀の香りを嗅ぎながら次第に瞼が重くなっていく。


 「……ダンスパーティー迄にこの方法を試して…なんとしても穏やかにこの世界を満喫すr……」








―――――――――――――


 「シアラお嬢様、お茶をお持ち致しました。ピーチティーでございま…」


 ソファーにいる筈のシアラお嬢様に声を掛ける。だが、返事はなく、代わりソファーの上で仰向けになってスヤスヤと寝息が聞こえてくる。


 「はぁ…全く淑女がソファーで眠るなどと」


 俺はぶつくさ言いながら近くにある膝掛を彼女に掛けた。


 「無防備にも程があります。貴女は俺が何もしないと思っているんですか?」

 首元まであるレースのボタンを外す。


 「はぁ…。またロキ様に襲われても知りませんよ。大体、シアラは隙が多すぎる」


 レースの締め付けが無くなったからなのか、気持ち良さそうに眠っている。


 「───前世でも、そうでしたか?」


 頬にかかっている髪を耳に掛ける。


 「ねぇ、      」


 ふと、ローテーブルの上に置いてある香水瓶に目が止まる。


 (オーロラ色の液体?!)


 今迄目にしたことがない液体に自然と香水瓶を掴んでいた。蓋を開け、手首に吹きかける。


 (…っ!この香り!!)


 ソファーに目を向ける。


 (あぁ、貴女が……)


 ソファーに行くと、体温が感じる距離に近付くと、未だ寝息を立てて眠っている。髪を撫でると、心地良いのか時折微笑む。


 「貴女でしたか。魔女の祝福を授かったのは…」


 そっと、唇を寄せ口付けた。


 


 




 

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