久方振りのエンターテインメント
夏休みも残り一週間となったある日。私はここのところ課題に追われ、丁度終わりが見えてきた頃、開けていた窓から外からヒヒィーンと馬の鳴き声が聴こえ、馬車が止まる音がした。その後、すぐに正門の呼び鈴が鳴った。
チリリリン♪
(ん?お客様かな?今日の予定では来客はない筈だけど……?)
課題が終わりの一息としてお茶を飲んでのほほんと過ごしていたらコンコンッと部屋の扉を叩く音が響く。
「シアラお嬢様、ロキ様がおみえになっております。お見えになっております。客間にご案内致しましたが、お部屋の方にご案内致しましょうか?」
(……ロキが、また──)
ロキが突然訪れたあの日を思い出す。咄嗟に両肩を掴み、震えを抑える。背筋からは夏なのに冷たい汗が伝った。
(──ヴィンセントにあの日の記憶を抹消して、記憶の改竄を施した。だから、あの日の事はロキは覚えていない。だから…大丈夫、だよね…?部屋はあの日の記憶が過ぎってしまう……。客間に移動しよう)
「客間に行くわ」
「かしこまりました。では、早速準備致しましょう。失礼致します」
ガチャと扉が開くと──
「あ、メアリー課題がやっと終わったのよっ?すごいでしょ♪やれば出来るんだわ!!」
メアリーに課題が積み重なったテーブルを指差しながら自慢げに話す。そんな姿を見るなり、メアリーは額に手を当て、「はぁー」と溜息を吐く。
「はぁ…。シアラお嬢様、課題に一生懸命向き合っているのは存じております。でも、その格好はどうにかしてくださいましっ!」
ビシッとメアリーの人差し指が私を指す。
ぐぬぬぬぬ、何も言えなぬ。だって今の私の格好はネグリジェでもパジャマでもなく、上下ぶかぶかのスウェット姿だから。実は夏休みの最中、何度か下町にお忍びで買い物に訪れた。その際セール品として叩き売りされていた前世での私の部屋着“スウェット”が売っていたのだっ!!
この世界には不釣り合いな衣類だからか輸入品なのか安すぎてその場で纏めて何枚も即購入。サイズがバラバラだったがどれも大きくて、程よいダボ感でまさしく私の愛するスウェットだった。
購入した日に、メアリーと交渉を行い、予定が入っていない日、自室でのみ着用OKと了承を得た。メアリーは渋々首を縦にした、今日の様に溜息を吐きながら───
「メアリーも一度着てみたらスウェットの良さが分かるわ。この服締め付けが無くて着心地がいいのよ」
「いえ、私は結構ですわ。まだネグリジェやパジャマなら可愛らしいのに無地のダボダボ服はシアラお嬢様に似合わな過ぎて…。あぁ、旦那様、奥様申し訳ございません。私の教育が行き届かず…」
額を押さえながら、再び溜息を吐く。
「さぁ、ロキ様がいらっしゃってます。着替えますよ」
コツコツと私の方に向かい、メアリーはガシッとスウェットを掴むと勢いよく上に引っ張り上げた。
――――――――
部屋着用のドレスに着替え、軽く身なりを整えてから客間へ。客間にはローテーブルがあり、テーブルに向い合せてロングソファーがある。客間に着き、扉を叩くと中からヴィンセントが扉を開け、奥にあるロングソファーへと案内をした。ヴィンセントについていくとロングソファーに座り、優雅にお茶を飲むロキの姿があった。客間の窓から入る日差しによってきらきらと輝く金糸の髪、海を思わせる碧眼の瞳、艶やかな唇。お茶を飲む度、体温が上がるのか唇がほんのりピンクに染まっていく。ティーカップのハンドルに掛ける指はすらりと長く、爪先まで整えられている。そしてその表情穏やかに微笑んでいた。
(お茶を飲むだけでも絵になるな~)
「ロキ様、お待たせしてしまい申し訳ございません」
ロキの向かい合わせのロングソファーまで行くと、ドレスの裾を持ち上げ、片足を引き、上体を下げ、一礼をする。
「シアラっ!!俺の方こそ急に訪ねて悪かったね」
ロキは立ち上がると私の元まで駆けて来る。そして、私の手を両手で包み込み、穏やかに微笑んだ。
「いえ、そんな…」
私はそっと掴む手を停止すると向かい合わせのロングソファーに座る様促す。ロキが座るのと同時に私もソファーに座る。
「ところで、シアラ今から演劇を観に行かない?」
「今からですか?」
「うん。先程、知り合いからチケットを譲り受けてね。調べたら公演日が今日だったんだ。勿論、シアラの予定が空いていたらの話だけど…」
演劇っ!!気付けば私、この世界でエンターテインメントに触れていない。この世界自体がエンターテインメントだから今まで気にしていなかった。けど、この世界だって演劇はある。うわ~観に行きたいっ!!なんせ私は前世では2.5と呼ばれる部隊が大好きで舞台俳優で活躍する推しをよく観劇していた。
(返事?そんなの決まってる!!)
「是非っ!!!!!!」
――――――――
ロキに支度をすると伝え、急いで部屋に戻る。装飾が付いた豪華めのドレスに着替え、ヘアメも少しばかり派手目にとオーダーするとメアリーが仕上げていく。ふと、テーブルの棚に飾っていたオーロラ色の香水が目に入る。
(折角だから)
綺麗なガラス細工が施されている蓋を捻り、外すと一吹き首筋に吹きかける。トップノートはキツめだけど、ミドルノートから金木犀の香りが広がっていく。
「シアラお嬢様、アクセサリーをお持ち致しました」
メアリーの手には、金木犀の様な小ぶりな花に小さなダイヤが埋め込まれいるアクセサリーをせっせと私の首や耳を華やかにしていく。
「ありがとう、メアリー」
――――――――
駆け足で外に出ると、ロキが馬車の前で待っていた。そよ風が彼のコートを翻えす。
「ごめんなさい。お待たせ致しました」
「いや、いいんだよ」
馬車の前には台座があり、ロキはその台座に足を掛けると振り返り、すっと手を差し出した。
「さぁ、シアラ手を」
「えぇ」
私はその手を取り、馬車に乗り込んだ。
――――――――
ヒヒィーン
パカパカパカパッ
馬が鳴き声と共に段々と走るスピードを落とし、次第に緩やかになり停止する。
「どうぞ、ロキ様」
コンコンッと馬車の小窓を御者がノックをし、扉を開ける。ロキは慣れた動作で馬車を降りる。そして御者はロキが降りるのを確認した後、馬車の反対側に回り込み、ノックをする。扉をガチャと開ける。
「シアラ、手を」
待ち構えていたのは御者ではなく、先に馬車から降りたロキいた。
「あ、ありがとう」
ロキの手を取り、台座に足をのせ、地面に着地する。ロキは私がよろけない様にすかさず腰に手を添え、スマートなエスコートを行う。
(流石は第二王子。エスコートはお手の物ね)
前世では非モテ喪女だった為、男性の方にエスコートしてもらったこともされたこともない。だが、乙女ゲーム(この)世界に仮にも男爵家のしがない令嬢に転生してからパーティーにお呼ばれをされ参加した。その時に何回かエスコートされている。でもそれも片手で数える位の少なさ。
(未だに慣れないから不覚にもきゅんッとしてしまう…)
高鳴る胸を押さえ、ロキが手を引くまま歩いていると────
「うわぁ~~」
そこには、ヨーロッパ基調の綺麗な建物があった。
(うわぁ~世界遺産に登録されてもおかしくない会場だよっ!!ステンドグラス風の窓もあって綺麗!!)
「会場、気に入った?」
会場を見て、余りの綺麗さに惚けていた。ロキの問い掛けにふと我に返る。
「はい、とっても♪外観がキラキラしてて綺麗で…まるでお城みたい──」
「ここはね、あの有名なシェイクスピアのロミオとジュリエットをモチーフにした建物なんだ。だからほら、そこのベランダ───」
会場の建物は二階の中央に大きな窓があり、その窓を出るとベランダに繋がっている。
「もしかして…あの、名場面のシーンが再現出来るの?」
「そうだよ。ロミオとジュリエットを公演する際はキャストが実際にこの場所を使って演技するのが定番なんだ」
「そうなの?!とてもロマンチックだわ!!是非とも見てみたいわっ!!」
ゴーンゴーン
突然、鐘が鳴る。
「シアラ、開演の合図だ。座席に向かおう」
「えぇ、急ぎましょう」
私達は、急いで会場内に入り、座席へと向かった。
――――――――
「う~~ん。すっごく良かったわ~~♪」
観劇後、二人で会場のロビーへ向かう。
「気に入ったみたいで誘って良かったよ」
演劇は、ジャンル分けすると前世でいうミュージカルだった。ストーリーは全体的にコメディーテイストで話が進んで行く。でも場面が切り替わる瞬間にシリアスな展開となり、最後にはハッピーエンドで締め括るとても満足な舞台だった。ミュージカルだからセリフも歌う様に喋るのかと思っていたが、セリフはセリフ、歌は歌ときっちり分かれていた。
(乙女ゲームの世界では演劇は魔法で照明や小道具を操っていた。でも根本的は全然前世と変わらない。お芝居はどこの世界も観いて楽しい!!あぁ~久方ぶりのエンターテインメントは最高っ!!)
前世の趣味を転生してからまた楽しめるなんて…。思ってもみなかったことでつい、嬉しくて気持ちが溢れてくる。
「シアラ、物販こっちだよ」
目頭を押さえ、少しだけ滲んだ目をハンカチで拭うと、物販会場へと掛けて行く。パンフレットを購入し、会場を後にした。
――――――――
「ねぇ、シアラこの後食事に行かない?」
停車している馬車に向かう途中に、唐突にロキが訊いてきた。
「奇遇だわ。ちょうどお腹が空いて何か食べに行きたいなと思っていたの」
「ははっ!!それは奇遇だ。じゃあ行こうか」
ロキは軽快にクスクスと笑い出す。つられてこっちも笑ってしまう。行きと同じ様にロキは私に手を差し出し、馬車までエスコートをし、馬車に乗り込む。ヒヒィーンと馬が鳴くと馬車は勢いよく走り出した。
――――――――
ヒヒィーン
パカパカパカパカッ―――キュッ
馬が鳴くと、次第に足音が消え、緩やかに停車した。
「着いたよ、シアラ」
ロキは一足先に馬車から降りると、反対側の扉を開け、手を差し出す。その手を取り外に出るとそこには─────
「かっ、可愛いぃ~~♡」
そこには、パステルカラーで彩られた建物があった。窓を覗くと、店内はロココ調の家具で統一され、壁紙やカーペットにはお花柄。薔薇の彫刻があちこちに施され、まさしくアフタヌーンティーにお茶会に参加するロリータやゴスロリをお召しのお嬢様が過ごす上品且つ可愛いが溢れている空間が拡がっていた。
(何より、ここは─────)
私は、隣にいたロキの袖をすかさず掴む。
「ロキ…ここは私が好きな喫茶店なんだけど何故知っているのかしら…?何処で知ったの?」
「ん?なんでだろうねぇ~」
腕を組みながら意地悪な微笑みを浮かべる。あ、これは確信犯だな。この喫茶店は見た目の派手さはあるが道沿いより離れた森の麓に所在する。人通りが少ないこともあり、隠れ家をコンセプトにお茶会を静かに過ごしたいお一人様にもとっておきな喫茶店だ。私も数回だけ利用したことがあるが毎回外観が可愛くていつも可愛いと気付いたら口から発してしまう。
「さぁ、予約しているから入ろう」
ロキは、さも自然と当然の様に手を繋ぎ、扉を開ける。店内に入ると、店員さんに窓側の隅にあるテーブルに案内される。店員さんが椅子を引き、ここに座る様促す。ロキと向かい合わせで腰掛けると、テーブルに広げてあったメニューを見て、注文を行う。
「──ご注文は以上です。すぐにお持ち致します」
ツカツカッと足音が遠ざかる。店員さんが置いていったティーセットから紅茶を注いでいく。
「ロキ、今日はお誘いいただきありがとうございました。とっても楽しかったわ」
「ははっ!!何を改まって。俺の方こそ当日にも関わらず一緒に観劇出来て楽しかったよ」
「楽しかった!?あー安心した…。私だけ楽しんでないか心配だったわ。ロキは普段から観劇に行くの?」
「付き合いで行くことが多いかな。いつもは仕事上の相手と観に行くから楽しいと思わない。物販だって並んだりしない。でも何だか今日は──」
手元にあるティーカップを持ち上げる。
「楽しいと感じた。シアラが居たからだろうね」
碧眼の瞳が真っ直ぐ見つめる。その瞳に吸い込まれそう……。
(ダ、ダメだ…。沼る──)
視線を逸らし俯くのを隠すように急いでティーカップを持ち、ミルクティーを飲み込んだ。
――――――――
食事を済ませ、馬車に乗る。馬車が走り出すと、おもむろにロキが喋り始めた。
「──シアラには伝えて置かなくてならない事があるんだ」
「ん?何かしら?」
「───実は、13人全員婚約者候補を解消しようと思っている」
ドキッ
「そ、そうなんだ」
「まだお父様には報告していない。正式に決定次第婚約者候補解消の手紙を送る。……シアラは婚約者候補解消についてどう思う?」
「えっ!!私は………」
悟られない様にあくまで一意見としてゆっくりと喋る。
「私は……、異議なし。ロキが決めた事であれば受け入れるわ。多分、他の婚約者候補も半数は承諾してくれると思う」
「そう──。うん、そうだね。婚約者候補が納得するよう解消に至った経緯を説明出来るように考えておくよ」
うんうんっと首を縦に振る。いつもと変わらない柔和な表情で。私の意見にリアクションは無かった。
「そもそも何故私は婚約者候補に入っているの?他の12人は皆、爵位も高く広い領地を管理している有名なご令嬢ばかりだわ」
目の前の彼は顎を持ち、「う~~~ん」っと眉間に皺を寄せて悩んでいる。
「婚約者候補は俺とお父様が選抜した。候補者は爵位順に並べられご令嬢の情報と共に検討した。始めは12人だった。だけど……」
澄んだ碧眼と目が合う。
「───俺が、貴女を最後の候補者に選んだ。シアラ」
「えっ……?」
条件反射でロキの方を見ると、目の前にはいつもの柔和な微笑みを浮かべる彼ではなく、真剣な表情で碧眼の瞳が真っ直ぐに射貫くように見つめる。
「……………………」
「まぁ、正直なところお父様がもう一人増やしたいと仰ったから数合わせで」
ふっと、顔を綻ばせるとくすくすと笑いだした。
ガクッ
さっきの雰囲気と打って変わって真剣な表情は何処かに飛んで行ってしまったみたいにロキは笑っている。
(ま、まぁ数合わせだろうなと思ってた。男爵家のパッとしない令嬢が選ばれただけでも幸運なことよっ!!一先ず、これでヴィンセントの記憶の改竄は成功していた)
――――――――
馬車が走り出して数分が経ち、屋敷が見えて来た。正門の前に馬車が止まる。止まった合図で、正門の柵格子が左右に開く。今日一日ずっとロキにエスコートされて沼に落ちそうになった。もう屋敷の前だから自ら扉に手を掛け降りようとすると───後ろから手首を掴まれる。。
「…ねぇ、シアラ」
耳元で囁く。
「本当は、数合わせではありません」
吐息が混じりの声色が脳内に響き、不覚にもときめいて心臓の鼓動が高鳴る。掴まれていた手首が解放される。けどすぐに指に指が絡みつく。
「……俺が、シアラを選んだ。───独断でね」
「えっ!!」
振り向いた瞬間、ロキは絡めた手を引き寄せそのまま左の薬指へとキスをした。
チュッ
コンコンッ
扉の小窓からノックの音が鳴る。ロキは御者に合図を送ると、開いた扉から馬車を降りていく。そして反対側に回ると扉を開け、手を差し出す。その掌にそっと手を重ねると、力強い力で引き寄せられる、気付くと腰に手を回されロキの腕の中にいる。
「──次は正式な、デートのお誘いをしますね」
チュッ
吐息が耳にかかる距離で囁き、耳にキスを落とすと身動き出来なかった身体が解放される。
「では、学園で」
何事もなかったかのようにロキはそう言って、馬車に乗り込んだ。
――――――――
馬車に乗り込むと、小窓からシアラの様子を窺う。彼女は耳を押さえながら正門に入る。
(あ〜あ、顔も耳も真っ赤にさせちゃって)
学園の寮で、シアラは不意打ちに弱い事を知った。あの時はシアラの部屋に上がれたことが嬉しくて浮かれてあんな行動をとったけど、今日は違う。
───婚約者候補解消にシアラは賛成した。俺が決めた事なら受け入れると…。まるでお手本の回答の様にシアラは言った。その応えに自分でも驚く程、傷付いた。だから、拗ねてあんな行動をしてしまった。俺らしくもない。らしくない行動に乾いた笑いが出る。
シアラを見ていると突然、彼女が振り返り、視線が合う。シアラはすぐさま顔を逸らし、屋敷へと進む。
一瞬だが、しっかりと見た。───シアラの表情を……。
潤んだ瞳、赤みを帯びた頬、控えめに開いた艶やかな唇。その動揺した顔は───
(早く認めなよ。その表情が肯定している。だから──)
「…俺の、姫になって……」
ズキッ
急に頭を突き刺す頭痛がっ!なんだこの痛み……っ!!するといきなり脳内にシャルロッテの顔が浮かぶ。まるで今日一日シアラと過ごした時間を上書きするように頭の中をシャルロッテが占領していく。
「ぐあっ!あ゛あ゛、ア゛ッ!!」
(なんだこの頭痛はっ!何故今、シャルロッテの顔を思い出すんだ…ッ!!)
頭痛は酷くなっていく。
(もう、シャルロッテの事しか考えられないっ!!あの娘に会いたい今すぐっ!!)
すっと涼しい風が吹き抜ける。すると頭痛が次第に治っていく。嗚呼、そうか…俺は───
「シャルロッテが好きなんだ」
一筋の雫が頬を伝った。
――――――――
(なにあれなにあれなにあれなにあれ)
屋敷に戻り、すぐさま自室へ向かうと私はそのままベッドへダイブした。そして先程のロキの行動に、きゅんきゅん♡した自分が許せないでいた。
(ああああああんなのはロキにとっては挨拶程度だよ!ほら、他国によく訪問するし(?)外国の方の挨拶(?)かなんかだよ!!!!)
「あはっ、あは、あはははははははははっ!!!!!!!!」
ア゛ア゛ア゛ッ変な笑いが止まらない~。
「そ、そうだあれだよあれ!!!!からかっただけ!うん!!そうきっとそうだっ!!!!」
無理矢理理由を付けないと情緒を落ち着かない。だって───
「きゅんきゅん♡して心臓バクバクになって流石推し様々だよ!!あははははははははは」
───だって……
「薬指にキスするって、あれ私が一番すきなスチルのシチュじゃん!!そりゃときめくわ!!心臓バクバクにもなりまっせ!!ときめかない訳がないっ!!!!」
───ん?
「待って、スチル?」
嫌な予感がして、私は鍵の掛かった引き出しからこの乙女ゲームの攻略法を書き込んだ丸秘ノートを取り出す。パラパラと各攻略キャラの√とスチルを記入したページを開くと───
「───やっぱり…嫌な予感、的中……」
順を追って状況を整理してみよう。
まずは、ジーク。直近の彼との記憶は【海辺で告白】ノートを読む。
→ジークがヒロインに告白 “海辺を背に告白するジークスチル”
次にフラン。直近の彼との記憶は【妖精国でお茶会】ノートを読む。
→フランがヒロインを妖精国に招待し、二人でお茶会“夕日の丘でお夜会スチル”
最後はロキ。直近の彼との記憶は【左手の薬指にキス】ノートを読む。
→ヒロインとデートの帰り、馬車の中で手首を引き寄せられ、絡めた指“左薬指にキスをするスチル”
────これは、つまり……………………
「……私がヒロインになってスチル展開させた???」




