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何かが動き出す夏休み

※筆者はコ〇ケに参加したことがありません。あくまで作品内のフィクションの催し物だと思っていただければ幸いです。


 気付けば春が過ぎ去り、季節は夏の準備に入ろうと木々達は新緑の葉をつけ、太陽の光を取り込み瑞々しい輝きを放つ。この季節になると夏休みが待ち遠しくなる。そんなある日──


 「そして、このオムレツを上にのせて完成ー!!」


 「わぁ~オムレツを開いたらふわトロ卵に変身するなんて」


 「早速食べましょう」


 「はいっ!!頂きます」


 パクッ


 「「お~い~し~い~!!!!」」


 オムレツをケチャップライスの上にのせて、そのままオムレツにナイフで横に切り込みをいれる。すると、トロトロの卵が姿を現し、ケチャップライス全体にトロトロ卵を纏う。二人してスプーンを突き刺し、掬い上げる。掬い上げたまま今度はお皿に海の様に広がっているデミグラスソースを絡めとり、二人して夢中で頬張る。


 (まさに、幸せのオムライスと言われているだけあるな~)


 と、前世で一度は食べてみたいと思って果たせなかった『たんぽぽオムライス』を作ってみた。


 ジークにランチを誘われたあの日、リリーさんに料理を教えることを頼まれた私は、料理教室として二週間に一回をペースに料理を教えている。料理教室が開催される日は決まってメアリーが来る日と併せて、メアリーから基本的な料理手順や調理方法を学び、一通りレクチャーした後は私が前世で実際に作っていたメニューや作ってみたかった料理をリリーさんと一緒に作る流れになった。今日でこの料理教室も五回目を迎える。

 オムライスはあまりの絶品でぺろりと平らげた。後片付けをする前にちょっと休憩がてら、何気なくリリーさんに話掛けてみる。


 「リリーさんは夏休みは何か予定があるのかしら?ご実家に帰省されるの?」


 「はい、ここからは遠い地域に住んでいますので長い滞在は出来ませんが、母の顔が見たくて帰ろうと思っています」


 「じゃあ、夏休みの間は料理教室をお休みにしましょう。私も屋敷(うち)で過ごそうと考えていたの」


 「そう言っていただけると助かります。ローズナイトさんには本当に感謝しています。料理教室でローズナイトさんやメアリーさんに料理を教えていただいてから、一人で調理しても毎回美味しいご飯を食べることが出来、なんだか身体の調子も良くなって日々健康に向かっています。実家に帰った際は母に教わった料理を振る舞いたいと思っています!!」

 

 両腕でガッツポーズをするシャルロッテ(ヒロイン)。やる気満々という様子で少し鼻息が荒くなっている。そこもまた可愛いので、小動物を眺める気分で優しい目をしてしまう。

 

 (仕方ない。この乙女ゲーヒロイン可愛いんだもん。当時はヒロインを攻略したいと思いながらプレイしていた。私の方が攻略キャラより幸せにするよって草)


 緩む頬を何とか元の顔になるよう顔中の筋肉、神経に頑張ってもらいながらお喋りに思考を戻す。


 「いやいや、そんな褒めても何も出ないよー。教えている料理は簡単で時短料理が多いわ。それに手の込んでいない料理しか教えられなくてこちらこそありがとうと言いたいわ」


 「いえっ!!ローズナイトさんは貴族のお嬢様だから手に入らない高価な食材ばかりを使用されると思っていたので…。実際はリーズナブルなどれも手に入りやすい食材や調味料で安心しました。折角、教えていただけるのに高価な物だと作るのも難しいなと思っていたのでとても助かります」


 にこにこと笑うシャルロッテはとてもピュアで幼い少女の様な無邪気な笑顔で話す。


 「お嬢様といっても私は男爵家の生まれだから、金銭感覚は平民と変わらないわ。それと、食材は安く手に入るに越したことはない。材料費を抑える事はなんやかんやで一番節約になるのよね」


 「そうですね。食費の節約は一番ピンチの時にどれだけ減らせるか真っ先に考えます」


 二人して腕を組んでうんうんと頷く。


 「あっ!!私ったら付け合わせのスープを忘れていたわ。待ってて温めて持ってくるわ」


 椅子から立ち上がり、キッチンへ急いで移動する。コンロを見ると、鍋があり、蓋を開けると玉ねぎがたっぷり入ったオニオンスープが冷え冷えになっていた。火をつけ、時折かき混ぜると玉ねぎとコンソメの香りが漂い、食欲をそそる。


 (さっきオムライス食べたのに、またお腹空いたな~。あ、昨日作ったクッキー残っていたかな?)


 キッチンの端に置いてある丸い瓶を見ると、その中にクッキーがある。クッキーの枚数を確認すると丁度二人分の量があった。ランチの後に、クッキーをお茶菓子にして、リリーさんとお喋りしようと考えた。───そう、彼女の気持ちを知る為に。


 攻略キャラ全員が攻略確定になったこの世界。でも、この世界事態は、乙女ゲームだ。

私は、一つ仮説を立てた。乙女ゲームの世界だから、ヒロインが好意を抱いている攻略対象のキャラクターの√にシナリオが進むのではないか?──と。いくら世界に歪みが生じていてもここは乙女ゲームの世界。だったらヒロインを中心にシナリオも進む。この仮説が正しければ、彼女のシャルロッテの気持ちを確認することで導き出されるのでは?!


 (ものは試しだっ!!)


 鍋の蓋がコトコトと音を立てる。それを合図に、蓋を開け、先程の冷え冷えとしたスープではなく、熱々の湯気がたつスープをお皿によそっていく。木製のトレーに二人分の銀食器のスプーンとお皿を載せるとリビングに運んだ。







――――――――


 オニオンスープを食べ終え、キッチンの片付けを二人で協力しながら終えると一段落と称し、お茶会を提案した。私はお気に入りのティーカップとソーサーを準備する。ティーポットに熱湯を注ぎ温め、温めた熱湯は捨て、茶葉を入れて再びお湯を注ぎ蒸らす。蒸らした状態のティーポットとティーセットとお皿に盛ったクッキーをワゴン載せ、運ぶ。リビングまで運ぶと、テーブルに広げ、ソーサーにティーカップをのせ、紅茶を注ぎ、リリーさんの前に置く。ソーサーの横には小皿に角砂糖とミルクを添えて。向かい合わせに自分の分のソーサーにのせたティーカップを置く。


 「紅茶はセイロンをご用意してみました」


 「わぁ~ありがとうございます♪」


 クッキーを盛りつけたお皿は二人の手が届きそうな位置に置く。


 「このクッキー、チョコチップクッキーですか?」


 「そうよ。チョコクッキーでも良かったんだけど食感を楽しみたいと思ってチョコチップを加えてみたの」


 二人してクッキーを手に取り、口にする。ポリポリとチョコチップの砕ける音がした。


 (さぁ、ここから本題に入りますか)


 答え次第でこの乙女ゲームの√がシナリオが判明する。誰の√になるのか。とうとうこの世界の行く道を知ることになるわくわくと、少しの緊張感が沸き上がる。この感情を悟られない様に、唾を飲み込み緊張を和らげ、喋り出す。


 「ねぇ、リリーさん一つ伺ってもいいかしら?」


 「えぇ、大丈夫です。どうしました?」


 そういう彼女はクッキーがよっぽど気に入ったのかポリポリ食べながら満面の笑みで答える。


 「──実は、私、気になっている方がいて…。その方ともっと仲良くなりたいと思っているの。でも、なんて声を掛けたらいいのか、いつも緊張してなかなか話せなくて──。もしリリーさんならこんな時どうするのかなって……是非何かいい方法があるなら参考にしたいと思ってて…」


 頬を赤らめ、少しばかり挙動不審の態度をし、恥ずかしさをアピール。恋する乙女(?)の可愛らしさを目指してみたけど、恋する乙女ってこんな感じ???

恋する乙女が分からず、目線をキョロキョロさせてガチの挙動不審になっていると───


 「まぁ、ローズナイトさん恋する乙女になられて……。わ、私で良ければ幾らでも相談にのります!!……上手く応えられるか分からないですが──」


 リリーさんは両手で小さくガッツポーズをして真剣な表情(かお)をしていた。友達思いのなんていい()なんだ……。


 「ありがとう。相談するだけでもとても心強いわ!ところで、リリーさんも気になる方はいらっしゃるのかしら?」


 リリーさんに訊ねるとポッと顔を真っ赤に染め上げる。なんとも分かり易い。


 「──はい。…実は、少し前から」


 (よしっ!!掛かった!!!!同じ共通点があるなら自然とこの流れに持っていきやすい。さて、ヒロインを射止めた本命は──)


 「まぁ、そうなの!?差し支えなければ、お相手との出会いを教えていただけないかしら?」


 そう言うと、彼女は益々顔を赤くする。潤んだ紅い瞳を戸惑わせ、どうしようか悩んでいる。ほんっと可愛い♡この反応こそが恋する乙女だよ~。うへへ、小動物みたいで可愛いな~と一人脳内でにやけたモブおぢになっていると、リリーさんの中で決心したのだろうか、小さく頷くと喋り始めた。


 「──実は、ロキ様にご招待された庭園のお茶会の時に……ロキ様に想いを伝えました」


 (っしゃー!!キターー!!!!ロキ√確定選択肢!!!!!あの時、二人の距離が近かったのはその為かーー!!!!予想的中勝ち確だぁぁぁぁ!!!!!!)


 「リリーさんの想い人ってロキだったの?!えっ、想いを伝えたって……告白したの?」


 「……はい」


 リリーさんは俯きながら消え入りそうな声で答えた。告白の答えは──


 「ロキの返事は?」


 「──お受け、して、くださいました」


 またもや、顔を真っ赤にして、紅い瞳はうっすらと涙を浮かべながら答えた。


 (あー、ちょっと罪悪感が襲うな~。ロキの返事知ってて訊いから無理して言わせてしまった。反省)


 「なんか無理して話させてごめんなさい。私ばかり質問してしまって……。でも、良かったわね。思いが通じ合うなんて素敵。私、二人の事陰ながら応援するわっ!!」 


 少し震えているリリーさんの手を両手で包み込むと安心したのかホッと胸を撫で下ろす。


 「ローズナイトさんはロキ様と仲がいいと伺っていたので、ロキ様のこと反対されると思っていました」


 「ううん、仲がいいのはどちらかというとラズリの方。私はラズリの付き添いでたまたまロキと面識があっただけ」


 「そうでしたか…。私にはお二人ともとても仲が良く見えたので…。少し妬いてしまいました」


 「安心して。私とロキはリリーさんが考えているような間柄ではないわ。幼馴染みたいな腐れ縁のような関係よ」


 (まぁ、婚約者候補の一人ではあるけど。候補なだけでロキがシャルロッテを受け入れたのならこの婚約者候補はいずれ解消される。要らない心配事はなしに越したことない)


 「……はい」


 目尻に涙を堪えながら、微笑む目の前の女の子は流石はヒロイン。その微笑みは辺り一面花が咲き誇ってしまう様な可憐な笑顔をしていた。


 (あー、私はシャルロッテのこの(・・)笑顔が好きだったなー。可愛くて素直で愛嬌があってザ・乙女ゲーの正当ヒロイン。間近で見ると破壊力ヤバいな。こりゃ、攻略対象も好きになるぜっ!)






――――――――


 学園では夏休みになった。私は一通りの荷物をボストンバッグに詰める。忘れ物がないか確認をしていると、外からヒヒィーンと馬の鳴き声が聴こえ、馬車の到着を知らせる。寮の窓から外を見ると、到着した馬車からメアリーが降りて来た。ドアから呼び鈴が鳴る。


 ピンポーン


 急いで詰め忘れていた荷物を詰めると、扉を開けに廊下を走る。


 ガチャ


 「シアラお嬢様、お迎えに上がりました」


 紺のロングスカートを持ち上げ、片足を後ろに引き、前かがみの姿勢で一礼する。流石はメイド長、礼一つとっても所作が綺麗だ。そんなに畏まらなくてもいいのにな…。立場的に難しいのは理解(わか)っているけど、たまには気軽に過ごしてほしいと思ってしまう。


 「メアリー、馬車の手配ありがとう」


 「いえ、久しぶりにシアラお嬢様がお屋敷にお帰りになるんですもの。早急にご用意いたしますわ」


 私の手からボストンバッグを受け取ると、ささっとメアリーに手を引かれ馬車の中に入るよう促される。メアリーと共に馬車に乗り込むと御者が扉を閉める。暫くすると、鞭の鳴り響く音が聞こえ、音を合図に馬がヒヒィーンと鳴く。次第に地面を蹴る足音が聞こえると、馬車は発進した。

心地よい揺れに揺られ、段々と眠気を誘う。座席もふわふわした弾力で、気付いたら瞼が重くなり、意識が遠のき夢の中に導かれた。




――――――――


 「シアラお嬢様起きてくださいっ!!!!」


 メアリーの声が微かに聞こえる…。あれ?何だか身体も揺すられて──


 「…ん?…あ…んん?」


 「シアラお嬢様っ!」


 ガッと肩を強く掴まれ、その衝撃で目が覚める。


 「はっ!メ、メアリー肩痛い!!起きた!もう起きたから~~!」


 「やっと目が覚めましたわ。シアラお嬢様、お屋敷に到着しましたよ」


 馬車の扉を御者が開ける。すぐさま、足元に足場を置き、地面に着地した瞬間───



 「「「「「「「「「「お帰りなさいませ、シアラお嬢様」」」」」」」」」」


 屋敷の使用人達が列を成し、一斉に出迎える。その光景が懐かしくもあり、嬉しさもあって───


 「ただいま、みんな♪」








―――――――


 さて、夏休み早々屋敷に帰省した私は、入寮する前と変わらない、いや元の生活を送っていた。寮では学園がお休みの日は昼まで寝ていたのだが……ここではそうはいかず、毎朝決まった時間にメアリーがティーセットをワゴンに載せ、「お茶をお持ち致しました」っと言って起こされる日々。

食事も屋敷(うち)自慢の料理長が腕によりをかけ、栄養バランスが考えられた料理を食し、とても健康的な生活を送っていた。


 そんなある日──私はどうしてもこの夏休み中に行きたい所があった。


 「うん!前世の服と同じ!!やっぱドレスより着心地がいいわ~。動きやすくて締め付けもない。楽だ~」


 レースの襟が付いた白のピンタックブラウスに、ライトブラウンの肩紐にフリルが付いたジャンパースカート。足元は厚底のスニーカー。レースのニーハイソックスと合わせカジュアルだけど上品さを加える。ヘアスタイルはサイドに編み込みを、つばが大きめの帽子を被ると───


 「今日のコーデは、下町の女の子風♪完成~」


 前世ではこんな感じのファッションをよく身に付けていた。


 私が何故いつも身に付けている私服がふりふりひらひらのドレス姿ではない格好をしているのかというと───夏休みに入る少し前、教室である(・・)事を耳にしたことから始まった。


 とあるクラスメイトのグループの談笑が耳に入ってきた。


 「ねぇ、知ってる?あの小説を題材にした妄想を自ら筆を執って書いている作家が存在するって」


 「えー、それは本家の作家とは違う方が()くのでしょう?違法ではないのかしら?」


 「それが、下町の噴水広場の側に裏路地があって、その裏路地を真っ直ぐ進むと魔法の扉が現れるの。扉の前でね合言葉を唱えると扉が開く仕組みになってて扉の中に入ると、沢山のお店があって、さっき言った妄想を自ら描いて本にして売っている沢山お店もあるんだって!!なんでもぎりぎり違法では無いけど、表立って売るような物じゃないからこうして参加希望の人だけ合言葉で入場出来るように配慮されているわ!隠れ家みたいで面白そうでしょ♪」


 「まぁ、凄いわ!!ねぇ、是非参加したいからその合言葉、私に教えてくださらない?」


 「その言葉待ってました!!合言葉は───」







――――――――


 そう、彼女たちが話していた“あの”小説は私の愛読書でもあり、今一番沼にハマっている本の話題だった。そして、話の内容からして作家以外が描いている本───つまり前世でいう二次創作、同人誌では?そうなると、勿論大人向けも存在する訳で───


 「ぐふふ、これは参戦しなくちゃね!」


 いつもの様に指を鳴らし、風の魔法を足元に集め飛ぶ。出掛けると書いたメモを残し、下町の噴水広場に着地する。噴水広場は下町の中でも人気のスポットでこの辺一帯には出店が沢山あり、ちょっとした観光地になっている。周りのお店には食べ物屋、お土産用の雑貨を取り扱うお店が並び、人通りも多くとても賑やかなだ。


 「う~んこの下町ならではの賑やかさ。懐かしいな~」


 下町を訪れるのは、実はこれが初めてではない。執事長のヴィンセントと昔、買い物ついでによく訪れていた。私が転生する前のこの娘()の記憶から見た景色は、狭い路地で屋台が所狭しと並んでいる。お祭りみたいでとても懐かしい記憶だった。

 

 辺りを見渡すと、クラスメイトが話していた、狭い人一人分しか通れない路地裏に辿り着く。


 (噴水広場の近くにある裏路地はここしか見当たらないわね)


 狭い路地裏を直進に歩いていると突き当りまで来てしまったのか行き止まりの壁が目の前に現る。


 (あれ?間違えたのかな?)


 行き止まりの壁に手を当てる。実はこの壁は鏡になっていて、わざと行き止まりの様に見せかけていると思い、壁をペタペタと触る。……うん、ゴツゴツとしてて手には白っぽい粉が付くから壁で間違いなさそう。他に、何か変わったところがないかともう一度壁に手を当てると、壁の中から豪華な立派な造りの扉が浮かび上がり、その扉は段々立体化してきた。


 「うわっ!!びっくりした~」


 いきなり目の前の壁から謎の扉が現れる。扉の前に立つと、何処からか声が聞こえてくる。


 『合言葉をどうぞ』


 「成程、ここで合言葉を言うのね」


 『合言葉をどうぞ』


 「合言葉は────」



    _人人人人人人人人人人人_

     >腐ってて何が悪い!!!!<

     ̄Y^Y^Y^YY^Y^Y^YY^Y ̄


 ガチャ


 合言葉を唱えた途端、扉が開いた。中を覗くと、光が反射しているのかとても眩しく、よく見えなかったがそのまま扉の中に突き進むことにした。









――――――――


 眩い光の中をぐんぐんと歩いていると、次第に眩しさが薄れ、細めていた目を開けると、そこにはコ○ケの景色が広がっていた。各々のサークルがテーブルに同人誌を並べ、側には手書きの値札が置いてある。


 (うわぁ~、これは前世でよく見たコ〇ケ会場だよ~~)


 辺りをキョロキョロと見渡すと、同人誌以外にも自作のアクセサリーや作品をモチーフにした雑貨を販売、所謂ハンドメイド作品の販売を行っているサークルも見受けられた。イラスト集もある。


 (ここは天国か?)


 そして、お目当ての私を沼に陥れた愛読書の作品を取り扱っているサークルスペースを見つけると一目散に駆け足で向かう。


 (ポスターがでかでかと貼ってあるから間違いないと思うんだけど…)


 こんなあたかもコ〇ケに参加したことがある様な(てい)だが、実は私は前世で一度もコ〇ケや同人誌販売会に参加したことがない。仕事が忙しかったのと、遠征になる為よっぽどのことがない限り休みが取れず、渋々参加する機会を逃してしまった。情報は全てSNSやネットのからだ。


 (まさか転生して参加できるなんて思ってもみなかった)


 「何かお探しですか?」


と、感動しながら、お目当ての作品を探す為、辺りをうろちょろしていたところ、魔女のコスプレをした売り子さんに声を掛けられた。


 「あ、いえ…」


 急に話し掛けられてコミュ障が発動される前に、違う所に行こうと歩き出すと、目の前に魔女の象徴の一つでもある大きなとんがり帽子が目に入ると、さっと道を塞がれてしまう。


 「お好きな作品はありますか?良かったら案内しますよ」


 「好きな作品は……」


 「それか好きなCPは?」


 (ぐいぐいくる売り子さんだなー。同じ参加者だからフラットに仲良くなるのがここの決まり(?)なのかな?まぁ、でも初心者だから訊いた方が安いいのかな?)


 意を決して訊いてみる。だって私はこれが目当てで来たんだっ!!


 「『星と月の狭間で』のリゲスピ作品はどこに売っていますか?」


 私が口にした作品とCPが意外だったのだろうか、魔女コスの売り子さんは口をポカーンと開けたまま、黙ってしまった。そしていきなり手をガシッと掴まれると両の掌に包み込まれ、身体を震えさせ俯いた。


 「ど、どうしましたか?お身体の調子が悪くな「そのCP、うち描いてるよ!!!!!!」


 気付いたら、魔女コスの売り子さんはさっきまで俯いていた顔を勢いよく上げる。ちょっ、顔が近いんだが……。


 「スペースこっちこっち」


 「ちょっ、待って!!」


 手首を掴まれたまま、引っ張られ人混みを避けながら、とあるスペースの前で止まる。


 「到着~!!さぁ、リゲルとスピカCP堪能しちゃって♪」


 そこには、『星と月の狭間で』リゲスピ作品がずらっと並べられていた。一冊手に取ってみる。


 (絵柄が綺麗で、表紙がホログラム加工になってこの作品の世界観にマッチしている。全部で5作品?5冊とも全てにこだわりがあって全買い決定ー!!!!!!)


 気が付けば足が勝手に列に並び、全ての同人誌を手に持ち、レジに向かっていた。


 「はい、お釣り。ご購入ありがとねー」


 レジにはここまで連れて来てくれた魔女コスの売り子さんがいた。そういえば描いてるって言ってたな…。レジに誰も並んでいないか確認する。よし、私の後ろには誰もいない。


 「あの…、貴女がこの作品を描いた作家さん?」


 「ん?そうだよ」


 「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ありがとうございますっ!!リゲスピCPはマイナーで中々作品をお目にかかれなくて探していたところお声掛けしてくださったお陰で巡り合えました!!今、最高に幸せですっ!ありがとうございますありがとうございます!!!!!!」


 私は前世の私に戻り、高速お辞儀をかまし、魔女コスの売り子さん=作者にお礼を述べる。まるで変人のキモヲタのように。前世の私だな!!


 「ははっ、そんなにお礼言わなくても。私もねリゲスピ作品少ないなって思って、需要と供給が合っていないと思ってさ。だったら自作するしかないって久しぶりに筆を執ったまで」


 私は手に持っている紙袋から購入した同人誌を取り出してパラパラとページをめくり読んでいく。久しぶりに描いたとは思えないクオリティで、且つストーリーも原作を壊さない程度に作り込まれている。よっぽど原作を好きじゃなければ作り出せない代物。もしや、天才では?


 「いや~もうこんなん天才でしかない」


 「あははっ!!言い過ぎだって!でも、貴女みたいに喜んでくれる人が居るなら描いた甲斐があるよ!!こちらこそありがとう」


 魔女コスの売り子さんは帽子を取ると、満面の笑顔になっていた。




――――――――


 「さて、これからどうしよう」


 コ〇ケ風の催しに繋がる扉から行きと同じ様に眩い光の中を進んで行くと、見知った狭い裏路地が見え、いつの間にか外に出ていた。折角、一人で外出(いつも学園外では必ず誰かが付いている)したから帰るのが惜しい。伸び伸びと羽を伸ばせるチャンスだから何処に行こうかなと思い、ひとまず噴水広場のベンチに腰掛ける。お目当てのCP同人誌を手に入れて大満足♪本当はすぐにでも読みたいけれど、屋敷(いえ)でじっくり読むとしよう。


 「はぁ~、ほんと綺麗。これを自作するって全ての作家さん皆天才だわ」


 私は思い立った様に紙袋から小さい包みをとり、香水瓶を取り出す。中には透明な液体に見えて、陽の光に翳すとオーロラ色をしている不思議な香水。雑貨コーナーのスペースで一目惚れし、購入した。スペース内は魔女が製作している雑貨をコンセプトにしていて、少し暗かったこともあり、ポップに書いてあるオーロラ色が分からずらかった。それなら外で陽の光に当てると益々綺麗だろうなと思い、実際に今試してみようと取り出した。


 (そういえば、ここの店主が珍しい香水だから肌身離さず持っていた方がいいと言っていたなー。それと、香水を纏った日には幸運が舞い込むって言っていた。花言葉のように材料に何かあるのかな?不思議な香水ね)


 ポンっと香水瓶の蓋を開ける。鼻を香水瓶に近付けると懐かしい前世の秋によく嗅いだた金木犀の香りがする。私が好きな匂いの一つ。試しに耳の後ろと、手首に吹きかける。辺りが金木犀の香りに包まれ、とても落ち着く。


 (さてっと)


 噴水広場の時計を見ると、お昼にもなっていない。


 (折角下町を訪れたし、店が混む前に喫茶店巡りでもして帰ろうかな)


 香水瓶を元々入っていた包みに仕舞い、紙袋とバッグを持ち、ベンチから立ち上がると────


 「シアラーーーー!!」


 私を呼ぶ声が何処かから聞こえる。


 (あれ?おかしい…。今日私がここに居ることは誰も知らないはず……)


 声は段々近付いて、同時に足音も聞こえてくる。そして背後に人の気配を感じると───


 「シアラっ!!やっぱりシアラだ」


 振り向くと、そこにはジークが居た。


 「ジ、ジーク?!」


 かなり走ったのだろうか、額には玉の汗が浮いて、息も上がっていた。







――――――――


 「こんな所で会うなんて奇遇ね」


 「そうだな。学園内で会うならまだしも、こんな所で」


 冷たいアイスティーを飲みながら目の前のジークは私に会ってからずっとにこにこしていた。何がそんなににこにこする要因があるのか分からないが機嫌がいいようだ。

 私とジークは近くの喫茶店でお互い向い合せでテーブルに着いた。


 「お待たせしました」


 店員がサンドウィッチとパスタを運んで、テーブルに並べる。


 「シアラこそ下町になんの用だったんだ?もしかして、それか?」


 ジークは私が持っていた紙袋を指差す。


 「えぇ、そうよ。丁度新刊の発売日が早まって、いつもなら使用人にお願いして買って来てもらうの。でも、待ちきれなくて自分で買いに来たの」


 「ふ~ん。ここは観光名所で人通りが多いからぱっと見安全に見えるが危ない所もあるからな。仮にもお嬢様なんだし」


 「ちょっと!!それどうゆう意味よ!!男爵家だけど、貧乏令嬢だけど、一応お嬢様してるわよっ!!」


 「ははっ!!シアラがお嬢様って十分理解(わか)ってるよ。でもな、シアラは他の令嬢とは違う」


 「ん?あぁ、寮に使用人を連れていないところ?」


 「いや…。そうじゃない」


 「あ、もしかしてラズリと比べてる?ラズリはね、令嬢の中の令嬢。家柄も含めてね」


 「まぁ、ラズリ嬢は別格だな。この国でアーサーの名を知らない国民はいない。令嬢の中では憧れの的だろうな」


 「そうね。ラズリはレディとしての振る舞いは目を見張るもの。教養が行き届いて何処に行っても恥ずかしくない。一流の令嬢よ。何より、将来は第二王子の妃になるわ」


 私は頷きながらミルクティーを啜った。自分で自分の言葉に違和感がある。なんで、胸の奥が痛むの?例えるなら、ガラスの欠片が刺さる様なズキズキした鈍い痛みが広がっていく。


 「シアラは…いや、他の令嬢と違うって思うのは──俺だけかもな…」


 「ん?どういうこと?」


 「んー、なんて言ったらいいか…。あ、そうシアラあの(・・)場所に行こう!」


 ガタッと椅子から立ち上がると、ジークはいきなり私の手首を掴み、そのまま喫茶店を出て走り出した。ランチはとうに食べ終えていた。だから───


 「食後のデザート頼もうとしてたのに~!!!!」


 私はジークに引っ張られ、走りながら叫んだ。






――――――――


 カァカァ

 ブフォー


 かもめの鳴き声と気笛が聴こえる。


 「着いた。なぁ、懐かしいだろう?」


 「…………」


 走って辿り着いたのは、海岸だった。波音が聴こえ、波風が暑い気温を下げ、涼しい風が頬を掠める。この空間だけが静かに時が流れている。噴水広場の近くにこんな海岸があるとは知らなかった。観光地から少し離れた場所にあり、先程の騒々しい雰囲気からがらりと一変、静かで穏やかな雰囲気が広がる。


 「ここは──」


 「懐かしいな~。ここは俺とシアラが出会った場所だ」


 「出会った、場所…?」


 ジークは昔を思い出したのか遠い海を眺めながら喋り出す。


 「そう。忘れたか?随分昔だからな。俺とシアラの両親は昔から親交があって、お互い両親に連れられてここに来た。その時に隣国から客船でこの海岸に訪れた時、俺と両親をシアラとシアラのご両親が出迎えてくれた」


 「…………」


 ジークは懐かしそうにつらつらと語り出す。私は、相槌もせず、ただ黙ってジークの話を聞いていた。だってその頃の記憶は私が転生する前のもの。転生したあの日、私は周りに転生者だとバレると大混乱を起こさせると思い、転生前の記憶を思い出せるように彼女(シアラ)の部屋を物色し、転生前の記憶を辿って現在(いま)に紐付けようとした。だが、転生前の記憶は半年前までしか思い出せなかった。しかし、身体が覚えているのか本能なのか、長年共に過ごしてきた使用人やラズリ、ロキのことは記憶がなくても怪しまれず一緒に過ごすことが出来た。

ジークに学園で会って幼馴染だと告げられた時はパニックになってしまった。私が知っているジークはこの乙女ゲームの攻略対象で、(モブ)との関わりなんて知らない。そして、ジークが留学してる事と、頻繁に会っていないことからジークとの思い出は思い出せない。今でさえも。


 (今、話しているのはモブ女との思い出)


 「…なぁ、話聞いてるかシアラ?」


 はっ!と我に返る。ボーッとしてしまった。


 「き、聞いているわ、ははっ」


 ボーっとしていた事を悟られないよう、笑って誤魔化す。


 「なぁ、シアラは俺が何故3年間留学に行ったか知っているか?」


 「それは、ジークのお父様がジークに見聞を広めて欲しいと思われたのではないかしら?」


 「あぁ、確かに留学の話があった時にそう言われた。もっと広い視野で物事を考えて欲しいと。──だが、もう一つ留学を決めた決定的な理由がある。なんだと思う?」


 「──もう一つ…?」


 ジークの表情(かお)から読み取ろうと彼の方を向くと、自然と目と目が合う。さっきまでお互い海を見ていたのに…。いつから私の方に視線を向けていたの?


 「俺が留学を決めたきっかけは、好きな人と結婚がしたいとお父様に直談判をした。この条件を呑めば留学すると」


 「えっ!!好きな人って…。ジークは伯爵の出身だから婚約者がいるわよね。その婚約者ではダメなの?」


 「俺の婚約者は両親が勝手に決めた」


 不服そうにジークは顔を歪ませる。


 「それは、伯爵家に生まれたからには仕方がなこと。ご両親が見込んで決めた相手ならきっといい方だわ」


 「俺は、どうも自分に嘘がつけない性質(たち)だ。だから、勝手に婚約を決められた相手に、興味を持てない。相手のことを知りたいとも思わないなら好意にすら繋がらない」


 「それは……一緒に過ごした時間が少ないから。会う頻度を重ねて一緒に過ごす時間が長くなれば、自然と情が沸いてくると私は思うわ」


 「───ちがうっ……俺は─」


 ガシッと肩を掴まれ、身体ごとジークの方に向き合う。真っ直ぐに見つめてくるオーロラ色の瞳が揺らめいて目が離せない。


 「俺は──シアラが……出会った時から、好きだ」


 「……え」


 「初めて会った、シアラが出迎えてくれたあの時、俺は捻くれていた。お父様からのプレッシャーに押し潰されそうになっていたあの頃、何もかも嫌になっていたんだ。本当はあの日隣国になんか行きたくなかった。半ば無理やり客船に乗せられた」


 掴まれた肩に力が入り、痛みが生じる。


 「そんなバッド状態の渦中にいた俺は、シアラが無邪気に手を振って出迎えたあの瞬間、救われたんだ。俺を待っている存在がいることに。誰にも必要とされていないと思っていた辛い日々は、シアラと巡り合う為に乗り越えたんだって…」


 肩を掴む手が離されると、ふわっと身体を心地よい体温が包み込む。その体温はジークに抱きしめられて伝わった熱だった。私を壊れ物のように思っているのか、抱きしめられた腕には力がこもっていない。だけど、力強い腕にがっちりホールドされて身動きが取れない。まるで───“離さない”とでも言うように。


 「ジーク、当時の私がジークを救うことが出来て嬉しいと思うわ。だけど、あの日から随分年月が経って、私自身も変わってしまった。だからジークが好きになった私は、今の私ではない」


 人は誰しも変わっていく生き物で、記憶の中で美化され、現実とかけ離れた存在になってしまう節がある。それにその記憶は、そのシアラは転生前のシアラ。

 

 (私じゃない。シアラ本人をジークは好きになったんだよ)


 そう、彼に取って残酷なことを伝えると、背中にまわる腕に力強く抱きしめられた。肩越しでジークが話し始める。


 「…っ。確かに、当時と比べるとお互い変わってしまった。記憶の中のシアラは繊細で引っ込み思案で俺の後をいつも着いて来るほっとけない存在だった。だから、留学から帰って来て、学園で再開した時、目を疑ったよ」


 ジークは背中にまわる腕を解くと、ゆっくりと私の方に手をポンっと置く。見上げると目と目が合い、見つめる形になる。


 「寮には一人で入寮し、身の回りの事は自分で行う。教室に居ても群れずに独りで、ランチも独り。昔のシアラなら誰かに頼らないと生きていけなかったと思う。だけど、今のシアラは自立していて、他の令嬢よりもずっと──」


 (それは、私だから。それが私だからね。ジークが知っているシアラじゃなくて驚いたのも当然よ)


 「それは……」


 「それは、ロキの婚約者候補に選ばれたからか?」


 「っ!!」


 それは、シアラじゃなくて別の人だから──と、メタ発言しそうになった。けど、それはジークの意外な言葉にかき消された。


 (今、なんて言ったの?私がロキの婚約者候補と知っているのは執事長ヴィンセントとロキ、それとロキの婚約者候補だけだわ!ジークが知っていい情報じゃないっ!!)


 「───婚約者候補(それ)を、何処で知ったの?」


 私はバクバクと鳴り響く心臓の音を悟られない様に訊いた。出処次第では、何らかの対処は考えないと───


 「知り合いの情報屋に訊いた話だ。その表情(かお)から察するに間違いではないな」


 ジークに悟られない様に表情(かお)が自然と険しくなっていた…?悟られてしまった反省をし、一呼吸して気持ちを整え、話始める。


 「…っ、その情報屋はこんな事も言っていなかった?!婚約者候補は13人いるって。婚約者候補の名に連ねている方々を見たら、私はたまたま何かの偶然で候補者に選ばれただけ」


 「でも、候補は候補だ。この国の第二王子の」


 じりっと歯軋りの音が耳に入る。


 (なんで、そんなに辛そうな表情(かお)するの?)


 ジークは辛そうな苦しそうな表情(かお)をしたまま、喋り続ける。


 「なぁ、シアラ。俺が好きになったあの時のシアラよりも、今のシアラはもっと魅力的だ。自立した姿を見て、ますますシアラの事が好きになった。俺は二回も一目惚れをした。…これはきっと、運命だ」


 運命と口にしたと同時に、ジークは私の前に傅く。


 「シアラ……ロキの婚約者候補を正式に解消された日には───」


 ジークの右手がそっと差し出され、左手を載せるよう目線で促される。


 「───俺の、婚約者になって……」


 差し出された右手に左手を重ねると、ジークは嬉しそうに指先を握ると、そのまま持ち上げ、そっと薬指にキスをした───





 ――――――――


 「シアラお嬢様、お帰りなさいませ。さぁ、湯浴みの準備が出来ております」


 「ありがとうメアリー。湯船につかりたいから暫く、一人にして頂戴」


 「かしこまりました」


 バスルームに向かい、服を脱いでいく。バスタブを覗くと、入浴剤を入れてくれたのだろう。乳白色の湯に手を入れ掬うと、百合の香りが漂う。バスタブに足を入れ、身体全体を沈める。


 「……なんだか、どっと疲れた」


 心地よい温度の湯に身体の疲れが抜けていく。


 「……ジーク…」


 ジークの真剣な想いに、正直どう応えればいいのか戸惑っていた。あの後、ジークは馬車を拾い、私だけ乗せると運賃を御者に渡すとどこかへいってしまった。


 (ジークから告白されるなんて…。告白ってあんな感じなの?前世ではいい年してプロ喪女、非モテ。誰かから好意を寄せられたことも好意を持ったこともない。経験をしていたらすぐに答えがでてくるのかな?ジークの真剣な()が頭から離れない)


 「婚約者候補から正式に解消されたら…か…。ロキが13人の中で1人、いや、13人以外でも心に決めた人が現れたら自然と解消されると思う。でも、それがいつ訪れるのか分からないなら、早めに解消しておきたい。解消、私からお願いすることは出来るのかな?」


 婚約者候補は私を含む13名。一人ぐらい辞退したって困らないだろう。


 「そもそもなんで(モブ)が、ロキの婚約者候補に選ばれたのだろう?男爵家の貧乏令嬢と第二王子とは身分差があり過ぎる」


 自分で言ってて虚しくなってきた。でも私自身そう思う。プレイしていた時からモブ女aにはラズリの描かれているスチルの必ず端に存在してて、またいるなーと毎回お馴染みのメンツの一人だと認識していた。だって顔自体描かれていない。白抜きで出演していた。


 「顔も描かれていないモブ中のモブなのに、なんで選ばれたの…?」


 ふわっと、金木犀の香りが漂う。今日購入した綺麗なオーロラ色の香水。バスルームは入浴剤の百合の香りで充満しているのに何故だが金木犀の香りが強く鼻腔を擽った。








――――――――


 コ〇ケはお開きとなり、スペースをそそくさと片付け始める。と、いっても転送魔法で家に飛ばすだけ。荷物を全て片付け終えた。


 「あー、そこの魔女さん片付け早いね~。うちのとこより荷物あったでしょ。装飾とか沢山あったのに」


 魔女コスをした売り子が声を掛けて来た。


 「いや、荷物は多く見えていただけだよ。実際はそんなに多くない」


 「そうなんだ。装飾どれも凝ってたから荷物多いだろうなー帰り大変そうだな~て勝手に思っていたよ。ところでさ、お宅のオーロラ色の液体の香水って売れちゃった?実は狙ってたんだよね」


 「あー、あれか。ごめんね、売れちゃったよ」


 「そっかー残念。また売っていたら今度こそは買うよ!!じゃ、うちはこれで」


 手を振りながら持ち場の片付けに、行ってしまった。


 (さて、帰るか)


 ロングローブのポケットから杖を取り出し、自分の周りに詠唱をしながら魔法陣を書く。すると、魔法陣が光り、身体が吸い込まれていく。


 シュンッ


 瞬き一つ、目を開けるとそこは自分の家だ。ソファーに無造作に脱いだロングローブを置き、腰掛ける。座った途端、足音が聞こえ、段々と近付いて来た。


 「これはこれは、何処にお出掛けしていらっしゃったのですか?出不精の貴女が珍しい」

 

 足音の主は、口角を不自然に上げて問い掛ける。スラリとした長身の影が、部屋のあちこちに位置する燭台の灯り越しに部屋に伸びて拡がる。その影を見ると背格好からして男性の様だ。


 「出店していたのさ。綺麗な雑貨を製造して販売していたのよ。これも仕事の一つ」


 すると男は、くすくすと笑い始めた。


 「その雑貨には貴女の魔力は込められているのでしょうか?」


 「いいや、私の気分次第よ。魔力がある物ない物ごちゃ混ぜに販売しているよ」


 「ははははっ!!それはガチャ運が試されますね。偉大なる魔女の魔力が込められているとなると……。さぞ、魔力入りの雑貨を購入したお客様は幸運が舞い込みますね」


 「ふふっ、そうね。今頃効いている頃かしら。あの(・・)お客様に──」


 魔女は意味深な笑みを浮かべ、その男と会話を続けた。





――――――――


 ピチチチ───


 小鳥が囀っている。心地よい陽の光がカーテン越しに部屋の中を明るく照らす。ベッドのカーテン越しに陽の光が入ると、眩しさで眠りから覚める。まだ、覚醒していない頭のままベッドの上に座ると、自分の体温が乗り移ったのかほんのり温かい。暫くして、いい香りが部屋に漂うと───


 「おはようございます。シアラお嬢様。本日はピーチティーをお持ち致しました」


 「おはよう、メアリー」


 メイド長が淹れた温かいピーチティーが入っているティーカップをソーサーごと渡される。ティーカップの持ち手に指を通すと、持ち上げそのまま口にピーチティーを含む。覚醒しきれていない頭がスッキリとして完全に目が覚めた。







――――――――


 昨日はあれから、あんなに読みたかった同人誌を開かず、そのまま引き出しに仕舞ったまま眠りに就いた。下町に出て、想像以上に疲れていたのだろう。初めての出来事に、初めてのコ〇ケみたいな催しに参加した。昔から変化を好まない性格で、少しでも変わった出来事が起こると、対処出来なくなりいっぱいいっぱいになる性格だ。そんな普段なら経験しない出来事が重なったのだ。そりゃ疲れる筈だ。


 「さて、と。さぁ読みますか!」


 引き出しから、昨日購入した同人誌を手に取り、ページを開いた瞬間───


 コンコンッ


 「シアラお嬢様、お客様がお見えになっております。お部屋へお通ししてもよろしいでしょうか?」


 メアリーが扉越しに声を掛ける。

 

 (客人?誰だろう?あいにく今日一日誰かに会う予定はない)


 何か予定を忘れているのか不安になりながら、メアリーに扉越しから訊る。


 「いらっしゃっているのは、どちら様かしら?」


 「ロキ様でございます」


 (ロキ?ロキがなんで訪ねて来るの?──はっ!!もしかして婚約者候補の事で、何か急用なことがあるんじゃ…?)


 私は、いそいそと同人誌をまた引き出しに戻すと、メアリーに伝える。


 「通して頂戴」


 「かしこまりました」


 私の返事を聞き、メアリーの足音が去っていく。


 コンコンッ


 「シアラお嬢様、ロキ様をお連れしました」


 ガチャっと扉が開くと、私は座っていたソファーから立つ。ドレスの裾を持ち、片足を引き、重心を少し下げ、ロキがいる扉に向かって一礼をする。つかつかと足音だけが部屋中に響き渡り、顔を上げると目の前にロキがいた。


 「メアリー、すまないが僕はシアラと込み入った話をしに来た。暫く、誰もこの部屋に近寄らせないように」


 「か、かしこまりました。では、私はこれで失礼いたしますっ!!」


 メアリーは俊敏な動きで、お辞儀をし、部屋から出て扉を閉めた。


 「ロ、ロキ?なんの用かしら?」


 「…………」


 ロキは、無言のまま私の目の前に佇む。


 「今日は会う約束をしていたかしら…?」


 「…………」


 今だ無言を貫くロキの表情(かお)を見ようと、恐る恐る顔を見上げる。険しい表情(かお)していた。碧眼の双眸を覗き込むと、その双眸は昏かった。いつもなら瞳の中に星でもあるのかと思うぐらいキラキラとした碧眼。スチルにもロキの瞳にはハイライトが描かれている。今、私の目の前にいる人はロキなのだろうか?ロキの見た目をした何者だろうか……?昏い双眸を見つめたまま、再び話し掛ける。


 「……ロキ…?」


 「…………」


 すると、ロキは無言のまま近寄り、トンっと肩を押される。押された拍子にソファーに座り込むと、ドンっとソファーの背にロキが手を置く。まるで壁ドンの様にここから逃がさないと言っているようで……。目の前で起こっている状況に理解が追い付かず、恐怖が襲う。気付けばカタカタと肩を震わせていた。


 (どうしたんだろう……ロキ。今、私の目の前にいるのは本当にロキ本人なの…?私が知っているロキはいつも穏やかで、冷静沈着。人望が厚くて、感情はヒロインにしか見せないそのギャップが魅力になっている。だから、ここまで怒っているロキは、ロキなの…?)


 下から見上げるとロキの碧眼の双眸は昏いままだったが、険しい表情(かお)から、苦しそうな表情(かお)になっていた。


 「──ロキ…どこか苦しいの?」


 どこら辺が苦しいのか、少し息が上がっているロキを落ち着かせようと、頬に手を伸ばしたその時─────


 「シアラが気になっている人と、俺は何が違うの?」


 「えっ…?」


 ずっと無言だったロキは、あまりにも意外な事を訊いてきた。


 「ねぇ、シャルロッテから聞いたよ。シアラに最近気になっている人がいるって…。恋する乙女になってとても可愛らしかったと───」


 ロキが突然、突拍子のない事を言うから何について話しをしているのだろうと吟味していたら、そうかシャルロッテから聞いたのなら夏休み入る前の料理教室での会話のことだ。あの時はシャルロッテからロキとの関係を訊き出そうと咄嗟に()いた嘘だ。だけど、今のロキの状態で『実は嘘でした』とバカ正直に言ったとしても信じてもらえるか定かではない。それか、私に気になっている人がいると理解(わか)れば、婚約者候補を解消すると宣言するかもしれない。


 (私の願いは、この乙女ゲームの世界で聖地巡礼をしながら穏やかに過ごす事。この願いは転生当初から変わらない。現在の(この)状況は一世一代の絶好のチャンス到来っ!!このチャンスはムダにはしない!背に腹は代えられない!!!!)


 私はシャルロッテに言った時のように、だけどより詳しくロキに話す。


 「えぇ、シャルロッテが言ってたように最近、気になる殿方との素敵な出会いがあったわ。その方は、とある夜会に招待されて、一度だけ見掛けた方よ。私より年上で、確か伯爵だったわ」


 「夜会?」


 ロキはそう言うと片眉がぴくっと上がる。最近開催された夜会のデータを思い出しているのだろうか…?(※夜会を行うには王国に開催手続きをする必要がある為。王様の押印が必要だが書類は安全な夜会か調査する団体を取り締まっているロキの目にも入る)不自然に思われないよう平然と会話を続ける。


 「夜会と云ってもそんな大それた夜会じゃなくて、折角のお誘いですもの無下には出来なくて……。仮にも私お嬢様だから交流を深めようと参加してみたの」


 「そう。その夜会では、出会った伯爵とどんな会話をしたんだい?」


 「その伯爵は、夜会で一度だけお見掛けしただけ。立ち居振る舞いが素敵で声を掛けたかったけれど、タイミングが合わず夜会はお開きになってしまった。後から訊いた話だと、令嬢の間では有名な伯爵でめったにお目見えしないそうよ。お話出来なかったことがとても心残りだわ」


 不自然さが無い様にあたかも実際に起きたこととして話す。恐がっていることは悟られないようにこわばらない表情(かお)で少し微笑みながら。


 「──そう。わかった」


 ロキは納得したように呟くと、ソファーの背を支えにして立つと、私の膝裏に手を入れ、背中を支えると持ち上げお姫様抱っこをする。


 「ロ、ロキ…?」


 お姫様抱っこのままベッドの方へ歩き出し、ベッドの上に私を横たえると、ロキは私の上で馬乗りになる。


 「ロキ…?」


 「…………」


 呼び掛けてもロキは何も喋らない。代わりに左手で頬を撫でられる。この状況は、お互いにとって良くない、気がする。私の勘が当たっていれば、リリーさんの為にも、この乙女ゲームのヒロインには幸せになる権利がある。私はこの状況を抜け出す為に、ある事を訊く。ずっと気になっていた事を───


 「ロキ、リリーさんに聞いたわ。お付き合いするんだってね。とてもお似合いだと思う。理想のカップル。おめでとう、ロキ」


 すると、ロキはハッと目を見開き、苦し気な表情(かお)をする。


 「違う…。違うんだシアラっ!!」


 「違うって…?」


 「俺は…彼女の気持ちに応える気はなかったっ!!断ろうと思った。でも…勝手に、返事をしていたんだっ!!!!」


 ロキは庭園での告白イベを思い出したのか、両腕で頭を抱える。目は焦点が合わないぐらい目線がせわしない。


 (勝手に?ロキの気持ちとは裏腹に…?あぁ、そうか…強制力が働いたんだ──)


 あの庭園の選択肢はロキ確定√のものだ。だからゲームの強制力、つまりシステムによって返事せざるおえなかったんだ。


 (だったら、原因を知っている私が肯定してあげなきゃ)


 私は、ロキが頭を抱えている両腕を掴み、頭から離す。


 「…ロキ、それでいいんだよ。ロキは間違ってない……」


 すると、ロキはもっと苦しそうな表情(かお)になり、突然叫び出す。


 「うわぁぁぁぁぁぁぁ―――――!!!!!!」


 ロキは腕を振りほどくと手で顔を覆う。そして───何かが切れたように叫び声は止まると、ぽつりぽつりと呟き出した。


 「──そうだ!既成事実を、作れば……そうだ…はははっ‼」


 「ロ、ロキ……?」


 恐怖が身体中に走る。嫌な汗が吹き出し、逃げろと本能が警告する。


 「ねぇ、シアラ。一緒に絶頂(たか)みへいこう………」


 「えっ…?ロ、ロキ……。しっかりして…!!」


 手首を一纏めにし、頭上に縫い付けられる。恐怖でカタカタと身体中が震える。


 「…まっ、ロキ待って──」

 

 覆い被さろうとするロキに、制止の言葉を言ったその時───部屋の窓が勢いよく開き、突風が吹く。


 「くっ…ああああぁぁ!!!!!!」


 その突風はロキを飲み込み、そのまま壁に背を打ち付けた。シュンっと窓から人影が見え、部屋に誰かが侵入する。


 「はぁ…。全くうちのお嬢様は危機管理能力を養ってもらわないと」


 「…ヴィ、ヴィンセント…?」


 「えぇ、執事長のヴィンセントです。助けに来ました、シアラお嬢様」


 「ヴィンセントぉ……」


 半泣きになり足を縺れさせながら、ベッドから起き上がり、ヴィンセントに抱き着く。落ち着く匂いが鼻腔を付き抜け、カタカタと震えていた身体が安心したのか治まっていく。


 (恐かった…。年甲斐もなく、ただただ恐かった。でも、なにより一番恐かったのは───)


 「…っ…ん……うっ、推しが…壊れる姿は……見たく、ないっ……よぉ……」


 ヴィンセントの腕が背中にまわると力強く私を抱き締めた。


 「えぇ、だって貴女が攻略する相手は…俺、ですから…」


 ヴィンセントが何か言ったような気がした。でも、混乱する頭では理解する事が出来ない。すると、何処からかあのオーロラ色の香水、金木犀の香りがした。───今日は香水付けてないのに、な……。




 


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