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素敵な庭園でお茶会

  学園からの帰り道、私はいつものように寮の近くの木陰に着地し、パチンッと指を鳴らした。音と共に足元の風の魔法を解く。そのまま徒歩で寮まで歩くと門前に見知った人影が見えた。


 「シアラお嬢様っ!!」


 清楚なロングワンピースに控えめなフリルの飾りが施されたエプロン、小さなシニヨンヘアに控えめではあるけれど一目で印象に残るヘッドドレス。そこにはメイド長、メアリーが居た。


 「メアリー、久しぶりね!!」


 「えぇ!!暫くお会い出来ず申し訳ございません」


 「謝らないで。めありーは屋敷(うち)の仕事もあるのだから忙しいのは当然よ。こっちこそ無理を言って手伝いに来てくれているんだから。とっても感謝しているのよ」


 「シアラお嬢様…。勿体無いお言葉ですわ。──お変わりない様で安心しました。ヴィンセントからも色々お話を伺っていたのですが…。やはり実際にお嬢様に会わないと不安で──」


 メアリーはぎゅっと私を抱き締めた。──あぁ、安心する…。この感覚、懐かしいなー。

 微かに鼻を啜る音が聞こえる。メアリーたらほんと心配性ね…。そこが昔から大好きなところなんだけど。お節介で私に被害が遭わないよういつも気にかけてて──

メアリーが来る日は明日の筈だけど、この感じだと心配で居ても立っても居られなかったのね。メアリーらしい。


 「メアリー、心肺を掛けてごめんなさい。でも今日会えてとっても嬉しいわ」


 メアリーの掌を掴むと、両の手で手を包み込むように握る。すかさずぎゅっと温かい掌に包まれる。


 「はい、私はシアラお嬢様のメイドですから!いつもお傍に居ますわ」


 「ありがとうメアリー。ところで何で外に?部屋の鍵は渡してあるでしょう?」


 「実は、これ(・・)を預かっていたのです」


 メアリーの手には手紙が握られていた。手紙を受け取ると、封蝋を見る。そこには常日頃から目にする紋章が…。


 「これは、王紋?」


 「はい。先程、ロキ様の使用人の方がこの手紙をシアラお嬢様にお渡しくださいと。手紙を受け取っていたタイミングでシアラお嬢様が帰寮されました」


 「そうだったの。ロキの使用人の方も部屋のポストにでも投函してくればいいものの、私が不在の時はどうするのかしら?ただでさえ、メアリーは忙しいのに手間かけさせて…」

ぶつぶつ呟きながら手紙の封を開ける。すると、中にはロキからの招待状が入っていた。


 (何々?“新しい庭園を僕と一緒に観賞しませんか?当日、寮の前に馬車を迎えに向かわせます。是非、ご参加お待ちしております”)


 「あの立派な庭園を新しくしたのね」


 「まぁ、あの薔薇が咲き誇っていた庭園ですか?」


 「そう。あの薔薇園の。新しいお花が増えたのかしら??」


 「シアラお嬢様とご一緒に王宮に伺った際は、とても手入れが行き届いて、とてもお綺麗でしたわね」


 「えぇ、色とりどりの薔薇がとても綺麗だったわ」


 初めて薔薇園に伺った当時を思い出す。あの日はラズリに誘われて、付き添いの様な形で王宮に訪れた。その時に庭園でお茶会をしたっけ。


 「そうか、お茶会のお誘いね。でもこの日は…」


 手紙に記されている日付を見る。この日は、リリーさんに料理を教える約束をしていた。──どうしようかと、腕を組んで頭を傾げる。ふと、手紙に視線を戻すと下方に参加予定者の名前一覧が書かれてあった。


 (あっ!!リリーさんの名前がある。て、ことはリリーさんもお茶会に招待されている。それなら参加するはずだわ。だってこのお茶会は──)


 「シアラお嬢様、風が冷たくなりましたわ。お部屋に入りましょう」


 「ええ」


 メアリーがどこから出したのかボレロを私の肩に掛け、寮の部屋へ向かった。






――――――――


 ロキ主催のお茶会当日。手紙に書いてある通り、寮の前に馬車が迎えに来ていた。その馬車は珍しい事に白馬の馬を連れている。御者の手を取り、馬車に乗り込んだ。


 ロキの王城(いえ)。つまり、国王の屋敷の庭園は、お屋敷をぐるりと囲う作りになっている。とても広い庭園で、一日で回りきるのは困難だ。庭園のエリアによって噴水があったり、花のアーチが施され、色んな表情がある素敵な庭園。


 馬車が止まるとすかさず御者は扉を開け、手を差し出す。その手を取り、馬車から降りると──


 「待っていたよ、シアラ」


 足が地面に着地したと同時に声を私を呼ぶ声がした。声がした方を真っ直ぐに見つめると──そこには金糸の髪をきらきらと靡かせ、穏やかな心地よい声色でほだらかに微笑むのはこの国の第二王子、ロキュリアス・ナイトニア。もとい、ロキ本人が直接迎え入れていた。わざわざ右手を肩に添えて。まるで心待ちにしていたように…。


 「本日はお招き頂き、ありがとうございます。ロキ様」


 ドレスのスカートを両手で持ち、片足は後ろに引き、一礼する。ロキ本人からのお出迎えと、彼の嬉しそうな表情(かお)に、何か勘違いしてしまいそうになって、捲し立てる様に早口でお礼を伝えてしまう。


 (絶対そんなことはない。社交辞令用の微笑みだって分かっているのに、ずっと待っていたような雰囲気醸し出してくるのなんなの?めっちゃにこにこしてるし…)


 そんな私の気も知らず、ロキは近付くと私の手を取る。


 「ふふっ。そんなにかしこまらなくていいよ」


 「いえ、いけませんわ。ここは王城の前です。学園とは違いますから…」


 辺りを見渡すと、近衛兵が沢山配置されている。ここは我が国の王のお屋敷、一番警備を固めなければならない。いかなる侵入者も通さない為に。


 「初めて来た訳じゃないのに…。シアラは真面目だな~」


 ぷぅと頬を膨らますロキ。う゛っ、流石推し可愛いが過ぎるっ…。


 「さぁ、行こうか」


 ロキは穏やかな微笑を浮かべながら、手を引いて歩き出す。手を引かれた際に横顔を見ると──誰もが見惚れる程、綺麗な表情(かお)だった。


 「……っ」


 横顔に見惚れているとふと、見上げた目と目が合う。ロキの真っ直ぐに向けられる双眸に私が映ると恥ずかしくなり、視線を外し、俯きながらロキに連いて行った。


 (あっぶね。また顔赤くなりそうだった…。お出迎えスチル欲しいな~。さっきの横顔丁度陽の光が反射して、きらきらしてた。SSR級だよ)



――――――――

 

 ロキに手を引かれながら、庭園のテラスに辿り着くと招待状に載っていた参加者全員が揃っていた。


 「シアラ~待ってたわよっ!!」


 私を見るなり、ラズリが勢いよく背後から飛びついてきた。うっ…。久しぶりに背中が重い。


 「ラズリ、久しぶりね。同じクラスに居るのにとっても久しぶりに感じるわ」


 「ほんと顔は合わせているのに…。あっ!!最近シアラランチタイムになるとすぐ居なくなっちゃうんだから心配してたんだよ!!」


 背後から私の顔を覗くラズリ。首を後ろに傾ける。そこにはいつ見ても、やっぱり絶世の美少女である。


 (相変わらず可愛いお顔で。鼻筋はすらりと通ってて零れそうな大きな()。頬は薄っすらピンク色で睫毛なんて長くてくりんくりん。じっくり鑑賞したいお人形様。良っ!!)


 目の前の美少女に気を取られていたが、ラズリはぴえん顔でちょっと大袈裟な心配の仕方をしている。


 (居なくなった訳じゃないんだけどな~。貴女が仲良くなった友達との輪に入れそうじゃないから声掛けづらくて近寄らない様にしてただけ…。っと、いけない。ここは彼女に話を合わせよう)


 「ごめんね。最近は学園の中庭が居心地良くて、すぐ教室から出てしまって。……心配掛けてしまったわ」


 申し訳なさそうに答えると、ラズリは納得しているのかしていないのか微妙な表情(かお)になった。あれ?気に障る様なこと言った、かな…?


 「そうなんだ~!じゃあ、今度中庭行くときは誘ってね♪」


 「う、うん…」


 ラズリは何も無かったかのようににこやかに微笑むとロキの方に向かった。あの微妙な顔は何だったのだろうか?ラズリの中で納得したのかな?それか始めから何とも思ってない……?


 「何だったんだろう、あの感じ……」


 「おい、シアラ」


 ラズリの表情の最適解が導き出せないもやもやしたまま、考え込んでしまった私に背後から呼ばれた気がした。後ろを振り返ると、そこにはジークとリリーさんが居た。そうだ!!この二人も参加者に名前があった。


 「ジークとリリーさんも来てたのね」


 ドレスのスカートを両手で持ち上げ、片足は後ろに引き、一礼。簡単な挨拶を行う。


 「て、何呑気なこと言ってるんだ!!あの(・・)お嬢も参加すると分かっていたらリリー連れて来なかったのに」


 「えっ、招待状の一番下に参加予定者の名前一覧があったわよ」


 「えっ!!」


 「そうよね、リリーさん」


 リリーさんはジークの後ろで申し訳なさそうに口を開く。


 「…はい。ちゃんと参加予定者にアーサー様のお名前がありました」


 手を重ね、ぎゅっと強く握り締めながら困り顔でリリーは言った。


 「ジ、ジーク様のお心遣いは大変嬉しく思っています。いつもありがとうございます。ですが、折角ナイトニア様からご招待頂いたので参加したい思いが強くあり、参加することに決めましたっ!!」


 リリーはぺこぺことジークに向かって頭を下げる。ヘドバンになってるから首痛くならないかな…。


 「自分で決められたみたいよ、ジーク」


 私はジークをジト目で見やる。すると、ジークはぺこぺこ頭を下げるリリーさんの両肩を掴み、止めた。


 「ごめん、俺の取り越し苦労だったって訳か。ははっ!!じゃあ心配なしにお茶会楽しみますかっ!!」


 そう言うや否や、拳を空高く上げ、急におーっ!!と叫び出す。そんなジークを見ると共に、リリーさんの顔も見ると、リリーさんも私の方を見ていた。お互い目が合い、ジークの高らかな声に可笑しくて二人で笑いあった。









――――――――


 お茶会開始の音頭はこのお茶会の主催、ロキの挨拶から始まった。


 「この度は、我が庭園でのお茶会にご参加頂き、誠にありがとうございます。お声掛けをさせて頂いた方、全員での参加となり、とても嬉しく思っております」


 ロキは皆が囲んでいる丸テーブルに向かって礼をする。私達はグラスを手に、立ち上がってロキの挨拶を聞いていた。


 「さぁ、今日は皆自由にお茶会を楽しもう。庭園は広いから何処に行っても構わないよ。それでは皆さん、グラスを」


 ロキの合図に、私達はグラスを上に上げる。


 「今日の良き日に。乾杯!!」


 「「「「「「乾杯っ!!!!!!」」」」」」









――――――――


 庭園でのお茶会はロキが言う様に、とても自由な形式だった。丸テーブルが三つあり、その内の一つには人数分の椅子が用意されている。立食パーティーの様に立って楽しむのも良し。ゆっくり談笑したい時は、椅子のあるテーブルで寛ぎながら過ごすのも良し。丸テーブルにはケーキスタンドがそれぞれ三つ程置かれている。各ケーキスタンドごとに下段にはサンドウィッチやロールパンサンドの総菜系。中段にはハッシュドポテト、ほうれん草のキッシュ野菜メイン。上段にはケーキ、フルーツタルト、マカロンとスイーツ系がある。ケーキスタンドの横にはバスケットがあり、中には色んな種類のスコーンが入っている。バスケットの手前にはクロテッドクリームや色とりどりなジャムが置いてある。

目にしただけで涎が垂れそうになるのを抑えながら、グラスを片手にまずはサンドウィッチを頬張っていたところ──


 「シアラ」


と、声を掛けられる。この透き通る天使の声の持ち主は私の知っている限りだと一人しか思い浮かばない。私のぷちお茶会友達、フラン・ハイジア。


 「フランも参加したのね」


 「うん。ちょっとでも彼女の事が知りたくて……」


 フランはちらりとリリーさんの方を見た。恥ずかしそうにすぐそっぽを向くフランの顔は少し紅潮していた。


 (なんだこの子っ!!可愛いな~♡)


 「そうね。今日はリリーさんと沢山お喋り出来るチャンスよ!!私、フランとリリーさんが二人きりになれるよう微力ながら協力するわ!!!!」


 どんっ!と無い胸を叩く。──因みにBカップ普通サイズだ!!決して絶壁ではないっ!!!!


 「ははっ!!うん、期待してるよ」


 さらさらと吹くそよ風にのって、フランの周りには光の粒子が降り注ぎ、彼の表情に呼応するかの如くフランが微笑むときらきらと輝く。それはまるで自分が御伽噺の住人になったような錯覚をして勘違いしてしまいそうになる。


 (やっぱり妖精族のあの(・・)謎に降り注ぐ光の粒子は危ない。幻覚作用でもあるのかな?)


 自分に危険だと言い聞かせながら、リリーさんを探す為、辺り一面見渡したがリリーさんの姿が見当たらない。


 (あれ?何処行ったんだろう…。あっ!)


 このお茶会が開催されるのは始めから知っていた。だってこのお茶会は主催の──ロキ√確定のイベントだから。昨日招待状を受け取った後、部屋(りょう)に戻りメアリーの隙を見てこの乙女ゲームのシナリオ、各√攻略、その√の結末を記した丸秘ノートを読み、今の時期からしてイベント発生は間違いはなかった。だけど──


 (このお茶会イベはロキ√確定に繋がる選択肢がある。だからロキの好感度が少なからず上がっていないと発生しない。つまり序盤からリリーさんがロキの好感度を上げていた?だったらなんでランチタイムイベのジーク√確定が発生したの…?ジーク√確定だった筈では?)


 「シアラ、どうしたの?」


 色々と思考を巡らせていた私に声が掛けられる。フランの方を見ると心配そうに顔を覗き込んでいた。


 「…ん?何でもない。あっ!!フランこのフルーツタルト美味しい!!」


 目の前にあるケーキスタンドから色とりどりフルーツが盛り沢山のフルーツタルトを手に取ると、急いで口に運んだ。



 (──何だろう…。嫌な予感がする)




――――――――


 気が付いたら、先程から探していたリリーさん姿を見つけた。リリーさんはロキと一緒にいた。二人を交互に見ると、特に変わった様子がない様に感じたが――。あれ?何となく二人の距離が近い…?丸テーブルにあるスコーンを小皿に移していたのだが、横並びで二人の身体が密着しそうな距離感のまま行っていた。余りの近さに察するものがあった為、リリーさんの方を見ると、お茶会開催された始めの頃は周りが貴族ばかりで緊張した面持ちだったが、表情が緩んでふわふわした雰囲気を醸しながら朗らかに微笑んでいた。


 (あぁ、この表情(かお)は恋する乙女の顔ですな。と、いうことはイベント発生。ロキ√確定(?)ってことでおけ?)


 ロキ√確定は二つの選択肢の内、“一緒に庭園を回りませんか?”を選択。ヒロインからロキを薔薇のアーチがあるエリアに呼ぶと、ヒロインは意を決して告白をする。その告白にロキは応える。イベントを終えた二人はお互いの距離が近くなり、丸テーブルに用意されている椅子に腰を下ろし、優雅にスコーンを食べながら、仲睦まじくお喋りに花を咲かせている。

そこに、フラン、ジーク、ラズリも集まり、皆でテーブルを囲んでお茶を飲み始めた。

 

 大好きだった乙女ゲームの登場人物達が目の前で、賑やかな談笑をしている。その声は風にのって心地よいサウンドを奏で耳に流れる。その光景はまさに、ゲームの中の世界だった。生前画面越しで見ていた景色だった──


チクッ


 (あれ?何だか胸の奥が痛い…)


 急な身体の異変に気付くと、次第に息苦しさが……。


 (今度は上手く息が吸えないっ!)


 私は胸を抑え、荒い息を吐きながら使用人が待機してある場所に向かってよろよろと歩く。


 「ッハァ……っ…ヴィンセントっ…!!」


 「如何なさいましたか?シアラお嬢様!!」


 私の異変に一早く気付いたヴィンセントがすぐさま駆け付ける。


 「…ッ、ハァッ…アッ……ハァ、ハァ…ッ……」


 (苦しくて声が出せないっ!)


 必死に胸のあたりを抑え、声を絞り出そうとする。だが、それも虚しく声は思う様に発声出来ない。そして段々と意識が遠くなっていく。


 (ダメだ…。倒れそう──)


 「苦しいのですかっ!!そこに君、シアラお嬢様は体調が優れないようでお先に失礼致します。ロキ様にお伝えください」


 ヴィンセントは近くに居たロキの使用人に急いで言伝を伝えると、私を抱き抱え、一瞬の内に瞬間移動した。


 遠ざかる意識の中、あまりの対処の早さに感心した。


 (流石、ヴィンセントは優秀だわ──)







――――――――


───シュン


 風を切る音で意識を取り戻すと、私は寮の部屋の中に居た。ヴィンセントに横抱きに抱えられたまま、ベッドの縁に座る。ヴィンセントの膝の上に座り、上体を起こされ、背中を擦る。少しだけ呼吸がしやすくなり、段々と呼吸が整っていく。


 「…シアラお嬢様」


 ふわっと身体を包み込むように、ヴィンセントは私を抱き寄せ、彼の胸に身体を預ける。


 「少し、落ち着きましたか?」


 抱き寄せた腕は再び背中を擦る。


 「…えぇ、大分落ち着いてきたわ。ごめんなさい。心配、かけましたわ…」


 ヴィンセントの背中に腕を回す。あぁ、懐かしいな…。昔はよく、私が泣いていた時はこうやって泣き止むまで抱き締めて落ち着かせてくれて──


 「……謝らないでください。すぐ気付いたからこそ、駆け付けられた。さぁ、このままではお身体に障ります。横になりましょう」


 ヴィンセントは私にローブを着せると、抱き抱えベッドにゆっくりと身体を下ろし、布団を掛ける。


 「……ありがとう、ヴィンセント、兄様」


 ベッドに横になると気が抜け、すぐに瞼が閉じる。あぁ、昔に戻ったみたいで懐かしく感じた。








――――――――


 ベッドに横になった途端、すやすやと寝息が聞こえる。呼吸からして、息苦しさは回復されたようだ。


 ベッドに縁からシアラお嬢様の顔を見る。すやすやと穏やかな顔をして眠っている。体調が安定している様で安心したのか息を()く。ふと、もう一度彼女の寝顔を見ると、髪が顔に張り付いて寝苦しそうだった。髪を避け、首まであるドレスのボタンを外し、首元を楽にさせ、鎖骨の中央に手をかざす。念の為、治癒魔法を施しておくか…。


 「ん…」


 違和感があったのかギシッと軋んだ音を立てながら、シアラお嬢様は身動ぎし、吐息混じりに呟いた。


 「…わ、たし、は……モブ、だから…」


 頬に一筋の涙が伝う。


 「シアラお嬢様──いや、シアラ。貴女を悲しませる原因は…?」


 その涙を手で拭い、寝ているシアラに問い掛ける。すると、意外な事を口にする。


 「わた、しを…独りに、しないで……」


 再び、涙が頬を伝う。──独りに?そんなこと──


 「俺から逃げられると思ってるの?やっと見つけたのに?ずっと会いたかったのに…。離さないよ、可愛い俺の姫君」


 涙に濡れている頬に口付けをする。


 「…不安なら、印を送ろう」


 その白くて細い首筋に、唇を落とした。


チュッ


 「おやすみ、シアラ──いや、   」







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