ランチタイムでお近付き?!
私はシャルロッテ・リリーと申します。私立クレマチス学園という、貴族のご子息、ご令嬢が通う魔法学園で魔法を学んでいます。私は貴族の令嬢ではありません。本来なら魔法学園の中でも屈指の有名校に通えるような身分ではありません。ですが、私にはどうしてもこの学園に通う必要があります。
私は妖精の父と人間の母の間に生まれました。所謂ハーフとしてこの世に生を受け、その証拠に真っ赤な瞳を持っています。父は強力な火の魔力を持ち、私にもその魔力が受け継がれました。母の話では私が赤子の時に、ぐずって手から炎を出したと…。その炎がみるみる大きくなり、家を燃やし、挙句の果てに村付近まで乗り移り全焼してしまいました。それを見た村長がこのままでは村を全滅させていまう恐れがある。考えた末、国王に面会を取り次ぎ、直談判を行い魔力のコントロールを学べる様、この私立クレマチス学園に通うことになりました。
通う前はどうしていたのか──炎が大きくなる前に水を被せて泣き止まし、すぐ消火が出来るよう水を張ったバケツを家のあちこちに置いていました。家も村の奥に引っ越し、被害が出ないよう人っ子一人いない場所に住んでいました。とても小さな村に住み、ただでさえ私はハーフ。昔ながらの思想が根強いこの村での生活は辛いものでした。幼少の頃から酷い言葉を浴びせられました。母にも罵声が飛び、私の所為で悲しい思いをしていることに日々傷つき、酷く落ち込みました。私の所為で母は村の中心部から村の奥の家に住むことになり、不便を強いられ、村中から心無い言葉をを浴び、とても苦労させています。だから私はこの学園で魔力のコントロールをきちんと身に付け勉強にも励み、母と一緒に村から離れ幸せに暮らしたいっ!!
これが私の目標です!!ありがたいことに、この学園を卒業すると魔法を用いる仕事に就く事が出来ます。
だから、私はここで頑張る事を誓いました。──だけど、現実は上手くいきませんね…。
初めての魔法の授業でクラスメイトに怪我を負わせてしまった…。私のコントロール不足で──
クラスメイトの彼女は優しい娘で何度も大丈夫って言ってくださった。でも、彼女の友達には叱られました。当たり前です。怒るのが当然のこと。怒られ、慰められ、またやってしまった自責の念に駆られ、色々な感情が混ざる中、一層胸をざわつかせた、ある感情……。
ロキ様に助けられた、あの瞬間の胸騒ぎ──
あの時のロキ様の瞳が忘れられない───
これは一体…なんなのでしょうか……?
――――――――
(あーー疲れた)
午前の授業が終わり、昼休みに入る。とぼとぼといつもの中庭へ移動しようとお弁当と飲み物を持ち、教室を後にした。
(今日もぼっち飯です。ラズリに振られました。トホホ…)
入学当初は毎日ラズリとランチを共にしていたけれど、最近は彼女もすっかり人気者でとあるお嬢様グループに所属して昼休みや放課後を過ごしている。私も度々誘われるが、前世の時から女子グループというものが苦手だった。そもそも群れることが嫌いだから丁重にお断りした。と、いうかそのグループが先日シャルロッテいじめてたんだよな…。
(ラズリの取り巻きモブ女Aだからほんとはグループに所属して参加した方がいいんだろうけど、モブ女だから自由に過ごしてもさほどシナリオには影響ないんじゃないかな~。身勝手な持論だけど)
あくまでもこの乙女ゲームの第三者視点で穏やかに過ごしたい。折角、好きなゲームの世界に転生したんだもの。楽しまなちゃ損。この位の我儘いいでしょう?神様。
さぁ、早く中庭に行こうと廊下を早歩きしていると──
「よっ!!シアラ♪」
と、背後から声を掛けられた。咄嗟に振り向くと、そのにはモブ女と幼馴染らしいジークと、半ば無理やり連れて来られたのであろうこの乙女ゲーのヒロイン、シャルロッテ・リリーさんがジークに手首を掴まれていた。
「ジーク!?…と、リリーさん?どうしたの?」
「シアラ一人か?今から俺達とランチしないか?」
「えっ?!」
「いいよな!!」
ジークはリリーさんに目配せすると彼女は勢いよく頷く。
「じゃあ中庭いくぞっ!」
私もリリーさん同様、手首を掴まれジークに引っ張られながら走った。
――――――――
噴水がある広い中庭のベンチに三人横並びに座ると、ここまで連れて来たジークが話し出した。
「紹介がまだだったな。こいつはシアラ。俺の幼馴染なんだ。人見知りなところがあるけどこれからよろしくな!!で、こっちは…」
「リリーさんでしょ。私達クラスメイトだから紹介はとっくに済んでるわ」
「ははっ!!そうだな」
大きな嘘くさい笑いをしたジークはジーク専属の料理人が作ったであろう特性ローストビーフを口に運ぶ。ベンチの前にはローテーブルがあり、彼の並べてあるお弁当を覗くと、豪華なランチって形容していいのかビュッフェやディナーに頂く豪華な料理がきっしりと詰まっていた。
(おかずって言っていいのか…。何このお弁当、こんな豪華な料理前世でも食べたことないよぉ…)
チラッと自分の持参したお弁当に見る。――うん…。今日はさ、朝忙しくて昨日の夕飯の残りがあったからさ。時短で出来る料理を詰めただけで……。うん、こんなもんさ……。幼馴染と比べるのはやめようと持参したお弁当箱を蓋を開ける。今日はミートソースパスタ。昨日の煮込みハンバーグを改良してミートソースにしてパスタのみ朝茹でて入れた即席簡単ミートソースパスタ。パスタとミートソースは別々の容器に入れた。パスタにミートソースをかけて食べようとした時──
「ん?今日は自前か?」
私の弁当箱を覗き込みながらジークが訊ねる。
「な、なんで分かるのよっ!?」
「いや、質素なだな~と思って…。そいやシアラは一人で寮に住んでいるって聞いたな。使用人は一緒に住んでいないと」
「ええ。うちはしがない男爵家の生まれだから使用人も最小限しか雇っていないから、一人暮らしを選んだの。だからたまにこうして作ってるわ。簡単なものしか作れないけれど。──誰かさんと違って質素な生活を過ごしているわ」
チラッとまたジークのお弁当を見る。……美味しそう。ぐぬぬぬ~!!
「―あの、そのパスタ赤い色をしていますが…何で作られていますか?」
ローテーブルに広げた私のお弁当を見て、不思議に思ったのだろうか…。遠慮越しにリリーさんが訊ねる。おどおどしている姿が小動物みたいで可愛らしい。
「えーっと、赤色はソースにトマトを使用しているからです。トマトを砕いて炒めた挽肉と玉葱、人参、コンソメを入れ煮込みました。凄く簡単で美味しいので良かったら作ってみて」
横にあるジークの弁当に比べるとお粗末この上ないのだが…。美味しい事は伝えたい!!
「い、いえ…。その…美味しそうだなって思ったのです!!私、お料理が苦手で、いつも売店のお弁当か食堂で済ませています。でもっ!節約しないとって思って挑戦してみるのですがどれを作っても失敗ばかりで…」
過去に失敗した料理を思い出したのかしゅんと、頭を傾け俯く。頭の上に“トホホ…”と字が見えてくる程落ち込んでいる。
(あ、確か公式プロフィールに苦手な事、料理って載ってあったな…)
「ですのでっ!」
いきなり大きな声を出し、勢いよく頭を上げたかと思ったら、ガシッと私の手を柔らかい両手が包み込む。
(勢いよく上げた頭が鼻先に当たって地味に痛いのだが…)
彼女の頭の近くに顔を寄せていた所為で思いっきり鼻にクリティカルヒットした。
「―もし、迷惑でなければ…料理を教えていただけませんか?」
キラキラな瞳で上目遣いを、お願いされる。
(うっ!眩しい…。なんだこれ?これがヒロインの───乙女ゲーヒロインの能力なのか…?!こんな可愛い顔して、キラキラなルビーの瞳に見つめられたら──)
「いいy「お、いいんじゃねーか?シアラ、教えてやってくれよ」
返事をしようとしたらジークが割って入る。
「なぁ、俺からも頼むよ」
ジークは私の手を包んでいるリリーさんの手の上から、手を重ね包んでいく。
────これは、どうすればいいの?!
選択A“受け入れる”
↳これだと結果的のに自然と仲良くなってしまう。
選択B“断る”
↳いや、ここで急に断ったら変に思われるかもしれない。それに、断ったらこれからのシナリオの展開、特に誰√に進むのか把握出来なくなる。寧ろ、ここである程度仲を深めておけば、把握しやすくなるのでは?
冷静に考えよう。私が乙女ゲーム世界に求めていること。それは────“大好きな乙女ゲームの世界で第三者として穏やかに過ごすこと”
だとすると…自ずと答えに導かれる───
ここは、“A”でしょっ!
「えぇ、今度の休日に一緒に作りましょうか?」
にこっと微笑みながら頷くと、花が咲いた様に彼女も微笑んだ。
(バレてないよね…。不純な理由で受け入れたなんて──)
――――――――
ランチタイムはジークのトーク力のお陰で会話が弾み、楽しいひと時となった。
(リリーさんとは“あの”一件以来まともに話したことがないからどうなるかと思ったけど、リリーさんも楽しく過ごせたみたいで終始笑顔だった。でも私が料理を教えることになるなんてね)
気付くと午後の授業も終わり、終礼の鐘が響き渡る。辺りはざわざわとし始め、騒々しく帰宅の準備をし、そそくさと教室を後にする。
私は、教室がある程度静まり返ると鞄に荷物を詰め込む。教室内は誰も居ない。閑散。ふぅ~と息を吐き、立ち上がる。鞄を手に持つと――「シアラっ!」と声が聞こえた。声がした方に向くと、教室の戸から顔を覗かせたジークがいた。
「寮まで一緒に帰らないか?」
「うん、いいわよ」
(ランチの時に話していた楽しいトークまた聞きたい!!)
そう思い、ジークの元に足早に駆け寄るとお互いなんだか可笑しくて顔を見合して笑ってしまう。
(ふふっ、幼馴染ってこんな感じなのかな?なんだか傍に居るだけで楽しくて、とても安心する。自然と笑ってしまう。いいね幼馴染って!!)
ジークと笑い合い、教室を後にした。
――――――――
「ほんっとジークのトーク力には敵わないわ」
寮までの道のりで今日のランチタイムに出た話題を喋っていた。
「すごいだろ~。俺のトーク力はっ!!留学先で馴染めたのはこのトーク力のおかげって言っても過言ではない」
ふふんとドヤ顔するジーク。ドヤァの表情が腹立つな草。
「ははっ!ほんっとそうかも!!私、リリーさんと同じクラスだけどあまり話したことが無くてさ。ほら、共通の話題がないと話かけずらいじゃない。コミュ障には何かしらの話題がないと勇気いるのよ。だから…」
歩きを止め、ジークに方に身体ごと向ける。
(なんか、今すごい楽しい事伝えたい。それと──)
「今日はランチ誘ってくれてありがとう。ジーク知っているか分からないけれど、ちょっとリリーさんと色々合って気まずかったというか…。だから今日すごく楽しかったよ!!リリーさんも楽しそうにしてたわ」
ぽんっと頭を撫でられる。話すことに夢中でいつの間にかジークが目の前にいた。またぽんっと頭を撫でる。ジークの顔を下から見上げると、照れくさそうに頬を搔いていた。
「──褒め過ぎ…」
「ふふっ、何赤くなってるの?」
ジークの掻いた頬に手を当てる。赤く染まる頬は体温が集中して温かい。
「いや、俺は―シャルロッテと話したくて、二人だと警戒させるからシアラを誘ったんだ。礼を言うのは俺の方だ。シアラ、今日はありがとう」
満面の笑みを浮かべるジークの笑顔はお日様みたいで…。
(ああ、ジークも攻略キャラなんだな~)
――――――――
ジークとのお喋りはラズリとはまた違う楽しさがあって、めちゃくちゃ楽しかった。気付いたら私の住まう寮の門前に辿り着く。
「ああ~、ひっさしぶりにシアラとこんなに喋ったな~」
「私もよ」
「余りにも久しぶりだから再会した時、シアラ俺の事忘れたかと思った」
「再会した時は、あれはラズリの事に意識が集中していたから…。急に話しかけられたら誰でも私と同じ反応するわっ!!」
(本当は、幼馴染だったとは知らなかったから咄嗟にあんな反応してしまったんだよ。バレてないみたいで良かった~)
心の中でほっと肩を撫でおろす。
「ははっ!!悪い悪い。ああ、もう着いたな。じゃあまたな」
ジークは手を振ると、早足で駆け出そうとしている。
「またね」
私も手を振ってジークが見えなくなるまで見送ろうとした。けど、何か忘れている気が──。ジークと喋って頭をよぎった事──。あっ!!思い出した。ジークがリリーさんをランチに誘った。て、ことはジーク√の選択肢は───
「一緒にランチしないか」に対し、「はい」を選択。これでジーク√突入、確定となる。そうなると―――
「待ってっ!!ジークっっ!!」
小走りで走っている彼に大声で呼び止め、パチンっと指を鳴らすと、風の魔法で瞬時にジークの元に着く。
「ど、どうしたんだ?!」
あまりの事態に驚いた表情をしている。
「待って、私、ジークに訊きたいことがあったの!!」
コホッと大声を出した所為で咽てしまう。
「あぁ~、もう大声出すから」
すかさず背中を擦ってくれる。流石オカンって呼ばれてただけのことはある(主にジーク担に)
「ゆっくり呼吸整えてからでいいから。何?訊きたいことって」
呼吸を落ち着かせ、息を吸う。段々と肩が上がらなくなった。
「ねぇ、ジークはどうやってランチにリリーさんを誘ったの?!」
そんなこと?と声には出していないが、呆れた様な表情をするジーク。言ってる自分も何言ってんだこいつってなるからその表情やめていただきたいっ!!恥ずかしくなってくるから。共感性羞恥が襲ってくるからっ!!
「ぷはっ!!いきなり大声で呼べ止めるから何事かと思ったらそんな事か~。やっぱ面白いわシアラって」
ジークはくくくっと笑いを堪えるのに必死になっている。腹抱えて笑うこと?
はぁーはぁーと息を整えるジーク。一応、怪しまれない様に訊き方を工夫しよう。
「ねぇ、私から誘う場合どうしたらいいのか分からないの。だからアドバイスくださいジーク」
「そうだな~。“一緒にランチしないか?”でいいんじゃないか?俺と同じで」
笑い過ぎて、目に浮かぶ涙を指で拭いながら答える。そうか──この世界は、ジーク√に入ったんだ!
「ありがとう。参考になったわ」
軽く手を振り、くるりと踵を返し、寮に帰ろうとジークに背を向けたその時───
「待って」
パシッと手首を掴まれた。
「何?」
振り返ると、額に柔らかい唇の感触が───
「えっ!!」
掴まれていない手で、額を押さえる。
「忘れ物♪」
そういうやいなや、ジークは掴んでいた手を放し、手を振って小走りに走り去った。
?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!
「ど、どういう事?!」
小さくなっていくジークの後ろ姿を見ながら、ポツリと呟いた。




