閑話
「まさかフランの許嫁がリリーさんだったとは、驚いたわ」
週末、私はぷちお茶会を開催する為、学園の隅っこにある庭園に来ていた。いつもは独りになりたくてここによく訪れていたのだけれど最近は…
「僕の方こそ、シアラと同じクラスなんて思ってもみなかった」
ティーカップを片手に優雅にお茶を嗜む見目麗しい少年は最近編入したクラスメイト、フラン・ハイジア。妖精族の王子様で人間界を学ぶ為、この学園に通うことなったそう。もとい、秘密のお茶会友達である。
今日は特別会う約束はしていない。けど、フランと初めて出会った日に毎週休日にここに居ると伝えていた。その事を覚えていたのか単純に人間界のお菓子が食べたいのか真相は判らないけれど高確率でフランとここで出会う。まるで待ち合わせ場所みたいに。
(いつも二人分のお茶とお菓子を持参しておいて良かったと心底思う。まぁ元々はフランのお気に入りの場所だからね。たまたま出会うのはしょうがないのかも)
目の前で美味しそうに今日のお茶菓子を頬張る妖精族の王子は、編入してすぐにクラスの人気者になった。妖精族はこの国では珍しく、中々会うことが出来ないらしい。フランが言うには妖精族は皆、警戒心が強く人見知りも多いのも特徴の一つだとか。
(攻略キャラクターの一人だから日頃から交流を行っていると思っていた。転生しなければ知りえなかった情報が沢山あって乙女ゲーマーにとっては有難き幸せ♡)
フランが人気者になったのはそれだけではない。彼は妖精族の王子だ。そして、私達のいるクラスにはこの国の第二王子ロキュリアス・ナイトニアが存在する。その為、二人の王子様見たさに他クラスの生徒が度々訪れに来るのであった。いつも取り巻きに囲まれても笑顔を振り撒く二人を横目に王子って大変そうだなぁとモブらしく遠目で眺めている。
「ねぇ、フラン。あれからリリーさんとは進展あったの?」
ずっと気になっていたことを訊ねる。
「いや~、全然。僕の方からランチに誘ったりしてはいるけどいつも先約がいて断られてしまうんだ」
フランはそう言うとにこっと微笑んだ。口角は上がっているけど目の奥は悲しんで見える。悪いこと訊いちゃった…。
「ご、ごめんなさい。気を悪くさせるつもりはなかったの…」
「いいよ。まだ編入したばかりだけど、シャルロッテは警戒心がとても強い。僕がいきなり手の甲にキスしたのが災いしているのも原因のひとつかも…」
しゅんと悲しんでいるフランに考えなしに自分の都合で訊いた事を後悔した。この世界は、シャルロッテがどの√に進むのか気になって情報を集めたかった。ただそれだけ。
(自分勝手で悲しませてごめん、フラン)
「さ、さぁお菓子を食べましょう!!今日はマフィンを持ってきたの♪」
私は少しでもフランが元気になれるよう明るく振る舞いマフィンを勧めた。
「これは?」
「これも先週のクッキーと同じ小麦粉を使ったお菓子。でもね、今回は焼くと膨らんでふわふわになるのよ!是非、召し上がって!!」
フランはマフィンを手に取ると、パクっと一口食べる。すると目を見開いて驚いた表情に!そして彼の周りにキラキラと光るパウダーのような光が降りかかる。
「んっ!!ほんとだ、ふわふわだ!それに弾力があってもちもちしている。シアラこのもちもちは?」
「もちもちしているのは米粉を少し混ぜているの」
「そうなんだ…。すごい、人間界は美味しいお菓子が沢山あるんだね。シアラ、教えてくれてありがとう」
にこにこ子供みたいな笑顔でマフィンを頬張るフランはほんと可愛い♡この可愛さを皆に知ってほしいな~~あっ!!
「フラン、リリーさんに手作りお菓子を渡すのはどうかしら?」
いきなり何を言っているんだと突拍子のないことをぬかす私に痛い視線を感じる。
「ん?どういうこと?さっきも伝えたけど、彼女は警戒心が強い。だから急に仲が良くない僕の作ったお菓子を食べるとは思えないよ」
「“今度、人間界の方達が大勢参加するパーティーが開催される。そこに招かれているのだが妖精会のお菓子を振舞おうと思っている。だけど人間達の口に合うか分からないから試食を頼みたい”ってお願いしたら食べるわ」
「えっ?シアラ、からかうのもいい加減に──」
「物は試しよ♪やってみて効果がなかったら私を恨んでもいいから」
少し、ぬるめのお茶を口に含む。紅茶特有の苦みが口いっぱいに広がる。
フランは「ほんとかな~」と困った様子で腕を組んでいた。ほんとだよ。だってこれがフラン√に入るきっかけなんだから──
この乙女ゲーは攻略キャラクターの選択制ではない。攻略キャラクターを攻略したければ、二択の選択肢を駆使し、好感度を上げて√に突入する。
フラン√に入るきっかけはフランが、妖精界のお菓子を作って試食をお願いされる。それに対しシャルロッテが【食べる】を選択肢で選ぶ。昼休みを共に過ごしフランとの好感度は爆上がり。そして何よりこのヒロイン公式プロフィールに好きは食べ物がお菓子全般だ!お菓子に目がない女の子だ。いけるぞフランっ!!
――――――――
フランとのぷちお茶会は日が沈む前にお開きとなった。最後までフランは私の助言を疑っていたが、あの様子だと実行しそうな予感があった。フランもなんとかシャルロッテとの
との距離を縮めたいらしい。
ずっと探していた許嫁──
許嫁に“一目惚れ”。フランにとっては運命のような出会いだったのでしょう。
空を飛びながらフラン√を思い出していた。始めの内は中々思い出せず、今はフランと過ごす日が多くなってから段々と前世でプレイしたフラン√の記憶が蘇ってきた。
(フラン√は山あり谷あり。でもそこを乗り越え二人の絆が深まり、二人が目指した幸せを掴む)
「ふふっ♪」
――――――――
いつも通り、寮の近くにある木に着地し、帰路につく。門前まで来ると、私の部屋に灯りが点いていた。切り忘れていたのだろうか?はっ!!まさか泥棒!
急いで部屋の前まで行き、一呼吸してドアノブを掴み引く。するとドアが開く…。
(鍵は掛けて出た…やっぱり泥棒っ!!)
ドア近くの傘立てから傘を手に取り、部屋の奥に進む。ゆっくり足音を立てないように…。すると、人影の様な大きめの影が見えた。忍び足で、ゆっくり半開きになっているドアを開けて──
(えぇい!!女は度胸っ!!!!)
「この泥棒がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
傘を振り上げ、人影に飛びついた。
パシッ!パシッ!パシッ!!!!
と、軽い破裂音が部屋に響き渡る。
「シアラお嬢様、お久しゅうございます。ですが、久しぶりの再会だというのに少々乱暴ではございませんか?」
なんと、飛びついた人影は泥棒ではなく、屋敷の執事長ヴィンセント・クレイスだった。ヴィンセントは器用に振り上げた傘を私の手から離し足元に置く。飛びついた勢いで顔から床に倒れそうになったところを咄嗟に私の腰を掴み、瞬時に横抱きにした。
(は、速すぎて全然見えなかった…。気付いたら抱きかかえられているし)
「ヴィ、ヴィンセント貴方なんでここにいるの…?」
「メアリーの代わりに、シアラお嬢様の身の回りのお手伝いに参りました」
あんな事があったのに、いつもの微笑みで何事もなかった様に振舞う。抱きかかえたままだった私を、ソファーに座らせた。
「お手伝いを頼んだ日は明日よ。来るのが早いわ」
「えぇ、存じております」
「じゃあなんで…?」
ヴィンセントは私の目の前に傅くと、人差し指を私の唇に押し付けた。
「……シアラに会いたかった」
掛けていた眼鏡を外し、テーブルに置く。ヴィンセントの瞳がグレーから綺麗なマゼンタ色に変わる。マゼンタの瞳を見ると吸い込まれそうな感覚に陥る──
そうこれが合図。私と、ヴィンセントお兄様の───
「ハハッ、ごめん。もう待てなかった。それに…」
ヴィンセントは私の手を取ると、指を絡め、耳元で囁く。
「 」
「──ど、して…。そんなこと言うの……?」
気付いたら、涙が頬を伝う。ヴィンセントはそれを舐めとると、そのままキスをする。
「ねぇ、シアラ。俺の可愛い妹」
そう呟くと絡めた指を引き寄せ、抱きかかえると寝室まで連れていった。




