第52話 またまた新しいおともだち
ボクがスペースを自由に出たり入ったり出来るようになった事はすぐにバーミリアンのおっちゃんからレックスに、そしてレックスからみんなに伝えられ、みんなしてとても喜んでくれた。
だけどそれから数日の間は今まで通りスペースの中で過ごすようにした。
変わった事と言えば、これまでお昼ごはんは誰かが持ってきてくれてたんだけど、今は自分でレックス達が食べている場所まで行って食べているのだった。
そんなある日の寄宿舎へ向かっている時、「ベアーズ」(ん?)「また明日から試験が始まるから、朝から夕方までお前だけで過ごしてて欲しいんだ」レックスからそう言われ、······コク(うん、分かった)素直に受け入れた。
ただそれを聞いて心の中では、以前に持ち出したある思いを実行しようと考えたのだった。そう、―――ロックくんの所へ遊びに行ける―――という思いを······。
そして次の日。スペースに放されてレックスは試験ってのをしに行った。
それからすぐに(よし!)トコトコと扉に向かい、カタッ! 初めて自由に扉から出てタッタッタッタッ······そのまま学校の中を抜けた。
その後学校へ来たり帰る時に通る門をくぐり抜け、初めてこれまたボクだけで王都の街中に足を踏み入れたのだった。
(ホントに良いのかなぁ?)と少し不安になりながら街中を駆けて行った。
だけど、誰もボクを見たり気付いてもボクを止めたり捕まえる素振りはなく、それどころかよく顔を合わせたりするヒトからは「よぉ、ベアーズ。ひとりでお出掛けか?」と声をかけられるほどだった。
(あー良かったぁ)と思いながらそのまま街中を過ぎ去り、大きな門をくぐって王都の外に出た。
(さてと、確かロックくんのいる洞窟は······)そこで少し周りをキョロキョロ見渡し、(あっちだったな)洞窟の場所を思い出してまた駆け出した。
それから少し行ったところで(あったぁ!)洞窟が見えてきたのだった。
洞窟に入り(えーっと、ロックくん達がいたのは······)またそこでキョロキョロ周りを見渡したり、クンクン、クンクンと匂いを嗅ぎだし、(こっちだ!)居場所が分かって再び駆け出した。
そうしてまたまた少し行ったところで(いた!)ロックくんとロックくんの親の姿が見えた。
そこで「おーい、ロックくーん!」と呼び掛けた。するとロックくんも気付いてくれてこっちを見て、「えっ、ベアーズくん!?」と驚いていた。
「久しぶり!」「ひ、久しぶりだけど、きみだけで来たの? ひょっとして」「うん!」それを聞いてロックくんだけでなくロックくんの親も驚いていた。
「ど、どうやって? それより、どうして?」と聞いてきたので、スペースから自由に出たり帰ったり出来るようになった事と、王都の街中や王都から少しだけ離れた場所までなら行けるようになったので、会いに来たのだと伝えた。
「そうだったんだ」「うん! そうなの」それを聞いていたロックくんの親(母ちゃんみたい)が、「ならわざわざ遊びに来てくれたんだから、ベアーズ君と遊んできたら?」と言ってくれた。
「良いの! お母ちゃん」「えぇ。但し、アイツらには注意するのよ」(アイツら?)「うん、分かってる! 行こっ、ベアーズくん!」「う、うん」
ロックくんの母ちゃんが言ったアイツらの事が気になったが、とりあえずロックくんと遊びに出掛けた。
しかしやっぱり気になったので、「ねぇロックくん。さっき君の母ちゃんが言っていたアイツらって誰の事なの?」と聞いてみた。
するとロックくんが「それは、ボク達親子以外でこの中で暮らしている"ヴァンパイアバット"って呼ばれている、黒くて小さい空を飛んでる奴らの事だよ」「そうなんだ」そんな奴らがこの洞窟の中にはいたんだ。
「アイツらボクを見掛けるとすぐ襲ってきたりしてくるんだ」「そうだったんだ。ならホントに気を付けないとね」「うん。ところで、何して遊ぶ?」「うーん······」悩んで考えた末······。
「待て待てー!」「こっちだよー!」結局森で他の動物達とやっていた追いかけっこをして遊ぶことにしたのだった。
暫くそうしてボクが追いかけたりロックくんが追いかけたりして遊んでいた。
その時、バサバサバサッ!「ん?」遠くの方で何かが飛んでる音が聞こえたような気がした。
「ねぇロックくん。今何か音がしなかった?」「音?」「うん。何かが飛んでるような音みたいだったけど······」「まさか、アイツらじゃあ」「あっ!」さっきロックくんが言っていたヴァンパイアバットって奴か!
そう思ったらボク達は音が聞こえてきたと思う方向を見て警戒しだした。
するとやはり「っ! やっぱりアイツだ!」ロックくんがそう叫んだ。よくよく見ると前方から黒くて小さな生き物がこちらへ向かって飛んで来るのが確認できた。
(アイツがヴァンパイアバットって奴かぁ)そう思っているとそのヴァンパイアバットはあっという間にボク達の間近に迫ってきていた。
そのためボクはより一層の警戒心を持ちだした。
ところが、そのヴァンパイアバットはボク達を無視して通り過ぎた······かと思ったら再びボク達の所に向かって来た。
そして、「ねぇ、きみひょっとしてレックスって子の知り合い?」「······え?」何とレックスの知り合いなのかどうか聞いてきたのだった。
「う、うん。知り合いって言うより、一緒に暮らしてるんだけど······」「やっぱり! レックスくんの匂いが漂ってたからもしかしてと思ったけど」
そう目の前のヴァンパイアバットが答えてくれたので、「ねぇ、きみこそ何でレックスの事知ってるの?」と尋ねたら、「前にレックスくんに助けてもらった事があるの」「ええっ!?」それを聞いてさすがにボクは驚いた。
そのヴァンパイアバットの話だと、ケガをして地面に倒れ込んでいたところをレックスに見つけてもらい、住み処の近くまで運んでもらったとの事だ。
「そっかぁ。ボクと同じ事をしてもらったんだ」「君も?」「うん。ボクも森でケガをしてうずくまっていたところにレックス達がやって来て、ケガを治してくれたんだ」「そうだったんだ」などといつの間にかヴァンパイアバットと会話をしだしたのだった。そして······。
「待て待てー!」「わー!」「こっちだよー!」そのヴァンパイアバット(ボク達は"バットくん"と呼ぶことにした)とも追いかけっこをして遊びだしたのだった。
それからバットくんの住み処に招待されてバットくんの家族や仲間にボク達の事が紹介された。そして、「今まで襲ったりしてごめんね」「うん、もう良いよ」バットくん達に今までロックくんを襲ったりした事を謝るように言って実際にバットくんがロックくんに謝ったのだった。
そうして暫くバットくん達の住み処で過ごし、帰ることにした。
その後ロックくんの住み処に着いてロックくんの母ちゃんにバットくん達との事を話したら、とーっても驚いていたのだった。
こうしてボクは洞窟を出て王都の中に戻り、学校のスペースに戻ってきた。
(あー楽しかったぁ)今日の出来事を振り返って本当に心の底から良い気分になっていて、その状態はレックスが迎えに来た後も続き、「ベアーズ、どうしたんだ?」と聞かれても上の空だった。
それからは毎日レックスがいなくなったらスペースを抜け出して洞窟に向かい、ロックくんと、もしくはロックくんやバットくんらと楽しく遊んで過ごしたのだった。
そんな風に毎日を過ごしていたある日の夕方。レックスが迎えに来た時に「ベアーズ。今日で試験が終わって無事合格したんだ」(ごうかく?)そう話してきた。
「だから数日後から2週間夏季休暇、つまり2週間学校がお休みになるんだよ」(えっ!?)学校がお休みになる。それじゃあ、ロックくん達と会えなくなる。
そう思ったら気持ちが落ち込んでしまった。だけど、「それで、今年は兄ちゃんやアリスはもちろん、お姉ちゃんとも一緒に村へ帰る事にしたんだよ」(村に······えっ、村に!? それじゃあ!)そこでようやくボクは明るい表情になってレックスを見だした。
「はは、そう。お前もベアーに久しぶりに会えるって事だよ」ボクの気持ちが分かったかのようにレックスはそう言ってくれた。
(や、やったぁーーー!)そう思ったらボクはその場で何度もピョンピョンピョンピョンと跳び跳ねたのだった。
「ははは! 本当に嬉しそうだなぁ、お前は」レックスがそう言ったけどボクには聞こえてなかった(わーいっ!)。
しかしその後の「だけど、そうなるとあれをどうしたものか······」というレックスの独り言が聞こえてきてピタリと動きを止めた。
("あれ"?)一体何の事だろう? そう思いながらレックスを暫く見続けたのだった······。