7:ドレス選び
結婚式において最も必要なもの。それがウェディングドレスである。
元々貧乏子爵令嬢でしかなかったノーマは大したドレスを着たことがなかったので高級なドレスを纏うのがこれで初めてになる。どんなドレスを着ることになるのかと少々楽しみではあった。
だが……。
(ドレスって一日で仕立てられるものではないですよね?)
よくよく考えてみれば結婚式は明日。それまでにどうやってドレスを用意するというのだろうかということにノーマは気づいた。
事前に用意しておくにしても採寸が必要だから、ぴったりなものを用意することはできないだろう。もしかしてぶかぶかなものを着させられるのではないかと考え、彼女は思わず顔を顰めた。
いくら突然の結婚だとはいえ、せめてドレスくらい立派なものが着たい。……まあ、元々結婚するつもりすらなかったノーマには贅沢すぎるのかも知れないが。
そんなことを思い悩んでいると、結婚式までの間だけと言って充てがわれていた部屋の扉がノックされた。
「は、はい。どなたでしょう?」
「侍女のヘラでございます。ノーマ様、失礼致します」
そう言って入って来たのは今日からノーマ専属の侍女となるらしい金髪の少女、ヘラ。
ちなみに彼女は侍女としてここで働いてはいるものの、伯爵家の三女だか四女であるらしい。つまりノーマより格上なのだ。なのにこうして丁寧な言葉遣いをされると違和感が半端ない。
金髪碧眼で顔が整っており、容姿も明らかに彼女の方が優れている。むしろハンスの妻としてふさわしいのは彼女じゃないだろうかと思ってしまうくらいだった。
……と、それはともかく。
「ヘラさん。一体何の用ですか?」
「ノーマ様に明日の式のためのドレスを選んでいただきたく」
ノーマは驚いた。「すでにご用意なさっているのですか。どうやって」
「奥様が身だしなみを整えるのが非常にお好きな方でいらっしゃったそうで、ガイダー家には腕のいいドレス職人と多数の繋がりがあるのです。それらの職人に頼み、五日で十着のドレスを用意させたとのこと。その中でお体に合うものを選んでいただきたく」
「えっ。五日で十着、ですか……!」
普通、一着だけでも五日で出来上がるようなものではない。それなのにたったの五日で十着仕立てるとは……なんというか、規格外である。
目を丸くしながらもノーマはヘラに言われるままにドレスが用意されている部屋へ行き、試着を始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
十着のドレスの中で体に合うのは三着。他の七着も美しかったのでもったいない気がしたが、それはガイダー夫人が着たり下級貴族の女性たちに売ったりするそうなので、まあ良しとしよう。
そして残る三着の一体どれをウェディングドレスとするかでノーマは頭を悩ませていた。
色はオーソドックスな白、それから赤と黄色。どれも思わず息を呑むような煌びやかなドレスばかりで、着比べてみたもののどうにも甲乙つけ難いのだ。
「うーん。ヘラはどれがいいと思います?」
「白いドレスはノーマ様の純朴さを際立たせて素敵だと思いますし、赤いドレスは少し過激な色が加わって素敵な女性に見えます。黄色のドレスの方は柔らかなイメージで、ノーマ様のお美しい茶髪に映えて輝いております」
ダメだ。ヘラはおべっかが上手すぎて、結局のところどれがいいのかわからない。
ノーマは改めて鏡に映した己の姿をじっと見つめ、考える。そして白いドレスを手に取った。
「では、これにします」
ごくありきたりな色調だ。でもだからこそいい。装飾も少なめで派手に目立つことなく、だからと言って変な印象を与えたりしない。ノーマ・プレンディスという人間に相応しいドレスだと思った。
ドレスが決まれば後は小物を整え、結婚式本番に備えるだけだ。
どんな結婚式になるのだろう。期待と不安を胸に、明日を迎えるのだった――。
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