後日談4:微笑ましい夫婦※ネリーside
(ほんと随分変わったよね、この二人)
ネリー・ガイダーはそんな風に思いながら、兄夫婦の楽しげな様子を遠くから眺めていた。
結婚当初は偽装結婚であり、愛のカケラもない冷め切った夫婦だったのだが、ヘタレのハンスに力を貸したことで関係が改善し、それからはもっぱら見ていてニヤニヤが止まらないイチャイチャっぷりである。
二度目の結婚式から一週間ハンスにお仕置きしたのがいけなかったのか、あれから数ヶ月経った今も毎夜毎夜激しい声が聞こえて来るのでほんの少し心配ではあるが、二人とも幸せそうなので大丈夫なのだろうと思う。
「あれならお兄ちゃんたちをこの屋敷に残して行っても大丈夫だよね、きっと」
ネリーには婚約者がいる。
とある伯爵家の長男で、ガイダー家とは古くから付き合いのある家なので幼馴染同然の相手だ。ネリーと婚約者とは非常に仲が良く、いよいよ結婚して伯爵家へ嫁ぐことになったのだ。
前までの二人ならともかく、今の兄夫婦を見る限り心配はいらないだろう。ネリーがいなくなった後もイチャイチャし続け、きっと一年以内には「子供ができた」との便りが届くに違いない。
「ネリーお嬢様がいないとノーマ様たちは寂しがられるでしょうけれど。もちろん私もでございますが」
そこへ現れ、話しかけて来たのは侍女のヘラだった。
ノーマの専属になる前はネリーを担当していたので、ヘラとは親しいのだ。
こうして二人きりで話せるのもこれで最後か……と思うと、ネリーも寂しく思う。
しかしそれを押し隠し、笑顔で言った。
「大丈夫だよ。ノーマちゃんにはしっかり馬の乗り方を教えてあげたから、会いたかったら馬で来てくれると思うよ。ヘラもノーマちゃんと一緒に来ればいいし」
「本当でございますか。なら、ぜひそうさせていただきたく思います」
「楽しみにしてるよ。できれば花畑の花とかも持って来てほしいかな」
「承知いたしました」
そんなことをしばらく話した後、「では私は準備がありますので」とヘラがネリーの傍を離れて行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
数日後、ガイダー家総出でネリーとその婚約者の結婚式場までやって来ていた。
もちろん主役はネリーたちなのだが、兄夫婦たちがベッタリ過ぎてこちらの方が空気になっているような気がする。
ネリーと婚約者が愛の誓いをしている間、ノーマがきゃあきゃあと騒ぎ立て、口を塞ぐためだと言ってハンスが濃厚なキスをしているところを見てしまった時には、思わず笑ってしまったくらいだ。
本当に微笑ましい夫婦だった。
「ネリー、俺たちのことは気にするな。幸せになれ」
「ネリーのおかげで幸せになれました。ありがとう、お元気で」
「こっちこそありがとう。二人とも、これからも仲良くね」
式が終わると、ハンスとノーマの見送りを受けてネリーは伯爵家へと向かう。
これから伯爵家夫人としての大変な日々が待っているだろう。不安はあるが、兄夫婦の姿を見て元気が出た。
「僕たちもあんな風になるといいね」
手を繋ぎ、寄り添い合っていた婚約者――否、夫が小さく呟く。
ネリーはそれに頷いて、自分よりも小柄な彼の体をぎゅっと抱きしめた。
「もちろん。あんな風に……いや、あの夫婦よりもっともっと幸せになろう」