後日談2:次期辺境伯はお仕置きされる※ハンスside
二度目の結婚式がつつがなく終了した後、ハンスは内心これ以上なく浮かれ切っていた。
告白の時はキスしかできなかったが、今夜は同じ部屋で寝るわけだし、今度こそノーマを愛することができる。そう考えるだけで嬉しくてたまらなかった。
もちろん治りつつはあるとはいえノーマは怪我人だから優しくするつもりではあるが。
「彼女もまんざらじゃなさそうだし、断られることはないだろう」
それにこれは、次期辺境伯として大事なことなのだ。
一時は養子でも取れば……と思っていたが、貴族の仕事の一つが異性と閨を共にし、子を成すことなわけだから、ようやく両親もハンスを一人前と認めてくれるだろう。
ネリーにだって二度とヘタレなんて言われないに違いない。
(ああ、楽しみだ)
しかし彼のそんな期待は粉々に砕かれることになる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……なんで、ネリーがいるんだ?」
ハンスとノーマの二人部屋に、いるはずのない妹の姿を見つけてハンスは呆然としていた。
子供の時以来数年ぶりに見る妹の寝巻き姿は、だが、年頃の娘とは思えないほど色気がない。背ばかり大きくなってしまって女性らしい膨らみがないせいだろう。
……と、そんな現実逃避はさておき、だ。
「これは一体どういうことだ」
ハンスの問いかけに、ベッドに腰掛けるノーマは申し訳なさそうにこちらを見つめるだけで何も言わない。
代わりに彼女の隣のネリーが答えた。
「お兄ちゃんは閨を共にする気満々だったんだろうけど、初夜の時の自分の言葉を忘れたとは言わせないよ?
ノーマちゃんは許してるみたいだけど、あたしはやっぱり何もお咎めなしはダメだと思うの。だからね、ちょっとだけお仕置きしなきゃねっていうことで、今日からお兄ちゃんは一週間、あたしとノーマちゃんのイチャラブトークを聞きながら一人で寝てね〜」
「はぁ……?」
説明されはしたが、さっぱりわけがわからなかった。
そりゃあ初夜の言葉はひどかったと自分でも思う。だが、それでも、この仕打ちはないんじゃなかろうか?
うわついていた気持ちなんて全て掻き消えて、ハンスはただ困惑するしかなかった。
ノーマに視線をやる。ネリーよりずっとふくよかな体つきをしていて、薄い純白の肌着が非常に男心をそそった。
「ごめんなさい。でも私も、体が万全じゃないですし。もう少し待ってほしいかなとは思います。も、もちろん、今すぐは嫌ってわけじゃないですけど!」
「またまた〜。ノーマちゃんだってあたしの作戦にノリノリだったくせに」
「別にノリノリじゃありませんでしたよ。誤解させるようなこと言わないでください」
そのままノーマとネリーは仲良さげに話し始めてしまった。
夫婦の部屋に妹が入り込み、嫁を独占している。これは夫であるハンスにとって由々しき事態であったが、しかし、ノーマにやんわりと閨事を断られてしまった後では強気に出ることができなかった。
結局ハンスは、項垂れながらソファの上で眠るしかなかったのだった。
「告白してもやっぱりヘタレなままじゃん。こんな男で本当にいいの、ノーマちゃん?」
「ヘタレだなんて。まあ確かに、頼りないところはあるとは思いますけれど」
そんな女子たちの声が聞こえた気はしたが、空耳ということにしておこうと思う。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして強制的に我慢を強いられたハンスは、ネリーの『お仕置き』が終わった一週間後に飢えた獣のようにノーマへ襲い掛かることになるのだが、それはまた別の話。
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