45:誕生日プレゼントは、甘やかなキスを
告白されたのだと気づいたのは首にネックレスをかけられてからだった。
ハンスの口から発せられた、彼に似合わぬ甘くとろけそうな言葉。
『愛しの人』だなんて物語の中でしか聞かないような言葉を真顔で言われてしまっては、なんと言葉を返していいかわからなかった。
確かにノーマは今までハンスに好かれようとして努力してきた。
だから告白自体は嫌ではない。だが、理解できないのだ。
どうして急に彼がそんなことを言い出したのかを。
「……これは誕生日のドッキリサプライズプレゼントのつもりですか?」
意味不明過ぎたせいで本音が漏れてしまう。
今日が自分の誕生日であるということは、実はハンスに言われて初めて思い出したくらいだ。しかしこうしてネックレスを渡して来ることを考えれば彼は前から知っていたに違いない。
よく覚えていないが、ネリーに誕生日を訊かれたような気がする。彼女がハンスに教えたのだろうか。
でも、誕生日プレゼントが嘘告白とは笑えなかった。
「そんなわけないだろう。俺は本気で、本気の本気で、君のことが好きなんだよ」
「そう言ってくださるのは嬉しいですが、わたしがそれを信じられる根拠がありません」
「……信じさせる方法なら、ある」
(何を言っているのでしょうか、この人は)
きっと今の彼は、ノーマに対して罪悪感を抱いているだけ。
こうして怪我をさせたのは自分のせいだと思い込んでいるに過ぎない。だから、心配しないで大丈夫だと言おうとして。
――その前になぜか、口が塞がれていた。
(…………!?)
何が起こったのかわからなかった。
唇に触れる、柔らかくて甘い感触。その正体を受け入れるまでに一体どれだけの時間がかかったのだろうか。
すぐ目の前に彼の顔がある。鼻先がぶつかり、目と目がしっかりと見つめ合っていた。ハンスの赤い瞳はわずかに潤み、熱がこもっているように見える。
まるで本当にノーマのことが好きだとでもいうように。
「愛してる。こんな言葉じゃ軽いかと思われるかも知れないが、本当だ」
唇を話したハンスはそう言って、ノーマの体をそっと抱きしめた。
ああ、もう、何が起こっているのかわからない。顔が熱くなる。恥ずかしくて信じられなくて居た堪れなくなって、なのに嬉しいと思ってしまった。
「なんで、こんなこと」
「好きだからだ。この先も俺の妻でいてほしい。お飾りなんかじゃなく本当の妻として」
ハンスの顔が近い。
かと思えば彼の顔が再びノーマに迫り――二人は二度目のキスを交わした。
それからはもう止まらなくなって。
繰り返し、繰り返しキスをした。舌を絡ませ合って、ただ貪るように。
そうしながらノーマは思った。
(ああ、私もこの人のことをいつの間にか受け入れていたのですね)と。
そのまま勢い余ってそれ以上の行為に至らなかったのは、ドアの外で聞き耳を立てていたネリーとヘラが「やばい」と言って止めに入ったおかげだ。
激しい行為を目撃されたノーマが悲鳴を上げ、羞恥でぶっ倒れた話はガイダー辺境伯家で後々語り継がれることになるのだが、それはまた別の話。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ノーマ・ガイダー十八歳。
彼女はこの日、恥ずかしくて幸せな口づけという誕生日プレゼントをもらったのである。
これにて本編完結となります。お読みいただきありがとうございました。
後日、おまけ話を投稿予定ですのでそちらもぜひよろしくお願いします。
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