44:告白※ハンスside
国王を脅す――もとい説得し、王太子を止めることができたが、ノーマはかなりの傷を負ってしまっていた。
腕の中でぐったりとしている彼女を王宮へ運んで治療を受けさせる。そして再びノーマの顔が見られたのは一日以上経ってからのことだった。
ハンスは、今までにないほどドキドキしていた。
緊張に身がこわばっているのがわかる。それもそのはず、今から彼は一世一代のプロポーズに臨むのだから。
「俺だ。入っていいか?」
声が震えないよう、昂る気持ちを押さえつけながらドアの中に向かって声をかける。
するとしばらくして返事があった。
「はい」
ドアを開ける。
そしてハンスの視界に飛び込んで来たのは、白いベッドに腰掛ける茶髪の少女の姿だった。
……少女。まだ少女なのだ。ネリーよりずっと背が低く、小さい。こんな少女がこんな傷だらけでいることに胸が痛む。それと同時に、彼女を守ってやれなかった自分に腹が立った。
(ああ、俺はやっぱり、彼女が好きなんだな)
ハンスは改めてそれを自覚し、苦笑する。
「どうしたのです、ハンス様? なんだか様子がおかしいようですが」
気づかれたか。
動揺しかけるがなんとか堪える。狼狽えてはいけない。ここに来る前、強気でいろとネリーに言われたのを思い出す。
「わかるか。実は、君に大事な話があってな」
「もしかしてこんな傷だらけになった女とは離縁したいなどということですか……?」
ノーマが、静かな声で問いかけて来る。
しかしその瞳はとても不安げで、揺れているように見えた。
(そうか。そう思われても仕方ないよな。俺はそれだけのことをやって来たんだ。でも)
「違う。その真逆だ」
「真逆……?」
「初夜の宣言を撤回したい。いいか?」
ずっとずっと思っていたことだった。
あの夜をやり直せればどれほどいいだろうか、と。
だから今言う。彼女ともう一度、始めるために。
「これが俺のわがままだということはわかっているつもりだ。
『君を愛することはない』なんて言って、まだ君のことを何も知らなかったくせに自分勝手な理由で拒絶して。その上さらに舌の根も乾かぬうちにこんなことを言い出しているだなんて、最低だよな。
今回だって、元を言えば俺のせいで事件が起こったようなものだ。俺に嫁がなければ君はそんな怪我をしなくて済んだ。俺が無理矢理にでも引き留めていれば、と思わずにはいられない。
俺はどうしようもない情けないやつだ。ヘタレだ。だが……」
そこで言葉を切り、ノーマの方を見る。
彼女は驚いたような顔つきで固まっていた。それはそうだろう。まさかこんなことを言われるなんて思っていなかっただろうから。
「君の強さに惚れてしまった。俺は口が上手くないからちゃんとしたことは言えない。ただ、好きなんだ。この気持ちは本物なのだと思う。
だから、どうかこれを受け取ってほしいんだ」
そう言ってハンスが差し出したのは、後ろ手に持っていた物――真っ赤な宝石とブラックダイヤモンドが嵌め込まれたネックレスであった。
ノーマに虫除けとして渡したものと揃いの品だ。実はあの虫除けも彼女の誕生日に渡そうと思っていたものだが、他の男に手を出されてはたまらないという嫉妬心でつい持たせてしまったものである。まあ、アレの効果はなかったようだが。
この色がハンスの色であることを、ノーマは気づいただろうか。
婚約者や配偶者に自分の色の品を渡す行為は、その者への愛を意味するという風習があるのだ。
ガイダー領周辺だけの風習であるし、その意味はおそらく伝わらない。それでも俺の色を持っていてほしかった。
「誕生日おめでとう、俺の愛しの人」
顔から火が出そうなセリフを言って、ハンスはネックレスをノーマの首にかけたのだった。
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