41:クズ以下の男※ネリーside
正直、ここまでひどいことになっているとは思っていなかった自分に腹が立つ。
門番を張り倒して無理矢理忍び込んだ王宮の中、地下牢への通路を見つけ、ヘラと二人で中に入っていったところに彼女は倒れていた。
綺麗に整えられていたはずの茶髪は乱れ、ドレスが破れて血が飛び散っている。
そんな惨状を生み出したのはノーマに馬乗りになっていた男――そして今、ネリーと激しい肉弾戦を繰り広げているチャーム王太子だった。
「あたしを殺すんじゃなかったんですか? 指一本届いてないんですけど。口ほどにもない、ね!」
「何を言うか。小娘一人に負ける俺ではない」
「意地張っちゃって。王太子殿下ともあろうお方が、なっさけなーい!」
無力なノーマを圧倒できても、令嬢とは思えないほど元気盛んなネリー相手にはチャーム王太子は敵わない。
本当なら今すぐでもネリーは彼を殺ることができる。だが、それはできれば取りたくない選択肢だった。
ノーマを地下牢に引き摺り込んだだけではなく、執拗に暴行を加えたことは決して許せない。クズ以下の醜い行動に腑が煮え繰り返る。
それでも相手は王子。しかも王太子なのだ。簡単に手を出せば、後でどうなるかわからない。辺境伯家の名を汚すような事態にするわけにはいかないのである。
「とっとと降参したら見逃してあげてもいいですけど、どうしますか?」
ここで諦めてくれれば話は早い。
しかしむしろやる気になったのか、王太子の目がカッと見開かれて攻撃の速度が増す。侮辱されたら許せないタイプの男らしい。
(この男、ほんと最低。お兄ちゃん早く来てくれないかな)
そんな風に思い、王太子をどうしてやろうかと考えていた瞬間のことだった。
背後からドドドド、と何やら異様な音が響いて来たのは。
「――?!」
首だけで振り返り、音の正体を見たネリーは息を呑む。
それと同時に彼女は人の波に押し流され、壁に全身を叩きつけられていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここが敵地ということを忘れていたようだな。数の暴力を思い知れ」
上階から押し寄せるようにやって来たものすごい数の騎士たちが、地下牢を埋め尽くしている。
その波から一人だけ逃れた王太子がネリーに高笑いしていた。
「わたしが女を指を咥えて見逃すわけがないだろう。あれを見ろ」
王太子の指差す先、群がる騎士たちの中央に、彼女はいた。
ヘラに連れ出されたはずのノーマが手足を押さえつけられて呻いている。ヘラとメルグリホ王女の姿はどこにも見当たらないことから、なんらかの事情ではぐれてしまったのだろうと思われた。
「ノーマちゃん!」
叫び、ネリーはノーマに駆け寄ろうとした。
しかし障害となる騎士が多過ぎて先に進めない。彼らを倒すことは難しくなかったが、その間にノーマはすっかり縛り上げられてしまっていた。
「卑怯だよ! あの子が何をしたって言うの!? こんなの王族としてあり得ない!」
「不敬だぞ。わたしを誰と心得る」
「ゴミクズ王子! 女狂い! 変態ッ!」
いくら罵っても怯む様子のない王太子。殴り倒しても次々と立ち塞がる騎士軍団。
自分の力が及ばないことが悔しい。もどかしくてどうしようもなくて、手を伸ばしてもノーマには届かなかった。
……だが、最悪の事態に陥ることはなかった。
なぜなら、
「そこの騎士たち、退け、退け!」
誰よりも心強い援軍がやって来たからだった。
それを見た瞬間、ネリーは思わず笑顔になる。
そして口の中だけで呟いた。
「遅過ぎるよ、お兄ちゃん」
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