40:侍女と義妹の到来
過度な暴力描写があります。苦手な方はご注意ください。
「あっ、あっ、う、あぁっ! ……あ、あ、あぅ、うぅあぁぁああぁぁああああ!!!」
足を踏まれ、尻を蹴られ、頬を叩かれ、まるで嵐のような暴力を受けながら絶叫する。
ノーマはメルグリホ王女に覆いかぶさり、彼女を庇うだけで必死だった。痛みが全身を支配して動けない。もう抵抗する気さえ失いかけていた。
「どうだ、大人しくわたしの玩具になるか?」
しかしその問いかけには頷かない。
この痛みから逃げたい。逃げたいが、それだけはダメだとぼんやりした頭で思うから。だからなんとか耐え続けた。
辺境伯家に嫁いでから、ヘラに毎日綺麗にしてもらった肌が王太子の靴で汚れた。
せっかくのドレスが破け、血で赤く染まっていく。
(ああ、誰か早く助けに来て)
何度目になるかわからないそんな願いは、きっと届かないだろう。
ハンスの顔がふと浮かび、消えた。もう二度と彼に会うこともないのかも知れない。仮初夫婦でもせめてもう少し仲良くしておきたかったなと思う。
「飽きて来たな。とりあえず次の段階に進もうか」
苦しみはまだ終わらない。
『次の段階』と聞いて、ノーマはサァーッと血の気が引くのを感じた。
「嫌……」
弱々しく呟かれた言葉はもちろん聞き入れられず、更なる調教が始まる。
そうなればもう、ノーマは終わるだろう。彼女の純潔は奪われようとしていた。
諦めよう。
これ以上抵抗したって辛いだけだ。痛いだけだ。このままこの男の思い通りになってやった方がいい――。
そうして何もかもを捨てて楽になってしまおうと思いかけた、その時だった。
「いくら王太子殿下だって言っても、女の子に暴力を振るうのはどうかと思いますけど?」
「ノーマ様に危害を加える方は、たとえどなたであろうと赦しは致しません」
そんな声がして、ノーマに馬乗りになっていた王太子チャームの体が遠くへ吹っ飛ばされていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「よくもやってくれたな。お前はガイダー家の令嬢か」
「それはこっちのセリフですけど? あたしの義姉ををさらって痛めつけまくって何をするおつもりで?」
「知れたこと。ハンス・ガイダーには勿体無いからわたしの女にしようと思ったまでだ」
「お兄ちゃんを侮辱するとは度胸ありますね。それはガイダー家への宣戦布告と考えてもいいですか」
「あんな家など一日で潰してくれる。だがその前に、まずはお前を殺して貶めてやるとしようか」
「あんたなんかに負ける気はしないよ。女だからって舐められちゃ困るね!」
頭にガンガンと響いて来るのは、チャーム王太子とネリーが言い争う声だった。
(ああ、来てくれたのですね)霞む視界の中で二人の乱闘が始まったのを見ながら、ノーマは思う。届かないと思っていた願いはようやく届いたのだ。
「ノーマ様、ご無事でございますか。遅れてしまい、本当の本当に申し訳ございませんでした。全身のお怪我、今すぐ治癒いたします」
「私、は後でいいです、から……メルグリホ殿下が骨折して……」
「ノーマ様の方が大怪我でございますよ。とにかく、今すぐ外へ」
上から降って来るヘラの声にどうにか答えたが、それ以上何も言えなかったし聞こえなかった。
暗転する意識の中、最後に侍女の腕に抱かれたのだけはわかった気がした。
面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。
ご意見ご感想、お待ちしております!