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38:そう簡単に逃がしはしない

「実はわたくし、お兄様のことがあって以降、何があっても撃退できるようにと少々武術の嗜んでおりますの。この程度の牢獄であれば無理をすれば脱出できると思いますわ。ノーマ夫人はそこで見ていてくださいませ」


 濃緑のドレスをたくし上げ、細い脚を惜しげなく晒すメルグリホ王女は、そう言ったかと思うと檻に足蹴りを放った。

 ゴキ、といやな音がして檻が折れ曲がる。まるで鈍器で殴られたかのような惨状にノーマは思わず声を失った。


「うぅぅ……少しばかり派手に、やり過ぎましたわ。案の定脚の骨を折ってしまったようですわね」


 痛そうに脚をさするメルグリホ王女。

 その脛は早くも赤く腫れ上がり始めている。


 王女の足蹴一つで壊れる牢獄のことや、細っこい少女(メルグリホ王女)のどこに暴挙を起こす力があるのだとか色々ツッコミたいことはあったが、それどころではない。

 我に返ったノーマはすぐさまメルグリホ王女に駆け寄った。


「だ、大丈夫ですか!」


「えぇ……まぁ……。ですがこの分だと歩けそうにありませんわ。ノーマ夫人、わたくしを背負ってはいただけないかしら?」


「私がメルグリホ殿下を!? そ、そんなこと……」


 とはいえ、王女を一人でここに残していくわけにはいかない。

 ノーマだけ逃げて救助を呼びに行く暇などない。チャーム王太子がいつやって来るかはわからないからだ。


 それに体格的にはノーマの方が上。担げないということもないだろう。

 王女の体に触れるのは躊躇われたが状況が状況だ。ノーマは覚悟を決め、王女を背に乗せ、檻の外へ飛び出した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 牢獄を逃げ惑っている中でノーマが知ったのは、ここがただの地下室ではないということ。

 脱獄者を決して逃がさないためだろう、迷宮のように道が入り組み、何度も何度も同じところを辿っている気がする。


 現在メルグリホ王女は骨折の痛みでダウンしており、ノーマ一人で迷宮を抜けるしかない状況である。

 (どうしてこんなことに)と恨み言のように心の中で呟きながら、ノーマはただただ走り続けていた。


(そもそもお茶会にさえ呼ばれなければ……。でも今更ですね。こちらから出向かずともあの男(王太子)であれば直々に辺境伯家に乗り込んで来たかも知れませんし)


 ひたひたひた。暗い廊下にノーマの足音が響く。


(ここからもし抜け出せたとしたら、本当にガイダー領まで帰れるのでしょうか。再び捕まってしまったら次の脱出はあり得ません。その時は……考えたくもないことに)


 ひたひたひた。

 ひたひたひたひたひたひたひたひたひた。

 重なるようにしてこだまする二つの足音。

 出口を探すことに夢中になっているノーマは、足音が増えたことに気づかなかった。


 そしてそれほどにまで頑張った甲斐あって、彼女は出口を発見することができた。

 上へと続く階段。上からうっすらと光が差しており、そこから出ればきっと外に違いない。


 パァッと顔を輝かせたノーマ。その顔が凍りつくのは、たった一秒後のことだった――。


「せっかく逃げようとしていたのに水を差すようで悪いのだが、どうして大人しく待っていられなかったのかな? もしも大人しくしていたら優しく扱ってあげるつもりだったのに」


 あ、と思った時には遅かった。

 脚を誰かに蹴り飛ばされ、脇腹から地面に勢いよく倒れ込む。傾ぐ景色の中で見えたのはおぞましい美貌の青年であった。


「ちょっとおてんばな君たちにはしっかり躾をしなければならないようだ」


「どうして……」


「ペットが逃げ出したら連れ戻す。それが飼い主の役目というものだろう。

 よくも勝手なことをしてくれたな。タダで済むとは思わないでくれよ?」


 どこまでも冷え切った藍色の瞳でノーマたちを見下ろしながら、王太子チャームはそう言って嗤った。

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