37:牢屋の中で
目が覚めるとそこは牢屋だった。
しばらく頭がぼんやりしていたせいもあり、この事実を受け入れるのにかなりの時間がかかってしまった。半時間ほど経ってようやくノーマはやっとそのことを理解した。
そして狼狽えた。
確かノーマは、王宮に呼び出されてメルグリホ王女とお茶をしていたはずだった。
そしてそこへ突然王太子が現れて……。
「――ぁ」
思い出した。
無駄にこちらに擦り寄ってくる王太子をなんとか適当にあしらおうとしていたその時、どこからともなく騎士たちが出て来てメルグリホ王女ともども拘束されたのだった。
そして気がつけばこの牢屋の中というわけだ。
「まずは王女殿下を起こして差し上げないと……」
幸い、手足が縛られているようなことはない。
ノーマは起き上がると、隣で伸びているメルグリホ王女を揺すり起こした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「昔からお兄様は非道なことばかりしていらっしゃいましたけど、まさかここまでなさるだなんて。完全に油断しておりましたわ。侍女を一人潜ませていたはずですのに……買収されましたわね」
「恐れながら質問させていただきます。チャーム王太子殿下はそれほどに素行がお悪いのですか」
「ええ。一度、わたくしに夜這いを仕掛けて来たことすらありますわ」
怒りを隠し切れない様子のメルグリホ王女の言葉に、ノーマはかなりドン引きしていた。
確かに胡散臭い人物だなとは例の祝賀会の時から思っていたのだ。だがまさか、優秀な王子として知られる彼がそんな男だったなんて思ってもみなかった。
(つまりこうして閉じ込められたのは私たちを好きなように弄ぶためということ?)
それならまずい。まずいというレベルではないくらいだ。
もしも万が一そんな事態に陥ったとしたら、ガイダー辺境伯家と王家の対立は免れない。内紛状態になる可能性すらあった。
もちろん辺境伯たちがノーマのことを捨てるかも知れないが……あの辺境伯に限ってそれはないと思った。
「大事になる前にこの牢屋を出ないと……」
「見たところここは王城の地下、重罪人が収容されている牢獄の一角と思われますわ。こんなところに何の罪も犯していないわたくしたちを閉じ込めるとは、お兄様もなかなか趣味が悪くいらっしゃるようですわね。抜け出すことは容易ではありませんでしょう。
本当に愚兄が申し訳ございません。まさかこんなことになるなんて、わたくし思ってもみなくて」
そりゃあ誰も思ってみないだろう。お茶会の会場から誘拐され、地下の監獄に放り込まれるなど。
しかもノーマだけではなく、実の妹である第一王女のメルグリホまで一緒だ。あの王太子はどうかしているとしか言いようがなかった。
なんとしてもあの王太子の鼻っ柱を折ってやらなくては。ノーマはそう思ったが、メルグリホ王女の言った通りでこの牢屋の檻は固く、簡単に逃げられる様子ではなかった。
それならここで助けを待つ?
……否。いつチャーム王太子がやって来るかわからない。彼が来た時点で試合終了――そもそも何のためにこんなことになっているかはよくわからないし、戦っているわけでもないのだが――なのだ。その前になんとしてもここを離れる必要があった。
(これはあまりにも無理なのでは?)
そうして早速悲観的になっていた、その時。
「ノーマ夫人、そんなお顔をなさらないでくださいませ。まだ完全に打てる手がないというわけではございませんわ。ただし些か……いえ、かなり乱暴な手段になってしまいますけれど」
メルグリホ王女が少し悪戯っぽい微笑みながら、そんなことを言い出したのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そしてそれからたった数分後、ノーマとメルグリホ王女の二人は見事脱獄することになったのである――。
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