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32/50

32:再びの招待状と虫除けと

 ガイダー辺境伯での日々は、静かにゆっくりと過ぎて行く。

 領民と触れ合ったり、侍女たちとさらに仲良くなったり、ネリーとちょっと遠くまでお出かけしたり。


 そんな日々の中でノーマは外界の存在を忘れかけていた。いや、忘れようとしていた。

 しかしある日突然、ある一通の手紙によって思い出さされることになる。


「ノーマ様、王家からお手紙が」


「……聞き間違いですよね? もう一度言ってください」


「ノーマ様、王家からお手紙が」


「…………」


 ノーマは思わず一度聞き返したが、侍女のヘラから帰って来た答えは一緒だった。

 まだあの夜会からひと月ほどしか経っていないのに王家からの呼び出しなど怪しいにもほどがある。


(今度こそハンス様への嫌がらせを成功させようとしてギャデッテ王女殿下が二度目の婚約パーティーを開いたのでしょうか?)


 あの件があったせいで、まだギャデッテ王女と公爵令息との婚約発表はされていない。

 だから再び召集されるだろうことは予想してはいた。ただ、たった一ヶ月ぽっちでというのは驚きだったが……。


「でも変ですね、もしそうだとしたら辺境伯かハンス様宛の手紙になるはずなのに……」


 ヘラに手渡された手紙の宛先に書かれている名前は『ノーマ・ガイダー』。

 間違えたのかと思ったが、王家の手紙に限ってそれはないだろう。つまりこれは確実にノーマ宛の手紙だったのだ。


「悪い内容でなければ良いのですが」


 グダグダ考え込んでいても仕方ない。

 ノーマは思い切って封を開け、手紙を読み始めた。




 ――結論から言えば、手紙は茶会へのお誘いだった。

 差出人はメルグリホ第一王女。確かに『後日きちんと挨拶したいですわ』とは言っていたが、まさか王女の茶会に招待されるなどと思ってもみず、かなり驚いた。


 王族からの招待状、それすなわち命令と同義。

 メルグリホ王女は「嫌なら嫌で構わないのですけれど」と繰り返し書いてはいたものの、行かないのは失礼に当たる。つまりノーマは行く選択肢しか最初から残されていないわけだ。


 ノーマはすぐにガイダー辺境伯にこのことを知らせた。


「お義父様、大変です。メルグリホ殿下からお誘いのお手紙が」


「なんだって!?」


 屋敷にガイダー辺境伯の声が響き、あっという間に屋敷中が騒ぎになった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「本気で行くのか? それもたった一人で」


「はい」


「やめておけ」


「そういうわけにはいかないですよ。ハンス様だっておわかりになりますでしょう」


「…………」


 なぜか最後までノーマを引き留めようとしたハンスだったが、さすがに無理だと諦めたらしかった。

 その態度にノーマは強い違和感を覚える。まるで自分のことを心配してくれているかのように思えたのだ。


(勘違いしてはいけません。きっと、王宮で私が問題を起こさないかどうか不安なだけなのでしょうから)


 もしかして自分に好意を持たれ始めているのかも?と思わないではなかったが、あまり楽観視し過ぎて後で気落ちしたくはない。

 今は気にしないことにした。


「そうだ、王宮の庭園は虫の多いところと聞く。虫除けでもつけて行け」


「虫除け……ですか?」


 首を傾げるノーマの掌の上に、ポイ、と投げられたのは、真っ赤な宝石とブラックダイヤモンドが嵌め込まれた小さな指輪だった。

 よく見るとそれにはガイダー辺境伯の文字が刻まれている。それを読んでノーマは思わず赤面した。

 害虫ではなく、そっちの意味(・・・・・・)の虫を除けるためのものだと理解してしまったからだ。


 その瞬間、ノーマはなんだか非常にいたたまれない気持ちになってしまい、その場から逃げるようにして走り出してしまった。

 その後ろ姿を、こっそり潜んでいたネリーがニヤニヤしながら見つめていることには気づかずに――。

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